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話題の『星守る犬』読みました。

2009-08-18 23:21:28 | 本・コミック・かってに配役

星守る犬

村上 たかし/双葉社


書店店頭などや広告やら,
けっこう色々な方面でプッシュされ
最近盛り上がっている
漫画『星守る犬』
どんなもんかと読んでみました。

作者の村上たかしさんは京大在学中に『ナマケモノが見てた』
ヤングジャンプ連載デビュー。当時私も学生で,
やれたらいいなと夢想していた動物ギャグ漫画で漫画家デビューを
実現した彼をうらやましく思っていたものでした。
その後,何作か発表ののち,泣かせる路線を開拓
(「笑い8:泣き2」の黄金配分を,あの島田紳助司会者より先だって確立?!)
涙もろい祖父が幼い孫ももちゃんを
ぱじ(パパ兼おじいちゃん)として一生懸命育てていく
ほろりとさせるコメディ漫画『ぱじ』
2000年第4回文化庁メディア芸術祭マンガ部門 優秀賞 受賞。


で,今回の『星守る犬』
なんですが…

泣ける… というか…

悲しい話なんですけど

かなしさの種類が

ちょっと虚しさの要素が強いというか…

この話の結末は,ネタバレするまでもなく話の冒頭で出てくるんですけど,
ちょっと口数が少ない程度の,今どきのごく普通の,お父さんが
娘にぐれられ,職を失い持病もちの状態で妻に離婚されて,
わずかな私物といくばくかのお金と1台の自動車だけを残されて
娘が小さいときに拾った犬とともにあてどもない旅に出て,
一文なしになった揚げ句に
一面のひまわりが咲く花畑のまん中,車の中で絶命,
そして数か月後,犬も力尽きるという…

昭和の頃というか20世紀の頃には,仕事ひとすじで
家庭を顧みなかった夫が妻に三下り半をつきつけられる
なんて話がよくありましたけど,
やっぱ,ひでぇ…
このお父さんは何の落ち度もないのに,あまりにも救いがない。
重松清さんが推薦文を寄せてますけど,
重松小説もペーソスあふれる中高年の作品が多いですが
最後に小さくガッツポーズできるような話じゃないですか。

自分が愛なり情なりを注いだ相手に
それじゃ生きていけないだろってレベルで
ことごとくむしり取られていく…

この主人公が追いやられたシチュエーション,
本宮ひろ志先生の『まだ,生きてる…』
かなり重なります。
こちらは初っ端から妻に冷酷にリストラされたしょぼくれおやじが
首吊り未遂した山奥でたった一人サバイバル生活を始めるという話で
最終的にはこちらも命尽きてしまうんですけど
イノシシと命懸けのバトルするわ
若い美女とのロマンスがあったりとかなり波瀾万丈。

これに対して『星守る犬』のお父さんは
相棒がいるせいかもしれませんけど,
すべてを淡々と受け入れて,人生カウントダウンの旅を
静かに続けていくんですよね。殉教者というか聖者というか…。
先述『まだ生きてる…』では,主人公の死後,その息子が跡を継いで開拓生活に入るという続編があるのですが,『星守る犬』のお父さんのほうは
自分の財産を持っていった面々が,彼の死後も関係なく
それぞれの人生を前向きに生きていっていて
もう「幸福の王子」かよって感じです。

で,1人と1匹が旅の果て死に至るまでの話を
読み終えた時点では,感動すると言うより
やや引き気味に読んでたというのが正直なところです。
なのですが,
この後,「日輪草(ひまわり)」という話が続いていて
これを読むと,視界の色が変わった気がしました。

身元不明遺体となったお父さんの埋葬や遺産処分を
担当することになったベテランケースワーカーの奥津さんが
車の中に残されていた質屋の受取証をもとに
身元と足取りをたどっていく。
奥津さんも少年時代からずっと共に過ごしていた犬がいて,
祖父母に引き取られて育ち,その祖父母にも
大人になる前に先立たれた奥津さんにとって
その犬は彼が一人前になるまで唯一の家族でもあった。
そんな自分の過去と重ねながら
人生最後の月日を犬と一心同体で過ごしたであろう
その仏さんはきっと幸せだったのではないかと
奥津さんは想像するのだった…

本編をどこか距離をとって上から俯瞰して見ていたような
感覚で読んでいたのが,このエピローグのような話に入ると
一気に地に足がついたというか,距離が近づいて
このお話の世界と同じ高さの目線で読んでいく感覚になったんですね。
不思議だなぁ…。

人間,思い残すことなく死ねればなによりだけど,
本意でない形で最後の何年なり何十年かを過ごす場合が
多数だと思うんですよね。
このお父さんのように静かに,穏やかに,
自分のおかれた状況に逆らわずすべてを受け入れて
死ぬことができるだろうか?それができたなら
端から見て悲惨に見えようが無惨に見えようが
幸せな最期ということになるのだと思うのですが…。

(犬の名前が「ハッピー」なのも皮肉ではなく
 何もなくても彼といっしょにいることが
 お父さんにとって幸せそのものだったのだと思います)


