智徳の轍 wisdom and mercy

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サンヴァラ輪廻転生談(サンヴァラ・ジャータカ)

2005-01-01 | ☆【経典や聖者の言葉】



 これは、尊師がジェータ林にとどまっておられたときに、一人の精進を捨てた向煩悩滅尽多学男に関して講演なさったものです。
 彼はサーヴァッティに住んでいる善男子で、尊師の法則の教えを聞いて出家し、大師や正大師への義務を満たして、両方の約束維持解放を修得しました。五年いっぱいで、
「わたしは要素の蓄積の道理を受け取って、森に住もう。」
と、大師や正大師に許可を乞うて、コーサラ王領内の一つの国境の村へ行きました。
 そこで、彼の振る舞い方に浄信ある人々によって、枝や葉っぱでできた小屋を作ってもらい奉仕されたのです。雨季の小屋にこもって、励み、精を出し、奮闘し、たいそう真剣な精進によって、三カ月間要素の蓄積の道理を修習しましたが、少しの光明でさえも生じさせることができないので思念しました。
「確実にわたしは、尊師によって指し示された四種の魂の中の『得るものがあっても、せいぜいが経典の言葉を覚えるにとどまる程度であって、とてもその意味内容を得るまでには至らない魂』である。わたしが森に住むことによって、何の意味があろうか。ジェータ林に行って、真理勝者の身体の輝きを見、甘美な法則の教えを聞き、日々を送ろう。」
と、彼は精進を捨てて、そこから出て徐々にジェータ林に進みました。
 大師や正大師、それのみならずそして同僚たちや親しい仲間たちからも帰ってくることのわけを尋ねられて、その意義を主張すると、
「なぜ、そのように行なったんだ。」
と叱責して、尊師の面前に導きました。
「向煩悩滅尽多学男たちよ、どういうわけで嫌がっている向煩悩滅尽多学男を連れてきたんだ?」
「尊師よ、この人は精進を捨てて来たのです。」
とお告げしました。
「それは実際に本当か。」
「本当です、尊師よ。」
「向煩悩滅尽多学男よ、なぜ精進を捨てたんだ。というのは、この救済計画においては、怠け者の無精な魂が最上の果報、すなわち供養値魂の状態を得ることはないからである。そして、精進に着手する者たちがこの法則に到達する。
 それにしても、お前は前世において、精進し、よく忠告を聞く者であった。まさにそのわけによって、バーラーナシーの国王の百人の息子たちの末弟だったのだが、賢者たちの忠告に集中継続し、白い日傘を勝ち取ったのである。」
 このように言って、物語をお話しになったのです。

