小児アレルギー科医の視線

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乳児アトピー性皮膚炎の治療は食物アレルギーの予防となりえるか? ~PACI Study~

2023年06月22日 06時33分23秒 | 予防接種
…2008年に発表された「二重抗原暴露説」から、アレルギー専門医にずっと注目されてきたことです。
 そして2023年、この概念を実証する研究結果が国立成育医療センターから報告されました。

 私自身、5年ほど前から、かゆみを伴う乳児湿疹を反復する例に、プロアクティブ療法に準じたタイトコントロールを実施してきました。
 しかしその際にハードルとなる事象に何回も遭遇し、手探りで模索するとともに情報を探し、すると今回「PACI Study」を発表された成育医療センターのチームに出会い、山本喜和子先生からアドバイスを受けながら進めてきました。
 すると、食物アレルギー発症者が減少したことが実感できました。なにより、皮膚の状態がよいのでアレルギー検査を行う頻度が激減したのです。
 というわけで、この成績がとても気になります。

アトピーの早期積極治療で卵アレルギー予防~二重抗原曝露仮説を実証
 乳児期に発症したアトピー性皮膚炎は、食物アレルギーの発症リスクを高めるとされる。国立成育医療研究センターアレルギーセンターセンター長の大矢幸弘氏らは、アトピー性皮膚炎への早期積極治療による食物アレルギー発症予防効果を検討する多施設共同評価者盲検ランダム化比較試験(RCT)を実施。二重抗原曝露仮説を実証する世界初の報告をJ Allergy Clin Immunol 〔2023; S0091-6749(23)00331-7〕に発表した。
◆ 全国16施設、318例を検討
 2008年に提唱された「二重抗原曝露仮説」によると、湿疹などにより荒れた皮膚からのアレルゲン侵入はアレルギーの発症リスクを高める一方、消化管で吸収されたアレルゲンはアレルゲンとして認識されず、アレルギーの発症リスクを下げるとされる。
 この仮説が正しければ、食物アレルギーの発症予防には
①アトピー性皮膚炎の発症予防や早期治療による経皮感作の予防
②アレルギーの原因となりうる食物の早期の経口摂取による経口免疫寛容の誘導
―の二重の介入が有効と考えられる。
これまで、②については2017年に同センターが離乳期早期の鶏卵摂取による鶏卵アレルギーの発症予防効果を報告したのをはじめ(Lancet 2017; 389: 276-286)、複数の研究が報告されているが、①についてはRCTでの報告はまだない。
 そこで大矢氏らは、アトピー性皮膚炎に対する早期積極治療による食物アレルギー発症予防効果を検討するPACI Studyを全国16施設で実施した。対象は生後7~13週の乳児で、最低28日間持続または断続的な痒みを伴う湿疹を有し、The U.K. Working Party(UKWP)の診断基準でアトピー性皮膚炎と診断された318例。アトピー性皮膚炎に対して積極的な治療を行う群(積極治療群)318例と、標準的な治療を行う群(標準治療群)322例にランダムに割り付け、生後28週時での鶏卵アレルギーの有病率を検討した。
 なお、積極治療群では保湿薬の1日2回の使用に上乗せして、ステロイド外用薬を以下のスケジュールで無症状の部位を含む全身に使用した。同氏らによると、ステロイドを湿疹部に限定して使用すると無症状の炎症から新たな湿疹が出現するなど寛解の実現が困難になる患者が多いことから、積極治療群では湿疹のない部分を含めた全身への使用としたという。
・・・
 一方、標準治療群では保湿薬の1日2回の使用に上乗せして、ステロイド外用薬を湿疹が発現した部位のみに、「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」に基づいて使用した。また、両群ともレスキュー薬として担当医の判断でモメタゾンフランカルボン酸エステルの使用も可能とした。
◆ 積極治療群で鶏卵アレルギーの発症が10.5%ポイント低下
 検討の結果、28週時における鶏卵アレルギーの有病率は、標準治療群と比べ積極治療群で有意に低かった(41.9% vs. 31.4%、P=0.0028、リスク差-10.5%ポイント、片側CIの上限-3.0%)。
 ただし、成長障害での入院例が積極治療群の6例で見られた。また、因果関係は不明だが標準治療群と比べて積極治療群で体重(平均差-422g、95%CI -553~-292g)および身長(同-0.8cm、-1.22~-0.33cm)が低かった。
 以上の結果から、大矢氏らは「食物アレルギーの発症予防には、乳児期のアトピー性皮膚炎を早期に積極治療し、経皮感作のリスクを低下させることが重要であることが示され、二重抗原曝露仮説を実証する結果となった」と結論。
 その上で「乳児期のアトピー性皮膚炎の重症度には個人差が大きいため、実臨床においては患者の症状や重症度などに合わせて適切な強さのステロイド薬を使用し、使用期間と減量スケジュールを慎重に検討し寛解状態を実現・維持し、副作用を回避することが求められる」と付言している。

