Daily Bubble

映画や歌舞伎、音楽などのアブクを残すアクアの日記。のんびりモードで更新中。

『空中庭園』

2007-07-23 23:15:04 | cinema
角田光代さんの小説は、読んでいないのです。直木賞を受賞した『対岸の彼女』は、何度か手にしたことがありますが結局読まずじまい。本を開くこともなく図書館へ返却してしまいました。
同年代のなんとなく親近感を覚える彼女の小説を読んで、共感してしまうことが怖かった。ベストセラーとなった小説の読者の一人になることが、公園の砂場の一粒になってしまうことのようで嫌悪感があったんですね。まったくくだらない虚栄心。
原作を読むことなく映画『空中庭園』を観たんですが、非常に良かった。言葉の選び方やキャラクターにはやっぱり近しい感覚があって、きっとそれは原作者と私との類似性なのかな。
冒頭の、ゆらりゆらりと俯瞰する新しく清潔で明るい街のシーンから、美しいのに不安定で定まらないフィルムに完全に魅了されていました。

東京郊外の大きなダンチに住む、どこにでもいる普通の母親が主人公。「家族の間で隠し事をしない」というルールのある明るくオープンな家族。会社員のパパとガーデニングが趣味のパートタイマーのママ、高校生のお姉ちゃんと中学生で少し引きこもり気味の弟。
朝から、自分が授かった場所を尋ねるお姉ちゃんと、テレながらもちゃんと答えるママ。
何の悩みも無いように見える家族が実はそれぞれに秘密を抱えていて、その秘密が徐々に家族の上に形を成していき、やがて家族は…。

というなんとなくどこかで聞いたことのあるようなストーリーなんですが、これが面白い。
俳優さんたちが、いいんですね。
女にだらしない駄目サラリーマンのパパに、板尾創路。仕事をそっちのけで欲望のままに女に走る(しかも、足フェチのM)。うだつの上がらない風のくたびれたサラリーマンがぴったり。話はそれますが、芸人としての板尾さんも好きでしたー。今となっては懐かしい「ごっつええ感じ」の「板尾係長」が好きでね。そうそう、あの「板尾係長」を思い出させてくれるパパ役でした。
いじめられっ子と引きこもりの過去を持つ明るいママが、小泉今日子。キョンキョンの母親役なんてまるでイメージになかったけど、よかった!後半の虚ろな目や、雨の中のラストシーンが印象的。
パパの愛人(22歳)には、ソニン。彼女の気の強そうな顔や肉感的な体が、愛人にぴったり。家族の前でパパをこっそりいたぶるのが、すごく楽しそうでよかった。
ストーカーじみた危ないパパのセフレ(お祖母ちゃんがパパの携帯に出て「セフレさんからお電話よー。フランス人かしら?」なぁんてとぼけてるのがおっかしかった!)に、永作博美(特別出演)。フォークソング(なのかな?)を大音量で流して現れる黄色いニュービートルが最高!
お姉ちゃんは鈴木杏ちゃんで、弟くんは広田雅裕。杏ちゃんの少し鄙たいお顔、好きなんですよね。
お祖母ちゃんには、大楠道代。こんなカッコイイお祖母ちゃん、他にいないよ。刺青姿の瑛太も、キレてていい。

舞台になるのは、家族の住むマンションと、ニュータウンと、ラブホテル「野猿」。
シュールにクレイジーなんですよ。
パパとママが子供を作ったラブホテルに、今はそのお姉ちゃんとボーイフレンドが、パパとセフレさんが、パパの愛人と弟(とお祖母ちゃん)が。
お姉ちゃんの裸が載っている雑誌をパパは見てるし、パパの愛人は家庭教師として弟くんを教えてるし。
小さな歪みがどんどん大きくなって、やがて暴発してしまうのね。

でもね、大丈夫なんです。
多少歪んでいて不恰好でも、やっぱり家族なんですね。
ずぶ濡れでくたびれたパパが、子供たちに言う台詞が素敵です。
ほら、女好きで遊び人のパパでしょ。もう、どうしようもなくいい加減な人なんですよ。愛人を追いかけてばかりいるような人なのね。
そんな彼でも、彼なりに家族を守っているんです。
潔癖な人には受け入れられないかもしれないけど、いい加減なパパがいい加減の枠の中で、精一杯家族を思っているんです。
だから、いい加減な私は「ま、いっか。」って飲み込んでしまうんです。

映像が、なかなか刺激的でした。
冒頭のゆれる街並みから、マンションが回転して空に描かれる「空中庭園」のタイトルがとても素敵で、ママの育てているベランダの植物や青い空なんかもほのぼのときれいで、癒されてしまいます。
一方で、マンションに流れる黒い血のような雨とか、ママに降り注ぐ血の雨とか、ぞぉっとするようなシーンも出てきて、対比が怖かったです。
ストーリーをなぞるだけじゃない説得力がありましたね。

音楽も良くって、主題歌はUAでした。
公開前に監督が覚醒剤所持で逮捕されてしまったんですね。で、公開がドタバタしてしまったようですが、もったいなかったなぁ。
いい映画ですよ。
この映画のいい部分が、薬物使用とは関係なく創造されたものであるものと願いたいです。

空中庭園HP


ところで、少し前にマイケル・ウィンターボトム監督の『24アワー・パーティー・ピープル』を観たんですが、こちらはバリバリにドラッグを映像化した映画でしたね。
マンチェスター・ムーブメントを疑似体験させてもらいました。音とクスリと女とダンス!それだけで一時代を飛んでしまったパーティー・ピープルたちの強烈な光を浴びて、ノックアウトされました。
サントラ欲しいなぁ。


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2 コメント

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板尾係長 (hide3190ymo)
2007-08-02 19:36:31
アクアさん、こんばんは。
急に暑くなりましたねー。

私も「ごっつええ感じ」の板尾さんのシュールなギャグが好きでした。

空中庭園、DVDで見ました。
ロケ地に港北ニュータウンが使われていて、
新興住宅街で暮らす人々の心の様子とかが描かれているようで、良かったです。
(ちなみに私は下町に住んでいます。。。)
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梅雨明けしました。 (アクア)
2007-08-04 23:24:36
今日も暑い一日でしたね。

板尾係長、ご存知でしたか!?
大好きだったんですよー、板尾さん。ご反応いただき、ありがとうございます

「空中庭園」のあの街は、横浜だったんですね。清潔で整然とした街並みと、そこに暮らす人の空虚な心のうちがうまく交錯していましたね。
私は古くからある曲がりくねった道に植木鉢がたくさん並んでいるような小さな街が好きですが、都市計画上こうした街が残っていくのは難しいんでしょうね…。
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