小児アレルギー科医の視線

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新型コロナ感染症に対するステロイドの使い方(タイミングが重要)

2021年09月13日 07時40分27秒 | 予防接種
日本ではデキサメサゾンというステロイド薬が新型コロナ感染症の治療薬として認可されています。
入院患者が中心ですが、最近外来患者レベルでも使用する傾向があり、私はちょっと心配しています。
なぜなら、ステロイド薬は功罪併せ持つ使い方にコツのある薬剤だからです。

デキサメサゾンは感染症の薬として長い間使われてきた古顔です。
四半世紀前、勤務医だった私は、
重症化したウイルス感染症や抗生物質で勢いを止められない細菌感染症にこの薬を使っていました。
とくにウイルス感染症では抗ウイルス薬の種類は限られているため、
未知のウイルス感染症で重症化した場合はステロイド薬とガンマグロブリン製剤(≒抗体製剤)で対応するしか方法がありませんでした。

その古い薬が、新型コロナ感染症で再び脚光を浴びています。

ステロイド薬が感染症に用いられる目的は「炎症抑制」です。
感染症ではウイルスや細菌が増殖して体に害を与えます。
すると我々の体が反応してそれを排除する免疫システムが稼働します。
病原体と免疫システムのせめぎ合いの結果、そこに炎症が起きます。
その炎症が制御できる範囲を超えて暴走すると、重症化の一因となります。

「サイトカインストーム」という単語はこれを表現する専門用語の一つ。
また、マイコプラズマ肺炎の肺炎部位には病原体のマイコプラズマはいませんが、
マイコプラズマと免疫システムの戦いの結果生じた炎症が肺に病巣を作り、
これを「免疫発症」と呼びます。

ステロイドは免疫の暴走を止める薬です。
ですから、サイトカインストームや免疫発症の際に有効です。
しかし、免疫系を抑えるので、ウイルスや細菌の増殖を止める力はなく、むしろ増殖を助長します。

ちょっと複雑ですね。

つまり、感染症には2つの側面、病相があり、
1.病原体増殖期
2.炎症拡大期
に分けられます。

新型コロナ感染症で言えば、
・風邪症状のみで1週間で治る→ 1
・発症1週間以降に肺炎を発症し重症化→ 2
となります。

それに対する治療は、
1 → 抗ウイルス薬
2 → ステロイド薬
になります。
しかし現時点で有効な抗ウイルス薬は存在しません。
なのでタイミングを計って2の治療をすることになります。

ステロイド薬の投与のタイミングが重要です。
早すぎるとウイルスの増殖を助長して重症化を招く可能性があり、
遅すぎるとステロイド薬で止められないほど炎症が強くなってしまう。

もし、新型コロナ患者に外来でステロイド薬を処方するなら、
医師は慎重にタイミングを計る必要があります。
「とりあえずビール」のごとく、
「とりあえずステロイド」と処方すると患者さんが痛い目に遭います。

ステロイド薬はアトピー性皮膚炎に対する治療にも軟膏として使われています。
以前、久米宏のニュース番組で否定的報道がされたため「ステロイド忌避症」が蔓延し、
治療に支障をきたし社会問題になりました。
これは不適切な治療(不十分な強さや量、自己流)がはびこったため、
十分な効果が発揮されなかったことが一因です。

ステロイドは有効な薬です。
ただ「正しい使い方」がポイント。
自己判断で使ったりやめたりせず、プロとしての医師の管理下に使用すれば大丈夫です。

最近の記事をいくつか紹介します。
内容を読むとイギリスが発表した「RECOVERY試験」の投与法;
デキサメタゾン6mgを呼吸不全が生じてから、5日以上10日以内投与
が標準となっているようですが、
現時点でも、適切な使用のタイミング、使用量、使用期間は流動的で手探り状態のようです。


COVID-19への全身性ステロイド投与は、抗ウイルス薬に先行させるべきではない
倉原優:近畿中央呼吸器センター(2021/09/07:日経メディカル

コロナへのステロイド、及び腰も勇み足もNG? 聖路加国際病院呼吸器センター医長の西村直樹氏に聞く
小板橋律子=日経メディカル(2021/09/07:日経メディカル

コロナ重症例に有効なデキサメタゾン、投与されない患者も
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