本日は晴天なり

誰しも人生「毎日が晴天なり」とは行かないものです。「本日は晴天なり。明日はわからないけどね」という気持ちを込めました。

毒入りリンゴと娘 その2

2008年09月05日 18時59分22秒 | Weblog
白雪はそれまでしていた仕事を辞め、若者と幸せに暮らしていたのですが、白雪は自分の体と心がとても疲れているのを感じていました。
それから白雪は毎日眠り続けました。
ふと気がついてみると、なんと4年の月日が経っていました。
若者は白雪が眠っている間、心配しながら見守っていました。

白雪は起きてもまだ体力が回復していないのを感じましたが、それでも少し元気を取り戻し、両親がどうしているか気になって、両親のいる家にときどき帰ってみることにしました。

母親は白雪が帰ってきたのを喜んで手料理を作ってもてなしました。
白雪は思いました。「お母様は私が眠っている間に変わられたんだわ。少し変な人だけれど、お母様なりに私を愛してくれているのよ。もうお歳をとられて来たし、これからは仲良くやって行きたいわ。」

白雪はそれからもときどき季節の食べ物などを携えて両親の家を訪ねていましたが、あるとき、白雪の母親は白雪にふとこう言いました。
「お前が子供のときに私が心の病を患った時期があっただろ。そのときお前の父親は薬師に、「強い薬を作って飲ませるようにして下さい」と言ったんだ。私は陰でそれを聞いていた。
そんなものを飲むものかと私は思ってね。お前に飲ませてみたんだよ。リンゴにまぜてね。そうしたら、案の状、お前は次の日の朝、「お母様、私なんだかフラフラします」と言いながら起きてきたよ。やっぱりだ。薬師なんか、信用できないもんだね。」

白雪は驚いて叫びました。「ええっ?お母さま?子供の私にその薬を飲ませたんですか?なんてひどいことを!!」
すると白雪の母親はすごい剣幕で答えました。
「何言ってるんだい、当たり前のことだよ!!」
白雪はさらなる驚きのあまり、返す言葉もありませんでした。

白雪は信じられませんでした。どんなに辛く当たられても、心の奥では母親は自分を愛してくれているのだと自分に言い聞かせ、信じてきたのでした。
でも、さすがに白雪の母親がうっかり漏らした言葉は、それを根底から覆すようなものでした。

白雪はショックを受けて、魔法使いのリリーのところへ行きました。
リリーは以前、白雪が森の中を歩いていて魔術をあやつる虎の妖術にかけられ、あやうく命を落としそうになったときに助けてくれた魔法使いの娘でした。それ以来、二人は友達になったのでした。
白雪がリリーに母親から聞いたことを話すと、リリーは水晶の玉を見ながら言いました。「白雪さん、あなたのお母さんがあなたに薬を盛ったのは、それ一回だけではないみたいだわ。子供の頃から何度も、何種類もの白い粉を、リンゴや食べ物にまぜて、あなたに食べさせていたみたい。心当たりがない?」
そう言えば、と白雪は思い出しました。子供の頃、眠くて眠くて仕方がなかったことがある。どうがんばって思い出そうと思っても、記憶がない時期がある。でもそれは、若い時期によくありがちなことだと思っていた。
大人になってからも、人よりも無理のきかない体で疲れやすかったこと。
いつもどうしても物事を思い出せないときがあって、なぜなの?私って頭が悪いのかしら?と悲しく思っていたこと。
この4年間、精も根も尽き果て、死んだように眠っていたこと。
でも、それは心が疲れているせいだからなんだわ、とずっと思っていた。
ああ、まさか、もしやそれは全部、あの母親が食べ物に薬を入れていたせいなの?

