前回の続きで、問題についてチチパスのコーチのトリック・ムラトグルーがコメントしました。
長いですが要旨を掲載します。
「選手は試合で相手のことではなく、自分のプレーに集中している。自分が何をすべきか、どううまくやれるかにフォーカスしている。選手がトイレブレークを取るのは、ほとんどが尿意のためではない。リセットするための時間なのだ。だから、セットを落としたときに取るケースが多い。ひとりになって気持ちを落ち着かせて、次のセットを取るための方法を考えるのだ。ステファノスがトイレでしているのは、それだけだ。もちろんウェアを着替えてリフレッシュもするが、ロッカールームで一人になり、自分で考えるんだ。何を変えれば勝てるのかをね。相手のリズムを崩すためだけにトイレブレークを取っているという主張は馬鹿げている」
「彼はセットを取った直後にトイレブレークを取った。自分のリズムがいいのに、それを崩そうとはしないはずだ。そんなのは彼のメンタリティではない。周囲が評価すべきは2つのポイント。一つ目はステファノスがルールを守っているのかどうか。ルールを破っているのか? 彼はどのルールも破っていない。だから、不正だと言うのは正しくない。不正はルールを破ることである。2つ目は、トイレブレークがスポーツマンシップに反するというものだ。それも違う。何故なら、すべての偉大な選手は自分のことに集中しているからだ」
「トイレブレークは長すぎたのか、そうではなかったのか。スタジアムで観戦しているファンにとっては長過ぎたと思う。私は前から主張しているが、テニスの試合自体が長過ぎると思っている。6分のトイレブレークは長過ぎる。3分で十分だ。長くても5分か。私は以前からトイレブレークが長過ぎると、何度も何度も主張してきた。トイレブレーク自体は悪いことではない。でもルールを作る必要がある。ATP、WTA、ITFがルールを作るべきだと思う。トイレブレークの時間をルールで決めれば、それでこの問題は解決する」
「ステファノスが今年のフレンチオープン決勝でノバク・ジョコビッチ(セルビア)に負けたとき、2セットをリードしていた。そこでジョコビッチがトイレブレークを取り、戻ってくると試合の流れが完全に変わった。彼はそこから学んだ。ジョコビッチが自分のリズムを崩したと学んだ訳ではない。ジョコビッチがロッカールームで自分だけの時間を取り、気持ちをリセットして違った状態で戻ってきたことを学んだのだ。気持ちをリセットして勝つための方法を見つけるいい方法だと思った。それを彼自身が試してみたら、うまくいった。だから、それを継続している」
「選手名は挙げないが、ポイント間で多くの時間を取る選手、たくさんガッツポーズをする選手がいる。相手がサービスをする準備ができているのに、物凄くゆっくりコートに出てくる選手もいる。相手のリズムを崩そうとしている訳じゃない。自分にとってゆっくり歩くことがいいことだからやっている。相手がサービスの準備ができていて、待っていることなどほとんど気にしない。ステファノスのトイレブレークを批判している選手に限って、ファーストサーブとセカンドサーブの間に長い時間を取るものだ」
「ステファノスの仕事はテニスの試合に勝つことで、それに情熱を注いでいる。グランドスラム大会で勝つためにテニスをしており、それが使命でもある。まだ達成できていないが、そのために一生懸命やっているし、そのために生きている。彼は人々を満足させるためにプレーしている訳じゃない。彼はアスリート、競争者だからグランドスラム大会で勝つためにプレーしている。彼は人が大好きで、知り合いになれば物凄く優しい青年だ。私が知っている他の多くの選手よりも人のことを考えている」
「メディアには一つのことを一面からしか見えないようにする力がある。この数週間に起きているのは、まさにそれだ。ファンがステファノスに対して悪いイメージを持っているのは理解できる。メディアがそう仕向けているからだ。ステファノスが相手のリズムを崩すため、父にメールをするためにトイレに行っているように見せかけられている。事実はまったく反対だ。彼がトイレに行ったのは、気持ちをリセットしてコートを去ったときよりもいいマインドセット、クリアな頭で戻ってくるためだ。試合に勝ちたいからね。もちろん父にメールなどしていない。そんなことは考えてもいないし、できない。彼はアスリートだし、大会の係員がトイレまで一緒についていっている」
「ステファノスはイカサマなどしていない。今とても苦しんでいる。でも、謝ることができない。自分のやるべきことをしているだけなのだから。勝つために仕事をしている。他の選手同様、自分のことにフォーカスしている。この騒動はもちろん、彼に悪い影響を与えている。もし試合中にすべての観客が自分を敵視していたら、それはフェアじゃない」
「「物事が一方方向からしか見られていない」チチパスのトイレブレーク騒動の本質を語るムラトグルー氏 」(テニスマガジンONLINE)
原文を読んでいないので本意がわかりませんが、この記事の発言だけを見ると論理的整合性がありません。
彼は「相手のリズムを崩すためだけにトイレブレークを取っているという主張は馬鹿げている」と言っていますが、そもそも誰もそんな主張はしていませんし、もしそう主張している人物やメディアがいるとすれば具体的、個別に指摘するべきです。
またチチパスは「どのルールも破っていない。だから、不正だと言うのは正しくない」と主張するなら、ルールを作る必要もないでしょう。
ファンのためにルールが必要と言うなら、彼のブレークは不正ではないがやはり長すぎることは認めないと辻褄が合いません。
「トイレブレークを批判している選手に限って、ファーストサーブとセカンドサーブの間に長い時間を取る」という皮肉も、具体的に誰がそうなのかを言わないと、今回で言えばマレーやズベレフなど、この問題を批判している全ての選手を敵に回すことになってしまいます。
チチパスが「父にメールなどしていない」と断言しているのも、あくまで彼の推測でしかありません。
ならばズベレフの証言は嘘だということになり、どちらも具体的証拠が挙がらない以上、水掛け論にしかなりません。
それとも本人はメールしていなくても、父からのメールを見た可能性はあるとでも言いたいのでしょうか?。
翻訳に問題があるのかもしれませんが、自分のコーチしている選手をかばおうという意識が強いのか、騒ぎを大きくしたメディアを悪者に仕立て上げて、全ての問題を曖昧にしようとしている発言にしか聞こえません。
それが彼の役割だということならば、やはり彼は優秀なコーチなのでしょう。
もっとも、彼は試合中のコーチングを認める立場で、実際に“前科”もある人物ですので、今回の主張もそう考えれば、さもありなんといったところでしょうか。
※9/12追記
「ステファノス・チチパスのために一言だけ言わせてほしい。彼は何も間違ったことをしていない。僕は彼を応援するよ。問題はルールがはっきりしていないことだ。いろんな意見があるだろうし、議論になるけど、この数週間この話題で盛り上がっていた。彼はこれほどまでにメディアや人々から攻撃されるようなことはしていない。」
「「チチパスはこれほど攻撃されるようなことをしていない」準決勝後のオンコートインタビューで語ったジョコビッチ」
(テニスマガジンONLINE)
ジョコビッチもムラトグルーと同意見のようですね。
※2022/6/23追記
男子にもコーチングが試験的に導入されるとのことです。
「男子ツアーでコーチングを試験的に導入。肯定派のムラトグルーは「慣習を“合法化”したことを祝福する」と皮肉」(テニスクラシック公式サイト)
レベルの低い方にルールを合わせないといけないのは残念ですが、高額な賞金がかかるプロスポーツでは性善説が通用しないのが現実なのでしょう。