2月21日(月)八宝菜の悲劇

2005年02月21日 09時00分41秒 | Weblog
小学生の時N君という子がいた。
睫毛の長いキュートな顔立ち、スポーツ万能、勉強もできる、
とくれば女子が放っておくわけがない。

本当に非のうちどころの無い人だった。
性格も良かった。明るくて、優しくて、
女子はもちろんのこと男子からも好かれていた。

ある日の給食のこと。
その日のメインディッシュは八宝菜だった。
N君の好物らしく、朝から彼はテンションが高かった。
中でも具材のひとつのうずらの卵が殊の外お気に入りなようで、
大切そうにより分け、最後に食べようとしているらしいのが見てとれた。

他の具材を食べ終わってもN君はうずらの卵に手を出すのを躊躇していた。
食べたいのは山々だけれど、一気に食べてしまったら、
数週間に渡って楽しみにしてきたことが一瞬にして終わる…

考えあぐねて彼は、私の予想しなかった行動に出た。
お茶のコップにそのうずらの卵を移し、
給食時間が終わった後も、じっくりうずらとの別れを惜しみ始めた。

延長戦に入り、休み時間も彼はコップの中のうずらを眺め、うっとりとしていた。
そしてそれをクルクルと廻し始めた。
コップの中で高速回転するうずらの卵を見つめ
「イヒヒ、イヒヒ」
と笑い声を漏らすN君。
私はその異様な光景に目が釘づけになり、
友人からのゴム跳びの誘いも断り、ひっそり観察していた。

その時である。
遠心力でうずらの卵が飛ばされたのは!
卵はゆっくり孤を描いて埃だらけの床へと落ちた。

N君は「あ゛あ゛ぁ゛~~ッ」と獣のような声を出して、床に崩れ落ちた。
彼の自慢のバサバサの睫毛が、涙で湿っていたのを私は見逃さなかった。

私は思った。
「ええもん見た…」
コメント (14)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする