中華街ランチ探偵団「酔華」

中華料理店の密集する横浜中華街。最近はなかなかランチに行けないのだが、少しずつ更新していきます。

酔華楼は本日も閑らしい。

2016年05月04日 | 中華街(台南小路・太平道・その他路地)

 関帝廟通りの横丁を曲がったところに、うらぶれた中華料理屋「酔華楼」がある。
 店内を覗くと、客の居ないカウンターに店主が頬杖をつきながら、ぼんやりと座っているのが見える。

 しばらく無言でいた店主は「しょうがねぇなぁ、そろそろ店仕舞して一杯呑むか……」と誰に言うともなくポツリと呟き、けだるそうに席をたった。
 可哀想に、今晩も誰一人として客がこなかったようだね。

 厨房にまわり、まずは“揚げ”を半分にカットし、それぞれ袋状に開いている。
 どうもお品書きに載せている“お揚げさんの焼いたん”を作ろうてな魂胆らしい。
 別に“揚げ焼き”と書いてあっても、なんのさし障りはなかろうと思えるが、そこには何か店主のこだわりがあるようだ。

 「エヘヘ… “たん”って最後に付けると、なんだか高級に感じるから不思議ぢゃねえと思わないかぃ?」
 その問には誰も応えてはくれなかった。

 「ふん! 最後に“たん”って言いたいばっかしに九条ネギまで仕入れたっていうのにね。こう閑ぢゃネギに文句も言いたくなるってもんだね。。。そりゃぁ 苦情ネギだからね! なんちゃって。ムフっ」
 もちろん店主以外の笑いは聞こえるはずもない、静かなもんだ。



 カウンターに戻り店主はビールを飲み干すと、大きめの酒器にお気に入りの酒を七分目ほど注ぎ、袋揚げを頬張りながらグビリと喉を鳴らして酒を呑んだ。
 袋の中身は挽き肉とネギのようだね。

 「いやぁ~旨いね! お揚げさんと“さん”を付けたくて厚めの揚げを奮発したのは間違いぢゃなかったね、バンザイもんだよ、なんたって、両手を揚げ。。。バンザイ!なんちゃって。ムフっ」
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。静かだ。


 店内のテレビを観ながら暫くの間ぼんやりしていたが、コマーシャルがはじまると、
 「仕方がないね。今日は寒かったから温かいものを作るかな。よっこらしょ」と、大袈裟な声を出しながら厨房に入り、前掛けを締め直して俎板の前に立った。

 冷蔵庫の中からキャベツの葉(3枚)、玉ネギ(1/2個)、トマト1個、牛豚ひき肉(100g)を取り出す。
 さらにケチャップとスープの素、黒酢なども用意している。

 まずは玉ネギをみじん切りに。さすがに手慣れたもので、ものすごいスピードである。
 
 この食材から考えられるのは……どうもお品書きに載せている「上海風ロールキャベツ」をつくろうてな魂胆らしい。
 別に「ロールキャベツ」と書いてあっても、なんのさし障りはなかろうと思えるが、そこには何か店主のこだわりがあるようだ。

 「エヘヘ…上海風って付けると、なんだか高級に感じるから不思議ぢゃねえと思わないかぃ?」
 その問には誰も応えてはくれなかった。

 「ふん! 単に“上海風”って言いたいばっかしに、鎮江黒酢まで仕入れたっていうのにね。こう閑ぢゃ黒酢に文句も言いたくなるってもんだね。。。
そりゃぁ、くろず、くろす、苦労する! なんちゃって。ムフっ」

 もちろん店主以外の笑いは聞こえるはずもない、静かなもんだ。


 コンロにかけた鍋に水を少々入れて、そこにスープの素1個、ざく切りキャベツ、みじん切り玉ネギ、みじん切りトマト、挽き肉、ケチャップを投入。
 火加減は弱火のようだね。

 カウンターに戻った店主はビールを飲み干すと、大きめの酒器にお気に入りの酒を七分目ほど注ぐ。
 新玉ネギのスライスを頬張りながら、おもむろに酒器を掴みグビリと喉を鳴らして酒をのんだ。
「いやぁ~旨いね! 上海風と付けたくて鎮江黒酢を奮発したのは間違いぢゃなかったね」

 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。静かだ。


 店内のテレビを観ながら暫くの間ぼんやりしていたが、コマーシャルがはじまると、
 「そろそろ鍋も煮えてきたかな。よっこらしょ」と、大袈裟な声を出しながら厨房に入り、前掛けを締め直し俎板の前に立った。
 鍋のふたを開けると、美味しそうな湯気がモワッと立ち昇る。


