パンセ(みたいなものを目指して)

好きなものはモーツァルト、ブルックナーとポール・マッカートニー、ヘッセ、サッカー。あとは面倒くさいことを考えること

魔法の瞬間

2021年12月24日 09時34分07秒 | 音楽

人は何かを考える前に何かを感じる
なぜそう感じたのかを考えることによって、自分自身の感じ方が
世間に一般化できるかどうかが明らかになるかもしれない
もっとも感じ方は家庭環境や経済環境、あるいは本人の能力的なものに
左右されるかもしれないが

まるで魔法の瞬間!と思われることがある
そう感じるのは自分だけの個人的な印象に過ぎないのかも知れないが
それはあまりにもリアリティのあるもので、確かにそれは一つの体験だ

魔法の瞬間、、それはフルトヴェングラーの演奏だ
楽譜は同じものを使い、楽器たちは同じ音を出す
それなのに、聞き手にはまるで違った印象を与える演奏

今の時期ならベートーヴェンの第九
それは有名な合唱の楽章ではなくてその前の第三楽章に感じられる
最近はこの楽章が大好きになっている(時々この楽章の聴き比べをする)
それは32番のピアノ・ソナタの第2楽章に通ずるような内省的な音楽だ

この楽章の全体的な印象は、有名なバイロイト祝祭楽団の録音だけでなく
戦時中の録音でも似通っている

音楽は今の規準からすると遅い
だがその遅さは単に遅いとは違う
チェリビダッケの演奏するブルックナーも遅い
その遅い演奏は楽譜に書かれた音を全部丁寧に表現しようとしているため(?)だが
フルトヴェングラーのこの楽章の演奏はそれとは違う

その遅さは彼(フルトヴェングラー)の考えていること、感じていることの表現に
最適のテンポのように思えてしまう
賑やかな前の楽章が終わって、とても静かな音楽が始まる
それは表面的な平穏ではなく、内的に昇華された音楽で様々なことを経験した上で
それで良いのだ、、と感じさせ、ついそこで安住したくなりそうな世界だ

ゆっくりした音楽はまるで楽器群の音を聴いているというより
自分の頭の中でなっている音を聴いているような気さえする
そこでは時に指揮という行為なされていることを忘れてしまいそうになる
音楽は始まったら時の経過そのもので、時は流れて行くだけと同じ様に
演奏も勝手になされていく様に思えてしまう
(それは奏者の自発的な演奏と言えるかも知れない)
そして魔法の瞬間が訪れる
楽章の頂点となるかも知れない2回のファンファーレがそれで
最初のそれのトランペットの演奏のあとの寂寥感
そして2回目のファンファーレのあとの、中身の詰まった充実感のある和音
そしてそれは一瞬の奇跡に過ぎないかのように、また普段の生活に戻ってしまうよう

このような感覚は、他の指揮者の演奏では感じられない
音楽表現はいろいろあってフルトヴェングラーの演奏が唯一無二ではないかもしれない
だがこの効果、魔法の瞬間は、明らかに彼独自のものだ

魔法の瞬間は第九以外に、まだいろいろある
彼の守備範囲ではないがスメタナのモルダウの冒頭のフルートの掛け合い
この一つ一つの掛け合いが会話をしているように頭の中で音がすることやら
トリスタンとイゾルデの有名な愛の二重唱の場面での時の経過を忘れてしまいそうな
恍惚とした瞬間、そしてそのあとの戦いの後のトリスタンの致命傷を負ったときの
時は戻らない、、と感じさせる悲劇的な音色

一度知ってしまったら離れられない世界
それがフルトヴェングラーの演奏の世界だ

だが世の中は変化していて、人の感じ方も重いものよりは
消化の良いもを良しとするものに移りつつある
フルトヴェングラーが忘れられていくことと
分厚い古典の書籍が読まれなくなりつつあるのは、どこか似ているような気がする

これらは時代だけでなく住んでいる場所により違いもあるかもしれない
田舎にいると、情報の奔流する都会の世界とは全く違う
田舎にいればこそ、余計な情報に振り回されずに、のんきに構えられているのかもしれない
きっと田舎の人間はいたずらに都会を追っかけずに、田舎でしか得られない時間経過
自然の移り変わり、それから得られる気持ちの変化を自信をもって受け入れるほうが良いと思う
田舎の人間は遅れているのではなく、そもそも感じ方が違う、、ただそれだけのこと

それにしても、最近はそれでも古典となっているもの(重たい印象を与えるもの)には
(都会人も)触れるほうが良いと思うようになっている







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