小児アレルギー科医の視線

医療・医学関連本の感想やネット情報を書き留めました(本棚2)。

「便秘のタイプ別、下剤の上手な使い方」を読んでみました。

2021年03月21日 07時43分43秒 | 予防接種
近年、便秘治療薬は新薬のオンパレード。
しかし小児適応のあるものはほとんどなく、新薬紹介のWEBセミナーを聞いても残念ながら役に立たず。

小児科医である私の現在のスタンスは・・・
1.軟便剤であるクスリを毎日服用
2.腸を動かすクスリは頓用
です。

1には、オリゴ糖である麦芽糖、ピアーレ(=モニラック)やカマ(マグネシウム製剤)。
2には、ラキソベロンや大建中湯などを用いています。
初診の患者さんで硬い便が直腸〜S状結腸にたまっている場合は、テレミンソフト坐剤あるいはグリセリン浣腸で蓋を外してから軟便剤を開始することが多いです。

最近は、前年に発売されたモビコールを使う機会が激増しています。
カマは量の調節が難しく、ゆるくなりすぎて漏れてしまう不安があるため年長児には使いにくいのですが、モビコールはゆるくなることが少なく“ふつうのウンチ”が出るので小学生以上にも使いやすいのです。

さて、最近目にとまった便秘に関する小冊子をWEBコンテンツで購入し、ざっと読んでみました。

■ 「便秘のタイプ別、下剤の上手な使い方」佐々木みのり著、

まず、便秘を二つに分けていることが新しい視点です(私が知らないだけ?)
1.出口(直腸・肛門)の便秘
2.おなか(大腸)の便秘

1は出口を硬い便が蓋をしているイメージですね。
この治療は、蓋を外せばよいので、飲み薬ではなく肛門からクスリを入れる坐剤・浣腸を使用するというわかりやすい説明。
そして、「新レシカルボン坐剤」を強力にプッシュしています。
これは発泡剤のみなので副作用も習慣性も気にすることはないそうです。
はて、子どもにも使えるのかな?
・・・調べてみたら「12歳未満の小児は使ってはいけない」とありました、残念!

一方の浣腸では「グリセリン浣腸」が有名ですが、挿入部に傷があると血管内に入って重い「溶血」という副作用が出る可能性を強調しています。
その使い方のポイントも解説されていますので、一部を抜粋します;

【グリセリン浣腸の使い方】
・使用量:大人は60ml、子どもは30ml
・ストッパーを先端から5cmに合わせる(子どもの場合は3cm)
・ノズル先端に潤滑ゼリー(ワセリンで代用可)をつけて痛くないようにする
・ノズルを5cm(子どもは3cm)挿入し、浣腸液をゆっくり注入
・注入後すぐトイレへ
・便意が来たら排泄する(我慢は1〜3分で十分)

・・・小児量と挿入する長さを記しているのは親切ですね。
小児科のテキストには「注入後5分間は我慢させる」と書いてあったようなおぼろげな記憶がありますが。

2のお腹の便秘には、その作用から単純に二つに分けられます;
軟便薬:便を軟らかくする
便出し薬:腸を動かして便を出す

以上を頭に入れつつ、この書籍の経口便秘薬の分類を眺めてみましょう。

 膨張性下剤 ・・・コロネル®、ポリフル®、バルコーゼ®、カンテン末
 浸透圧性下剤
 ◇ 塩類下剤 ・・・酸化マグネシウム(カマ)、マグミット®、マグラックス®
 ◇ 糖類下剤 ・・・モニラック®(ピアーレ®)、D-ソルビトール
刺激性下剤
 ◇ アントラキノン系 ・・・ センナ、プルセニド®、センノサイド、アロエ、大黄入り漢方薬
 ◇ ジフェニール系 ・・・ テレミンソフト®、ビサコジル、ラキソベロン®(ピコスルファートNa)
上皮機能変容薬
 ◇ クラロイドチャネルアクティベーター ・・・ アミティーザ®
 ◇ グアニル酸シクラーゼC受容体アゴニスト ・・・ リンゼス®
消化管運動賦活薬 ・・・ガスモチン®
胆汁酸トランスポーター阻害剤 ・・・ グーフィス®
ポリエチレングリコール製剤 ・・・ モビコール®

とたくさんの分類およびクスリの名前が列挙されています。近年の新薬は作用機序により分類される傾向があり、名前を聞いただけではイメージが湧きにくいのが難点です(「上皮機能変容」って何?)
ちなみに、青字は私がふだん処方している薬です。小児適応のある薬がいかに少ないかがわかりますね。

これらの便秘薬を、最初に大きく二つに分けた分類に当てはめると・・・
軟便薬:浸透圧性下剤(塩類下剤と糖類下剤)、上皮機能変容薬、胆汁酸トランスポーター阻害剤、ポリエチレングリコール製剤
便出し薬:膨張性下剤、刺激性下剤