 そこに塩、胡椒と少々の鎮江黒酢、砂糖で味付けをして混ぜ合わせた。
 「おっと、いけねぇ料理は愛情が大事だね。もっと優しくしてやらなきゃだめだよね♪愛情愛情」


 30秒ほどで完成したようだ。
 「ケチャップを追いがけして食うぉうかな、 おっ!こりゃ旨いねぇ! トマトが良い仕事をしているし、キャベツはスープを吸って旨旨だよ。
こんな旨いロールキャベツを食ったらお客は家に帰らず間違いなく店に居着いちゃうね。。。もうここに泊まっとこう! もうトマットこう、トマトこうかな! なんちゃって!ムフっ」
 もちろん店主以外の笑いは聞こえるはずもない、静かなもんだ。


     静寂ってもんは心を和ませてくれるんだよ。

 店主は、失敗作ともみえるロールキャベツを食いながら、ときどき思い出したように酒を呑む。
 「ロールキャベツなのに巻いてないぢゃんって? そりゃそうさね、口の中に放り込み噛み始めたら、どうせグチャグチャになるぢゃん。だから自分で食べるときは最初から巻かないのよ。なんたって、まかない料理だからね、巻かないロールキャベツ……ムフッ♪」

 もちろん店主以外の笑いは聞こえるはずもない、静かなもんだ。


 いつの間にやら“お揚げ”を大量に微塵切りし、筍の根元を細かく賽の目に切り分け炊き込んだご飯が出来上がっている。
 炊き上がりに筍の穂先を醤油に漬け込み焼き目を付けたものをサクサクっと混ぜ込み蒸らしたのは、テレビ「厨房ですよ」のパクリだと言うことは内緒らしい。
 これが素晴らしく美味かったらしく、店主が隠れてメモを取っていたことは見なかった事にしておいたやってくだされ。
 本人はいたって真面目に考えているようだ。

 「ちっ! 誰かさんが絶対に来ると思い残しておいた挽き肉と玉ネギを炒めて食っちゃおうかな。。。甘味たっぷりの玉ネギ&挽き肉と竹の子ご飯の出会いも格別だね♪」
 明るく笑う店主の声に答えてくれるものは、またしても誰もいないようだ。


 結局、本日のお客さんはゼロだったみたい。
 淋しそうだね。


 ちなみに、使用した筍はここで収穫したわけぢゃないらしい。


 今はまだこんな状態だからね。
 どうやら大船の安い八百屋で買ってきたものみたいだ。

 「筍も一本余っちゃったし…明日は若竹煮でも作るかな…」とひとり呟き、今夜も「酔華楼」は静かに灯りを消した。

【今日の記事のレシピ】はここです


←ご店主。。。。本日もおつかれさまでした。







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9 コメント

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Unknown (いその爺)
2016-05-04 20:48:29
くっ 。。。く、苦しい!
やられましたぁ😁😁😁
これは、座布団三枚です~(笑

トマットこうに別に二枚、計五枚です~(*⌒▽⌒*)
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Unknown (いその爺)
2016-05-04 20:54:11
あっ!
そんなところから竹の子生えていたんですね。
来年は。。。掘ってやる!(笑
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あっははは! (ぶらくり佐藤)
2016-05-05 05:33:38
いやぁ、面白い!
朝方の静かな家の中で、げらげらと笑わせていただきました。
確かにこれは座布団5枚です。
ありがとうございました。
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 (酔華)
2016-05-05 06:59:13
>いその爺さん
中華街は筍の産地ですね。
大通りでも、生えていますよ。
来年と言わず、今年お願いします。
まだ間に合います。
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座布団 (酔華)
2016-05-05 07:01:07
>ぶらくり佐藤さん
座布団10枚になっちゃいますね。
あまり高くするると落ちそう…

それにしても、いその爺さんの記事は面白いですね。
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あはは (とも2)
2016-05-05 23:43:41
疲れ過ぎてアタマがどうにかなったのかと思いました よ(笑)
しかし、こういうパクリができるのは、ベースの生地がしっかりしているのと、それをアレンジできる力がいるのとで、一般人にはマネできませんね (賛)
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Unknown (管理人)
2016-05-07 07:39:04
>とも2さん
やっぱり基になった記事が素敵だからですよ。
いその爺さんは面白い人だと思います。
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Unknown (るる♪)
2016-05-07 08:49:47
わたしも おそれながら7ぱくっちゃおうかな?
でも、ギャグが思い浮かばない・・・
面白かったです。
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Unknown (管理人)
2016-05-07 10:36:30
>るる♪さん
いその爺さんの記事が良いから、
真似してみてくださいな。
「るる庵は本日も閑らしい」で。
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