子どもの肥満は、
前項目の「小児肥満の基礎知識」をもとに、
検査・診断することになります。
が、それで終わりではありません。
むしろ始まりです。
肥満診療のメインは「食生活指導」。
現在の食生活のどこがいけないのかを認識してもらい、
それを一つ一つ改善していく、エンドレスの作業です。
これが大変なのです。
病識がある患者さんは指導に反応してくれますが、
「別に困ってないけど学校健診で受診しろと言われたから来た」
という病識のないタイプは困ってしまいます。
大抵、
「食べないのに太るんです」
と家族は言うのですが、よくよく聞いてみると、
「毎日おやつにポテトチップ一袋食べている」
なんてことがよくあります。
このような例はいろいろ説明・指導しても、
無反応でドロップアウトしがちです。
なので私は従来、肥満診療に積極的ではありませんでした。
しかし学校医を担当することになった現在、
避けては通れない問題と認識し、
活路を見いだすべく下記書物を読んでみました。
<参考>
■「親子で取り組む!子供の肥満診療」(南山堂、2021年発行)
その結果、何をやるべきかが見えてきました。
まず「肥満のなれの果ては・・・心筋梗塞&脳卒中」を説明し、
病識を持ってもらいます。
この「意識の変革」なくして肥満診療は続きません。
そして食生活の問題点をあぶり出し、
本人家族に認識してもらいます。
それがクリアできて初めて、
「じゃあ、どれからはじめる?」
というスタートラインに立てるのです。
真ん中の「・・・」は以下の通り;
・肥満度20%以上を肥満という。
・成長曲線を描いて、身長と体重のアンバランスさを目で確認(見える化)。
・検査で生活習慣病(高脂血症、高血圧、糖尿病)の有無を評価。
・生活習慣病は動脈硬化のハイリスク因子。
・動脈硬化のなれの果ては心筋梗塞&脳卒中(脳出血・脳梗塞)。
上記のことを逆行して考えてみよう。
・心筋梗塞と脳卒中を避けるためには生活習慣病を遠ざける。
・そのためには肥満を解消して標準体重に近づけよう。
・肥満解消には食生活改善が欠かせない。
・自分の食生活を見つめて、問題点があればそれを解決していこう。
具体的には食生活に関する質問票(チェックリスト)を作って、
食生活の状況を把握することから始まります。
家族の主観が入りやすいので、
客観的に聞き出すことがポイントだと思います。
洗いざらい問題点を拾い上げ、
それを本人と相談しながら、
一つ一つ改善していくことになります。
いきなり全部を改善するのは無理で、
それを期待するとドロップアウトしてしまいます。
本人が、
「これとこれはできるかもしれない」
「これは今無理!」
と自分で納得しながら選択して進めるのが良いと思います。
紹介した書籍の105-107ページに、
「小児期肥満にかかわる10の食事要因とその対策」
という表があります。
それを参考にチェックリスト作成にトライしてみます。
まず、概要を。
1.食事内容の問題
① 高脂肪・高糖質の食品の多食
(食品例)ポテトチップス、フライドポテト、揚げせんべい、クッキー、
スナック菓子、アイスクリーム
(習慣例)
・帰宅してからお菓子を一袋、平らげる
・帰宅後ペットボトルの炭酸飲料を1リットル飲み干す
・夕食後、勉強してからカップラーメン
(問題点)
・高エネルギーのため継続的に多食するとエネルギー過多になる。
・いったん食べ始めると止まらなくなることが多い。
(対策)だらだら食べを避ける、小皿によそって1回量を決めて食べる。
② 脂肪が多くなる調理方法
(食品例)から揚げ、コロッケ、フライ、天ぷら、チャーハン、焼き餃子、春巻き
(問題点)
・揚げ物ではサクサクした食感や高温調理による香ばしさで食欲増進しエネルギー過多になりやすい。
・単位当たりのエネルギーが高いため少量でも高エネルギーになりやすい。
(対策)食べる回数を減らす(肥満度が高い場合は週1回程度)
③ 糖質摂取が多くなりやすい料理(塩分が多い食品)