 その昔、バーラーナシーで、ブラフマダッタが君臨していたころ、サンヴァラ王子という名前の百人の息子たちの弟がいました。
「一人一人の息子に学ぶのに適しているものを教えなさい。」
と、国王は一人一人の信頼できる顧問に預けました。
 サンヴァラ王子の大師である信頼できる顧問は到達真智運命魂で、賢者であり、聡明であり、国王の息子の父の地位にとどまっていたのです。信頼できる顧問たちは、十分に学んだ国王の息子たちを国王に会わせました。国王は彼らに地方を与え、送り出しました。
 サンヴァラ王子はすべての学識において成就に達し、到達真智運命魂に尋ねました。
「先生、もし父がわたしを地方に放つとしたら、何をしましょうか。」
「王子よ、あなたは地方が与えられたときには、それを受け取らないで、
『愛欲神のような王よ、わたしは末弟です。わたしも去ったら、あなたの足元は空になるでしょう。わたしはまさに足元に住みましょう』と、断言しなさい。」
 それである日、サンヴァラ王子がうやうやしくあいさつして、そばにとどまったとき、国王は尋ねました。
「息子よ、お前は学識をやり遂げたのか。」
「はい、愛欲神のような王よ。」
「お前の地方を選びなさい。」
「愛欲神のような王よ、あなたの足元が空になるでしょう。わたしはまさに足元に住みましょう。」
「わかった。」
と、国王は喜んで受けました。
 そのとき以来、国王のまさに足元にいて、到達真智運命魂に尋ねました。
「先生、他に何をしましょうか。」
「国王の一つの古い遊戯地を懇願しなさい。」
「わかりました。」
と、彼は遊戯地を懇願して、そこで生じる種々の花や実によって市の有力者たちの好意を得ました。また、
「何をしましょうか。」
と尋ねました。
「王子よ、国王の許可を乞うて、市内で報酬としての食物を、まさにあなたが施しなさい。」
 彼は同様に行なって、市内ではだれも漏らすことなく、だれに対しても報酬としての食物を施しました。また、到達真智運命魂に尋ねて、国王に懇願し屋敷内で使用人たちにも、馬たちにも、軍団にも漏れなく施し物を施しました。遠方の国々から来た使いの者たちの種々の滞在場所など、貿易商たちの種々の税金、すべてのなすべきことをまさに独力で行なったのです。
 このように、彼は偉大な生命体の忠告に立脚して、すべての屋敷内の人々と、屋敷外の人々と、そして市においては王領の住人と、滞在客たちとを、まさに鉄の平板によってするように、それぞれの恩恵を施す政策によってつなぎとめ、好意を得ました。すべての者に好感を持たれ、気に入られたのです。
 間もなくして、国王が死の床で横になっているとき、信頼できる顧問たちは尋ねました。
「愛欲神のような王よ、あなたの臨終に際して、わたしたちは白い日傘をだれに授けましょうか。」
「顧問たちよ、わたしの息子たちは、すべての者が同様にまさに白い日傘の所有者なのである。しかし、お前たちの気に入った、まさにその者に授けなさい。」
 彼らは国王が逝った後、そのなきがらを手厚く葬って、第七日目に集まりました。
「国王は『お前たちの気に入った者に日傘を掲げなさい』と言われた。そして、わたしたちはこのサンヴァラ王子が気に入っております。」
 そこで、親族たちによって周りに輪を作り、彼に金の花飾りのある白い日傘を掲げました。サンヴァラ大王は到達真智運命魂の忠告に立脚して、公正に君臨したのです。
 他の九十九人の王子たちは、
「我々の父が逝ったそうである。サンヴァラに日傘を掲げたそうだが、彼は末弟で、彼に日傘が渡ってはならない。一番上の兄に日傘を掲げよう。」
と、まさにすべての者が連れ立ってきて、
「我々に日傘を授けろ。さもないと戦争だ。」
と、サンヴァラ大王に書簡を届け、市を閉鎖したのです。
 国王は、到達真智運命魂にその出来事を告げて尋ねました。
「わたしたちは今、何をしましょうか。」
「大王よ、あなたの兄たちと争う必要はありません。あなたは父の資産や財産を百に分割し、九十九人の兄たちに届けて、
『あなた方の父上のこの資産の分割をお受け取りください。わたしはあなた方と争うつもりはありません』と、伝言を送りなさい。」
 彼は同様に行ないました。それで、ウポーサタ王子という名前の彼の長兄は、他の者たちに呼びかけたのです。
「諸君、まさしく国王を征服し得る何ものもあることはない。そして、この我々の弟は敵対者であるとはいえ、とどまってはいない。我々に父の資産を届けて、『わたしはあなた方と争うつもりはありません』と、使いを出したのだ。
 ところで、実際我々すべては同時に日傘を掲げられない。我々は一人に対してだけ日傘を掲げられるのだ。まさに彼を国王となそう。ここで、彼を訪れて国王の財産を引き渡し、まさに我々の地方に出発しよう。」
 それで、彼らすべての王子たちも市を開かせて、敵対者でなくなり、市に入ったのです。
 国王も信頼できる顧問たちに彼らの歓待を行なわさせ、出会う道に使いを出しました。王子たちは大きな従者団を伴ってまさに歩いて来て、国王の居所に上がり、サンヴァラ大王に従順さを見せ、低い座に座りました。
 サンヴァラ大王は白い日傘の下にある獅子座に座り、大いなる名声、偉大で荘厳な気品があり、視線を落とした場所はどこも震えるのでした。
 ウポーサタ王子は、サンヴァラ大王の荘厳な状態を見て、
「我々の父は自分自身の臨終に際して、サンヴァラ王子の国王の本性に気づき、おそらく我々に種々の地方を与えて、彼に与えなかったのだろう。」
と思念して、彼と一緒に共に話しているとき、三つの詩句を唱えました。

