チリの巨大地震の結果として,地震発生から丸一日以上経て日本に津波がやってきました。NHKを始めとするテレビ各社は,津波の実況放送に大童でした。
NHKなどは,民主党の小沢一郎,鳩山由紀夫,それにひとつ増えた北海道教職員組合(北教組)の政治資金疑惑の目眩ましに放映していたバンクーバー・オリンピック放送を放り出して,もっと強力な目眩ましとばかりに,丸々一日中津波情報ばかりでした。
しかし,結果を見ると気象庁の責任者が記者会見で危険を強調しようとも,東大地震研の准教授が一日中過去の津波の恐ろしさを繰り返そうとも,一旦は避難勧告で高台などに避難した人たちが,早々に避難所から自宅に引き上げてしまったり,海岸に見物人が集まって避難勧告に従わなかったりと,危険回避行動には疑問が多かったようです。
しかし,テレビなどを主たる情報源とせざるを得ない一般の人たちにとって,NHKなどの津波情報(映像とアナウンス)は,本当に津波の恐ろしさを伝えていたのでしょうか。
私には非常に疑問に思えるシーンが何度も見られました。それは,津波警報あるいは注意報が発令されている現地から実況放送しているはずなのに,切迫感が全く感じられなかったのです。その最たるものが,実況放送で何度も「津波の到着時刻を過ぎましたが,ここから見る限り海面に変化はありせん」と繰り返されたことです。
放送しているアナウンサーは,何を考えてこういう云い方をしたのかは判りませんが,善意に解釈すれば,安心させようとしたのでしょう。しかし,これこそ阿呆の善意。このアナウンスを受け取る国民の側からすれば,「なんだ,津波は来ないんじゃないか」となるのは当然ではありませんか。避難場所から早々に家に戻った人たちの多くは,こう考えたのではないでしょうか。
アナウンサーには確かに海面上昇や下降は見えなかったのでしょうが,遠距離にある高台などから海面を見下ろしていれば,海面の変化が見える方が異常でしょう。
しかし,避難者にしてみれば,状況を良い方へ良い方へと解釈したくなるのが,こう云った情況下での心理ではないでしょうか。病人が,医師の言葉を,自分の都合の良い方へ解釈したがるのと変わりありません。
そして,アナウンサーの実況放送から,「なあんだ,津波は来ないじゃないか」と考えるのです。その上で,群集心理が働いて,一人が動き出せばあとは雪崩現象です。
ですから,避難者を騙すのではなく,動揺させないためには,「海面に変化は見られません」などと,軽々に小賢しくアナウンスすべきではないのです。
太平洋を何千キロも離れたチリから伝わってくる波が,津波となって日本へ到達する時刻に大きな幅があるのは当然ではありませんか。気象庁にしても,地震学者にしても,過去のデータからシミュレーション・モデルを(苦労して?)構築して,到達時刻を計算したのですから,その精度を誇りたい気持ちは分かります。しかし,当たらない,いや誤差があるのは当然です。計算は,過去に起こった地震の震源と強度,海底の地形等々に基づくシミュレーション・モデルによる計算結果に過ぎません。それが,新たに発生した津波にぴったりと当たったら偶然です。
これは,いま世界中が浮かされたようになっている地球温暖化の人為的二酸化炭素原因説と同根の誤解です。いや,津波予報の方がシミュレーションの精度は高いかも知れません。津波の方が,大気よりもずっと密度が高い海水が相手であって,しかも太平洋の海水は洗面器に張った水の様なものですから。
忘れてならないのは,過去のデータから未来を推定する精度には限界がある,と云うことです。所詮シミュレーションはシミュレーション。このことを理解しないといけないのではないでしょうか。