エッセイ -日々雑感-

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「あの女はろくでなし」

2017年12月08日 | 雑感

                                        2017年12月8日

 

今年も残りわずか、もうすぐクリスマスだ。

三十数年前、家内は当時小学生だった娘にアンデルセンの本と倉敷で求めたパンチボール入れ

をテーブルにおいたミニチュア家具を、クリスマスにプレゼントした。

 

       


いつだったか、娘にアンデルセンの作品のうち、どれが好きだったかと聞いたことがある。

すると彼女は<あの女はろくでなし>、と答えた。 

人魚姫とか、雪の女王、もしくは、マッチ売りの少女などかと思いこんでいた私は

おどろいた。娘のいう「あの女はろくでなし」という作品は題も知らないしむろん

読んだこともなかった。

 

物語の筋は、愛する息子を育てるために、冷たい川の中で洗濯で金を稼ぐ母親の話だ。

少年はこっそり酒の入った瓶を隠し持って川で働く母親のところに行く。

それをめざとく見つけた町長は、おまえはいい子だ、しかしあの女はろくでなし、

酒ばかり飲んでいる、と男の子に話す。

母親は、“こんな冷たい川の中で仕事するには酒がないと・・” と息子が持ってきた酒を飲む。

やがて女は身体を壊して死んでしまう。

愛する母親を亡くした息子は彼女をよく知る老女に聞く、

“本当に母さんはろくでなしだったのか”。 

聞かれた老女は “とんでもない、本当に働き者だったんだよ。”

あらためて読み返してみると非常に切ない。

 

この話はアンデルセンの子供のころそのままを描いているらしく、彼が涙で綴った愛する

母の回顧録だという。

 

ところで、娘が小学5年生の頃、私と家内の間に口論が絶えなかった。

理由は、長男である私が母親と相談して同居することを勝手に取り決めてきたからだ。

私の父も歳をとって弱ってきている。 

 

このことは娘の陽気な神経にもこたえただろう。

そんな折にプレゼントされたアンデルセンの童話のなかで、ことさら印象に残ったのが

母親の深い愛情を描いた「あの女はろくでなし」だったのかもしれない。

 

 

前述のミニチュア家具は、いさかいの日々、家内が衝動的にエル・グレコの “受胎告知” を見に倉敷に

行った折に入った喫茶店買った。 いずれも今は昔、同居に絡む遠い日の思い出の品々だ。

 

ちなみに、私ら一家が同居する直前、ほぼわが家が完成したころ、突然父は亡くなった。

そして、われわれと母との長い生活がスタートしたのである。

 





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