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ピケティの資本論 23: 私達の心に潜む厄介な心理 1 

2015年06月05日 | 連載完 ピケティの資本論

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ピケティは格差の是正に世界的な課税が不可欠としています。
しかし、ある心理が邪魔をすることになります。
これから数回にわたり、格差是正に踏み出せない厄介な心理について考察します。


はじめに

人々が格差是正に踏み出せない最大の壁の一つは、おそらく「未来」に対する意識でしょう。

未来に問題があるのではありません。
問題の始まりは、未来に希望がある人と、既に希望がない人、今は感じていないがいずれ希望が断たれる人に分かれることにあります。
この問題の核心は、「未来」に対する各層の意識が大きく隔たる中で、社会の中核を担う層が「未来」をどう認識するかにかかっています。

社会は未来に適正な対処が出来るのか?
人の心理は、現在と未来に同じ事が起きるとしたら、現在を重視する傾向があります。
逆に言えば、人は遠い未来に起きる災厄を無視する傾向があります。
これは自然の心理と言えます。

一方、人類はこれと相反する心理、「心配性」(ホルモンの分泌)を進化の過程で得ました。
これこそは人類が好奇心によって新しい事に取り組みながらも未来で災厄を免れ得る大きな理由です。

それでは、社会は未来の災厄にうまく適応出来ているのでしょうか。
ここで一つ注意すべきポイントがあります。
民主的な社会において、大多数を占める中間層が、社会の不適応状態―未来で起きる災厄の兆候、をどう捉えるかがネックになります。
実は歴史上、中間層が社会の適応を誤らせることがあります。



< 2.各国の所得格差、「21世紀の資本」より >
解説: ドイツを-◆-で示す。黄枠はヴァイマル共和政時代、赤枠はナチス独裁開始から大戦開始までを示す。ヴァイマル共和政時代は格差が低下したが、ナチス時代は急激に悪化した。


歴史上の例を一つ挙げます。
第二次世界大戦を始めたナチスを支えたのはどのような人々だったのでしょうか?

当時、政党は左派と右派で細かく分裂していました。
突撃隊のような武闘集団には血気盛んな青年が参加しましたが、ナチスが国会で第一党になるには中産階級の強い支持が必要でした。
この中産階級とはホワイトカラー、商工自営業者、医者、公務員などを指します。
彼らがナチスを支持した理由は、中産階級の保守的で権威主義的な性格からだとされています。
当時の中間層が生活基盤を失うことを恐れ、進行中の改革を拒否し、また混乱を収束させる為に強権に頼ったからでした。
そのことで、逆に悲惨な結果を招いたことは周知の事実です。


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まとめ
民主的な社会において、一部に問題が起きていても、中間層を含めた過半数がそれを無視し、その問題が放置されることはあります。
さらに、社会が不適応を起こしていても、中間層は現状維持か過去への復帰に固執し、改革に対して積極的に阻止の行動をとることもあります。
これは、彼らが未来を適確に予想出来なかったからとも言えます。
中間層の知識水準は高いのですが、よほど事態が切迫しない限り、彼らは現状打破へと腰を上げないようです。

次回、具体的に格差の進行を例に中間層の立場を考察します。




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