小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「アトピー性皮膚炎 Q&A 55」by 加藤則人Dr.

2016年06月26日 10時27分34秒 | アトピー性皮膚炎
エキスパートが答える! アトピー性皮膚炎 Q&A55
 加藤則人(京都府立医科大学皮膚科教授)編集、
 診断と治療社、2014年発行

 アトピー性皮膚炎の治療は最近少しずつ変わってきたのでアップデートが必要です。
 昨年から、当院スタッフが小児アレルギーエデュケーターの資格を取るべく修練中、提出するケースレポートにアトピー性皮膚炎症例を選んだので、指導する立場の私も勉強せざるを得ず、手元の関連本を読みあさりました(^^;)。

 Q&A形式でテーマが絞られているので、比較的明快な回答が書かれており、調べるときに便利です。
 小児科医の私にとっては、以下の項目がとても役に立ちました;

3.経皮感作やアレルギーマーチについて教えてください
6.小児のアトピー性皮膚炎の予後を教えてください
10.ステロイドはどのような皮疹にいつまで塗るようにすればよいのか、教えてください
12.小児アトピー性皮膚炎のステロイド外用薬のランクはどのような基準で決めるのですか
13.タクロリムス軟膏を始めるときの患者への説明のポイントを教えてください
14.ステロイド外用薬による皮膚萎縮はどのランクのものをどのくらいの期間続けると出現するか、目安を教えてください
17.アトピー性皮膚炎に対する漢方治療のポイントを教えてください
21.アトピー性皮膚炎の治療の目標とゴールを教えてください
23.アトピー性皮膚炎患者の顔面皮疹の治療法のポイントを教えてください
29.塗り薬を嫌がる子どもへの対処のポイントを教えてください
30.保湿外用剤の必要性と、処方する際に注意すべきポイントを教えてください
31.乳児の顔の湿疹への外用療法のポイントを教えてください
34.プロアクティブ療法について教えてください
38.どのようなときに皮膚科専門医に紹介すればよいですか
39.目の周りへのステロイド外用について眼科医の立場から注意すべきポイントを教えてください
41.乳児アトピー性皮膚炎での除去食の必要性の判定と実施方法について教えてください
42.乳児アトピー性皮膚炎の制限食の解除の方法について教えてください
46.アトピー性皮膚炎患者への紫外線に関する生活指導のポイントを教えてください
47.食物アレルギー児(アトピー性皮膚炎合併)の保育所や学校での対応について聞かれたとき、どうすればよいか教えてください
50.「ステロイドはだんだん効かなくなるって本当ですか?」と聞かれたら・・・
51.「ステロイドを塗っているけどよくならないのですが?」と聞かれたら・・・
52.「プールや温泉に入ってもいいですか?」と聞かれたら・・・


 ・・・みんな知りたいことばかりですね(^^)。
 欠点をあげるとすれば、一人の著者ではないので一貫性は今ひとつかな。

 
<メモ>  ・・・自分自身のための備忘録

3.経皮監査やアレルギーマーチについて教えてください
・フィラグリン遺伝子変異は日本人アトピー性皮膚炎の27%に存在する(ヨーロッパでは15-55%)。
・アトピー性皮膚炎患者の中でフィラグリン遺伝子変異を有する群は気管支喘息を発症しやすい。
・2008年にLackが二重抗原曝露仮説(同じ食物でも高用量の抗原の経口摂取は免疫寛容を誘導するが、低用量の経皮的な暴露は感作を誘導する)を提唱した。

6.小児のアトピー性皮膚炎の予後を教えてください
・日本の調査では、乳幼児アトピー性皮膚炎の半数程度が小学校入学までに寛解しているが、思春期以降に再発するケースもまれではない。
・生後4ヶ月の16.2%がアトピー性皮膚炎を発症し、そのうち70%が1歳6ヶ月で寛解していたという報告もある。
・英国の調査では、小学生前に発症したアトピー性皮膚炎は小学生の間に2/3が、中学生の間に3/4が寛解し、その後は成人まで有症率はあまり変わらない。
・予後が悪い因子:日本・ドイツの調査では、重症、アレルゲン感作/食物アレルギー(とくに小麦と大豆)合併、フィラグリン遺伝子変異、濃厚な家族歴、早期の喘息合併

