小児アレルギー科医の視線

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「ペニシリンアレルギー」の小児、大半は誤診や思い込み?

2017年07月17日 06時24分56秒 | アレルギー性鼻炎
 ペニシリンアレルギー。
 医師なら一度は経験していると思います。

 その昔、勤務医時代は抗生物質の点滴前には「皮内反応」というアレルギー・テストを行った時代が長く続きました。
 しかし、皮内反応陰性でもアレルギー反応の起こる可能性が指摘され、その結果「すべての症例にショックが起こりえるという体制で臨む」ことにより皮内反応は行われなくなりました。

 開業してからのペニシリンアレルギーに遭遇する機会は、溶連菌性咽頭炎での経験がメインです。
 この感染症では、ペニシリン系抗菌薬を10日間内服する治療法がスタンダート。
 しかし、一定の確率で「薬疹」が出現します。
 だいたい1週間くらい内服した時点で、手足に5mm前後の紅斑がいくつも出てきます(多形滲出性紅斑型)。

 溶連菌感染の一症状としても皮疹がありますが、こちらは病初期に細かい(粟粒大と表現されます)赤い斑点が手足〜体幹、ひどいときは全身にびまん性に出現し、痒いのが特徴です。
 昔は「猩紅熱」と呼ばれました。

 当院ではAMPC(Amoxicillin)という抗菌薬10日間で治療してきました。
 薬疹の頻度を調べたことがあり、約5%。
 決して無視できない頻度であり、これを理由にセフェム系へ変更したところ、薬疹の頻度は減りました。

 さて、紹介する記事は「ペニシリンアレルギーは患者や医師の思い込みがほとんど」という内容です。


■ 「ペニシリンアレルギー」の小児、大半は誤診や思い込み?
HealthDay News:2017/07/17:ケアネット
 安価な抗菌薬であるペニシリンに対するアレルギーがあると疑われる小児の多くは、実際にはアレルギーではないことが新たな研究で明らかになった。詳細は「Pediatrics」7月3日オンライン版に掲載されている。
 今年初めには成人でも同様の研究結果が報告されており、年齢を問わず多数の患者がペニシリンの代わりに高価な広域スペクトル抗菌薬を処方されていると考えられる。しかし、広域スペクトル抗菌薬には重い副作用のリスクがあり、薬剤耐性菌の発生にもつながるほか、家計と医療システムの双方に費用負担の増大をもたらす。
 研究を実施した米ウィスコンシン医科大学小児救急専門医のDavid Vyles氏は、「多くの症例は真のアレルギーではないと考えられるが、ペニシリンアレルギーがあるとされた場合、処方できる抗菌薬の種類は大きく制限されてしまう」と述べている。なお、米疾病対策センター(CDC)によると、米国の薬局における抗菌薬の調剤件数は2014年だけで2億6600万件を超えるという。これは米国人6人につき5件以上に相当する。
 今回の研究では、小児救急を受診し、親の申告で「ペニシリンアレルギーの既往がある」とされた4~18歳の小児597人を対象として、アレルギー症状に関する質問票に記入してもらった。親の回答によると、そのうち302人は発疹、嘔吐、下痢など低リスクのペニシリンアレルギー症状を経験したことがあった。
 これらの低リスク症状がある小児100人を対象に、標準的なアレルギー検査を実施した。これは、
(1)皮膚テスト、
(2)微量のペニシリンを注射する皮内反応テスト、
(3)厳重な医学的監視下でペニシリンを服用させる「経口負荷試験」
―の3種の検査を実施するもの。その結果、全ての小児でペニシリンアレルギーの反応は認められず、ペニシリンアレルギーの記載は診療録から削除された。
 Vyles氏は、「これまでの診療でペニシリンアレルギーがあると訴える家族を多く見てきたが、本当にそうなのかと疑問を抱いてきた。また、私の子ども3人のうち2人も、誤ってペニシリンアレルギーと判定されたことがある」と話す。このような混乱が生じる理由として、ペニシリンの処方と同時期に子どもに発疹が現れることが少なくなく、その発疹がアレルギーに起因するものだと誤って判定される場合があるためだと、同氏は説明する。しかし、こうした発疹は実際には感染症に起因するものである可能性が高い。発疹を伴う感染症は多く、その治療のために抗菌薬が投与されることもある。
 本研究には関与していない小児感染症の専門家、米クリスティアナ・ケア・ヘルスシステムのStephen Eppes氏によると、一般的に10%近くの人が「自分はペニシリンアレルギーだ」と考えているが、検査をするとそのうち90%以上はアレルギーではないという。「最初から診断が誤っていたか、当初は過敏性があったものの後に消失したかのいずれかだが、前者の方が多いのではないか」と同氏は指摘する。また、ペニシリンアレルギーは遺伝するとの誤解も存在し、そのため、親がアレルギーだから子どもも同じだろうと思い込んでいる場合もある。
 今回検討した3種のアレルギー検査を実施するためには3時間ほどかかるため、受けたがらない人も多い。Vyles氏は今回の研究結果を基にして別の研究を計画しており、低リスクのペニシリンアレルギーの小児には、救急部での治療中に最初から経口負荷試験を実施できないか検討する予定だという。


<原著論文>
・Vyles D, et al. Pediatrics. 2017 Jul 3. [Epub ahead of print]

 病初期の溶連菌による皮疹と、ペニシリン系抗菌薬投与1週間後の薬疹・・・正常も異なるので私は誤診しているとは思いませんが・・・ 私が「ペニシリンアレルギー」と診断した患者さん達は、この方法で検証するとどうなるんだろう? 


<参考>
アモキシシリン(AMPC)投与後 の発疹に関する前方視的調査
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