小児アレルギー科医の視線

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おたふくかぜ&ワクチン関連記事拾い読み(2017)

2017年03月23日 06時33分21秒 | 予防接種
 おたふくかぜワクチンの定期接種化が検討されています。
 数年前に厚生労働省で定期接種化が検討されたワクチンの一つでしたが、水痘ワクチン、B型肝炎ワクチンが定期接種化された一方で、おたふくかぜワクチンの定期接種化は見送られました。
 その理由として、ワクチンの安全性を問われた過去のトラウマの存在が影を落としています。

 このワクチンは1988年にMMRワクチンの一部として導入され、想定より多い無菌性髄膜炎が社会問題化し、中止に追い込まれた過去があるのです。
 しかし医療者から見ると、様子観察で回復待ちが基本の無菌性髄膜炎を重症と煽るメディアに違和感を覚えたことを記憶しています。
 もともとムンプスに罹ると軽い髄膜炎症状(頭痛・嘔吐)がみられることは珍しくありません。おたふくかぜに自然感染した場合の無菌性髄膜炎合併率は1-10%と無視できないほど高いのです。
 一方、おたふくかぜワクチンの副反応としての無菌性髄膜炎の頻度は0.01%(星野株で10000人に1人、鳥居株で12000人に1人)と自然感染合併症の100分の1〜1000分の1の頻度しかありません。

 さて、近年の争点は「副反応としての無菌性髄膜炎」より、おたふくかぜの合併症として発生する「ムンプス難聴」です。
 以前は希と考えられてきたムンプス難聴ですが、近年の調査ではおたふくかぜ自然感染者の1000人に1人発症し、しかも治療法がなく一生悩まされることが判明しました。
 私の周囲にもムンプス難聴の方がいます(後輩の女医さん)。そして、
 「難聴予防におたふくかぜワクチンを!」
 という小児科医中心の呼びかけをよく耳にするようになりました。

 それも含めて、ワクチンを接種する意義があるのかどうか、考える資料として情報を集めてみました。

 まずは厚生労働省の基礎資料。
 ワクチン選定株により、有効性と安全性が大きく異なることがわかります。

■ 「おたふくかぜワクチンの接種対象者・接種方法及びワクチン(株)の選定について」
2013.7.10:第3回予防接種基本方針部会、厚生労働省健康局結核感染症課予防接種室

・疫学:数年おきに流行が見られ、2005年には135.6万人患者発生。幼児期に感染が多く、3-6歳で全患者の60%を占める。

・ムンプスウイルスはAからMまでの13種類の遺伝子系に分類されており、近年主にG型が流行している。

・合併症と頻度は下表の通り:

・・・脳炎の致死率は1.4%。
・・・無菌性髄膜炎の重症度は自然感染例とワクチン接種例で変わらず、一般に予後はどちらも良好である。

・おたふくかぜワクチンの有効性:1回接種している国での患者数の減少は88%以上、2回接種している国では97%以上の減少。


・おたふくかぜワクチンを接種している117カ国中、110カ国(94%)で2回接種プログラムを採用している。


・おたふくかぜワクチンにより獲得した免疫は、接種後徐々に減衰し、とくに接種後5年以降にその傾向が顕著;


・おたふくかぜワクチンに使用されているワクチン株は10種類以上あり、有効性と安全性に差がある。とくに無菌性髄膜炎の発生はワクチン株ごとに大きく異なる。候補となる星野・鳥居株と Jeryl-Lynn株を比較すると、有効性は星野・鳥居株> Jeryl-Lynn株、無菌性髄膜炎の合併率は星野・鳥居株>Jeryl-Lynn株となり、つまり効果が高い星野・鳥居株は副反応も多いという評価になります。
 副反応が少ないことを優先するとJeryl-Lynn株になりますが、しかしこのワクチン株を採用しているアメリカでは2回接種しているにも関わらずなおおたふくかぜの流行をコントロールできず3回接種の必要性が議論されています(一部の州では3回接種を実施)。






・MMRワクチンに関する過去の経緯:忘れてはいけません。


 次に、国立感染症研究所のHPから;

