小児アレルギー科医の視線

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おとなの肥満(「肥満症診療ガイドライン2022」紹介)

2023年01月09日 07時45分22秒 | 予防接種
2022年に成人の「肥満診療ガイドライン」が改定されました。
紹介記事から概要を俯瞰したいと思います。

私が感じたポイントを列挙します;

・肥満はBMIで評価し、BMI≧25を「肥満」、BMI≧35を「高度肥満」と定義。
・成人肥満治療の基本は食事・運動・行動療法の3つ。
・難治例には薬物・外科療法が検討される。
(薬物例)
 マジンドール
 リパーゼ阻害薬(セチリスタット、オルリスタット)
 GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)
 SGLT2阻害薬
(外科手術例)
 腹腔鏡下スリーブ状胃切除術

小児と比較して、
肥満をBMIで評価すること(小児は「肥満度」)、
薬物療法・外科療法が加わること、
ーが特徴ですね。

なお、小児に関しては「小児肥満症診療ガイドライン2017」の内容を盛り込む形で付記から章に格上げしているそうです。


「肥満症診療ガイドライン2022」正式発表
新規肥満症治療薬の承認と減量・代謝改善手術の普及に対応
高志 昌宏=シニアエディター
2022/12/12:日経メディカル)より一部抜粋;
 「肥満症診療ガイドライン2022」が、那覇市で開催された第43回日本肥満学会(2022年12月2~3日)で正式発表された。現行の2016年版発行後に報告された新しい知見を加えて内容の充実を図ったほか、近年社会的な関心が高まっているスティグマ(誤った理解に基づく、偏見や社会からの否定的な烙印)に言及、その解消に向けた提言を盛り込んだ。
・・・
 ガイドライン2022年版の構成は・・・2016年版の7章+付録から11章立てに改変された。新設された章は、「高度肥満症」、「小児の肥満と肥満症」、「高齢者の肥満と肥満症」、「肥満症治療薬の適応および評価基準」の4つ。
・・・小児や高齢者の肥満も増加が問題となっており、小児に関しては「小児肥満症診療ガイドライン2017」の内容を盛り込む形で付記から章に格上げし、・・・肥満症治療薬の章は、今後の新規治療薬の開発に不可欠として、コラムから章に格上げされた。
 肥満・肥満症の概念は2016年版から変更はなく、「脂肪組織に脂肪が過剰に蓄積した状態で、体格指数(BMI)≧25のもの」を「肥満」とし、その中で「肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学的に減量を必要とする疾患」を「肥満症」と定義した。なお、腹部CT検査などで内臓脂肪面積≧100cm2が認められ内臓脂肪型肥満と診断された場合も、将来の健康障害リスクが高いことから、現在健康障害を伴っていなくても肥満症に含める。同様な考え方で、BMI≧35は「高度肥満」とし、肥満関連健康障害または内臓脂肪蓄積を認める場合に「高度肥満症」と定義した。
・・・
第1章に、「肥満症治療の目的と日本肥満学会が目指すもの」として新設された(図1)。

図1 肥満症治療の目的と日本肥満学会が目指すもの(出典:「肥満症診療ガイドライン2022」、p4)


