小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

RSウイルス感染症とワクチン開発

2023年06月25日 10時59分25秒 | 予防接種
今年(2023年)は小児科外来にとって特異な年です。
5月8日に新型コロナ感染症が2類相当から5類相当へ変更され、
それに伴い感染対策が緩められました。

すると、今まで影を潜めていたもろもろの風邪ウイルスたちが、
「待ってました!」
「やっと出番が来た」
と言わんばかりに流行し始めました。

夏に近づく季節なのに、
冬に流行するインフルエンザやRSウイルスが流行ったり、
それに交じって夏風邪のヘルパンギーナやアデノウイルスが出たり…。

この中で小児科医がマークするのがRSウイルスです。
乳児が罹ると気管支炎をおこしやすく、
呼吸困難~哺乳不良~睡眠障害が出てきて、
入院治療が必要になることが少なからずあります。

私は小児科医ですが、
生後3か月未満の赤ちゃんが風邪症状で受診すると、
迅速検査でRSウイルスをチェックする習慣があります。

結果が陽性なら、
「今は重症感はありませんが、
 数日後にはぜーぜー息が苦しくなる可能性があります、
 治るまで通うつもりでいてください」
と説明しています。

生後6か月までは要注意、
生後3か月未満はハイリスクです。

このようなRSV感染症に対して、
医療界は手をこまねいてみているだけではありません。
昔からワクチン開発が進められてきました。
紆余曲折を経て、ようやく実用化できる製品が出てきました。
それを扱った記事を紹介します。

高齢者と妊婦に対してワクチンの知見を行い、
後者はその後生まれた赤ちゃんの重症化率を70~80%下げたと報告され、
期待が膨らみます。

新たなRSウイルスワクチン、高齢者と乳児の双方で効果を発揮
 ファイザー社が開発したRSウイルスワクチンは、高齢者と乳児の双方でRSウイルス感染症を安全かつ効果的に予防するという2件の臨床試験の結果が報告された。ファイザー社は、同ワクチンの高齢者に対する接種が5月までに、妊婦に対する接種が8月までに米食品医薬品(FDA)により承認されるものと見ている。
・・・
 RSウイルスに感染しても、通常は風邪様の症状が現れる程度だ。しかし米国では、1歳未満の子どもの気管支炎と肺炎の最も一般的な原因ウイルスがRSウイルスである。また、このウイルスは高齢者、特に健康状態が不良な人にリスクをもたらす。米疾病対策センター(CDC)によると、毎年、5万8,000〜8万人の5歳未満の子ども、および6万〜16万人の高齢者がRSウイルス感染症で入院し、さらに6,000〜1万人の高齢者が同感染症により死亡しているという。
 RSウイルスワクチンの臨床試験は1960年代に実施されたが、ワクチンにより産生された抗体が、ウイルスへの感染や重症化を促してしまう「抗体依存性感染増強」を引き起こし、失敗に終わった。
 しかし、2010年代初頭、米国国立衛生研究所(NIH)の研究グループが、RSウイルスのヒト細胞への侵入に関わるウイルス表面のFタンパク質がヒト細胞の受容体と結合し、ウイルス粒子が細胞膜と融合した後に構造を変えることを突き止めた。そして、RSウイルスワクチンが効果を発揮するには、融合前のFタンパク質の構造をターゲットにする必要があることを報告した。
・・・
 一方、妊婦を対象に18カ国で実施された第3相試験では、妊娠24〜36週の妊婦にファイザー社のRSウイルスワクチン(3,682人)、またはプラセボ(3,676人)がランダムに投与された。その後、生まれた子どもの追跡調査を行い、ワクチンによって産生された母親の抗体が子どもに保護効果をもたらすのかどうかを確認した。
 RSワクチン接種群の子ども3,570人、プラセボ接種群の子ども3,558人を対象にした中間解析の結果、入院を要するような重症の下気道感染症が生じたのは、生後90日以内ではRSワクチン接種群の子どもで6人、プラセボ接種群の子どもで33人(ワクチンの有効性81.8%)、生後180日以内では同順で19人と62人(ワクチンの有効性69.4%)であることが明らかになった。
 ファイザー社の副社長であり臨床ワクチン研究の長を務めるBill Gruber氏は、「乳児を守るためには、妊娠中の母親がワクチンを接種し、抗体を子どもに受動的に移行させる必要がある。FDAの承認が早ければ早いほど、RSウイルスワクチンを接種できる妊婦の数が増え、保護される乳児の数も増える」と話している。
・・・