非常に失礼で不謹慎な話かもしれませんが
先日亡くなった山城新伍さん,往年の映画スターから
お茶の間を沸かす軽妙な司会者と,昭和の芸能界にて
余人に代え難い地位を築いた前半生でしたが,晩年は
妻や娘に去られ,心身共に病と衰えで自由の利かない
生活を続けることになり,すごく無念な状況ということに
なるかと思います。ですが,その状況を受け入れて
公私ともにやりたい放題やり尽くし絵に描いたような
華やかな芸能人の生活から積み重ねたつけが回って
転落していき無様な最期を迎えるまでの
光と影の両方の人生を演じたのだと思えたら…。
おかれた立場を楽しんで,悔し涙でなく笑顔で
最期の瞬間を迎えることができたと想像したいし
誰でもそれができるのだと思いたいです。

それにしても作家の重松清さんが共鳴されたことにも象徴されますけど
深さを感じさせる言葉のセンスが今の漫画界を見回しても異彩を放っている感があります。
「星守る犬」…犬が星を取ろうとして夜空を見つめること。
  無理な望みを抱くことの例え。

後半に出てくる奥津さんの名前も,神道式のお墓・奥津城(おくつき…奥深い所にあって外部から遮られた境域という意味)からとったそうです。
奥都城という言葉の意味 - 西野神社 社務日誌

『星守る犬』が連載された双葉社『漫画アクション』では
先日,これの続編,最初に捨てられていたもう1匹の犬の話が
短編読み切りで掲載されました。
実は私,こっちのほうを先に読んでいて
この外伝のほうはよりハッピーエンド寄りの結末で
(飼い主が死ぬ気まんまんのおばあちゃんな上,犬も持病持ちで
 時系列的にこっちのほうが先に死んでる可能性もあるのですが)
ちょっとほっとします。

村上家.com(作者HP)


コミックナタリー Power Push - 星守る犬 / 村上たかし
 (壁紙やアイコン用画像をDLできます)



※Googleで検索した際「もしかして:村上隆 ぱじ」と出たのにはマジむかついた。
 才能は認めるけど本当に嫌いなんであの人と一緒にしないでくれ。
 単独で検索したらヒットするのはしかたないけど。

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ぱじ―Momo‐chan’s grandfather“Paji” (1) (ヤングジャンプ・コミックス)
村上 たかし
集英社 (2000/01)
お父さんがコロリと死んで、お母さんがポロリと死んで、ももちゃんはおじいちゃんと二人暮らしです。パパがわりのおじいちゃんなので、ももちゃんは「ぱじ」と呼んでいます。
※いつもいつも自分が死んだ後のことを心配していたぱじ。最終回どのような終わり方をするのかと思ったら,一気にももちゃんがおばあちゃんになった後まで飛んで…。正直ほっとした記憶があります。

ナマケモノが見てた (1) (集英社文庫―コミック版)

村上 たかし 集英社

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4 コメント

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星守る犬の映画化 (ちゃんまみ)
2010-08-20 14:22:07
もうご存知かと思いますが、映画化が決定され、私の地元で現在撮影しているのでメールいたしました。
主演は西田敏幸さんと玉山鉄二さんです。
撮影場所は北海道名寄市です。
名寄市はひまわりと星が有名で、撮影にはピッタリの場所かと。
今日も撮影現場を見てきました。
西田さんは14日に撮影にいらしたそうです。
もし良かったら名寄市の様子をネットで検索してみては
撮影は内緒でしているので、その様子は出てきませんが、ひまわりの風景は出てくると思います。


返信する
情報ありがとうございます (D.D.)
2010-08-21 10:56:56
いや~,記憶にありませんでした。

以前当ブログで独自配役を考えた『椿山課長の七日間』が映画化されたときも主演には西田敏行さんでした…。あのときも子どもの年齢などからやや年齢が高いのになと思ったものでしたがきっちり観客を画面の世界の中に引き込む力はすごかった。中高年の俳優さんで映画館に客を呼べる主演となると西田さんに集中せざるを得ないのかもしれませんね。

名寄のヒマワリ,見事ですね。
つい先日もニュース番組のエンディング画面にヒマワリ畑の映像が流れていました。
ストーリーは期間に幅のあるロードムービーとなるわけですが,今頃の季節の話なんだなと感じますね。
返信する
日輪草 (永久未定)
2010-09-12 20:31:00

日輪草も良かった。奥津氏が回想する所、飼い犬の最後のシーンが堪らなかった。今でもジーンと来る。
決して大袈裟な要素はない。徹頭徹尾、素朴だ。だからこそ、飾り気が無く、胸を打つ。
無くしてしまって久しい何かを取り戻した気がした。
返信する
はじめまして♪ (Yuki)
2011-04-12 10:18:05
私も星守る犬大好きです。
忘れかけていた何かを改めて感じることの出来る本当に純粋なストーリーだと思います。
映画すごく楽しみです(o^―^o)
ハンカチではなくて、タオル持っていかないと大変なことになりそうですが。。。
今、地震の影響で飼い主さんと離れ離れになってしまっているペットが多いと聞いています。
とても苦しくて切なくて、早く一緒に暮らせる日が来ることを切に願います。。。
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