 この図に込められたメッセージとして小川氏は、
(1)まず肥満から医学的介入が必要な「肥満症」を抽出(診断)すること、
(2)ベースとなる治療は食事療法、運動療法だけでなく、患者の気付きを促す行動療法も求められること、
(3)減量はあくまでも手段であり、目的は健康障害ないし健康障害リスクの改善にあること、
(4)薬物療法と外科療法は減量達成に対して車の両輪のように互いに補い合う治療法と位置付けられるほか、全ての治療に心理的サポートや過剰な減量への留意が必要であること、
(5)健康障害改善の先に目指すものとして、肥満・肥満症をもつ個人のQOL改善があること、
(6)QOL改善のためには、行政などによる社会的な対応の促進やスティグマ解消に向けた働きかけも求められること
──などを挙げた。
 肥満スティグマ(オベシティスティグマ)に関しては、まず「社会的スティグマ」として、肥満の発症には遺伝・体質的な要因や社会的な要因も重要であるにもかかわらず、必要以上に食習慣など個人の生活上の要因に帰せられ、肥満者が「自己管理能力が低い」といった偏見を受けやすいことを指摘。加えて「個人的スティグマ」として、肥満者が肥満を自分自身の責任と考え、医療を受ける対象ではないと考えてしまう誤った認識を持ちやすいことに言及し、正しい知識の普及や有効性の高い治療法の開発などによって、これらスティグマの解消を目指すべきと提言した。
◇ 薬物治療・外科治療の記載を充実
 ガイドライン2022年版では、薬物治療の記載が増えた。2016年版発行時、日常診療で処方できる肥満症治療薬は、高度肥満症に対する投与期間3カ月以内のマジンドールのみであり、リパーゼ阻害薬のセチリスタットは承認されたものの発売に至らなかった。2022年版では、国内外で複数の薬剤が肥満症治療薬として開発されているGLP-1受容体作動薬だけでなく、体重減少が認められるSGLT2阻害薬などについても解説を加えた。
 新設された推奨の一部を紹介すると、セマグルチドの肥満症治療薬としての承認が近いことから、いま最も注目かつ期待されているGLP-1受容体作動薬に関しては、「糖尿病の治療薬であるGLP-1受容体作動薬のなかに、体重減少作用をもつものがある」という推奨が提示された。エビデンスレベルは最も高い I だが、肥満症治療薬としてはまだ日常診療では使えないため、推奨の強さを示す推奨グレードは示されていない。
 SGLT2阻害薬も、糖尿病に対する治験では1.5~2kg程度の体重減少が認められている。だが同薬も肥満症への適応はなく、推奨は「糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬には体重減少作用がある」(エビデンスレベル I、推奨グレード表記なし)という事実の記述にとどめられた。
 2022年11月に一般用医薬品としての承認が厚生労働省薬事・食品衛生審議会の部会で了承されたリパーゼ阻害薬オルリスタットについては、薬剤名は言及せず本文中に「今後OTC医薬品として販売される可能性がある」と記述された。ただし、同薬は健康障害を伴わない肥満者が対象であり、投与目的も肥満症ではなく内臓脂肪および腹囲の減少にとどまる。
 外科療法の記載も増えた。我が国では2014年に、BMI≧35で糖尿病などを合併した高度肥満症に対する腹腔鏡下スリーブ状胃切除術が保険収載されている。ここ数年は手術件数も年を追うごとに増加しており、2021年には全国で900件近く行われた。
 外科療法に関しては、「6カ月以上の内科的治療で体重減少や健康障害の改善が得られない高度肥満症では、減量・代謝改善手術を検討する」がエビデンスレベル I、推奨グレードA(行うよう強く勧められる)で新たに推奨された。
 また、「受診時にBMI≧32の2型糖尿病では、糖尿病専門医や肥満症専門医による治療で、6カ月以内に5%以上の体重減少が得られないか、得られても血糖コントロールが不良(HbA1c≧8.0%)な場合には、減量・代謝改善手術を治療選択肢として検討すべきである」が、エビデンスレベル II、推奨グレードB(行うよう勧められる)で推奨された。
 これ以外にも、「肥満、肥満症の疫学」の章では、肥満者を対象とした生活習慣介入研究の解説が加えられたほか、「肥満症の治療と管理」の章にある行動療法の項では、生活リズム異常を把握するための手段としてグラフ化生活日記やボウル法も紹介された。
 「肥満症診療ガイドライン2022」は書籍がライフサイエンス出版から発行されたほか、序文とキーメッセージが収められた第1章は日本肥満学会のウェブサイトで閲覧できる



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