小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

経口妊娠中絶薬が日本で承認されました。

2023年06月25日 14時01分09秒 | 予防接種
経口避妊薬ではありません、経口“中絶”薬の話題です。

私は知り合いの産婦人科医のブログで知りました。
海外では既に使用されている経口妊娠中絶薬という分野、
とうとう日本でも認可されました。

処方できる医師は登録制です。
つまり産婦人科に行けばいつでもどこでも手に入るわけではなく、
研修を受けて資格を取得した産婦人科医しか処方できない仕組みになっています。

事前の説明会では「なかなか一筋縄にはいかない」印象のようです。
とくに「内服後に子宮内容がすべて排出されているかの確認」が大変らしい。

この薬を扱ったインタビュー記事が目に留まりましたので、紹介します。
連続2回にわたる内容です;

<ポイント>
・名称:メフィーゴパック(ミフェプリストン/ミソプロストール)
・使用期限:経腟超音波検査で子宮内妊娠が確認された妊娠9週0日以下
 (海外では妊娠7週までの国が多い)
・投与方法:
 ミフェプリストン200mgを経口投与し、
 その36〜48時間後にミソプロストール0.8mgを
 バッカル投与(歯茎に貼り付けて吸収させる)、
 その後4〜24時間で子宮内容物が排出される。
・2剤目内服後は入院して様子観察し、子宮内容物がすべて排出されたことを要確認
・効果:
 日本の臨床試験では93.3%が中絶を完遂、
 6.7%は外科的処置(搔爬法)の追加を要した
・副作用:37.5%・・・主なものは下腹部痛15%、下痢14.2%および嘔吐10.8%
・費用:10万円?

妊娠中絶方法について、一般の方からは、
「外科的掻爬は体に負担がかかり、経口薬の方が体に優しい」
という声が聞こえてくるものの、
そう単純なものではないことが記事からうかがえます。

国内初承認 経口中絶薬、適応像と注意点は?
2023年05月26日 Medical Tribune)より一部抜粋;
「海外では飲み薬による人工妊娠中絶が可能だが、日本にはその選択肢がない」ことへの批判などを背景に、関心が集まっていた経口中絶薬。今年(2023年)4月28日、厚生労働省はいわゆる経口中絶薬ミフェプリストン/ミソプロストール(商品名メフィーゴパック)の製造販売を正式承認した。同薬の承認をめぐっては、薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会による今年1月の承認了承後にパブリックコメントの募集が実施され、その取りまとめに時間を要したため3月の薬事審議会での審議が見送られ、承認が4月にずれ込んだ。埼玉医科大学医療人育成支援センター・地域医学推進センターの高橋幸子氏に、今回新たに日本でも人工妊娠中絶の選択肢に加わったミフェプリストン/ミソプロストールの概要や適応となる患者像、使用時の注意点などについて聞いた。
・・・
――初めに、4月末に承認された経口中絶薬ミフェプリストン/ミソプロストールの概要を解説してください。

 この薬は、妊娠を維持する役割を持つプロゲステロンを遮断するミフェプリストンと、子宮収縮をもたらすプロスタグランジンであるミソプロストールの2剤を同梱したものです。経腟超音波検査で子宮内妊娠が確認された妊娠9週0日以下の女性に対する人工妊娠中絶に用います。
 ミフェプリストン200mgを経口投与し、36〜48時間後にミソプロストール0.8mgをバッカル投与(歯茎に貼り付けて吸収させる)すると、その後4〜24時間で子宮内容物が排出されます。日本の臨床試験では93.3%が中絶を完遂、6.7%は外科的処置(搔爬法)の追加を要しました。副作用の発現割合は37.5%で、主なものは下腹部痛15%、下痢14.2%および嘔吐10.8%と報告されています。

――今回の承認についてどのように受け止めていますか。

 人工妊娠中絶は、海外では妊娠12週未満に対して外科的処置と経口中絶薬が選択できるものの、これまで日本では母体保護法の規制下で、妊娠12週未満では外科的処置(搔爬法または吸引法、その併用)により子宮内容物を除去する方法、12〜22週未満で腟剤を挿入して分娩を誘発する方法しかありませんでした。今回の承認により妊娠9週0日までにおける選択肢が増えた点は、大いに評価すべきことです。



