弱い文明

「弱い文明」HPと連動するブログです。 by レイランダー

選択の自由のために~スピークアウト for アクションに参加して

2009年06月03日 | パレスチナ/イスラエル
 5月31日、水道橋のYMCAで行なわれた「スピークアウトforアクション~イスラエルを変えるために」に、裏方の手伝いを兼ねて参加してきた(実行委員会のホームページはこちら)。

 参加者はおよそ100人強。全体シンポジウム~分科会~全体会という三部構成で、中ではもちろん分科会が一番の呼び物というか、イベントの中核である。こういう形式のイベントに参加したのは、僕自身(たぶん)始めてだった。さらに言うなら、「紛争の終結を求める」とか「パレスチナを支援する」とかいう銘打ち方ではなく、「イスラエルを変える」という大胆なタイトルで、具体的なアクションと結びつける形で踏み込むようなイベントというのが、そもそも始めてだったとも言える。

 始めの全体シンポでは、後の分科会で講師あるいはコメンテーターを務める諸氏が、最近のガザ侵攻を含むイスラエル/パレスチナ情勢をそれぞれの分科会の視点から分析した。それが後の各分科会の狙いを示す前フリの役割もしていて、参加者はそれを参考にしてどの分科会に行くか決めることもできる、という形である。

分科会① イスラエル製品/関連企業をボイコットする
分科会② イスラエルの武器生産・取引・使用の実態を明らかにする
分科会③ 指導者たちの戦争犯罪を裁かせる
分科会③ 「歴史事実」の確認からはじめよう

 ただ、おそらくはあらかじめどれに行くか決めていた人が多数だったろう。僕もそうで、当初の予定通り、①のボイコット研究に参加した。他の②③④のテーマも捨てがたくて、特に③の「戦争犯罪」は、国際法についての興味が最近高まっていることもあって、だいぶ迷った。が、やはり関心を持ってきた期間が一番長いテーマということと、一番日常レベルで一般の人の関心ともつながるものだろうということもあって、①を選んだ。主催者側も①が最も参加者が多いだろうと見越して、全体会と同じホールをそのまま場所に割り当てていたのであるが(他の分科会はより小さな教室に移動して行なわれた)。
 ところがフタを開けてみると、意外にもこのボイコット関連の分科会が一番人数が少なかった。一番人気があったのは④の歴史認識関連。これは全体シンポでの板垣雄三先生のレクチャーが面白過ぎて、どれに参加するか決めていなかった人、特にパレスチナ問題の「初級者」に近い人が軒並みそちらに流れてしまったからだとか。確かにそうだろう。一応初級者じゃない僕が聴いても、やっぱり板垣先生の話はめちゃめちゃ面白いんだから(著作も面白いけれど、話はその2・5倍くらい面白い)。

 ひるがえって①のボイコットは、意外と「初級者」にはハードルの高い設定と言えなくもないことに、後で気がついた。そこでの議論や実践の成果を一番「初級者」に還元したい分野、でもあるのだけど、それを発案・推進する側に立つというのは、だいぶ話が違ってくる。他の②③④の分野の知識がオールラウンドに必要で、かつ市民運動等の実践経験などとも関わってくるというか・・・・その辺りの難しさを痛感することにもなった。当たり前と言えば当たり前なのだけど。

