【10月】
◆八月十五夜
(旧暦8月15日) 9月21日(火)
農作物の豊作を祝い旧暦8月15日に行われる行事。たんに<十五夜(ジューグヤー)>ともよぶ。<お月お祭り>という月拝みや月見の宴もあり、農村ではこの日の前後に豊年祭の村遊びが続く。
この日は家の神棚、仏壇、火の神にフチャギ(吹上餅)とよぶ赤い小豆粒をまぷした細長い餅を供え、晩には小豆入りの赤飯と、大煮とかンブシーという豚肉や豆腐、野菜などの煮付けを仏壇に供える。南西諸島では古く<麦初種子、米種子>という麦の播種(はしゅ)儀礼と籾(もみ)種の発芽のこころみが9月中になされ、トシ(生産年)の死と再生があるものとし、その直前の時期は農村共同体の最大の危機と考えられた。
そこで<柴指八月><遊び月>ともいって、8月は祓(はら)えと予祝(よしゅく)の行事が集中した。15日には<道ジュネー>といって、全員が出演の装束で行列を作り、村の草分け家の根屋、御嶽、拝所に参詣して練り歩く。村踊りの代わりに綱引きをする村もある。
【御願する対象】ヒヌカン・トートーメー
【お供え物】フチャギ、線香12本3本
◆カジマヤー
(旧暦9月7日) 10月12日(火)
数え年97歳のトウシビー祝い。一般に9月7日におこなわれる。今では最高の長寿祝いとして村をあげての盛大な祝賀の催しがある。
明治のころまで古俗を保っていた村では、現在と異なる習俗がみられた。たとえば、国頭村比地、大宜味村喜如嘉、名護市などのカジマヤーでは祝賀の行事はなく、模擬葬式がおこなわれた。
名護では死装束をさせて7つのカジマヤー(十字路)を巡ったという。喜如嘉などでは墓まで行列していく死と再生の象徴儀礼がある。そのとき先頭の者は竹ほうきを持ったといい、村人は行列と出会うことを忌み嫌った。カジマヤーの語義は、老齢になれば童心にかえってカジマヤー(風車)で遊ぶからと説明する人が多いが、古俗から考えると7つの十字路を通過することからの命名ではなかろうか。
【御願する対象】ヒヌカン・トートーメー
【お供え物】赤飯、クーブイリチー、田芋リンガク、サーターアンダギー、赤まんじゅう等の祝い料理、線香12本3本
◆菊酒
(旧暦9月9日) 10月14日(木)
旧暦の9月9日に、菊の葉を3枚、酒杯に入れて仏壇やヒヌカン(火の神)に供え、家族の健康と長寿を願って飲む行事。
菊は長寿と悪疫払いを意味している。 中国の古俗では、奇数を陽の数とし、月と日の同数が重なる日を、めでたい吉日とした。
9月9日は中国では重陽・重九・菊酒節、登高節といい、日本本土では菊の節句、菊の宴、重陽の宴とよぶ。沖縄ではクングワチクニチ(9月9日)、チクザキ(菊酒)、クニチョイ(9日祝い)という。中国の陰陽思想に由来するもので、日本本土では平安時代初期に宮中行事として定着した。沖縄での始まりは定かでないが、17世紀後半の『使琉球記』、18世紀後半の『大島筆記』に菊酒を飲む記述がみられる。
【御願する対象】ヒヌカン・トートーメー
【お供え物】お酒、菊の葉3枚、線香12本3本
知っておきたいミニ知識
■供えもの③
●カビジン(紙銭)・ウチカビ(打紙)
沖縄の古い時代の貨幣である鳩目銭の形を打ち付けた黄色の紙で、後生(あの世)の金とされる。5枚ないし3枚を一組として、祖霊に対して焼き供える。紙銭を焼いて供えることをカビアンジ(紙あぶり)といい、焼く際は燃え残りのないようにするべきものとされる。
【呼び名の意味】
●カビジン…紙でできた銭
●ウテカビ…銭形を打ち付けた紙
●アンジカビ…あぶる(焼く)紙
●ンチャビ…紙の美称。これを供えることから彼岸の行事を「ンチャビ」ともいう。
基本的に、紙銭一組はウサンミ(重箱料理)一組(餅と肴を各2段ずつ)とセットにして供えられるもの。そのため、年中行事のなかでも紙銭を焼いて供えるのは、春秋の彼岸、清明祭、盆のウークイなどのように、ウサンミを供える行事にほぼ限られている。
〈文/沖縄国際大学・沖縄大学非常勤講師・稲福政斉〉