標準治療群では卵アレルギーを4割発症、積極治療群で3割発症、という結果です。
私の印象では、
・思っていたほど差が出なかった。
・積極治療群で3割発症は多い。
です。
今回比較したのが「標準治療群」であり、無治療ではなかったことが差が小さい要因と思われます。
また、積極治療群では、私の実臨床の印象では1~2割にとどまると思われるのですが・・・これは治療開始前にすでに監査されていたかどうかも検討項目に入れないとメリハリの付いた結論は出にくいと思いました。
というのは、当院で治療を始める乳児早期(生後3~4か月)患者さんでも、すでに皮膚科や小児科を数件ドクターショッピングしたのちに受診される例が少なからず存在するからです。おそらくそのような例は、当院で治療を始める前にすでに食物アレルギー体質が成立していることが予想されます。


<参考>
山本希和子ほか(PubMed)

要約
バックグラウンド: 早期発症アトピー性皮膚炎は食物アレルギーの強力な危険因子であり、早期の効果的な治療が経皮感作を予防する可能性があることを示唆しています。
目標: この研究では、臨床的に影響を受けた皮膚と影響を受けていない皮膚へのアトピー性皮膚炎の強化された治療が、臨床的に影響を受けた皮膚のみに対する反応治療よりも鶏の卵アレルギーの予防に効果的であるかどうかをテストしました。
メソッド: これは、多施設、並行群間、非盲検、評価者盲検、ランダム化比較試験(PACI[皮膚介入によるアレルギーの予防]研究)でした。この研究では、アトピー性皮膚炎の生後7〜13週の乳児を登録し、乳児を1:1の比率でランダムに割り当て、早期皮膚治療の強化または局所コルチコステロイド(TCS)を使用した従来の反応性治療に割り当てました。主要アウトカムは、28週齢の経口食物チャレンジによって確認された即時鶏卵アレルギーの割合であった。
業績: この研究では、650人の乳児を登録し、640人の乳児を分析しました(強化された[n = 318]または従来の[n = 322]治療)。強化された治療は、従来の治療と比較して鶏卵アレルギーを有意に減少させ(31.4% vs 41.9%、P = 0028.10、リスク差:-5.1%、片側CIの上限:-3.0%)、422週齢で体重(平均差:-95 g、553%CI:-292〜-0 g)および身長(平均差:-8.95 cm、1%CI:-22.0〜-33.28 cm)を低下させました。
結論: この研究は、鶏の卵アレルギー予防戦略の構成要素として、適切に制御されたアトピー性皮膚炎管理の可能性を強調しました。この試験の強化された治療プロトコルは、TCSの副作用を回避するために、日常診療で鶏卵アレルギーを予防するためのアプローチと見なす前に変更する必要があります。TCSによる寛解導入後、TCSの安全性上の懸念を克服するための代替の積極的な治療法として、効力の低いTCSまたは他の局所療法による維持療法を検討することができます。




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