――経口中絶薬が適する患者像についてはどうお考えですか。

 海外での使用経験から、おおむね明確になっています。まず、外科的処置を避けたいなど本人が希望しているかどうか、そして外科的処置が難しい肥満や子宮筋腫を合併している場合などです(表)。この他、中絶の完遂が麻酔下か覚醒下かも、処置法を選択する上でのポイントです。

<経口中絶薬の適応例>
・本人の希望
 ✓経口中絶薬による中絶を希望
 ✓外科的介入を避けたい
・妊娠がごく初期である
・外科的処置が難しい
 ✓肥満(BMI>30)だが、その他の新血管系リスクがない
 ✓子宮の奇形、子宮筋腫、過去に子宮頚管手術を受けたことがある

・・・

――承認までの過程では、ウェブ上などでさまざまな意見が噴出しました。

 外科的処置に対する批判の声はやや誤解含みであったかと思います。数年前から「外科的処置、特に掻爬法は非人道的で、経口中絶薬こそが女性に優しい」といった対比とともに、日本の中絶法が外科的処置だけであることへの不満の矛先を、残念ながら産婦人科医に向けるという現象がソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で起こりました。
 日本における人工妊娠中絶に伴う合併症の頻度は、海外に比べもともと低い上に、中絶の数自体が年々減少しています。海外と日本の比較でしばしば槍玉に挙げられる掻爬法についても、施行頻度が比較的多いものの合併症が多いわけではありません。近年では、子宮穿孔リスクを減らしながら遺残を減らす吸引法と搔爬法の併用が多く行われています。
 多くの日本の産婦人科医が初めて経口中絶薬を認知したのは、海外からの個人輸入で経口中絶薬を使用し死亡した異所性妊娠例でした。「経口中絶薬を容易に入手できるようにすべき」といった極端な声には、今の段階ではまだ日本の産婦人科医は使用経験に乏しいため、同意することはできません。
 また、所定の時間に完遂できる外科的処置と異なり、経口中絶薬による中絶が完遂に至るまでの時間には幅があり、外来と周産期管理で多忙を極める産婦人科診療において適切に管理するためには、自院での処方で、かつ夜間などにも対応する施設に収益が確保される点も重要です。
 2剤目の経口中絶薬を服薬後24時間経過しても子宮内容物が排出されない場合は搔爬法の併用を検討するので、外科的処置を殊更に批判し忌避するのは安全な中絶医療の実施という観点でも適切ではありません。既に経口中絶薬が普及している国でも、外科的処置と経口中絶薬を選択する割合は同程度といわれています。処置法にはそれぞれメリットとデメリットがあり、善悪の概念で語るべきものではありません。それぞれの中絶法について、正確な情報提供に基づき適切な選択がなされ、安全に施行されることが大切です。
・・・

――承認に際しては、薬価が10万円に上るとの見方が広まり、批判も集まりました。

 2剤目の服薬から排出までは入院対応となったので、中絶に要する医療資源を考慮すると10万円は決して高くないというのが多くの産婦人科医の見解だと思います。海外の臨床成績を外挿したわけではなく、日本で臨床試験が実施され、有効性と安全性が慎重に検討された上で承認に至っています。こうした国内承認までのプロセスの堅牢性も評価されるべきだと思います。医療制度の違いなどを踏まえず誤解を含んだままコストの高低を語るのはあまり意味がありませんし、批判の矛先を産婦人科医に向けるのも理不尽です。ただ、費用負担を中絶の当事者に求める以外のサポートができないか、考える必要はあると思います。
 経口中絶薬の適応は、海外では妊娠7週までの国が多く、日本では9週0日まで使用できますが、この時期は既に胎児の体が形成されつつあることを視認できます。体外に排出される胎児を医療者と確認するプロセスからは、強い心理的ストレスを受ける可能性が否めません。
 何より、多くの産婦人科医はまだ経口中絶薬を使ったことがないのです。アフターピルのように産婦人科医なら誰でも処方したことがある薬というわけではありません。その意味でも、入院対応とした点は妥当だと考えられますし、経口中絶薬にせよ外科的処置にせよ、メンタルサポートなどのフォローの充実がこれまで以上に必要だと考えています。
 なお、海外留学中にルームメイトが経口中絶薬を使用する場面に遭遇した人によると、腹痛に苦しむ姿とルームメイトの「眠っている間に中絶できるなんて羨ましい」との言葉が印象に残ったそうです。この間、経口中絶薬については「女性に優しい中絶法」というイメージが先行した感がありますが、メリットとデメリットを冷静に考慮し、自分に合った中絶法を選択できるよう支援することが産婦人科医の役割です。