 その分科会①では、BDSキャンペーン*の呼びかけを柱に、まずパレスチナの平和を考える会(大阪)の役重善洋さんが関西での取り組みのいくつかを紹介、そこから見えてきた課題も提示した。
 さらに実行委員会作成のリーフレット「イスラエルを変えるために」と、資料集に沿っての調査報告。外務省・通産省・JETRO(日本貿易振興機構)など、調査機関によって統計数値にばらつきがあるものの、最近の日本がイスラエルから輸入しているもので、実は金額が大きいのはプラスチックや化学化合物などの原材料であるということ、また有名な柑橘類「スウィーティ」だけでなく、日本の濃縮ジュースの原料にはイスラエル産の野菜・果物が使われていることが多いこと。日本ではかつて代表的イスラエル産品といえばダイヤモンドだったり、死海の塩を使った製品だったりしたわけだが、今はより多様に、より目に見えない「原材料」の形で日本人の生活の中に浸透していることがわかる。
 さらに先月行なった国内大型小売店・コンビニ・生協などへの質問・申入れ書の回答状況も報告された。イスラエル製品の取扱状況について情報公開を求めるとともに、取り扱いの中止を申し入れる主旨のものである。結果、28社への申入れに対し、回答は4件。そのうち、生活クラブ生協連合会とカタログハウスからは、積極的な情報開示と主旨賛同が得られている。「答えられない」と回答してきたうちの片方は、原材料等にイスラエル製品が含まれている場合、確認できないがゆえに「正確には答えられない」旨が説明されていて、やはり上段の「目に見えない浸透」の状況を裏付けているように思えた。

 そうした報告を受け、参加者の間からも様々な意見が飛び交った。新聞に意見広告を出すべきだといった大きな話から、スーパーの店内の投書(「お客様の声」みたいな)を活用すべきだという話、またクリスチャンの人に人気がある聖地観光ツアーを、地元パレスチナ人旅行業者による“オルタナティヴ・ツアー”に切り換えることは可能ではないかという話、等々。なるほど、と思うこともあれば、うーんそれは難しそうだな、思うものもあった。
 はっきりしているのは、妙案はない、ということだ。あればとっくに誰かがやっている。妙案であろうとなかろうと、やれることは全部やる。それしかないのである。そしてその「やっている」ことを含め、「目に見えないもの」をもっと可視化する、ということが必要なのだろう。

 ただ、それとは別に、この分科会を通じて僕が強く思ったことの一つは、ボイコット(不買・排斥)という言葉の持つネガティヴな響きを自覚的に乗り越える必要があるのではないか、ということである。
 それはつまり、選択の余地があることを知る・知らしめること。といっても、○○を買ってはいけないというだけでは不親切だ、代わりこんなものがありますよ、という代用品を提示することが大事である──というような話ではない。どうも僕は、よくあるそういう論の立て方は後ろ向きな気がしてしまう。僕らはあらゆるものを選びながら日常を過ごしているのだから、「買わない」ことだって普通に選ぶ、それだけのことではないか。買ってはいけない、というより、買わないのは俺の自由だ、と言い換えたくなってしまうのである。
 ボイコットとは、買わないことも含めて、僕らの自由を行使すること、行使することを通じて自由を取り戻すこと。そういう意味で、もともとポジティヴな行為であるという気づきを、どうにか広めていきたいものだと思う。それが唯一の視点であるべきというわけでは決してないけれど、それ自体がボイコットへの一つの貢献になるように。


 分科会の後にまとめの全体会があり、そこで各分科会の大づかみな報告があった。それぞれの話がやっぱり面白そうで、各々参加した人から、後で少しは話も聞けもしたけど、できれば文書の形で閲覧できればなあ、と思う。実行委員会ではそこまで手が回らないかもしれないので、個人でブログなどに書いている人は(こちらでも探すけど)教えてもらえるとありがたい。
 それにしても、少なくとも①の分科会に参加した者の側の実感としては、結局「ボイコット」一つを考えるにも、分科会のすべてのテーマとそれはつながっている。分科会という形であえて分けて考えることによって、そのつながりをあらためて痛感した、それが一番の感想だったりする。

*BDSキャンペーン・・・2005年にパレスチナの171の団体が連名で世界に発表した、Boycott(ボイコット)・Divestment(投資の撤収)・Sanctions(経済制裁)の呼びかけ。国際法および人権という普遍原理の遵守までイスラエルに対するボイコットと資本の引き揚げ、制裁措置を行うよう求めるパレスチナの市民社会からの呼びかけを参照。

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