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平成イソップ物語 9: 一本の柿の木

2014年05月27日 | 連載中 平成イソップ物語


昔々、二つの山の間にある谷に一本の柿の木がありました。
それぞれの山には猿達が平和に暮らしていました。



*2

一匹の猿が谷の柿木を見つけました。
「こりゃ秋になれば立派な実をつけそうだ!」
ところが向こう山の猿も、こちらをじいっと見詰めていました。
「向こうの猿が採りそうだな!」


*3

この若猿は群れに帰り、長老に相談しました。
「谷の柿の木は、我々のものですよね?」
長老は昔の事は解らないが、関わらない方が良いと応えました。
すると、それを聞いた屈強な猿が言いました。
「それじゃ採られないようにすれば良いじゃないか?」


*4

最初、両方の山から数匹づつの猿が出て来て、互いに柿の木を挟んで睨み合うようになりました。
ある時、一匹が言いました。
「お前ら、採るんじゃないぞ!」
「おまえらこそ採るんじゃないぞ!」

その屈強な猿は皆に言いました。
「舐めらんじゃないぞ! 皆、手に棒を持って戦う姿勢を示せ!」
それを見ていた長老は、取り返しのつかないことになるぞと若猿達をたしなめました。

やがて谷に棒を持った二グループの若猿達が総出で対峙するようになりました。
そして、誰かが咳きをした切っ掛けに戦いが始まってしまいました。


*5

その年、谷に秋が訪れました。
柿の実は誰にも食べられないまま赤く熟しては地面に落ちていくだけでした。
よく見ると、苔むした碑には「勇者、ここに眠る」と書かれていました。



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