ガラパゴス通信リターンズ

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呪術の国

2006-01-19 06:05:15 | Weblog
 4年生のさよならコンパの席で、学生達が寄せ書きをくれた。ある学生は、マスコミを批判的にみることをゼミで学んだと書いた後に、こんなコメントを添えていた。「それにしても、『本当にあった怖い話』が、本当はないのはすごいショックでした」。「本当にあった怖い話」という心霊現象をとりあげる番組が、ゼミの時間に話題になったことがある。「あんなの迷信だ」とぼくは切り捨てた。彼女は、それにショックを受けたのだ。

 前世。死後の世界。そして様々な霊魂。こうしたものを信じている学生は、彼女だけではない。昨年の暮れに「天国からの手紙」という番組が民放テレビで放送された。「スピリチュアル・カウンセラー」を名乗る男が、肉親を亡くし悲嘆にくれる家族を訪ね歩く。そして、亡き人の「天国からの手紙」を届けるという趣向である。「天国からの手紙などあるはずもない。公共の電波を使って迷信を広めるなどとんでもないことだ」と1年生のゼミでぼくはいった。

 この発言が学生たちを怒らせた。いまの学校に来て、はじめてといってよいほどの反発にあった。「みんな感動してみていたのに、先生ひどい」。「じゃあ、あの手紙は誰が書いたのですか」と聞くから、「あのなんとかカウンセラーって男だろ」と答えた。「天国でどうやって手紙を書く。パソコンはあるのか。紙はあるのか」とぼくは応酬するが、彼女たちは納得しない。クラスの圧倒的多数の学生が、前世・死後の世界・霊魂等々を信じていた。

 アメリカ人の過半数が、世界は6000年前に神の手で創造されたという説を信じている。進化論を教えない州がいまでもある。迷信にとりつかれている点では、日本も同じようなものである。「中学校まではよくできた人たち」の集団が、「天国からの手紙」の実在を信じて疑わないのだから。これではまるで呪術の国である。それにしても、遺族の心情を弄ぶ、愚劣極まりない番組を垂れ流すテレビ局の免許など、取り消してしまえばよいのだ。