(食品例)麺類、どんぶり料理、ラーメン、パスタ、牛丼、チャーハン、カレーライスなど
(問題点)
・具の塩分でご飯や麺類の摂取量が多くなりがち→ 糖質の過剰摂取に繋がる。
・塩分の多いおかずはご飯が進みやすい。
・麺類や米飯は噛む回数が少なくても飲み込みやすく、満腹感の遅延から食べ過ぎ傾向になりやすい。
(対策)野菜をたくさん入れ、味付けを薄くする。もしくはサラダなど野菜料理を1品加え、野菜を食べてから食べる。
④ 脂肪が多く含まれる食品の利用
(食品例)ひき肉、バラ肉、霜降り肉、ハンバーグ、焼き肉(カルビ)、しゃぶしゃぶ、すき焼き
(問題点)
・一般的なひき肉は脂肪の割合が多く、高エネルギー食品である。
・脂肪の多い肉類は柔らかいため「噛む」ことが少なく満腹感を感じる前に多食してしまう。
(対策)赤身の部位のひき肉、脂肪の少ない部位の肉を使う。ただし魚の脂は健康によい。
2.生活習慣の問題
⑤ 野菜料理の不足
(問題点)
・野菜は低エネルギー食品であり、野菜料理が入るとボリュームが増加するため食事全体のエネルギー量が減少するメリットがある。逆に野菜摂取量が少ないと高脂肪・高糖質食に繋がりやすい。
・食物線維の摂取不足は、太りやすい腸内環境に繋がりやすい。
(対策)
・ランチトレーなどを利用して、食事を構成する主食、主菜、副菜を意識できるような環境調整からはじめる。
・はじめから「量」を求めず、一口食べることからはじめる。「量」や「内容」は月単位・年単位で調整する必要がある。
・簡単な野菜料理のレパートリーを増やすようなサポートを行う。
⑥ 牛乳の多飲
(問題点)
・牛乳はカルシウムの大切な供給源であるが、かといって水代わりに1日1リットル飲むとエネルギー過剰になる。
(対策)
・1日300-400mlを目安とする。
・食事の時の水分は水や麦茶とする。
⑦ ジュースや果物の多食(省略)
⑧-1 おやつのだらだら食べ
(問題点)
・おやつは小児期のに必要な「第4の食事」であるが、高脂肪・高糖質のおやつを食事に影響が出るほどだらだら食べてはいけない。
(対策)
・おやつは時間を決めて食事に影響しない量を心がける。
・子どもが自分でおやつを勝手に食べるような管理をしない。
⑧-2 早食い
(問題点)
・早食いの影響として、食事の摂取で血糖値が上昇する前に、胃内に一気に食物が送り込まれてしまう結果として、エネルギーの過剰摂取につながりやすい。
・早食いが習慣化すると、胃の容量が増加して、一度に送り込むことのできる食事量がさらに増加してしまう。
・よく噛まない、咀嚼が不十分な食事では、視床下部にある満腹中枢活性が妨げられることにより、過食につながる。
・肥満児では学校給食で“おかわり”することが習慣化していることが多い。
(対策)
・自分の食事がどれくらいで終わっているか、時間を計ってみる。
・よく噛んでゆっくり30分くらい食事時間にかけたい。
⑨ 欠食・不規則な食事時間・孤食
(問題点)
・朝食の欠食や不規則な食事時間は生活時間の不規則につながる。
・欠食はその次の食事の過食や間食の増加につながる。
・遅い夕食時間は肥満のリスクとなる。
・肥満児は夜に食事を大量摂取することが多く、その結果として夜間就寝中も食物の消化が継続されてしまい、朝の空腹感低下や食欲が湧かない傾向がある。
・孤食では、嫌いなものは避け、好きなものだけ食べる食生活になりがち。
(対策)
・就寝2-3時間前には夕食を済ませる習慣をつける。
・簡単に用意できる食事のレパートリーを増やすようなサポートをする。
⑩ 活動量の低下(省略)
以上を参考に、他の資料の加えてチェックリストを作ってみました。
① 次の中で好きなおやつはありますか?(複数回答可)
▢ ポテトチップス
▢ フライドポテト
▢ 揚げせんべい
▢ クッキー
▢ スナック菓子
▢ アイスクリーム
→ チェックした好きな食べ物を1週間のうち何回、どのくらいの量を食べるか教えてください。
(例)週3回、一袋全部。
② 次の中で好きな料理はありますか?
