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前回、所得低下が招いた経済悪化を見ました。
今回は、身近で起きている弊害を見ます。
雇用形態の変化がもたらした弊害
一つは労働意欲の低下です。
今一つは、人材育成(熟練者、社員教育)と経営姿勢(長期ビジョン)の劣化です。
要点を分けて見ていきます。
労働意欲の低下は何をもたらしたか
皆さん、非正規雇用(不定期、短期、高頻度の配転)の増えた職場を想像して下さい。
そこでは正社員や各雇用形態間の齟齬、職場への愛着低下、やり甲斐の欠如が起きています。
これで、かつてのように自主性を持ち、職場で意志の疎通が図れ協力して仕事が出来るでしょうか。
さらに職場が一丸となって改善を行うことが出来るでしょうか。
ブラック企業は無給で従業員を酷使することが出来ても、自主性までは引き出せないでしょう。
労働意欲の低下による弊害
単純作業の生産においても能率低下や品質悪化は起こります。
自動機による生産現場でも、管理やトラブルの復旧作業で効率低下は生じます。
創意工夫が必要な職場の改善から開発まで大いに低下するでしょう。
極めの細かなサービス提供や組織的に働く職場でも全体的に能率が低下するでしょう。
やがて総べての企業や職場で意欲低下と効率低下が蔓延していきます。
特に日本のように個人ではなく組織重視の風土にあって弊害は大きいはずです。
「赤信号、皆で渡れば怖くない」でしょうか。
< 2. 日本の成長要因の変化 >
労働意欲の低下がもたらす経済悪化を概算します
非正規労働者(人口比38%)が意欲低下を起こし、生産性を平均15%低下させたとする。(数値は直感によります)
正規労働者(人口比62%)の意欲低下は無いが、組織力の低下で生産性を平均5%低下させたとする。(数値は直感によります)
すると、全国の生産性は8.8%の低下となる。
(生産性の減少率=38%*(-15%)+62%*(―5%)=―8.8%)
これが25年間で徐々に進行したとするならGDPが毎年0.34%低下したことになる。
これがグラフ2の全要素生産性A(1955~70年で4~3%)をそれ以降の1~0.5%に低下させた要因なのだろうか。
全要素生産性にはまだ商品開発や生産技術開発の効果が残っている。
意欲が低下した職場の雰囲気は悪化することはあっても良くなることはないだろう。
経営者が実力を発揮したところで、このマイナスを埋め合わせることが出来るとは思えないのだが。
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さらに将来にわたる弊害がある
先を見越すと恐ろしい光景が広がっている
現在、不定期で採用されている労働者のスキルアップはどうなるのだろうか。
かつて、企業が従業員に職場体験(OJT)を通じて長期的に教育を行って来た。
これは費用が掛かったが長い目でみれば実りのあるものだった。
しかし現状が続くと、不定期採用の多くは教育されず熟達することなく、ついには単純作業以外が出来なくなってしまうのではないだろうか。
当然、専門技能を生かしたアウトーソーシング(業務の外部委託)は必要ですが、それ以外が遥かに大きくなってしまったことが問題です。
将来、これが大きな社会的損失になるだけでなく、社会や企業がその人々を囲い込み、格差の定着を生むことになる。
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もう一つの弊害
労働の悪化だけでなく、組織運営の悪化も進行しています。
例えば、公共設備(図書館、公園)などの管理運営を外部委託することです。
多くは短期的な契約更新になるので、受託事業体は長期的な視野を捨て、日々のコストカットだけに血眼になります。
狙いが人件費削減であり、住民サービスはおろそかになり、コストパフォーマンスは低下します。
これでは、それまでの資産と労働者を使い捨て、客様も離れていくでしょう。
専門性のある外部委託を生かし、うまく目標設定(営利目的)出来ればが良いのだが。
結論
結局、短期的視野で経営や経済を扱うようになり、職場と労働の質を低下させ、これまた長期的に経済を悪化させることになる。
現在起きている社会現象は、「悪貨は良貨を駆逐する」状況に似ています。
これを日本社会の安全に例えてみましょう。
もし銃が大量に持ち込まれて殺傷事件が頻発するようになると、やがて国民は銃所持を容認し、最後には銃犯罪が以前より格段に発生してしまうことになります。
次回、現状を正当化する幾つかのデマを検討します。
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