――女性の健康を守ると言う観点では、他にも「生理の貧困」問題、避妊費用、中絶費用と、特に若年女性における経済的負担に対する不満の声が聞かれますし、改善すべき課題ですね。

 今回沸き起こった中絶費用が高額であるとの不満についてもしかりですが、求めるべきは避妊および中絶費用の公費助成です。手技や費用に関する女性と産婦人科医の対立という構図から脱却し、ともに国に働きかけていく時期に入っていると考えています。国には、避妊や中絶に対する公費助成を、若年女性の健康と豊かな可能性を守るための投資であると認識してほしいと思っています。

▢ 国内初承認 経口中絶薬、社会的課題に迫る
・・・
――経口中絶薬が選択肢として機能する上での課題について、どのようにお考えでしょうか。

 経口中絶薬による人工妊娠中絶が実施できるのは、母体保護法指定医が所属する医療機関のみです。販売のルートも医薬品製造販売業者→卸売業者→登録された医療機関のみと定められていますが、登録医療機関数は現時点で80施設程度になる見込みです。まずは使用経験が集積され、登録医療機関が増えることが求められます。
 さらに、必要とする女性に適切に行き渡る状況を醸成できるか否かという点では、妊娠に気付いてから産むか否かを検討し中絶を決断する過程で、経口中絶薬が使える妊娠9週0日までに産婦人科医にアクセスできるのかが根本的かつ大きな課題です。

――妊娠によって教育や就労の機会すら脅かされる10〜20歳代前半の女性にとって望まぬ妊娠は深刻ですが、この世代は産婦人科の受診率が低いとされています。彼女らが産婦人科医に適切にアクセスするための方策はあるのでしょうか。

 安心できる産婦人科の受診先づくりとして、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種の機会をうまく活用してもらいたいと考えています。そして、例えば試験や宿泊行事における月経調整、生理痛の相談などを低用量ピルを知るきっかけとし、自分の体とうまく付き合いコントロールすることを経験しながら、産婦人科医とのパートナーシップをつくってもらえたらと願っています。
 とはいえ、多くの産婦人科医は日常診療で多忙のため、診療場面で多岐に及ぶ性教育を担うのは困難です。そこで、受診先としての産婦人科クリニックと若年女性の橋渡し役として、性教育や受診勧奨などの役割を担う存在が必要だと考えています。
 例えば、私は大学の健康管理センターで月1回相談を担当しており、必要に応じて受診勧奨や受診先の相談を受けています。養護教諭が配置されている高校の保健室などに相談に対応する仕組みを設け、広く機能できればよいのですが、私立高校には養護教諭の配置義務はなく、学校教育現場での対応は自治体による違いも大きいため、国全体の取り組みとして充実していないのが現状です。
・・・
――産婦人科クリニックを受診する一歩手前の段階からの性教育と受診勧奨といった啓発の充実が鍵を握るものの、現状はその機会も内容も乏しい状況なのですね。

 そもそも、世界と比べ日本の何を非人道的、暴力的と称するかでいえば、日本では国際標準の性教育を受ける機会がほとんどありません。このことこそが暴力的で非人道的です。

――国際標準の性教育とは、どのようなものでしょうか。

 ユネスコの国際セクシュアリティ教育ガイダンスでは、包括的性教育として「さまざまなジェンダー、セクシュアリティを生きる全ての子供たちが、安心で安全な環境の中で、他者と対等で平等な関係を築き、自分の人生において性を豊かに楽しむことができるようになる教育」がうたわれています。日本はこのレベルに全く達していないどころか、国際社会で一般的な「性と生殖に関する健康の指針」すら学べないのが現状です。日本の子供たちは、義務教育では依然として性行為の内容や自分とパートナーを守る具体的な方法を教わる機会がありません。性教育で扱われる内容は、高校でようやく避妊と性感染症のみといういびつな構図のままです。

