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戦争の誤謬 19 : 誤謬を乗り越えて

2012年10月19日 | 連載完 戦争の誤謬

< 自衛隊 >
今回より、この連載のまとめに入ります。

若干の補足と戦争予防の方向性を簡単に示し、最後にまとめを行う予定です。

今回は、いくつかの補足事項を簡単に取り上げます。


なぜ人は自分の非を認めないのか。
通常、人は自分への肯定感なしには生きていけません。自己否定が極端過ぎると、いわゆる心の病となります。つまり非を認めないのが普通と言えます。しかし失敗や過失の原因を突き止め、改善策を講じることは常ですし、まして社会関係を良好に維持するにも不可欠です。同様に、私達は属する社会の問題点を歴史から学び反省することは重要です。一方、社会や組織の過失や非を認めることは、個人的な場合よりも一層強い抵抗があり、特に日本の文化ではそれが顕著です。例え自虐的と揶揄されても、人類の智恵を積み重ねる努力をするべきです。

なぜ人は嘘を憎むのか。
人は都合の悪い事実を隠し、あるいは責任逃れや嘘をつくことがあります。しかしこの行為は、事が重大であればあるほど相手から反感を買い、その事実以上に問題が大きくなります。それはなぜでしょうか。その理由は「心の起源 連載9」に進化論的、心理学的に解説しています。
こんな例があります。ある事で差別される可能性のある青年が、新しい友人と付き合い始めた時、その事をわざわざ告白したのです。私がその事は秘密でもいいじゃないですかと問うと、彼は「大事な友人を失いたくない」と答えました。彼の勇気と真実の重みに人間の崇高さを感じました。

都合の良い情報で納得する例。
日本が過去1世紀の間、対外戦争に突き進んだこと、隣国に災いをもたらしたことについて私が語る時、よく指摘される反論があります。一つは米国との戦争は連合国側による経済封鎖によって仕向けられた。もう一つは台湾の人は日本の占領を非難していないと言うものです。
前者の論理の問題点は、日清戦争に始まる軍部の独走を無視しています。さらに現在、世界で無法国家を封じ込める最も良い手段は経済封鎖であって、これを理由に日本が暴走し始めたとするには無理があります。一つだけ頷けるのは、あそこまで戦域を拡大し暴走している最中に急ブレーキでは逆効果と言えますが、スピード違反を取り締まる警官が許してくれる言い訳とはならないでしょう。

日本の占領政策で、台湾では悪感情を持っていないのに朝鮮半島で憎まれていることに違和感を持つ人は多いはずです。この違いの理由は主に二つです。一つは、地政学的に朝鮮半島は重要な位置にあった(侵攻ルートで補給基地)。もう一つは、台湾に較べ朝鮮半島は文化と産業・国政が成熟しており、一方台湾は当時、中国支配に苦しみ、先住民も含めて統一政体の態をなしていなかった。この状態で日本が支配を始めると、朝鮮には厳しい統制、日本文化強制と供出体制を強いることになり、強い反発が生じました。一方、台湾には、中国勢放逐後の政治・経済・産業・教育をほぼ一から育成することになり、このことが感謝されることに繋がりました(そうでないと軍需物資供給が出来ない)。
こうした両者の食い違いが、日本への評価を分けたのです。台湾、台北の観光名所に忠烈祠がありますが、この巨大な本殿には当時、日本軍の侵攻に立ち向かって戦死した人々の位牌や写真が祀られています。



< 新撰組 >

日本の強さと弱さ。
戦争(富国強兵策)に関わる事柄ついてだけ述べます。明治維新は下級武士による革命で、新政府の担い手は末端まですべて侍精神を堅持していました。徳川時代から武力行使は影をひそめていたのですが、倒幕運動から日清戦争までを見ると、明らかに武力重視の姿勢(侍精神)は脈々と生きていたのです。つまり日本は、極論すれば封建制内で将軍から天皇に首をすげ替えることにより近代化を成し遂げたのです。例えば共産主義政体で市場経済を取り入れたようなものです。これが日本を他の東アジアを尻目に唯一の強国に成し得た理由の一つでした。
しかしこれが問題でもあったのです。この封建制の残滓(民主主義の未熟)から、敗戦まで遂に自身で脱することが出来なかったのです。このことが半世紀にも及ぶ軍事国家へと邁進させ、自滅の道を進んだのです。但し明治維新で日本が一丸となって富国強兵策を取ることが出来なければ、大国に侵略され分割された朝鮮半島や一時のベトナムのようになった可能性もあります。

日本とドイツの類似性。
この日本の生い立ちはドイツと似ており、国民性にも類似があります。ドイツは20世紀初頭、労働者革命を起こしますが、日本の明治維新よりもプロシア帝政の主要体制(貴族、軍部、資本家)を保持していたのです。このことと権威主義的な国民性が相俟って、ファシズムの先鋒となったのです。日本の陸軍は、ドイツの軍隊方式によって改革を行ったことと、その強さに惹かれ、プロシア帝国に親近感を持っていました。さらに封建制の残滓と権威主義的性格が同様にファシズムに走らせ、手を握ることにもなったのです。

軍隊・軍備について。
これまで、くどいほど戦争と軍隊の問題点を述べて来ましたが、軍隊や軍備が必要ないとは思いません。日本は治安が良いから警察を無くしても良い、そのようなことにはならないのと同じです。拳銃を持った警察があるからこそです。しかし米国のように拳銃の所持を個人レベルまで自由にさせると、逆に危険が増します。暴力から社会を守る体制と意識は必要です。しかし見てきたように、軍隊の暴走や運用の問題が幾度も生じています。この両刃の剣を制御する智恵が求められています。若干、後に触れます。

残虐行為について。
この連載では、米と日本の残虐行為を主に取り上げましたが、それは単に資料が揃っていることと、日本の戦争の真実を説明する為でした。通常、戦地で起こる残虐行為は、敵との報復合戦で加速していくものです。当然ベトナム、朝鮮、中国それぞれに残虐行為はあったのですが、割愛しています。

本来、動物には残虐を目的とした行動がないはずです。それは勝敗をつける為か、餌にするための攻撃でしかありません(若干別の目的も有り)。しかし人類は感情(愛と憎悪)を非常に発達させたことにより、残虐性を目的とする行為が生まれたようです。詳しくは、連載「心の起源」で解説しています。一方で人類は残虐性や無益な攻撃を避ける文化も創って来ました。これらのことは総べての人類に共通した本性であり、文化なのです。ただその社会が軍事社会や封建社会、争いが定常化している場合は、残虐性の度合いが強くなります。

偏らない見方
私がこの連載を書いた一番の理由は、皆さんに戦争や隣国への誤解と偏見を無くしてもらうことです。皆さんは非常に重要な事柄であっても、自分自身で調査し熟考する時間はありません。例えば、原発問題、地球温暖化、資源枯渇、戦争、地震や津波などはいずれ問題になることは明らかです。既に幾つかは大きな問題を起こしてしまいました。このことに警鐘を鳴らした少数派はかつていましたが、連載「原発問題の深層」で取り上げたように、目をそらされ、都合の良いように納得させられていました。

戦争と隣国との付き合いについても同じことが言えます。私としてはとりあえず、偏見や誤解を解きほぐし、真実を知ることから、次の一歩を踏み出す準備としたいのです。


次回から、戦争を防止する方法について考えて行きます。方向性を示すだけになるでしょう



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