QT Lab.品質・技術研究室

技術者のための品質工学、品質管理、統計学、機械設計、信号処理を
解説します。

技術者が本業の技術以外で追及しなければならない技術とは

2016-12-03 10:07:40 | 技術・エンジニア

 スーパーマーケットやコンビニエンスストアの床は、白系統でとても光沢度が
高く管理されています。
 そうすることで、天井の照明が床に反射し、生鮮食品などの色合いが鮮明に
なるのと同時に照明の機材を減らすことができて、省エネルギーにつながるからです。

 そのために、床は毎日洗浄とみがきが行われています。
 スーパーマーケットでは、半年に1度、床のワックスを剥離して、ワックスを塗りなおす
特掃という作業が行われます。
 当然、閉店後に行うのですが、夜10時ごろから作業をはじめて翌日の午前3時ごろまで
かかる大変な作業です。

 20年ほど前、床面洗浄機を開発していたとき、勉強のためとのことで、ビルメンさんの
深夜の作業を観察(というより作業のてつだい)しにいくことが何度かありました。
 深夜手当はおろか、時間外手当もなしで、しかも当日は通常業務という、今なら
大きな問題になることでしょう。ただ、10時までに出社すればよい、というなんとも
やさしいご配慮もしていただいてはいましたが ・・・

 スーパーマーケットはこのようなことができるのですが24時間営業のコンビニでは
特掃はできません。

 店がオープンする時点で分厚くワックスをぬっておき、日常管理は深夜でお客さんが
少ないときに、店員がバフィングマシンという床磨き機械をかけて光沢を復活させる
という方法の対応です。

 私がワックスを塗布する機械を構想したとき、ワックスのかわりに光硬化樹脂を
塗布しながら紫外線灯で硬化させる方法を考えました。光硬化樹脂はかなり硬度が
高いのでみがきは苦労するのですが、傷つきにくいので光沢がおちにくいという
効果もある、と考えました。

 今では、当時の光硬化樹脂に含まれていたビスフェノールAはホルモン攪乱物質
だったので、製品化しなくてよかったのですが。

 機械の構想に苦労していた時、いっそ、光硬化樹脂でコーティングしたタイルを
製造販売したほうがよいのでは ・・・ と思い、営業企画との会議で提案したのですが
「そんな物つくったら、うちの機械やワックスが売れなくなるじゃん!」と怒られて
しまいました。

 自分の中では、床材自体の研究をしなければだめなのでは?と思っていました。

 それから数年して、強度が高く、光沢度も高い表面処理がほどこされたタイルが
ある企業さんから発売されました。

 また、大手コンビニさんは、新規開店の店舗で床を樹脂製タイルから、高強度な
セラミックタイルに変更することで、ワックス塗りやみがきの作業をする必要を
なくしてしまいました。
 
 企業や技術者にとって、自身が開発・製造・販売している技術の研究をするのは
当然ですが、
『自分の首を絞める技術』 も常に研究していなければいけないと思います。

 もし、ほかの企業や業界がその技術を手に入れたとしたら ・・・
本当に自分の会社の首を絞められてしまいます。

 自らがその技術を手に入れることができれば、知的財産権でその技術を保護する
ことで 「首が締まる」 可能性を大幅に低減できます。

 蛍光灯の特許を取った企業が、電球工場の投資回収が終わるまで、蛍光灯の
製造をしなかった事例や、デジカメの普及で大幅に需要が減ったフィルムメーカーさんが
そのデジカメ自体を開発し、製造販売したことなどに、『自身の首を絞める技術』 の
研究という本質が見て取れるのではないでしょうか。

 本日は58回目の誕生日です。妻、義理の妹と食事にいくことになっています。
 楽しみです。