■ <特集>流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)2016年9月現在
病原微生物検出情報 Vol.37 No.10(No.440, 2016年10月発行
・学校保健安全法では第二種学校感染症、感染症法では5類感染症定点把握疾患という位置づけ。
・おたふくかぜ全感染例の30-35%が不顕性感染例。不顕性感染例もウイルスを排泄し感染源となる。
・年齢が高くなるほど顕性感染率が高くなり、1歳では20%、4歳以上では90%が発症する。
・R0は4-7、もしくは11-14で、集団免疫率は75-86%、91-93%。
・合併症としてムンプス難聴が0.1-0.25%発生し予後不良である。

<日本におけるおたふくかぜワクチンの経緯>
(1981年)任意接種として導入。
(1989年)MMRワクチンが選択可能となる。
 ・・・この後、MMRワクチンに含まれていたおたふくかぜワクチン株による無菌性髄膜炎(発症頻度1/500-1/900)が社会問題化。
(1993年)MMRワクチン中止、以降おたふくかぜ単味ワクチンによる任意接種の扱い。
 ・・・以降、ムンプスは4-5年周期で全国流行を反復している。近年のワクチン接種率は30-40%にとどまる。

・無菌性髄膜炎の基幹定点報告(全国500カ所、300床以上の医療機関からの報告)では、報告された無菌性髄膜炎のうち10-20%で病原体が報告され、その中の42%をムンプスウイルスが占めている。

<ムンプスの検査診断>
・ワクチン未接種者であればIgM抗体検査が有用(ワクチン既接種者ではIgM上昇はない)。
・RT-PCR:ウイルス・ゲノム解析による株の特定可能(→ 自然感染とワクチン副反応の鑑別可能)。
・RT-LAMP法:簡便、短時間で検出可能。

※ デンカ生研のIgM抗体検査は健康成人の4%で陽性になることや、感染後陽性持続期間が長いことが指摘され、2010年に改良されている。

・世界121カ国がMMRワクチン2回接種を定期接種に組み込んでいる。先進国でおたふくかぜワクチン定期接種が導入されていないのは日本だけ。

・国産ワクチン株(星野株、鳥居株)の副反応報告数とワクチンの出庫数に基づく算定では、無菌性髄膜炎の発症率は全年齢で見ると1.62/10万人であった(庵原俊昭ら、臨床とウイルス 42: 174-182, 2014)。1-3歳のみを対象とすると0.185/10万人と低く、これは世界中で使用されている Jeryl-Lynn株と同程度である。接種年齢が若いほど髄膜炎発症頻度は下がる傾向があり、これらの数値は現在ワクチン添付文書に記載されている副反応頻度(ワクチン接種対象年齢以外の年齢を含む接種者の調査から推定)である1/2300(星野株)、1/1600(鳥居株)よりも遙かに低い。

<沖縄県における流行性耳下腺炎の流行と重症例に関する積極的疫学調査(2015年)>
・2015年1-12月、沖縄県内において流行性耳下腺炎に伴う小児入院例、難聴症例を小児医療機関15カ所/耳鼻咽喉科医療機関63カ所を調査したところ、以下の結果を得た;

 ムンプス難聴と診断(日本聴覚医学会難聴対策委員会による難聴基準)された13例の難聴の程度は、重度46%、高度15%、中等度23%であり、全てが一側性だった。

<耳下腺炎原因はムンプスだけではない>
・三重県鈴鹿市の医院における耳下腺炎全例に唾液のウイルス分離を行い、陰性例ではRT-LAMP法で確定診断した結果;

・IgM抗体価:ワクチン歴が無い場合、IgMは87.2%で陽性(第一病日で86.7%、第五病日以降は100%陽性)、1回ワクチン歴がある場合ではIgM陽性率は10.4%と低値であった。
→ ワクチン歴がなければおおむねIgMで診断可能といえる。
・IgG抗体価:診断に役立ちにくい。通常、ムンプスワクチン1回接種後抗体価は16を超えることは少なく、それ以上は野生株によるブースター効果と考えられる。急性期IgG抗体でムンプス罹患とブースター効果の鑑別はできない。IgG抗体価10未満ならムンプス以外の耳下腺炎である可能性は高い。