10.ステロイドはどのような皮疹にいつまで塗るようにすればよいのか、教えてください
・ステロイド外用薬は皮膚炎のある部位に塗る。皮膚炎の有無は、“皮膚が赤い”“掻き傷がある”などの外見だけでなく、皮疹を触診して浸潤(ブツブツ、ザラザラ、ゴワゴワなどの立体的変化)を触れるか否かで判断する。
・皮疹の浸潤がなくなるまでステロイドを外用し、浸潤がなくなれば中止する。軽症から中等症では2週間後には正常化し、苔癬化や痒疹などの慢性皮疹や浸潤の強い紅斑では、触診で浸潤がなくなるまでに2週間以上の外用を必要とすることが多い。
★ 眼瞼周囲:ステロイド外用薬による眼圧上昇の可能性にも配慮し、ミディアムクラスを1週間以上塗布しても効果に乏しい場合には皮膚科専門医に紹介すべきである。

12.小児アトピー性皮膚炎のステロイド外用薬のランクはどのような基準で決めるのですか
・顔にはミディアム(IV群)、顔以外にはストロング(III群)を基本とし、皮疹の程度に応じてランクを変更する。額部は頬部より吸収率が低く治りにくいため、III群以上を必要とするケースがある。
・乳児の場合は、顔にIV群、体幹や四肢はIII群を使用すればほとんどのケースを寛解状態に導くことができるが、やや年長の幼児や学童期以降では、四肢の苔癬化局面や痒疹にII群を使用しないと完全な寛解状態に誘導できないケースもある。
・重症例の場合は、ステロイド外用薬の使用後2-3週間後に四肢遠位部に強い掻痒を伴う汗疱様の発疹が出現することがある(アレルギー, 60 (11): 1543-1549, 2011)。

13.タクロリムス軟膏を始めるときの患者への説明のポイントを教えてください
・マウスのがん原性試験では、皮膚バリア機能の低さのため25ng/mLという高い血中濃度が18ヶ月以上持続したが、実際のアトピー性皮膚炎患者では高い血中濃度が持続する例は成人、小児ともにみられていない。タクロリムスを外用している患者にみられたリンパ腫の頻度は、一般人口でみられるリンパ腫の頻度(自然発生率)と差がない。

14.ステロイド外用薬による皮膚萎縮はどのランクのものをどのくらいの期間続けると出現するか、目安を教えてください
・皮膚萎縮はステロイドの線維芽細胞活性(コラーゲン産生)抑制作用により膠原線維が減少して皮膚が薄くなること。
・報告1:ストロング(III群)クラスのステロイド外用薬を小児アトピー性皮膚炎(1-15歳)に1日2回週3回で18週間塗布しても皮膚菲薄化は生じなかった。
・報告2:成人アトピー性皮膚炎でベリーストロング(II群)クラスを週2回6ヶ月の維持療法を行い、68人中1人皮膚萎縮が認められた。
・報告2:ストロンゲスト(I群)クラスを連日塗布6週間で皮膚の菲薄化が確認されたが、ミディアム(IV群)クラスの連日塗布6週間では認められなかった。
・治療初期に期間限定で強いランクのステロイド外用薬を用いて炎症をしっかり沈静化し、外用の強さや頻度を減らして週2回程度の外用でコントロール出来るようになれば、皮膚萎縮のリスクはかなり軽減される。
・皮膚萎縮の多くは可逆性である。

17.アトピー性皮膚炎に対する漢方治療のポイントを教えてください
・温熱刺激が症状悪化胃に関係する例には清熱剤:白虎加人参湯、黄連解毒湯
・便秘や下痢を有する患者には胃腸の調子を整える漢方薬:補中益気湯、桃核承気湯

21.アトピー性皮膚炎の治療の目標とゴールを教えてください(片岡葉子Dr.)
・ゴールは“症状はない、あるいはあっても軽微であり、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない”状態。
・乳児アトピー性皮膚炎では、即時型食物アレルギーの成立を防ぐことも治療目標となる。
・寛解導入、維持、漸減の各段階を意識して、まず薬剤を使って症状がない状態を維持し、その次に最終ゴールへと導く。
①寛解導入:自他覚症状ゼロ、血清TARC正常範囲程度を目指して、できるだけ速やかに2-4週以内に寛解導入
②維持期:顔面などの外用をタクロリムスに変更するなど、若干の変更を加えつつも初期と同様の連日外用を継続し、寛解を維持する。維持期間は重症例では1-2ヶ月程度、軽症例では1-2週間程度が必要。
③漸減期:自他覚症状ゼロ、血清TARC正常範囲程度を維持しながら、外用回数を隔日〜週2回〜週1回と減じていく。長期間遷延化してきた重症例においては、漸減期まで到達後、週2回程度の間欠外用(プロアクティブ療法)により症状のない状態を数ヶ月以上維持した後、次の漸減に移行する。
・長期間重症の症状が遷延化してきた一部の患者においては、薬剤の間欠投与継続によって安全に“軽微な医師軽度の症状は持続するも、急性に悪化することはまれで、悪化しても遷延することはない”状態を維持することがゴールとなる場合もある。

