小児アレルギー科医の視線

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B型肝炎ウイルスは日本にどれぐらいいるのか?

2017年01月12日 08時39分23秒 | 予防接種
 昨年(2016年)10月に定期接種化されたB型肝炎ワクチン。
 「B型肝炎なんて、うちには関係ないわ」という声が聞かれそうなほど、日常的には縁のない病気と捉えがちですが・・・驚くべきデータが発表されました。

■ 元気な子どもの血液を調べたら5人が感染していた!B型肝炎ウイルスは日本にどれぐらいいるのか?
全国の血液検査から(from Vaccine)

MEDLEY:2016年10月9日
 2016年10月1日から、0歳児を対象にB型肝炎ワクチンの定期接種が始まりました。B型肝炎は肝硬変や肝臓がんの原因になります。感染している人の数を全国で調べた調査から、4歳以上15歳以下の子ども5人に陽性結果が出ていたことが報告されました。

◇ 血液検査でB型肝炎の感染状況を調べる研究
 国立感染症研究所と国立国際医療研究センターの研究班が、調査結果を医学誌『Vaccine』に報告しました。
 この研究では、2005年から2011年にかけて全国で健康な人から採血し、抗原・抗体検査でB型肝炎ウイルスに感染している人の数を調べました。

◇ 5人の子どもがHBs抗原陽性
 検査の結果、4歳から15歳までの子ども3,000人のうち、HBs抗原が陽性の結果が出た子どもが5人いました。陽性の結果は日本の南部地域で多く見られました。
 HBs抗原が陽性だった子どもの体には、現在B型肝炎ウイルスが体の中にいると考えられます。
 研究班はこの結果から「[...]B型肝炎ウイルスに感染する機会は、特に一部の地域では、我々が考えていたよりも頻繁にある」と述べています。

◇ 2か月以上の子は予防接種に行こう!
 健康な子どももB型肝炎ウイルスに感染していることが確かめられました。仮にこの報告のとおりの割合と考えると、同じ年齢の子どもは全国で1300万人ほどいるので、2万人ほどがB型肝炎ウイルスに感染している計算になります。
 B型肝炎ウイルスの感染経路はおおむね理解されていますが、今年2月に報道された、神戸中央病院で原因不明の感染者が多発した例のように、感染源を特定できない場合も中にはあります。
 B型肝炎の予防にはワクチンが有効です。定期接種は原則として自己負担無料です。生後2か月、3か月、7-8か月の計3回注射します。1歳になると定期接種の対象にならなくなるので、いま対象になる子どもには早めに1回目の注射を打ってください。


<参照文献>
Seroepidemiological study of hepatitis B virus markers in Japan. Vaccine. 2015 Nov 9.

 するとみなさん、「誰からうつったの?」と感染経路が気になります。
 それに対する答えの一つの論文を紹介します;

■ イタリアで減少するB型肝炎、それでも感染した人の特徴は? 22年間の調査結果から
from Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America
MEDLEY:2016年4月2日
 イタリアでは1991年以来、すべての子どもを対象にB型肝炎ワクチンの強制接種が行われています。以後、B型肝炎は減ってきていますが、まだ多くの人に新たにB型肝炎が発生しています。感染に関係する特徴の調査が行われました。

◆22年分の調査データを解析
 B型肝炎を起こすB型肝炎ウイルスは、日常生活で感染することはほとんどありませんが、輸血や性行為などによって人から人へ感染します。感染予防のためにワクチンが日本でも広く使われています。
 研究班は、イタリアの感染監視システムによるデータを使い、解析を行いました。1993年から2014年にかけての急性B型肝炎患者の情報が調査されました。

◆97%は未接種
 次の結果が得られました。
 11,311例の急性B型肝炎症例のうち362例(3.2%)がワクチン接種後の人だった。ワクチン接種を受けていなかった10,949例のうち、213例(1.9%)は強制接種を逃れていた。2,821人(25.8%)は感染のリスクが高いにもかかわらずワクチン接種を受けていなかった。後者のうち最も多く見られたリスク因子はHBs抗原キャリアと同居していること、静脈内注射薬物使用、ホモセクシャルまたはバイセクシャルの行動だった。
すべての子どもがワクチン接種を受けている中で、急性B型肝炎が発症した人のうち、ワクチン接種を受けていた人は3.2%だけでした。つまり急性B型肝炎が発症した人は97%近くがワクチン接種を受けていない人でした。ワクチン接種を受けていなかった人の25.8%には、薬物乱用、ホモセクシャルなど、感染の危険性が高いと考えられる背景がありました。
 研究班は「B型肝炎はワクチンで予防できる疾患であり、感染のリスクが高い人のワクチン接種率を高くするためにさらに努力が必要である」と結論しています。


<参照文献>
Acute hepatitis B after the implementation of universal vaccination in Italy: results from a 22-years surveillance (1993-2014). Clin Infect Dis. 2016 Mar 23.

 この中で子どもに問題になるのは「HBs抗原キャリアと同居していること」です。
 日本では1986年から母親がキャリアの場合は予防措置(垂直感染対策)が行われ、出生児のキャリア化を減らしてきた実績がありますが、父親がキャリアの場合は対象にならず、この感染経路が問題視されるようになり、かつ血液だけではなく体液(汗、涙、湿疹からの浸出液)でも感染が成立することが判明し、これらに対する対策(水平感染対策)としてすべての乳児を対象にB型肝炎ワクチンが定期接種化するに至ったのです。
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