小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

新型コロナと心筋炎:自然感染 vs. ワクチン副反応

2021年08月30日 06時40分42秒 | 予防接種
新型コロナウイルスワクチンの副反応として「心筋炎」が注目されています。
心筋炎とは、心臓の筋肉に炎症が起こり、心臓の機能(収縮力)が低下して心不全状態になったり、拍動の乱れ(不整脈)が発生する病態です。
この情報が、
「ワクチンは安全?」
という不安・疑問の拍車をかけています。

しかし、実際に新型コロナに自然感染しても「心筋炎」が起こることが報告されています。
これらのリスクをどう捉えるべきか考える際、口コミやSNS上の噂ではなく“正しい情報”が必要です。

実は、風邪にまれに合併する心筋炎は、小児科医にとっては以前から常識でした。
とくに夏風邪(手足口病やヘルパンギーナ)を起こす「コクサッキーウイルス」が有名です。

極めてまれに重症化し、私の小児科医人生30年の中で、数例経験してます。
あくまでも新型コロナ以外での話です。

ですから「心筋炎」と聞くと、その重症度が気になります。
自然感染の合併症としての心筋炎の重症度、
ワクチン接種後の副反応としての重症度はどうなのでしょう。

私(小児科専門医)が信頼できると判断した記事・資料から引用してみます。
堀向先生は、最新の論文を紹介し、以下のようにまとめています;

新型コロナのワクチンは、心筋炎や心膜炎の発症リスクをあげるようです。
(大まかに言うと)100万人中5~20人程度の発症です。
一方で、新型コロナの感染そのもので、心筋炎や心膜炎の発症リスクが上がります。
(大まかに言うと)100万人中6000人から23000人程度が発症する可能性があります。
つまり、1000倍といった大きなリスクの差がある(自然感染>ワクチン)といえるでしょう。
そしてワクチンの副反応による心筋炎の多くは軽症です。

少し詳しく引用してみます;

 堀向健太:日本アレルギー学会専門医・指導医、日本小児科学会指導医
2021/8/10:Yahoo! ニュース)より抜粋;
・・・・・
 新型コロナに感染した米国のプロスポーツ選手789人に対し、心臓に炎症を起こす病気の頻度が調べられました。
すると、30名(3.8%)にスクリーニング検査で異常が認められ、最終的に、心筋炎や心膜炎が5人(0.6%)に見つかり、その後のプレーが制限されたと報告されています[5]。
 別の研究でも、新型コロナ感染後に検査を受けた米国の競技スポーツ選手1597人中、2.3%の選手が心筋炎と診断されています[6]。
 つまり、大雑把な数字になりますが、(ワクチンではなく)新型コロナの感染そのもので100万人中6000人から23000人が心筋炎や心膜炎を発症する可能性があるということになります。
[5]Martinez MW, et al. JAMA Cardiol 2021; 6:745-52.
[6]Prevalence of Clinical and Subclinical Myocarditis in Competitive Athletes With Recent SARS-CoV-2 Infection: Results From the Big Ten COVID-19 Cardiac Registry. JAMA Cardiol 2021
・・・・・
 最近、米国からの研究で、新型コロナワクチンを1回以上接種した200万人以上の検討が行われました。
すると、ワクチンに関連した心筋炎は100万人あたり10人程度、心膜炎は100万人あたり18人程度発症するのではないかと推測されました[7]。
 もちろん、心筋炎・心膜炎は他の原因で自然に起こった可能性もありますが、この検討では、ワクチンの接種期間前の心筋炎や心膜炎の数と比較し、ワクチンが心筋炎・心膜炎を発症させるリスクになる可能性を指摘しています。
 しかし、これらの多くは軽症でした。
心筋炎を発症した患者のうち19人が入院したものの中央値2日で全員が退院し、心膜炎を発症した患者も入院期間の中央値は1日だったそうです。
 そしてCDC(米国疾病管理予防センター)は最近、新型コロナワクチンと心筋炎との関連に関し、主に2回目の接種後数日以内に若い男性に発症し、その発生率は100万人あたり約4.8例としています[8]。
[7] Diaz GA, et al. Myocarditis and Pericarditis After Vaccination for COVID-19. JAMA 2021.PMID: 34347001
[8]Myocarditis and Pericarditis Following mRNA COVID-19 Vaccination

