ガラパゴス通信リターンズ

3文社会学者の駄文サイト。故あってお引越しです。今後ともよろしく。

凶悪犯・野比のび太

2005-12-28 08:16:49 | Weblog
 今年もようやく「卒論狂想曲」が終わった。提出の日には様々なドラマがあった。サッカー部のエースストライカー陽子さんが論文を完成させたのは、締切りのなんと一時間前。3部コピーして出さないといけないがそんな暇は到底ない。大学にいる仲間に自宅から論文をメールに添付して送る。締め切り2分前の2時58分。提出会場に到着。仲間の用意してくれたコピーをファイルに綴じて、3時丁度に論文を提出した。さすが陽子さん。タイムアップ寸前の劇的な逆転ゴールである。

 どうしてぎりぎりまで論文が書けないのか。「しゅうかつ(就職活動)」が最大の妨害要因である。3年の終わりから会社訪問が始まり、秋口に就職が決まるまで100社まわるのは普通である。最近は就職状況が好転したといわれるが、それでも「5勝95敗」といったところか。次々に落とされるのだ。自尊心もズタズタになる。就職が決まればほっとして、何も手につかなくなるのも道理である。企業が大学教育に期待しているというのは大嘘だ。むしろそれを破壊している。

 ジョージ・ワシントンを知らない学生がいる。「だんこん」の意味は10人中1人しか知らない。それでもみんなまがりなりにも論文を仕上げている。論文を書くのに知識はいらない。インターネットで必要な情報を取り出して、それをつなぎ合わせて50枚ぐらいは書ける時代だ。小奇麗なレジュメを作ることには長けている。パワーポイントを駆使してのプレゼンテーションも堂に入ったもの。リテラシー(識字能力)の質が違ってきている。

 何年か前に、少年犯罪で論文を書いた学生がいた。当時流行っていたガングロの学生だ。驚くべき内容の論文だった。いまの若者や子どもの依存性が、少年犯罪の原因になっている。他方、のび太君は依存的な子どもである。少年による凶悪事件が頻発しているのは、つまりいまの子どもの大半がのび太君だからだ…。めまいのするような論理展開である。論文を読んでからしばらくの間、強盗・強姦・殺人・放火等の悪事にふけるドラえもんとのび太君のコンビの姿が、頭に焼きついて離れなかった。



6 コメント

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Unknown (優子)
2005-12-30 05:13:12
思い出しますね。卒論提出日、壁に向って卒論用紙を前に必死で書きながらギリギリセーフ組というのが何人かいました。

質を重視して行き詰まった結果だと思います。彼らの論文は読んだことはありませんが、、、
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謹賀新年 (よねまる)
2006-01-01 12:49:04
加齢御飯先生並びに本ブログをご覧の皆様、新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。ところで、卒論と言えば、小生などは、明末清初の陽明学左派の異端の思想家(李卓吾)の人物論でした。しかし、今から思えば冷や汗もの、先行論文の剽窃だらけでどこにオリジナリティがあるのやら、といった代物でした。そんな「卒論」なるものを否応なしにしこたま読まされる教授は、たまったもんじゃないでしょう。いかに仕事とは言え、本当に気の毒なかぎりです。加齢御飯先生、心中お察し申し上げます。
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卒論 (加齢御飯)
2006-01-04 17:30:12
 優子さま。よねまるさま。今年もよろしくお願いします。帰省のため返信のおくれましたことをお許しください。優子さんのおっしゃるように、パニックを起こすのはまじめで優秀な学生です。できの悪い連中に限って「出したもん勝ちー」だから始末が悪い。それにしても優子さんやよねまるさんの母校のようなハイレベルの学校でもいまや卒論は、「情報のパッチワーク」に堕してしまったのでしょうか。

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のび太という鏡 (shakti)
2006-01-08 01:21:44
のび太凶悪犯説面白く拝読しました。私は、むしろ、現代的で普通な論理展開ではないのかなと感じました。というのは、のび太というのは、今という時代に生きる子供達の鏡のような存在だからです。たとえば、注意散漫症候群(ADD)の啓蒙書にも『のび太・ジャイアン症候群』というタイトルがつけられます。少年犯罪犯を描写するときの参照枠組みとして導入されても当然ではないでしょうか。また、ADD=切れやすい=犯罪者というステレオタイプが存在することは、加齢御飯さまもご存じのことと思います。



私としては、スネ夫型犯罪者が増えていないことだけが救いです。(あっ、例の監禁犯罪の「王子様」は、スネ夫かもしれない!)

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shaktiさんに答えて (加齢御飯)
2006-01-08 14:50:59
 『のび太ジャイアン症候群』は彼女も典拠にしていました。shaktiさんのような鋭い論理展開があれば、この論文の印象も全然違ったのでしょうが…。



 ADD,ADHDがステレオタイプとして用いられていることへのご批判はそのとおりだと思います。佐世保の事件でも、犯人の少女はアスペルガーだと鬼の首をとったように書いている本がありましたが、だからどうだという感じですね。あの事件の本質に迫るものでは全然ありません。



 「スネ夫型犯罪者」という類型は大変興味深いものだと思いました。それにしてものび太君のしずかちゃんに対する執着には尋常でないものを感じてしまいます。のび太君が思春期を迎えて、そこにドラえもんの邪悪な助力が加わった時、しずかちゃんの身の上に起きることを考えると戦慄を禁じえません。
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Unknown (SHAKTI)
2006-01-08 17:19:18
普通は格が違う女の子に対しては、諦念の気持ちを抱いていても良さそうです。僕の中学生時代のT君は、絶対に今村さんのことを好きだったのですが、告白しようとはしませんでした。好きで親しげに振る舞うのですが、ある程度の距離を保つ必要があることは判っていました。端から見ていてちょっと可哀想だが、仕方なかったですね。公立進学校に進む生徒と、オール3くらいでせいぜい中堅校の男の子では、格差がありましたから。しかし、のび太の奴はエラソウに執着し、出来過ぎ君にライバル意識を持ちますね。なぜアキラメナイのか? しかもハッピーエンドが用意されているのは何故か?



でもね、漫画をよく考えてみると、社会のことが見えてきて面白いですよ。僕が面白かったのは、Q太郎の弟ののOチャンのことです。バケラッタ、バケラッタと言っているうちに、障害者の気持ちが少しだけ判ってくるような気がしました。本当は何を考えているのでしょうか、オーちゃんは。(『新・Oの物語』とかを作ってみたら良いのでは)
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