小児アレルギー科医の視線

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小児アトピー性皮膚炎の診断と治療(池澤善郎Dr.)

2019年03月10日 13時58分48秒 | アトピー性皮膚炎
 引きつづき、「小児科」2019年2月号(Vol.60 No.2)特集「クリニックで診る小児アトピー性皮膚炎のプライマリ・ケア」より。
3.小児アトピー性皮膚炎の診断と治療ー年齢別ポイント

 池澤先生は、横浜市立大学皮膚科教授としてアトピー性皮膚炎の世界では有名でした。退官後は開業されたのですね。
 内容は、まず小児アトピー性皮膚炎の病型を6〜8つに分類し、それぞれ診断と治療を記述しています。はじめは「そんなに種類があるかな〜、面倒だな〜」と半分疑いながら読み進めると、実際の臨床で出会う「あるある」がたくさん出てきて驚きました。そして病型により治療アプローチも異なるので、大変参考になりました。

 その一つは、亜鉛華軟膏の使い方です。
 ステロイド外用薬の必要であり有効な皮疹の特徴は「乾燥+かゆみ+発赤」ですが、間擦部(頚部しわ部分、腋窩、鼡径部しわ部分)が蒸れてふやけて赤くなっている場合に私は亜鉛華軟膏を使用してきました。
 池澤先生はさらに広く適用しており、以下の場合に亜鉛華軟膏とステロイド外用薬を重ね塗りしています;
(1歳半未満)
・おむつ部の赤い刺激性皮膚炎
・食べ物やよだれで赤くなった口囲や頬部などの刺激性皮膚炎
・頚部・肘窩・膝窩などの間擦部に赤い間擦疹
・乳児脂漏性湿疹/汗疹湿疹型
・膿痂疹様/ざ瘡合併の乳児湿疹型
(1歳半以上)
・口唇・口角・口囲の湿疹病変(唾液で傷つきやすい)
・陰部(陰嚢・陰唇・陰股部・肛門)の湿疹病変(湿潤化しやすい)

 それから、軟属腫(水いぼ)/疣贅に紫雲膏外用と書いてあることに驚きました。
 漢方好きな私は、痛い皮膚病変(おむつ皮膚炎、擦過傷、火傷など)に多用してきましたが、水いぼに使用したことはありませんでした。今後は試してみたいと思います。

 それから、手掌の異汗性湿疹(汗疱状湿疹)は治療困難例が多く、皮膚科通院してもよくならない患者さんが当院に流れてきます。漢方薬が一部有効ですが、完治はせず悩ましい疾患です。この異汗性湿疹は金属アレルギーの可能性があることを知りました。要検討ですね。


<メモ>

アトピー性皮膚炎の分類(成人・小児・乳児別)
 思春期以降の成人アトピー性皮膚炎は8つの病型に分類される。
①皮膚バリア障害による乾燥性湿疹型
②食物アレルギー関与の湿疹/蕁麻疹型
③ダニ/ペット/花粉などの環境アレルギー関与の湿疹
④マラセチア/汗アレルギー関与の湿疹/蕁麻疹型
⑤金属アレルギー関与の汗疱状湿疹型
⑥皮表常在細菌叢が関与する酒さ様皮膚炎/ざ瘡合併型
⑦疣贅合併/非合併の痒疹/苔癬化型
⑧心因性の嗜好性掻破による痒疹/湿疹型
これらの臨床病型を、さらにABCの3つのサブタイプに分類した。
A:基本タイプ:アトピー性皮膚炎の基本病態である皮膚バリア障害による
B:アレルギータイプ:食物・環境などのアレルギーの関与が示唆される
C:特殊タイプ:A、B以外の病因・病態が合併

上記を参考にして1歳半未満の乳児アトピー性皮膚炎を6つに、1歳半以上の幼児・学童期アトピー性皮膚炎を8つの病型に分類する。

(1歳半未満の乳児アトピー性皮膚炎の臨床病型)
A-① 皮膚バリア障害による乾燥性乳児湿疹
B-② 食物アレルギー関与の乳児湿疹/蕁麻疹
B-③ ダニ/ペット/花粉などの環境アレルギー関与の乳児湿疹/蕁麻疹
B-④ 容易に軽快しない乳児脂漏性湿疹/汗疹湿疹
C-⑤ 膿痂疹/ざ瘡合併の乳児湿疹
C-⑥ 刺咬症/軟属腫/疣贅合併の乳児湿疹