発生頻度は自然感染>ワクチン接種後であり、自然感染の方が1000倍も高い、
そしてワクチン接種後の心筋炎は軽症、と安心できるデータを示してくれています。
また、厚労省HP「新型コロナワクチンQ&A」から心筋炎に言及している箇所を紹介し、

厚労省の『新型コロナワクチンQ&A』では、『ワクチンを接種すると心筋炎や心膜炎になる人がいるというのは本当ですか』という項目があります。
そして、『mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン接種後、頻度としてはごく稀ですが、心筋炎あるいは心膜炎になったという報告がなされています。軽症の場合が多く、心筋炎や心膜炎のリスクがあるとしても、ワクチン接種のメリットの方がはるかに大きいと考えられています』という回答があります。

と国レベルで安全を担保していることを保証しています。
さらにアメリカのCDCの声明を紹介し、世界レベルでワクチン接種のメリットが自然感染のデメリットをしのぐと判断されていることを示しています;



次に、内科の循環器専門医である駒村先生の記事を紹介します。
日本循環器学会、日本小児循環器学会、厚生労働省の該当サイトを紹介しているほか、
各国からの報告データ、ワクチンの添付文書にも言及しています。

結論として、やはり自然感染の方が心筋炎のリスクが高いこと、
軽症ながらもワクチン接種後にもまれに発生するので、
・症状(胸の痛み、息切れ)が出たら受診する
ことはもちろん、
・症状が出なくても激しい運動は1週間程度控えるべし、
と意見しています。
(途中から血栓症の話が混じってきてわかりにくい!)

新型コロナワクチンによる心筋炎をどう考える
駒村 和雄(国際医療福祉大学熱海病院)
・・・・・
 その後、ファイザーのコミナティ筋注、武田薬品工業のCOVID-19ワクチンモデルナ筋注の添付文書には、以下のような心筋炎・心膜炎に関する注意が記載された(新型コロナワクチンに「心筋炎、心膜炎」の注意追加、2021/08/01)。
「本剤との因果関係は不明であるが、本剤接種後に、心筋炎、心膜炎が報告されている。被接種者又はその保護者に対しては、心筋炎、心膜炎が疑われる症状(胸痛、動悸、むくみ、呼吸困難、頻呼吸等)が認められた場合には、速やかに医師の診察を受けるよう事前に知らせること。」
・・・・・
 日本小児循環器学会も8月11日に、「新型コロナウイルスワクチン接種後の心筋炎について」という声明を公表した[2]。これまでの接種後心筋炎の特徴を、以下のように紹介している。

・ワクチン接種1回目よりも2回目に起こりやすい
・mRNAワクチン接種後に多い
・高齢者よりも思春期や若年成人に、女性よりも男性に多い
・ワクチン接種後に発症する急性心筋炎の大半は軽症
・おもな症状は、ワクチン接種後数日後におこる動悸・息切れ・胸痛など
・心疾患のある人にワクチン接種後の心筋炎が多いというデータはない
・心疾患のある人はワクチン接種後の心筋炎が重症化しやすいというデータはない

