智徳の轍 wisdom and mercy

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サイハ輪廻転生談(サイハ・ジャータカ)

2005-01-03 | ☆【経典や聖者の言葉】


 これは、尊師がジェータ林にとどまっておられたときに、あこがれた向煩悩滅尽多学男に関して講演なさったものです。
 彼はサーヴァッティで、食事として与えられる施し物のために動き回って生活しているとき、一人の綺麗な女性を見てあこがれ、救済計画に楽しみを見いださなくなってしまったのです。そこで、向煩悩滅尽多学男たちは、彼を世尊に会わせました。世尊は彼に、
「向煩悩滅尽多学男よ、お前はあこがれたそうだが本当か。」
とお尋ねになりました。
「本当です。」
と申し上げると、
「だれがお前をあこがれさせたんだ。」
とおっしゃられ、それについてお告げしました。尊師は、
「どうしてお前は、このような輪廻から脱却させる救済計画で出家しながらあこがれたんだ。前世において、賢者たちは主席祭司の地位を得ながらも、それを辞退して出家したのである。」
 このように言って、物語をお話しになったのです。

 その昔、バーラーナシーでブラフマダッタが君臨していたころ、到達真智運命魂は主席祭司の祭司の婦人の子宮へと輪廻し、国王の息子と同じ日に生まれました。国王は信頼できる顧問たちに尋ねました。
「だれかわたしの息子と同じ日に生まれた者はいるか。」
「大王よ、主席祭司の息子がおります。」
 国王は彼を連れてこさせ、乳母たちに預けて、息子と一緒にお世話をさせました。そして、二人の装飾品ばかりではなく、飲食なども全く同じにしたのです。
 青年に達したとき、タッカシラーに行き、あらゆる学識を獲得して帰りました。そこで、国王は息子に副王の位を授け、彼には大きな名声があったのです。そのとき以来、到達真智運命魂は、王子と一緒に食べ飲み横たわり、お互いの信頼は固いのでした。
 間もなくして、父の臨終に際して、王子は王権を確立し、大いなる繁栄を経験しました。到達真智運命魂は思念しました。
「わたしの同好の友は、王権を思いのままにしている。また、気づかれた場合、わたしに主席祭司の地位を授けることだろう。家庭生活がわたしにとって何になろうか。出家し、遠離を守り実践しよう」と。
 彼は父母にうやうやしくあいさつして、出家の許可を求め、大いなる繁栄を捨て、単独で家庭生活を後にして、雪山に入りました。そして、心を喜ばせる区域に枝や葉っぱでできた小屋を作り、尊い人の禁欲生活の集団に出家し、証智と生起のサマディを生じさせて、静慮の楽しいものとして楽しみながらとどまったのです。
 そのとき、国王は彼を思い出して尋ねました。
「わたしの同好の友が見えないが、彼はどこにいるんだ。」
 信頼できる顧問たちは、彼が出家したことを告げて言いました。
「気に入った密林に住んでいるそうです。」
 国王は彼の住まいの場所を尋ねて、サイハという名の信頼できる顧問に言いました。
「行きなさい。そして、わたしの同好の友を連れてここに来させなさい。主席祭司の地位を彼に授けることにしよう。」
「わかりました。」
と、彼は承諾して、バーラーナシーから出て、やがて国境の村に達し、そこにキャンプを設置しました。そして、林務官たちと一緒に、到達真智運命魂の住まいの場所に行くと、到達真智運命魂が枝や葉っぱでできた小屋のドアに黄金の彫像のように座っているのを見ました。そこで、うやうやしくあいさつして、そばに座り、親切に迎え入れられて言いました。
「尊者よ、国王があなたに主席祭司の地位を授けたいと思い、あなたが帰ってくることを望んでいます。」
「やめなさい。わたしは、たとえ主席祭司の地位や、カーシ・コーサラ国すべてや、バラリンゴの大陸の王権や、転輪の輝きを得たとしても参りません。なぜなら、賢者は一度捨てた肉欲に再びとらわれることがないからです。というのは、一度吐いたつばのように捨てたからです。」
 到達真智運命魂はそう言って、この詩句を唱えたのです。

   海を所有する秩序を、
   大地と大洋の輪を、
   責任と共に望んではならない。
   サイハよ、このように識別せよ。

   祭司よ、名声を得ること、財産を得ることに恥を知り、
   それにかまわずにそのままにしておきなさい。
   それは、破滅や非法則による振る舞いによって、
   生きることである。

   たとえ家なき状態で、鉢を持って、
   托鉢修行者として歩き回ったとしても、
 非法則による願望よりも、
   この生活することは優れている。

   たとえ家なき状態で、鉢を持って、
   托鉢修行者として歩き回ったとしても、
   世界において他を傷付けてはならない。
   また、これは王権よりも華麗である。

 こうして、彼は何度も懇願されたにもかかわらず、これを辞退したのです。サイハは彼の同意を得ることなく、うやうやしくあいさつして出発し、彼が帰ってこないことを国王に告げました。

 尊師はこの教えをもたらした後、種々の真理を説明し、輪廻転生談に当てはめられたのです。真理を完達したとき、あこがれた向煩悩滅尽多学男は真理の流れに入る果報を確立し、また、数多くの別の者は、真理の流れに入る果報などを現証しました。
「そのときの国王はアーナンダであり、サイハはサーリプッタであり、主席祭司の息子は、まさにわたしなのである。」