前々回、望目特性のSN比に関する問題点を指摘しました。そして、その解決方法の
入口をつぎのブログでお知らせすると書きました。
しかし、その後いろいろと調査・検討した結果、前回指摘した問題よりも重大な問題を
発見しました。この問題はかなり大きく根が深いので、もっと時間をかけて検討する必要が
あるため、報告にはもう少し時間をいただきたいと思います。
そこで、今回は代打として『ゼロ望目特性』を使うときの注意を2回にわけて紹介します。
品質工学の静特性評価において、『望目特性』、『望小特性』、『望大特性』、『ゼロ望目特性』という4つのSN比という評価指標が提案されています。
パラメータ設計ではおもに『望目特性』を使って制御因子・水準の要因効果を評価します。
評価対象となる出力結果(データ)が正の領域であり、その出力が小さければ小さいほどよい場合は『望小特性』のSN比で、その逆に大きければ大きいほどよい場合は『望大特性』のSN比で評価します。
では、建築物の強度はどの特性で評価するべきでしょうか。当然、建物は頑丈であるほど、地震などの災害に強いわけですから『望大特性』のSN比で評価するべきであると思われるかもしれません。
ここで、SN比は品質の評価指標であり、品質工学では、品質を『製品が出荷後、社会に与える損失である』と定義しています。製品が出荷された後、社会に与える損失とは、
その製品に期待されている機能の発揮不全(ばらつきや故障)によりユーザーが被る実損失・機会損失、メーカー側での不具合対策、設計変更と改造・改図作業、設備や工程の修正、品質管理基準の見直し、そして、ブランド名の劣化などの損失、そして、公害です。
「製品が出荷後」ですから店頭在庫、ユーザー購入と輸送、開梱、使用、廃棄までに生じる上記の損失の全体が社会に与える損失です。
建築物の場合、廃棄とはその建物を壊して更地にすることです。このとき、『望大特性』のSN比で評価された結果の建物は強度が高いので建物を解体ためにコストが多くかかります。そのことまで考えると、建物の強度は『望大特性』ではなく『望目特性』で評価して、想定される地震に対して必要十分な強度をもち、かつ、なるべく安いコストで解体できる強度を狙うべきであることになります。
『望小特性』、『望大特性』のSN比では品質工学のパラメータ設計のうまみであるチューニングができない、という点も弱点になります。
さて、もうひとつ『ゼロ望目特性』のSN比は、場合によっては評価対象を都合よく評価できる指標であり、私も実務ではよく使っています。しかし、『ゼロ望目特性』のSN比には見落としがちな重大な制約条件があります。これを認識しないで『ゼロ望目特性』評価を実施すると、痛い目にあうこと間違いなしです。
次回、ゼロ望目特性の考え方と計算方法、そして、重要な制約条件について解説します。