(1歳半以上の幼児・学童期アトピー性皮膚炎の臨床病型)
A-① 皮膚バリア障害による乾燥性小児湿疹型
B-② 食物アレルギー関与の小児湿疹/蕁麻疹型
B-③ ダニ/ペット/花粉などの環境アレルギー関与の小児湿疹/蕁麻疹型
B-④ マラセチアアレルギー関与の小児脂漏性湿疹/汗疹湿疹/蕁麻疹型
B-⑤ 金属アレルギー関与の小児汗疱状湿疹型
C-⑥ 皮表常在細菌関与の膿痂疹様/ざ瘡様小児湿疹
C-⑦ 刺咬症/軟属腫/疣贅合併の小児湿疹/ストロフルス型
C-⑧ 心因性反応関与の掻破嗜好性の小児湿疹/痒疹型

□ アトピー性皮膚炎の治療
(1歳半未満の乳児アトピー性皮膚炎の臨床病型)
A-① 皮膚バリア障害による乾燥性乳児湿疹
 保湿剤+ステロイド外用薬(Medium〜Strong)で容易に軽快する。
 これにくわえて、
・おむつ部の赤い刺激性皮膚炎
・食べ物やよだれで赤くなった口囲や頬部などの刺激性皮膚炎
・頚部・肘窩・膝窩などの間擦部に赤い間擦疹
ーがある場合は、保湿外用薬の代わりに刺激性皮膚炎によく効き、皮膚の保護作用がある亜鉛華軟膏をまず塗布してからM/Sのステロイド外用薬を重ね塗りする。

B-② 食物アレルギー関与の乳児湿疹/蕁麻疹
 通常のスキンケアで容易に軽快しない代表的タイプ。軟膏両方を粘り強く行うと共に、食物アレルギーの関与を検討し、DSCG(インタール®)の投与も考慮する。
 著者はこのタイプの可能性が高い例には抗ヒスタミン薬とDSCG経口薬を内服させながら、原因となる食物を少しずつ摂取させ、問題の食物アレルギーの寛容を図る(ただしアナフィラキシータイプは除く)。

B-③ ダニ/ペット/花粉などの環境アレルギー関与の乳児湿疹/蕁麻疹
 通常のスキンケアで容易に軽快しないタイプ。
・絨毯の上でハイハイするときに直接触れる膝や手に発疹が出る
・室内飼育しているペットに触れるか舐められて発疹が出る
・花粉の飛散時期に顔面などの露出した皮膚に発疹が出る
ーといった特徴があり、眼症状や鼻症状を伴うことがある。
 対策として、軟膏療法を粘り強く行うとともに、環境アレルゲン対策を行う。

B-④ 容易に軽快しない乳児脂漏性湿疹/汗疹湿疹
 ふつう乳児脂漏性湿疹は頭部・前額部にできて乳児期以降自然軽快する。
 しかし最近、自然寛解せずに、赤みの強う浸潤性紅斑が、前述した脂漏部位だけでなく、汗疹ができやすい間擦部にも生じ、そのまま「容易に軽快しない乳幼児アトピー性皮膚炎」に移行する例が増えている印象がある。
 治療として、M/Sのステロイド外用薬と亜鉛華軟膏の重ね塗りに汗疹対策(除湿換気やシャワーの励行)を加える。
 それでもコントロールできない場合には、上記に加えて抗真菌薬ケトコナゾールの外用を併用する。

※ 小児科医の私は抗真菌薬をアトピー性皮膚炎患者さんに使用した経験がありません。

C-⑤ 膿痂疹/ざ瘡合併の乳児湿疹
 掻爬性の湿疹病変に皮表の常在細菌叢が増殖して生じる臨床病型。
 通常のスキンケアでは軽快しにくく、亜鉛華軟膏とM/Sのステロイド軟膏と抗菌薬軟膏の重ね塗りと一緒に、抗ヒスタミン薬に加えて有効な抗菌薬を全身投与する。
★ 新生児ニキビ;生後1週間から3ヶ月頃の赤ちゃんのおでこや頬部に生じるニキビで、通常は治療の必要がなく自然軽快するが、赤く腫れる場合は高に機微作用のある抗菌薬軟膏ナジフロキサシンを塗布する。

※ 小児科医の私は、伝染性膿痂疹(皮膚が毒素で溶けて広がる皮疹)のないアトピー性皮膚炎患者に内服抗菌薬を処方した経験がありません。新生児ニキビは石けんで洗うことにより軽快するので、こちらも抗菌薬軟膏を使用した経験がありません。