23.アトピー性皮膚炎患者の顔面皮疹の治療法のポイントを教えてください
・ステロイド外用薬を漫然と使用するとステロイド酒さが生じるため、タクロリムス軟膏への切り替えを念頭に治療戦略を立てる。
・眼瞼部の湿疹では眼合併症に注意。網膜剥離や白内障の危険がある。ステロイド外用による緑内障のリスクもあり、眼科併診が必須である。

30.保湿外用剤の必要性と、処方する際に注意すべきポイントを教えてください
・保湿外用剤は、吸湿性や保水性が高く皮表の保湿を主としたものと、皮表の保護を主とし角質層表面での水分蒸散を押さえる親油性のものに大別される。
①保湿:ヘパリン類似物質製剤、尿素製剤 ・・・保湿効果が高く伸びがよいが、においや刺激感が気になることがある
②保護:白色ワセリン、亜鉛華軟膏 ・・・油脂性軟膏自体が角層に水分を供給することはないが、角質層からの水分蒸散を押さえ、角層内に水分を貯留させる効果がある。欠点はベタつき感。
・保湿外用剤は、乾燥の強い部分だけではなく、全身状態は問題なし。に1日1-2回塗布し、とくに皮脂が失われやすい入浴後は塗布すべし。

31.乳児の顔の湿疹への外用療法のポイントを教えてください(楠Dr.)
・いつまで塗り続けるか? ・・・強い炎症を伴う皮疹の場合は1日2回塗布を1週間続け(導入期)、その後1週間単位で1日1回、2日に1回とし(地固め期)、それで落ち着いていれば原則として1日1回の保湿外用剤塗布のみとする。悪化の兆候があれば、その部位だけ局所的に数日外用薬塗布を再開する(安定期)。

34.プロアクティブ療法について教えてください
・寛解導入後、皮疹悪化時に塗布する方法をリアクティブ療法、寛解導入後、再燃を防ぐために週2-3回程度、ステロイドまたはタクロリムス軟膏を元々皮疹があった部位に継続して外用することをプロアクティブ療法と呼ぶ。

38.どのようなときに皮膚科専門医に紹介すればよいですか
・アトピー性皮膚炎患者に対してステロイド外用薬を適切に使用すれば、2週間以内に十分な効果が得られる改善がみられない場合は、一度皮膚科専門医の診察を受けることが望ましい。

39.目の周りへのステロイド外用について眼科医の立場から注意すべきポイントを教えてください
・眼瞼へのステロイド外用薬の使用が長期化する場合には、副作用(緑内障、感染症)の有無や眼合併症(アトピー性白内障、網膜剥離)の精査のために眼科受診を勧める。
・ステロイド緑内障:ステロイドレスポンダー(約30%)がステロイドを使用することで眼圧上昇を来たし、緑内障となるもの。

41.乳児アトピー性皮膚炎での除去食の必要性の判定と実施方法について教えてください
・経口負荷試験で即時型反応陽性食物はプリックテスト陽性の約1/3品目だけであり、プリックテストには偽陽性が多い。特異的IgE抗体も同様であり、コレラの結果だけで除去食を指導すると過剰な除去になる。
・プロバビリティカーブの陽性適中率は即時型反応を指標として求められており、アトピー性皮膚炎のような非即時型反応には適応できない。
・除去試験:疑わしい食物を最低2週間程度除去し、症状が改善するかどうか判定する。
・漸増傾向負荷試験:1回の負荷試験では湿疹まで出現する症例は少ないが、数日にわたる負荷試験を繰り返すと現れてくる。単回の経口負荷試験が陰性でも、家庭で数日間の連日接種をさせ、そのときの状態を除去試験中の状態と比較することによってアトピー性皮膚炎が悪化するか確認する。
・離乳食開始は生後5-6ヶ月が推奨され、早める必要も遅らせる必要もない。

42.乳児アトピー性皮膚炎の制限食の解除の方法について教えてください(宇理須厚雄Dr.)
・経口負荷試験で判定する。負荷量は同年齢の小児が摂取する量を目安に設定し、漸増法で総負荷量を3-5回に分割して行う。
・負荷試験陰性であれば、家庭で総負荷量の半量から開始し、無症状であれば総負荷量まで増量する。無症状であれば除去を解除する。
・負荷試験保留(軽度のかゆみや2-3個の小発赤程度)では総負荷量を数日間連日摂取して症状の変化を観察し、最終判断する(連日経口負荷試験)。
・経口摂取だけでは無症状でも、体調(感冒、下痢)や運動、入浴、生理、非ステロイド炎症薬などの誘発因子が加わると症状が惹起されることがある。
・負荷試験陽性であれば、除去を続行し、半年から1年後に再度耐性獲得確認目的で経口負荷試験を行う。