・・・以上より言えることは「ワクチン未接種の場合IgM抗体が有用であるが、ワクチン接種歴がある場合は血清抗体での診断はできない」。

<ムンプス流行(2010-2011年)前後の年齢群別ムンプスIgG抗体保有状況>
・現在、定期接種対象疾患に対する抗体保有状況は予防接種法に基づく感染症流行予測調査により調査されているが、対象疾患にムンプスは含まれていないのでデータがない。
・2007-2008年および2012-2013年の2年間の10歳ごとの年齢群各50検体、合計1000検体を国内血清銀行から分与を受け抗ムンプスIgG抗体価を測定した。結果は下図の通り;

・感受性者と考えられる抗体陰性者および判定保留者は成人層も含めていずれの年代にも凡そ30%以上存在した。


 次はラジオNIKKEIの感染症TODAYより。
 ムンプスワクチン株について突っ込んだ情報があります。
 日本のMMRワクチンによる無菌性髄膜炎が多く発生した背景には、製薬会社が承認された方法と異なる方法で製造したためと聞いています。近年のワクチン製造会社のトラブルと同質であり、日本の悪しき習慣なのでしょうか。

■ 「定期接種化が期待される“おたふくかぜワクチン”」 国立三重病院 庵原俊昭Dr.
2015.9.23:ラジオNIKKEI「感染症TODAY」
・唾液からは耳下腺腫脹数日前からウイルスが分離され、耳下腺腫脹後5日を経過すると、耳下腺腫脹が続いていても多くの例では唾液からウイルスは分離されなくなる。本人が元気ならば、耳下腺腫脹後5日を経過すると登園登校が許可される。
 時に、片側が腫れた後、6-9日後に反対側が腫れることがある。このときも唾液からムンプスウイルスが分離されるため、登園登校を再度5日間休ませる必要がある
・ワクチン定期接種化への道:歴史上、疾病負担が重い感染症からワクチン開発が行われてきた。定期接種化に向けては、日本では安全性の評価が重視される傾向がある。

・ムンプスはワクチンで予防すべき疾患か?

 ムンプスの予後の週間類合併症である脳炎・難聴の発症率は、麻疹の脳炎発症率、ポリオウイルスによるポリオ麻痺の発症率、日本脳炎の脳炎発症率と同等である。これらを考慮すると、ムンプスはワクチンで予防したい感染症である。

・ムンプスワクチン株による有効性と安全性:
 日本のMMRで使用された「Urabe統一株」はUrabe原株とは継代方法が異なる株で、病原性が高かったと推測されている

・ムンプスワクチンの定期接種化に向けては、有効性をとるか安全性をとるかにより選択するワクチン株が異なってくる。
安全性重視→ JL株を含むMSDのMMR、日本のMRにRIT-4385株を入れたMMRの開発計画が進行中。
有効性重視→ 日本のムンプスワクチン株(星野株、鳥居株)を使用

・ムンプスは年齢が高くなるに従い重症化リスクが高くなる感染症であり、ムンプスワクチンも接種時の年齢が高くなるにつれ耳下腺腫脹や無菌性髄膜炎などの合併症の頻度が高くなる:


 次は日本小児感染症学会若手会員研修会第5回福島セミナーの資料より。

■ 「ホントに必要? おたふくかぜワクチン」
小児感染免疫 Vol.26 No.4, 2014
・自然感染による症状(合併症)を知りましょう;

・ムンプス髄膜炎:耳下腺腫脹3-10日後に発症することが多く、再発熱を伴う。
・ムンプス脳炎:頻度は1%未満と低いが、39℃以上の発熱と脳障害の症状で急激に発症し、後遺症や死亡につながることがある。
・ムンプス脳症:急性脳症の先行感染の病原別では5番目の頻度。
 1.インフルエンザウイルス(27%)
 2.HHV-6(17%)
 3.ロタウイルス(4%)
 4.RSウイルス(2%)
 5.ムンプスウイルス(1%)