C-⑥ 刺咬症/軟属腫/疣贅合併の乳児湿疹
・刺咬症:M/Sのステロイド外用+抗ヒスタミン薬内服
・軟属腫/疣贅:紫雲膏外用+ヨクイニン散剤内服

(1歳半以上の幼児・学童期アトピー性皮膚炎の臨床病型)
A-① 皮膚バリア障害による乾燥性小児湿疹型
 小児アトピー性皮膚炎の基本タイプで、通常の保湿保護・抗湿疹抗炎症のスキンケアで容易に軽快する例が多い。
 学童期・思春期に近づいてM/Sランクのステロイド外用薬では抑えられずに痒疹・苔癬化病変を伴う例ではVS(very strong)ランクへ変更する。
 口唇・口角・口囲の湿疹病変は唾液で傷つきやすく、陰部(陰嚢・陰唇・陰股部・肛門)の湿疹病変は蒸れやすく湿潤化しやすいため、どちらの病変にも皮膚の保護作用があり、刺激反応を抑える作用がある亜鉛華軟膏をまず塗布し、湿疹病変の症状と部位を考慮してM/S/VSのステロイド外用薬を重ね塗りする。

B-② 食物アレルギー関与の小児湿疹/蕁麻疹型
 食物アレルギー関与の乳児アトピー性皮膚炎よりも即時型症状を呈する比率が高くなる。
 DSCG経口薬による改善効果は乳児に比べるとあまり顕著でないが、それでも明らかに食物アレルギーがあるアトピー性皮膚炎に対してはある程度の効果が認められる。

B-③ ダニ/ペット/花粉などの環境アレルギー関与の小児湿疹/蕁麻疹型
 これらの環境アレルゲンに直接触れる部位の皮疹の悪化や新たな痒い皮疹の出現が特徴。

B-④ マラセチアアレルギー関与の小児脂漏性湿疹/汗疹湿疹/蕁麻疹型
 現時点では、小児脂漏性湿疹における常在真菌のマラセチアとそのアレルギーの果たす役割は不明である。成人アトピー性皮膚炎と脂漏性湿疹では関与が指摘されている。
(成人の脂漏性湿疹)
 マラセチアは脂腺から分泌される皮脂を栄養源としているため、皮脂の量が多くなるとマラセチアが増え、それ自体の刺激作用に加えて、皮脂成分の一つであるトリグリセライドを遊離脂肪酸に分解し、その遊離脂肪酸が皮膚に刺激反応を起こし脂漏性湿疹を発症するとされている。

B-⑤ 金属アレルギー関与の小児汗疱状湿疹型
 金属アレルギーは成人より少ないが、最近は小児でも、微量の金属が含まれている砂場での砂いじりや、金属歯絵のおもちゃを舐めたりすることにより、手足や顔、口囲などの赤みや痒みといった症状が出ることがある。
(成人におけるアトピー性皮膚炎と金属アレルギー)
 成人ではIgE値が低い内因性アトピー性皮膚炎患者に金属アレルギー(Ni、Co)の比率が高いことが報告されている。
 アトピー性皮膚炎の有無にかかわらず、全身型金属アレルギー患者は、発汗の多い手掌足蹠・手指足趾・体幹四肢などに異汗性湿疹(汗疱状湿疹)の症状を呈する傾向あり、DCSG経口薬が有効とされている。

C-⑥ 皮表常在細菌関与の膿痂疹様/ざ瘡様小児湿疹
 通常のスキンケアでは軽快しにくい。
 亜鉛華軟膏+M/Sのステロイド外用薬+抗菌薬軟膏(フシジンレオ®、アクアチム®など)の重ね塗り+抗ヒスタミン薬/抗菌薬内服。また、漢方薬(桂枝茯苓丸加薏苡仁、十味敗毒湯、排膿散及湯)も今後の検討課題である。

C-⑦ 刺咬症/軟属腫/疣贅合併の小児湿疹/ストロフルス型
 1歳半未満と同じ対応。

C-⑧ 心因性反応関与の掻破嗜好性の小児湿疹/痒疹型
 通常の湿疹皮膚炎病変に不釣り合いな顕著な掻破痕を伴う痒疹・苔癬化皮膚炎が特徴的である。掻破痕が顕著な場合は、ステロイド外用薬に亜鉛華軟膏や紫雲膏の重ね塗りを追加する。心身症の要素が顕著な場合、心身症の専門医に紹介する必要がある。

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