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安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

金明竹(本編)

2006年01月20日 | 落語
主人:  (与太郎に)おまえひとりで留守番したってわからないから、お客さまが来たら、奥へ、そう言うん
だヨ!
与太: うん
主人: うん・・・・てェんじゃない。ハイっていうんだ!
与太: アッハァ、行っちゃったヨ。アッハァ、もう、こいで、こごと言われやしねえ。朝から晩まで、のべつ、
こごと言われる。何言われたかわかりゃしねえ・・・・だだ、口がパクパク動くだけだ。爪とれ爪とれ
って言うから、猫の爪とったら、あれはとっちゃいけねえって言いやがる。ソロバンけとばしたら、
けとばしちゃいけねえって・・・・、またいだら、商売もんだからまたいじゃいけねえんだって言いや
がる。なんでもきれいにしろって言うから、お庭の石灯籠、タワシで磨いたら、あれは磨いちゃいけ
ねえんだって・・・・。何していいんだかわからねえ。水まけ水まけって言うから、二階まで水まいて
やったんだヨ。それを、なんだい・・・・
使い: ちょいとごめんやす。だんなはん・・・・おうちだすか?
与太: エッ?
使い: お家(イエ)はんは?
与太: エッ、なに?
使い: あんた、でっちはんだすか?あのなッ、もう、あの・・・・どなたもおいでやおまへんのか?チョットと
おことづて願います――
        カガヤ サキチ   サン                               センドナカガイ ヤイチ
わてナ、加賀屋佐吉から参じました。(始めはゆっくり、だんだん早口で)先度仲買の弥市が取次ぎまし
      ナナシナ   ユウジョ コウジョ ソウジョサンサク ミトコロモン  ビゼンオサフネ ノリミツ  シブイチ
た道具七品のうち、裕乗光乗宗乗三作の三所物ならびに備前長船の則光、四部一ごしらえ
ヨコヤソウミン          ワキザシ     ツカマエ            フル                      
横谷宗小づか付きの脇差ナ、あの柄前はだんなはんが古たがやと言やはったが、あれ、
ウモレギ                                         
埋れ木やそうで、木ィが違うておりますさかいにナ、念のため、ちょとお断わり申します。次は
            オウバクサンキンメイチク     ハナイケ      カワズ                           
のんこの茶碗、黄檗山金明竹ずんどの花活、古池や蛙とびこむ水の音と申します・・・・ありゃ、
フウラボウショウヒツ      タクアンモクアンインゲンゼンジ                                      
風羅坊正筆の掛け物、沢庵木庵隠元禅師張りまぜの小屏風、あの屏風なァもし、わての
だんなの檀那寺が兵庫におましてナ、ヘイ、(ひどく早口で)その兵庫の坊主の好みます屏風
じゃによって、表具にやり、兵庫の坊主の屏風になりますとナ、ハッハハハハ、かよう、
おことづて願います――
与太: こりゃァおもしろいや。何を言ってんだか、ちっともわからねえや。おアシやるから、もういっぺん
やってごらん
使い: わて、物もらいと違いまんがナ。どなたもおいでやおまへんのか?
  そんなら・・・わて、中橋のなァ、加賀屋佐吉かたから参じました。先度仲買の弥市が取次ぎまし
た道具七品のうち、裕乗光乗宗乗三作の三所物ならびに備前長船の則光、四部一ごしらえ横谷
宗小づか付きの脇差ナ、あの柄前はだんなはんが古たがやと言やはったが、あれ、埋れ木や
そうで、木ィが違うておりますさかいにナ、念のため、ちょとお断わり申します。次はのんこの茶碗、
黄檗山金明竹ずんどの花活、古池や蛙とびこむ水の音と申します・・・・ありゃ、風羅坊正筆の
掛け物、沢庵木庵隠元禅師張りまぜの小屏風、あの屏風なァもし、わてのだんなの檀那寺が
兵庫におましてナ、ヘイ、その兵庫の坊主の好みます屏風じゃによって、表具にやり、兵庫の坊主
の坊主の屏風になりますとナ、ひとつ、かようにおことづて願います――
与太: こりゃァおもしろいや。何度聞いてもわからねえ。ひょーごのひょーごの、ひょーごのひょーごの・・・・
だからナ。・・・・伯母さん、来てごらんヨ。よくしゃべる乞食がきたよ――
妻: 失礼なこと言うもんじゃないヨ。・・・・いらっしゃいまし。少し前から、親戚から預かりましたオロかし
い者でございます。ちょいと店番をさしとく間(マ)に、とんだそそうをいたしまして、どうも相すみませ
ん。・・・・お茶を持ってらっしゃい
  あのう、どちらからいらっしゃいましたか?