46.アトピー性皮膚炎患者への紫外線に関する生活指導のポイントを教えてください
・アトピー性皮膚炎患者に対してはできるだけ大量の紫外線を直接浴びないように注意させ、紫外線の多い季節・時間帯での不必要な外出を避けるよう指導することが望ましい。しかし、通常の日常生活での光線曝露ではアトピー性皮膚炎への影響はきわめて少ないため、過度の紫外線防御の必要はない。
・接触アレルギーを起こしやすいアトピー性皮膚炎患者がサンスクリーンを使用する場合には、低刺激性(紫外線吸収剤無配合など)の商品を勧める。
・タクロリムス軟膏使用直後は強い直射日光(紫外線)を浴びないように注意させる。
・紫外線自体は、一部のアトピー性皮膚炎患者の炎症防御に非常に有効である。ナローバンドUVB療法、UVA1療法、PUVA療法などの紫外線療法はアトピー性皮膚炎に対する補助的治療として行われている。
・抗ヒスタミン薬(塩酸プロメタジン、メキタジン)や非ステロイド外用薬(スプロフェン)で光アレルギーを起こすこともある。光アレルギーの多くは原因波長がUVAであるので、UVA/UVBどちらにも効果の高いサンスクリーンを選ぶことが重要である。
・サンスクリーンは紫外線吸収剤無配合で紫外線散乱剤(酸化チタン、酸化亜鉛など)を含有している者の方が皮膚に優しく、長期の使用に適している。汗をかいても取れにくい「ウォータープルーフ」も有用である。サンスクリーンとステロイド、タクロリムス、保湿外用剤の同時使用は避ける。

47.食物アレルギー児(アトピー性皮膚炎合併)の保育所や学校での対応について聞かれたとき、どうすればよいか教えてください
・日本学校保健会による「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」を基本に学校生活管理指導表を記載して対応する。
・即時型反応がグレード3以上であれば、エピペン®を使用する。

 ポイントは呼吸器症状であり、急激で重篤な呼吸困難の兆候があれば直ちに用いるべきである。

50.「ステロイドはだんだん効かなくなるって本当ですか?」と聞かれたら・・・
・そのように訴える患者の多くは単なる外用量や回数の不足であることが多く、まず確認すべきである。
・アトピー性皮膚炎では、治療開始後、全体にはよくなったが、頭部のかゆみの強い痂皮を伴う毛嚢炎様変化/フケの増加、体幹のかゆみのある毛嚢炎様変化をみることがしばしばあり、ステロイド外用単独では時に治療困難である。成人症例の多くでマラセチア(またはピティロスポリウム)特異的IgE抗体陽性であり常在真菌であるマラセチアの影響と考えられる。このような場合は、抗真菌薬含有の洗髪剤、洗浄剤の併用でかなり症状が軽快する。
・他に重症患者の治療開始後に、掌蹠の異汗性湿疹様変化が一時的に出現し増悪することがあるが、焦らず外用すれば次第に軽快する。

52.「プールや温泉に入ってもいいですか?」と聞かれたら・・・
・プールに入っている塩素は皮膚の乾燥を生じ、かゆみを助長する。大事なことは、プールの直後にシャワーなどで十分に塩素を洗い流すことである。
・人間の皮膚表面は、角層に含まれる保湿因子と表皮ぶどう球菌をはじめとする皮膚の常在菌などによって弱酸性に保たれ、健康な状態を維持している。一方で、アトピー性皮膚炎の皮疹部ではpHが上昇しており、皮膚表面の紅色ぶどう球菌数の増加などと併せて症状の遷延に関与していると考えられる。
・アトピー性皮膚炎患者が入浴しやすいと感じる温泉は酸性泉であり、増殖している黄色ブドウ球菌に対する殺菌効果にも優れている。いわゆる美肌効果があるとされるアルカリ泉質は、皮膚表面の古い角質を溶解除去する効果があり、入浴後に皮膚のなめらかさを感じることはできるが、皮膚表面の弱酸性を保つことには対抗するため、多くのアトピー性皮膚炎患者で皮膚バリア機能が低下していることを考えると、入浴に関しては注意が必要である。
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