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我が家の同居者

2012年05月27日 | 楽しみ

 今日は我が家で暮らし巣立っていたものを紹介します。それはアゲハチョウで、ひょんなことから物語は始まりました。それには微妙な感傷と愛おしさ、感動がありました。

 我が家では家庭菜園を行っており、おかげで多くの野菜が食卓に上ります。しかしその大事な葉っぱを青虫やアブラムシが食べ尽くしてしまいます。私にとって虫は憎むべき相手となっていました。ところがある日、妻がニンジンの葉をコップに生けて、「アゲハチョウの幼虫を飼いましょう」と居間に持って来た。これはその日の食卓に上る野菜に付いていたのでした。その毒々しい斑模様、ぼってとした大きな体、始めは奇妙な隣人でした。読書の傍らで、せっせと細い葉っぱや茎を自在に動き回り、食い尽くして行きます。

 見ている内にその優れた身体の能力に驚かされることになりました。細い茎を実に器用に渡り歩くのです。その茎は大きく弓なりに曲がります。下半身にあるパッドのような足で体を支え、上半身のかぎ爪のような手で、渡るのです。ある時、ひやっとすることがありました。幼虫が1mの高さから床に落ちたのです。これで終わりかなと思ったのですが、やがてもぞもぞと動き始めました。その時、閃きました、あのぼってとした体は墜落の衝撃を吸収する為だったのだろうと。



 ところが慣れて来たある日、突如としてその体は消えて、近くの鉢植えの支柱に蛹となってぶら下がっていました。まるでザイルで固定したロッククライマーのように。そうこうするうち、蛹が割れていて中身はありませんでした。隅の暗がりから、伸びきっていないらしい羽根をパタパタとさせているのをようやく見つけました。こうなるとお別れの時期が来たようです。やがて部屋中を飛び回ることが出来るようになりました。次の日は小雨でしたが、羽根の濡れるのを心配しながら窓から追うようにして逃がしました。寂しさが胸をよぎりました。

 それから毎日庭先に出るようになりました。数日後の快晴の日、一羽のアゲハチョウが私の近くを飛んで去って行きました。私には、その蝶が居間で育てたものに思えました。短い一生を共に暮らしたひとときでした。


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