使い: はあ、あんた、お家(イエ)はんだっか?
妻: 何でございますか?
使い: いえ、お家はんだんナ?
妻: お湯屋さんですか? お湯屋さんは、もう少し先でございます
使い: だんなはん、お留守でやすか?そやったらナ、ちょっとおことづて願います――。
  わて、中橋のナ、加賀屋佐吉かたから参じました。先度仲買の弥市が取次ぎました道具七品の
うち、裕乗光乗宗乗三作の三所物ならびに備前長船の則光、四部一ごしらえ横谷宗小づか付き
の脇差ナ、あの柄前はだんなはんが古たがやと言やはったが、あれ、埋れ木やそうで、木ィが違う
とりますさかいにナ、念のため、ちょとお断わり申します。次はのんこの茶碗、黄檗山金明竹、
ずんどの花活、古池や蛙とびこむ水の音と申します・・・・ありゃ、風羅坊正筆の掛け物、沢庵木庵
隠元禅師張りまぜの小屏風、あの屏風なァもし、わてのだんなの檀那寺が兵庫におましてナ、ヘイ、
その兵庫の坊主の好みます屏風じゃによって、表具にやり、兵庫の坊主の坊主の屏風になります
とナ、かようにおことづて願います――
妻: お茶を持ってらっしゃい、早くお茶を・・・・
使い: いえ、もうもう、かもうてくれまンな、ぶうぶう(湯茶)けっこうだす。わかりましたか?
妻: あのゥ・・・・、これに小言を言っておりまして、ちょいと聞きとれなかったんですけど、もういっぺん
おっしゃっていただきたいんですが・・・・
使い: あー、さよか・・・・。わて、でっちはんに二ン度、あんさんに一度、口すっぱくなんねン。よう聞いと
くんなはれや。・・・・わて、中橋のナ、加賀屋佐吉・・・・知ってまっしゃろ?茶道具やっとりまんねン。
ヘェ、加賀屋佐吉かたから参じました。先度仲買の弥市が取次ぎました道具七品のうち、
裕乗光乗宗乗三作の三所物ならびに備前長船の則光、四部一ごしらえ横谷宗小づか付きの
脇差ナ、あの柄前はだんなはんが古たがやと言やはったが、あれ、埋れ木やそうで、木ィが違う
とりますさかいになァ・・・・よう聞いとくんなはれや、木ィが違うとりますさかい、念のため、ちょと
お断わり申します。次はのんこの茶碗、黄檗山金明竹、ずんど切りの花活、古池や蛙とびこむ水の
音・・・・ようおますか?古池や蛙とびこむ水の音と申します・・・・ありゃ、風羅坊正筆の掛け物。
沢庵木庵隠元禅師張りまぜの小屏風、この屏風はなァもし、わてのだんなの檀那寺が兵庫におま
してナ、ヘイ、この兵庫の坊主の好みまする屏風じゃによって表具へやり、兵庫の坊主の屏風に
いたしますとナ、ハッハッハ、かよう、おことづて願います。ホナ、ごめんやす・・・・
妻: もし、あなた、ちょいと! ・・・・ホーラ、ごらんなさい。まるっきりわからないうちに帰ってしまった。
だから、お茶を持っといでと言うのに――。持って来てさしあげれば、もういっぺんうかがえたのに
・・・・。だんなが帰ってきたら、なんて言うの? おまえは、わたしより多く聞いていたんだから、
覚えてるだろう? 最初のほうはどう?
与太: ンー、ぼんやりしてる
妻: なかのほうは?
与太: モヤモヤっと・・・・
妻: じゃァ、終いのほうは?
与太: まるっきり・・・・
妻: だめじゃァないかい
与太: 知らねえや。伯母さん聞いてたんだもん――。ひょーごのひょーごの・・・・だ、おれのせいじゃ
ねえやァ・・・・ッと
妻: しょうがないねえ、いくらバカだって・・・・。 (帰って来た主人に) お帰んなさい
主人: ハイ、なんあい、また小言かい?