<性と生殖に関する健康の指針>
5-8歳 「妊娠は計画できるものである」と理解する
9-12歳 「コンドームのつけ方」を実習で学ぶ
12-15歳 避妊法の利点と欠点を理解し説明できるよう学ぶ
15-18歳 「どんなにきちんと避妊しても妊娠に至ることはある」ことを知り、意図せぬ妊娠に際しどう考え、どのように行動し、誰につながり、どんな資源を活用できるのかを学ぶ

――この項目の全てを熟知し説明できる大人が日本にどれほどいるのか疑問ですね。

 子供を守る役割を担う児童養護施設の職員であるにもかかわらず、望まぬ妊娠時における意思決定と選択肢のリミットをご存じなかったケースに遭遇しました。図は避妊法と中絶法などの意思決定のタイミングを示したものです。これらが、女性の健康を守る上で全ての人が熟知しておくべきであるとの認識が広がることを願います。
・・・
ーー日本の性交同意年齢は長らく13歳とされ、現在、16歳への引き上げが検討されています。仮に年齢が引き上げられるにせよ、自らを守る方法を具体的に学べないままリスクにさらされるというのでは、確かに非人道的ですね。

 10歳代の中絶や性感染症を予防する目的だけにとどまる性教育は、日本の現状にもそぐわなくなっています。以前に比べ性交経験率は下がり、10歳代の中絶率も低下しましたが、性行為は早期に経験する人と全く経験しない人に二極化しています。性行為は自分と他者を慈しむ親密なコミュニケーションの1つであり、豊かな人生を送る上で重要な要素です。しかし、日本の若年者は教育現場で性感染症と避妊しか教わらないため、「性行為=危険で煩わしいもの」という残念な認識にとどまってしまっており、そのような認識のまま成長している人も少なくないでしょう。
 性教育・性政策の充実で知られるスウェーデンの性交同意年齢は15歳です。その年齢を迎えると、性行為を行う権利があること、仮にリスクのある性行為であったとしても自らに選択の権利があると認められます。その上で、結果として困ったことが生じた場合のセーフティーネットもきちんと設けられているのです。
 同国では15〜23歳の青少年が保護者や学校に知られることなく無料で受診できる公的医療機関としてユースクリニックが各地にあり、医師、看護師、助産師、カウンセラーなどの専門職が配置されています。妊娠検査や性感染症検査、避妊具や緊急避妊薬、生理用品に加え、性に関するさまざまな知識・情報が提供されています。学校の性教育の一環として紹介されるので、非常に認知度の高い施設です。
 このようなユースクリニックの在り方は、自分と他者を尊重できる次世代を育成する上で大いに参考にすべきです。例えば、東京都では昨年度からユースクリニックに対する予算が組まれるなどの動きがあります。ようやく見えてきた国際標準の包括的性教育の普及の兆しとして期待しています。

――経口中絶薬承認前に実施されたパブリックコメントではおよそ1万2,000件の意見が寄せられ、そのうち約3割が反対意見でした。

 中絶反対の姿勢を示す団体は少なからず存在し、性教育に対しても抑制的です。しかし、中絶はセクシャル・リプロダクティブ・ヘルス/ライツ(SRHR)の1つであり、中絶を選ぶか選ばないかは当事者が自らの人生を最大限に尊重して選択すべきです。もちろん、産むことを選択した女性へのサポートの充実が必要であることは言うまでもありません。自分の体に関する意思決定権が自分にあり、尊重されるべきものであるとの認識を普及する必要があります。
 そもそも、日本では自分の体について自らの意思で選択する習慣が定着していないように感じます。その理由として、乳幼児期からのコミュニケーションにおいて意思が尊重されていない傾向が影響しているようです。・・・
 性行為は最も親密なコミュニケーションです。「いいよ/嫌だよ」といった双方の対等な意思に基づき行動を修正するという、適切なコミュニケーションの経験が成長の過程で蓄積されることが大切です。繰り返しになりますが、さまざまなジェンダー、セクシュアリティを生きる全ての子供たちが、安心で安全な環境の中で、他者と対等で平等な関係を築き、自分の人生において性を豊かに楽しむことができるようになることを学ぶ包括的性教育の普及が、次世代を育成する上で必要な取り組みだと考えています。

10代の女子のSOS(緊急避妊!妊娠?性感染症?)に遭遇した際に、
相談できる窓口をこちらにまとめました。



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