<原著論文>

この記事ではファイザー社のワクチンを扱っていますが、
世界中の製薬会社がしのぎを削って開発中です。
しかし乳児への効果を期待する妊婦対象は…
ファイザー社だけのようですね。

▢ RSウイルスワクチン、GSKがライバル抑え開発競争に勝利
 英グラクソ・スミスクラインは5月2日、米国でRSウイルスワクチンの承認を世界で初めて取得し、ライバルであるファイザー(米)、モデルナ(同)、バイエルン・ノルディック(デンマーク)に先んじることに成功した。
・・・
RSウイルスに対するワクチンや治療薬を開発している企業とその開発状況をまとめた。
 
GSK
米FDA(食品医薬品局)は2日、GSKのRSウイルスワクチン「Arexvy」を承認した。欧州の当局も4月下旬、このワクチンの承認を勧告している。同社は、米国で次のRSウイルスの流行シーズンが始まる前に同ワクチンが利用可能になることを期待している。
GSKのワクチンは60歳以上の成人を対象とした後期臨床試験で、RSウイルス感染に対して82.6%の有効性を示したことが昨年10月に公表されている。
 
ファイザー
ファイザーは、高齢者向けだけでなく、妊婦に接種することで乳児の感染を出生時から予防するワクチンの開発を進めている。FDAは同社のRSウイルスワクチンの成人への使用について、今月中に承認の可否を判断する予定だ。
ファイザーは昨年11月、同社のRSウイルスワクチンを妊婦に接種した場合、乳児の重症感染症を予防する効果が81.8%だったとする後期臨床試験の結果を発表した。同社は、60歳以上の成人を対象とした別の臨床試験でも66.7%の有効性が示されたと昨年8月に発表している。
 
モデルナ
モデルナが開発中のRSウイルス用mRNAワクチンは、60歳以上の成人を対象に行った後期臨床試験で、咳や発熱など少なくとも2つの症状を予防する効果が83.7%だったと発表している。
同社は60歳以上を対象とするRSウイルスワクチン「mRNA-1345」について、今年第2四半期に米国で申請する方針だ。
 
サノフィ/アストラゼネカ
仏サノフィと英アストラゼネカは昨年11月、抗RSウイルス抗体ニルセビマブについて、乳児のRSウイルス関連疾患の予防を目的に欧州で承認を取得した。FDAも審査を進めている。
ニルセビマブは後期臨床試験で、いくつかの種類の下気道感染症に対してプラセボと比較して74.5%の有効性を示した。
 
メルク
米メルクも、乳幼児のRSウイルス感染症を予防する抗体医薬クレスロビマブの後期試験を行っている。同試験は2024年に完了する予定だ。
 
バイエルン・ノルディック
デンマークに本社を置くバイエルン・ノルディックは昨年4月、60歳以上を対象としたRSウイルスワクチンの後期臨床試験を開始した。試験結果は今年半ばまでに出る予定だ。

この記事では言及していませんが、
明暗を分けて治験を中止した製薬会社もあります。

米J&J、RSウイルスワクチンの後期試験打ち切りへ
米医薬品・健康関連用品大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は29日、開発中の成人用の呼吸器合胞体ウイルス(RSV)感染症ワクチンの後期臨床試験を打ち切ると発表した。患者にとって最も高い効果をもたらす可能性のある医薬品開発に注力するためとしている。
同社は2021年に60歳以上の被験者2万7000人強が参加する世界規模の試験を開始。米国、英国、カナダ、オーストラリア、チリ、ブラジル、中国などの約300カ所で試験が進められてきた。試験の詳細は明らかにしなかった。・・・



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