妻: いま、おひとが見えまして、お茶を持っといでと言ったのに、棒立ちに立っておりまして、ゲラゲラ、
大声出して笑ってまして・・・・
主人: バカだからしょうがないヨ、お茶は、おまえさんが出さなけりゃいけませんよ。あのぅ・・・・どちらの
かたがいらしたんだい?
妻: お帰りになったばっかりなんですの。そこらで、お会いになりません?
主人: 会わなかったよ。どちらのかた?
妻: あちらから・・・・
主人: いえ、あのゥ、どんな人なの?
妻: こう、頭がありまして、目があって・・・・
主人: おまえ・・・・与太郎がウツったんじゃないか? どちらの人――あちらの人・・・・ってのはない。
どんな人――こんな人・・・・って、かっこうこしらえたっていけない。どこの何でェ人が、どんなご用
でいらしたってェの?
妻: いま、お帰りになりました――
主人: あんなことばっかり言ってるね。お帰りになったから会えなかったんじゃないか!
妻: それが・・・・あのゥ、上方のほうの人のおことばのようですし・・・・、それに、早ことばだもんですか
ら、聞きとれないところが、ところどころあるんです。ゆっくり聞いていただければ、思い出しながら
お話いたします
主人: ゆっくり聞きましょう――。どちらのかた?
妻: いま、お帰りになりました
主人: あんなことばっかり言ってる。何だってェの?
妻: あのゥ・・・・、あッ、中橋の加賀屋佐吉さんてかた、ご存じ?
主人: ああ、同業ですよ、同じお仲間だ・・・・茶道具やってる人。その人がきたの?
妻: いえ、そこのうちのお使いで・・・・。仲買の弥市さんてかた、知ってますか?
主人: ああ、うちへ来たことあるや、おまえも会ったことあるだろう
妻: そ、そのかたのお使いのかたで・・・・あのゥ・・・仲買の弥市さんが気がちがいました――
主人: エッ! 弥市が気がちがった?
妻: ええ、気がちがいましたから、お断りにうかがいました
主人: それがおかしいなあ・・・・。まァ、いいから言ってごらん。そいでどうしたの?
妻: 遊女を買ったんです・・・・遊女を買ったら、それが孝女なんで・・・・
主人: うん・・・・
妻: 掃除がすきなんで・・・・
主人: ああ?
妻: で、千艘(センゾ)や万艘(マンゾ)ッてあそんで、しまいにこれを、ずんどう切りにしちゃった・・・・
主人: わからないなあ・・・・。それからどうした?
妻: 隠元豆にタクアンばっかり食べてるの・・・・
主人: 妙なもん食べるんだなあ――。まァいいから、それから話してごらん。どうしたの?
妻: 何を言っても、ノンコのシャー
主人: きたないねー。それで?
妻: 備前の国へ親船で行こうと思ったの
主人: ヘンだね、備前の国へ親船で?
妻: 親船で備前の国へ行こうと思ったら、兵庫へ行っちゃったんです
主人: 兵庫・・・・。それで?
妻: 兵庫にお寺がある・・・・そのお寺に坊さんがいるんですって――
主人: あたりまえだ、お寺にゃ坊さんがいますよ。それで?
妻: 坊さんのうしろに、屏風が立ってんですの
主人: ああ・・・・
妻: その屏風のうしろにまた坊さんがいるんです。で、そのうしろに屏風があって、坊さん、屏風・・・・
これ・・・・・・何でしょう?
主人: 何を言ってる、まるで子どものナゾかけだよ、それじゃ・・・・。
  まるっきりわからないねえ・・・。仲買の弥市が気がちがいましたから、お断りにまいりましたてェ
んね? 遊女を買ったら孝女で掃除が好きで・・・・ずんどう切りにしちゃった。隠元豆にタクアン
ばかり食べて、何を言ってもノンコのシャー・・・・。わからないなあ。
  備前の国へ親船で行こうと思ったら、兵庫へ行っちゃて、兵庫に、お寺があって坊さんがあって
屏風が立ってて坊さんがいて・・・・これなあに?・・・・いやだよ、ほんとうに――。
  話は,十(トウ)のとこ五つわかれば、あとの半分は察するというが、おまえの話は察しようが
ないじゃないか。はっきりしたとこ、ひとつぐらい覚えてないか?
妻: あッ、思い出しました。古池にとびこみました!
主人: エッ、古池へとびこんだの!? あの人にゃ道具七品ってェもんが、あずけてあンだが・・・・
あれ、買ってかな?
妻: いいえ、買わず(蛙)でした――
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