 以上に基づき、同学会として「心疾患を基礎疾患にもつ患者さんにおいても新型コロナウイルスワクチン接種を基本的に推奨します。(中略)そして、新型コロナウイルスワクチン接種後に、動悸・息切れ・胸痛等の症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。なお、接種後1週間激しい運動を控えるように指導している国もあります」との推奨を行った。
・・・・・
 筆者がこれまでに担当した新型コロナウイルスワクチンの接種は高齢者が中心だったためか、飲酒に関する質問を複数受けたものの、運動については皆無だった。今後若い世代への接種が進むに従って、運動やトレーニング、競技についての質問が増えるだろう。
 注意すべきは、心筋炎の症状は胸部症状だけにとどまらず、発熱、全身倦怠感、呼吸困難、失神、ショックといった、全身症状もまれではないことだ。よって、接種した若者には当日はもちろんだが、いきなり激しい運動は行わずに様子を見ながらボチボチ始めること、そして胸部症状だけにかかわらず、何らか体調不良を感じたら病院を受診するように勧奨することが必要ではないかと考える。
・・・・・
 最近の第66回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会の資料によれば、
・ワクチン接種後の心筋炎関連事象は、ファイザーのコミナティ筋注、武田薬品工業のCOVID-19ワクチンモデルナ筋注ともに100万人当たり1.1件、すなわち0.00011%。2種類のmRNAワクチンを合計すると、0.00022%の発生率になる。
海外からの報告では、
・新型コロナmRNAワクチン接種後の心筋炎・心膜炎の頻度は0.0004%、0.001%との報告がある。新型コロナウイルス感染に続発する心筋炎・心膜炎の頻度は、運動選手についての米国での調査では各報告で0.6%、2.3%、0.5~3.0%との数字で、1000倍から1万倍の差がある。

データを読む際に、「自然感染後」なのか「ワクチン接種後」なのか、注意しましょう。
mRNAワクチン接種後の心筋炎の頻度は、日本のデータでは0.00022%、海外からの報告では0.0004%と、とても低い数字です。

これらの記事を読んだ私の感想は、
「心筋炎合併という視点から、新型コロナワクチンは自然感染より安全」
ということになります。

ウイルスがまるごと全部体に入る自然感染と、
ウイルスの一部が体に入るワクチン、
どちらが安全か、勝負はあらかじめわかっているのですが・・・。


<参考>
■ ワクチンを接種すると心筋炎や心膜炎になる人がいるというのは本当ですか。
新型コロナウイルスワクチン接種後の急性心筋炎と急性心膜炎に 関する日本循環器学会の声明
新型コロナウイルスワクチン接種後の心筋炎について
2021年8月11日:日本小児循環器学会)より抜粋(一部上記記事と重複します);
・・・・・
 新型コロナウイルスワクチン接種後心筋炎の特徴は、これまでの海外のおもな報告をまとめると下記のとおりです。ただし、世界的に小児のワクチン接種の数が成人と比較して少ないため、今後、新たな情報が出る可能性があります。
  • ワクチン接種1回目よりも2回目に起こりやすい
  • mRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン接種後に多い
  • 高齢者よりも思春期や若年成人に、女性よりも男性に多い
  • ワクチン接種後に発症する急性心筋炎の大半は軽症
  • おもな症状は、ワクチン接種後数日後におこる動悸・息切れ・胸痛など
  • 心疾患のある人にワクチン接種後の心筋炎が多いというデータはない
  • 心疾患のある人はワクチン接種後の心筋炎が重症化しやすいというデータはない
《重要》現時点での当学会の基本的な考え方は、新型コロナウイルスワクチン接種後の心筋炎は、新型コロナウイルス感染後の急性心筋炎よりも発症率が極めて低く、新型コロナウイルスワクチン接種後の心筋炎は大半が軽症であることから、心疾患を基礎疾患にもつ患者さんにおいても新型コロナウイルスワクチン接種を基本的に推奨します。ただし、小児循環器疾患は個別性が高いため、不安があれば必ず主治医に相談してください。そして、新型コロナウイルスワクチン接種後に、動悸・息切れ・胸痛等の症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。なお、接種後1週間激しい運動を控えるように指導している国もあります。学会としては、今後も情報収集に努め、最新情報は随時HPで迅速に情報提供を行なっていく予定です。

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