  大王よ、あなたの気質に実は気づいていた、
  人々の統治者は、
  これらの王子たちを賛美して、
  あなたは何によっても賛美されないと考えた。
  
  実は大王が生存しているとき、
  あるいは愛欲神のような王が天に至ったとき、
  親族たちは、自分自身の利益を見ていて、
  あなたを承認しただろうか。

  サンヴァラよ、何の遵守によって、
  同じ血筋の者の上に立ったのか。
  集まった親族の集団は、
  何によりあなたを乗り越えられないのか。

 それを聞いて、サンヴァラ大王は自分自身の素晴らしさを主張して、六つの詩句を唱えました。

  王子よ、わたしは出家修行者たちや、
  偉大な尊い人たちに対して妬みはしません。
  敬愛をこめて、彼らに頭を下げて、
  そのような足にうやうやしくあいさついたします。
   
  法則の本質に献身的で、学びたいと思い、
  妬みを抱いていないわたしに、
  彼ら出家修行者たちや、
  法則の本質を楽しむ尊い人たちは諭します。

  わたしは彼ら出家修行者たちや、
  偉大な尊い人たちの発言を聞いて、
  何もおろそかにはしません。
  わたしの意識は法則を好んでいます。

  象の御者たち、衛兵たち、
  戦車の御者たち、歩兵たち、
  彼らに常に種々の報酬としての食物を、
  わたしは拒みません。
   
  わたしには大臣たち、
  そして相談役たち、従者たちがいます。
  彼らはバーラーナシーに、
  数多くの肉・蒸留酒・水を供給します。
   
  および同様に、富みに富んだ貿易商たちが、
  様々な王領より来ています。
  彼らに対してわたしの守護が用意されています。
  このように気づきなさい、ウポーサタよ。
   
 それで、彼の素晴らしさを聞いて、ウポーサタ王子は二つの詩句を唱えました。

  サンヴァラよ、法則によって、
  真に親族たちを支配しなさい。
  頭が良く、そして賢者でもあり、
  および同様に、親族たちの利益である。
   
  親族に囲まれているあなたを、
  様々な宝を蓄積したあなたを、
  敵たちが克服することはない。
  あたかも不飲酒天の支配者が、
  神々の王を克服することがないように。
   
 サンヴァラ大王は、すべての兄たちに大いなる名声を与えました。彼らは彼の面前でひと月半住み、
「大王よ、種々の地方に無法者が立ち上がったときには、我々が発見しましょう。あなたは王権の楽を経験しなさい。」
と言って、自己それぞれの地方に出発しました。
 国王も到達真智運命魂の忠告に立脚して、寿命の終わりには愛欲神たちの都を満たしつつ去ったのです。

 尊師はこの教えをもたらした後、
「向煩悩滅尽多学男よ、このようにお前は、前世においてよく忠告を聞く者であった。今、なぜ精進をしなかったんだ。」
と言って、種々の真理を説明し、輪廻転生談に当てはめられたのです。真理を完達したとき、その向煩悩滅尽多学男は真理の流れに入る果報を確立しました。
「そのときのサンヴァラ大王はこの向煩悩滅尽多学男であり、ウポーサタ王子はサーリプッタであり、残りの兄弟たちは高弟とそれに次ぐ向煩悩滅尽多学男たちであり、集団は覚者の集団であり、忠告を与えた信頼できる顧問は、まさにわたしなのである。」