▢ から揚げ
▢ コロッケ
▢ フライ
▢ 天ぷら
▢ チャーハン
▢ 焼き餃子
▢ 春巻き
→ チェックした好きな料理を1週間のうち何回、どのくらいの量を食べるか教えてください。
③ 次の中で好きな料理はありますか?
▢ 麺類(うどん、そば)
▢ どんぶり料理
▢ ラーメン
▢ パスタ
▢ 牛丼
▢ チャーハン
▢ カレーライス
→ チェックした好きな料理を1週間のうち何回、どのくらいの量を食べるか教えてください。
④ 次の中で料理によく使う食材はありますか?
▢ ひき肉
▢ バラ肉
▢ 霜降り肉
▢ ハンバーグ
▢ 焼き肉(カルビ)
▢ しゃぶしゃぶ
▢ すき焼き
→ チェックした食材を使った料理を1週間のうち何回、どのくらいの量を食べるか教えてください。
⑤ 好き嫌いはありますか。野菜・魚は食べますか。
▢ 好き嫌いがある
→ ▢ 野菜は全体的に嫌い
▢ 一部の野菜は嫌いで食べない(具体的に: )
→ ▢ 魚は全体的に嫌い
▢ 嫌いな魚がある(具体的に: )
▢ 好き嫌いはない
⑥ 牛乳は1日にどれくらい飲みますか?
▢ 飲まない
▢ 飲めない(アレルギーなどの理由で)
▢ 200ml以下
▢ 200-400ml
▢ 400ml以上
⑦ 甘いジュース(※)をどのくらいの頻度でどのくらい飲みますか?
※ 例)炭酸飲料、缶ジュース、野菜ジュース、果物飲料、乳酸菌飲料など
▢ 毎日
▢ 2日1回
▢ 週2回
▢ 週1回
▢ ほとんど飲まない
→ 何mlくらい?( )
⑦’ 果物はどれくらいの頻度で、どれくらい食べますか?
▢ 毎食
▢ 毎日2回
▢ 毎日1回
▢ 2日1回
▢ 週2回
▢ 週1回
→ どれくらい?( )
⑧-1 おやつはどのように与え、食べていますか?
▢ 時刻を決めている(何時頃? )
▢ 量を決めている
▢ 子どもが勝手に食べている
▢ 知らない間に祖父母が与えている
⑧-1’ おやつにはどのような食べ物を用意しますか?
→ ( )
⑧-2 早食い傾向がありますか?
▢ とても早い
▢ 少し早い
▢ ふつう
▢ 遅い
⑨ 朝昼晩の大まかな食事時間を教えてください(起床・就寝時間も教えてください)。
(朝起きる時間)
▢ ( )時頃
(朝食)
▢ ( )時頃
▢ 食べない
▢ 毎日は食べない(週 回食べる)
(昼食)≒給食
▢ 残すことがある
▢ 全部食べる
▢ おかわりする(何回? )
(夕食)
▢ ( )時頃
(夜食)
▢ 食べない
▢ ( )時頃
(寝る時間)
▢ ( )時頃
⑨’ 朝食と夕食の量の比率(朝食:夕食=○:○)はどうでしょうか?
▢ 朝食>夕食
▢ 朝食≒夕食
▢ 朝食<夕食
▢ 朝食<<夕食
⑨” 夕食は大皿をみんなでつつきますか、それとも個別に小皿で出しますか?
▢ 大皿のみ
▢ 大皿>小皿
▢ 大皿≒小皿
▢ 大皿<小皿
▢ 小皿のみ
⑨”’ ご飯はお茶碗で食べますか、どんぶりですか?何杯食べますか?
▢ お茶碗( 杯)
▢ どんぶり( 杯)
ムムッ、検索してみたらこれらを考慮した「質問表」がすでにできている様子。55項目版と18項目版を例示します;
■ 肥満症診療ガイドライン 2016 年 p41 表 4-3より(同友会メディカルニュース 2020 年 12 月号)

■ 一口量に注目した食行動評価: YN 食行動質問票の有効性
中道 敦子,後藤 崇晴
,市川 哲雄
(Journal of Oral Health and Biosciences 27(2):71 ~ 80,2015)

運動指導はまた別項目で扱う予定です。