となりそうですが、「便の水分を増すことにより腸管運動を促進し・・・」と書かれていることが多く、どっちなのかはっきりして!と言いたくなります。一応、「水分を増す」という文言があれば「軟便剤」に入れさせていただきました。

便秘薬の中で、使用に注意すべき点をピックアップ。連用すると効果が薄れたり副作用が問題になる薬があります。

・膨張性下剤:人によってはお腹が張るだけで効果が出ないことがある。
・塩類下剤:長期服用や高用量投与による高Mg血症に注意(高齢者、透析患者、腎機能低下症例)。
※ 高Mg血症の症状:悪心・おう吐、口渇、血圧低下、徐脈、皮膚潮紅、筋力低下、傾眠など
・糖類下剤:慢性便秘での保険適用はない。
・アントラキノン系下剤(=大黄含有製剤):依存性・習慣性(だんだん効かなくなって服用量が増える)がある、大腸メラノーシス(毎日服用すると4ヶ月、ときどきの服用でも9ヶ月で生じる)を生じて薬なしでは排便できなくなる。
※ コーラック®などの市販薬や「便がどっさり出る」などのうたい文句で販売されているサプリや健康食品にも多く含まれる。
※ 大黄含有漢方薬一覧;
 4g:大黄甘草湯(84)、麻子仁丸(126)
 3g:桃核承気湯(61)、通導散(105)、三黄瀉心湯(113)
 2g:大黄牡丹皮湯(33)、潤腸湯(51)、調胃承気湯(74)
 1.5g:防風通聖散(62)
 1g:大柴胡湯(8)、治打撲一方(89)、茵蔯蒿湯(135)
 0.5g:乙字湯(3)、治頭瘡一方(59)
・ジフェニール系下剤:「習慣性がない」と記載がある一方で「長期使用により内服量が増えたり効果が減弱することがある、しばらく休薬して再開すると効くことが多い」との記載もあり、混乱。

以上に注意しながら、実際の治療を考えてみます。

・毎日使用する薬としてアントラキノン系は避ける;
→ 大黄入り漢方薬も避ける
・便が硬くて出しにくい場合は、軟便剤;
→ 塩類下剤、糖類下剤、モビコール®
・大腸の動き(ぜん動運動)が悪い場合は便出し薬;
→ 刺激性下剤
・けいれん性便秘や過敏性腸症候群便秘型には刺激性下剤は腹痛を起こすので工夫が必要
→ 膨張性下剤や芍薬入り漢方薬

つづいて、処方のコツ・トリビアを;

・その患者さんに合う便秘薬が見つかるまで、1〜2週間服用して反応を確かめる。
・効き過ぎると軟便・下痢になることを説明し、服用量の調節は患者に任せる。
・服用していた下剤が効かなくなった場合は一旦休薬し、別の薬を模索する。休薬後再開すると効果が戻ることもよく経験されるため、数種類の下剤をローテーションすることも選択肢。


・・・読了後、私の治療方針が変わったかというと・・・あまり変わりませんでした(^^;)。

私が頻用する薬のポイントを抜粋しておきます;

ピアーレ®(糖類下剤):
・浸透圧効果により下剤効果を発揮する。
・便秘改善のエビデンスはあるが、慢性便秘での保険適用はない。
・腹痛が生じにくく自然な排便が得られる。

テレミンソフト®、ラキソベロン®(ジフェニール系下剤)
・腸管内浸透圧を亢進し、便へ水分を移行させることにより腸管のぜん動運動を促進する。
習慣性がないなどの利点があり、幼小児・妊婦・高齢者でも頻用される。
・長期使用により内服量が増えたり、効果が減弱することがある(しばらく休薬して再開すると効くことが多い)。

モビコール®(ポリエチレングリコール製剤)
・腸に水を届け便を軟化・増大させることにより生理的な大腸ぜん動運動を活発化し、なめらかな排便を実現する。
・薬剤と一緒に配合されている電解質が、電解質バランスを維持するため、便の水分が保持されやすい。
・依存性・習慣性が生じにくく腹痛も起こりにくい。
・1包では効果がない場合、服用量を増やす必要があるが、粉末の量が多く、水やジュースに溶かして飲むため、錠剤のような手軽さがない。

モビコール®はなぜ膨張性下剤に分類されないのだろう、と素朴な疑問が湧き出てきました。
膨張性は不溶性食物線維、モビコール®は水溶性食物線維の性格を持つためかもしれません。

もう一つ、課題というか宿題を見つけました。
膨張性下剤の最後に「カンテン末」という単語を見つけました。
えっ、カンテンを処方できるの?
2009年に薬剤として認可され、日本薬局方に掲載されています。
食物線維そのものであるカンテン末をどう便秘治療に応用するか、考えてみます。

さて、著者の病院のマニュアルがネット上に公開されていることに気づきました。わかりやすく&詳しく解説されています。こ、これを読めば書籍を買わなくてもよかったかも・・・

排便ケアを極める
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