「そのようね。」
魔法使いのリリーはメガネをキラッと光らせ、白雪の目を見すえながらクールに言いました。

(つづく)

毒入りリンゴと娘 その1

2008年09月05日 12時46分10秒 | Weblog
あるところに白雪という名前の娘がおりました。
その娘は実の父と母と一緒に粗末な小屋で3人で暮らしておりました。

母は白雪の実の母でありましたが、子供の頃から白雪に何かと辛く当たりました。その母はいつも、「ああ、私は不幸だ、私は不幸だ。こんなに貧乏な小屋で暮らさなくてはならないなんて。それもこれもみんなお前の父親がふがいないせいだよ。そしてお前はその父親の血を引いてるんだ。」「お前は大きくなったら私たちのために働いて大きなお城を建てるんだよ。そして私たちが歳をとったら私たちの面倒を見て暮らすんだよ」と言うのが口癖でした。
白雪は子供心にもそんな無体な、と思い、父が何か言ってくれるのを期待しましたが、父親は目をそむけたままいつも何も言ってはくれませんでした。
白雪の母の親戚たちも、誰一人として白雪をかばってくれる者はおりませんでした。
頼れる大人も兄弟も誰一人なく、白雪は孤独でした。
それでも白雪は、どんな仕打ちを受けても、自分を生んで育ててくれる母に恩返しをしなければならないのが世の中の決まりというものなのだろうと思い、母の指図や愚痴にも毎日耐えながら暮らしておりました。それに、いつも白雪の母は言うのでした。「私がお前に辛く当たるのはね、お前のためを思ってこそのことなんだよ」と。

白雪は大人になると、母親の言うとおり一生懸命働きました。
そして母のために家具を買ったり、母の身の回りのものを買ったり、貧乏な家を助けるためにできるだけのことをしました。
それでも白雪の稼ぐお金では、母が要求するような大きなお城を建てることは到底無理でした。すると母親は今度は白雪に、「私が不幸なのはお前のせいだよ。ああ、私はなんて不幸な母親なんだろう」と嘆くようになりました。

白雪はそのうちだんだん疲れてくるようになりました。
いくら一生懸命働いても親孝行をしても、母親はちっとも満足せず、それどころかいつまでも白雪を責め続けました。
白雪は自分の年頃の幸せそうな娘達を横目で見ながら、ああ、いつか私も幸せになりたい、と思いました。

ある日、白雪は一人の若者と舞踏会で出遭いました。
そしてその若者と白雪はすぐ恋に落ちました。
白雪は若者と幸せになりたい、と強く思いました。
しかし、案の定、白雪の母親が反対しました。
「あたしの白雪をどこに連れて行こうって言うんだい。これから私の老後の面倒を見てもらうのに、いなくなられちゃ困るんだよ。お前なんかに連れて行かせるもんか!」

白雪は意を決して自分の幸せのために母親と闘おうと思いました。母親と父親と住んでいた小屋を思い切って飛び出し、一人で住む家を見つけました。
若者も自分と一緒に闘ってくれるに違いない、と思いました。
しかし、実はその若者には、自分の勇気と力を外に出すことができないという魔法がかけられていました。
そうして若者は白雪の元を去って行かざるを得ませんでした。

白雪は泣きました。私はこうやって母親が死ぬまで母親の奴隷のように生きていかなければならないのかしら。私がいつか幸せになれる日は来るのかしら。
その間も、母親の白雪に対する嫌がらせは毎日続きました。

そうしているうちに、白雪は病気になってしまいました。
幸い大事にはいたりませんでしたが、白雪は自分が心身ともに疲れているのを感じました。

白雪が病気になったと知って、若者が再び白雪の元に戻ってきました。
そして何くれとなく面倒を見てくれるようになりました。
白雪と離れている間、若者は自分にかけられた魔法を解く修行をしていたのでした。
とうとう白雪は若者と一緒になることにしました。
母親はあらゆる手を使ってそれを妨害しようとしましたが、白雪の決意は固く、それを覆すのは困難でした。

若者と一緒になって、白雪はしばらく幸せに暮らしました。

(つづく)