ムンプス難聴
・ムンプスウイルスの直接侵襲で、内耳有毛細胞が障害を受け、高度の感音性難聴となる。
・予後不良の合併症で有効な治療法はない。
・従来の発生頻度は1.5万人に1人といわれてきたが、実際は1000人に1人と高頻度で、日本では年間500-2000人ものムンプス難聴が発生していると推測される。
・耳鼻科医からの報告では、1:184(石丸、1988年)、1:225(木村、1991年)、1:250(児玉、1995年)、1:553(村井、1995年)、1:294(青柳、1996年)と、小児科の教科書とは発生率に100倍近くの差が生じている。多くは片側性であり、小児の場合、難聴を発症したことに本人・周囲ともに気づかないことも珍しくなく、発見が遅れてしまうことが多いことも差が出る理由と考えられる。


・日本のMMRワクチンに使用されたムンプスワクチン株は「Urabe-AM9株」であり、副反応としての無菌性髄膜炎の発生頻度の高さの原因と考えられている(木村三生夫、他:わが国における自社株および統一株MMRワクチンに関する研究、臨床とウイルス 23:314-340, 1995)。論文から抜粋「1993(平成5)年5月(財)阪大微研は自社株に含まれていたワクチンウイルス株が本来 認可されている占部株(CEF3)を継代したM3A株であり、統一株に含まれていたムンプスワ クチン株はM3AとM3Bを2:1の割合で混合したものであったことを明らかにした。
・2014年時点で、MMRワクチン接種による健康被害として厚生労働大臣により認定されているのは、総数1041名、死亡一時金受給者3名、障害児養育年金受給者2名、障害年金受給者6名、医療費医療手当受給者1030名。
※ 参考:「あきらかになったMMRによる被害事実と救済内容

・ムンプス難聴の多くは聾といわれる極めて高度の難聴だが片側性が多いため見逃されやすい。ムンプス難聴は罹患後1ヶ月以内に起こることが多いため、指こすり法(↓)などでチェックすることが大切である。


【重要】日本のMMRワクチンが無菌性髄膜炎を多く発症したのは、阪大微研の無許可製造改変が原因である。
「MMRワクチンの統一株は、麻疹はAIK-C株、おたふくかぜは占部AM-9株、風疹はTo-336株が用いられたが、占部AM-9株のムンプスウイルスによる無菌性髄膜炎の発症が多く、中止になった経緯がある。
 占部AM-9株(阪大微研)のムンプスウイルスによる無菌性髄膜炎が多く、MMRワクチンは中止に追い込まれたが、皮肉な事に、占部AM-9株(阪大微研)は、本来は、無菌性髄膜炎の頻度が、他社のワクチン株ウイルスに比して、一番低いウイルス株だったと言われる。MMRワクチンの統一株に使われた、阪大微研の占部株は、本来認可されていた占部株(CEF3)を継代したM3A株以外に、抗体価上昇を期待して認可を受けていないM3B株を混入(M3A株とM3B株を2:1の割合で混合)させ、MMRワクチンの統一株の無菌性髄膜炎の副反応を高めてしまった要因だと言われる。本来認可されていた占部株のM3A株だけを用いていれば、日本でも、MMRワクチン接種が継続されていた可能性がある
 ワクチン後の無菌性髄膜炎発生頻度は、統一株MMR(占部株) 0.16%、武田自社株MMR(鳥居株) 0.08%、北里自社株MMR(星野株) 0.05%、微研自社株MMR(占部株) 0.005%で、占部株が最も少なかった。また、武田単味ムンプス(鳥居株) 0.06%、化血研単味ムンプス(宮原株) 0.03%、北里単味ムンプス(星野株) 0.04%で、野生株(自然罹患後の髄膜炎) 1.24%より、頻度が低いと言われる。」(脂質と血栓の医学「おたふくかぜ」より)


<参考>
□ 「薬害事件ファイル④MMR」(MMR被害児を救援する会)

 この事実、なぜ表に出なかったのでしょう?
 不思議でなりません。
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