安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

寿限無

2006年01月09日 | 落語
寿限無

※ものに流行り廃りがありますように、人様の名前にも流行り廃りがあるんだそうで最近は女の子の名前に、何子と、下に子の字の付く名前ってのは割合、減ってるようですね。子の字を取っ払っちまって、なんかこう可愛らしい、可憐な、そう言う名前が流行ってるようでこないだも、うちの近所で、小学校の2,3年生位の女の子ですが、5,6人遊んでましたんで試しに端から名前を聞きましたけどよく似てます。えみ、とみ、ゆか、みか、りか、社会、国語・・・
まァ子供が生まれますと名前を付けなくちゃァいけないと言う、親御さんにとって、嬉しい苦労があるようですが・・・

(亭) おっかぁ。赤ん坊大きくなったか?
(女) なァにを言ってんですよォ、すぐに大きくなる訳ァありませんよ。きょうでなぬかめですよ。
(亭) ああ、初七日?
(女) 縁起のないこと言うんじゃない。お七夜ですよ。
(亭) おしちや? 子供を質屋へ連れて行って「おやじ同様、よろしくおたの、申します」
(女) おまいさん、何考えてんの?えゝ? 今日はね、名前を付けなくちゃァいけないんだよ
(亭) あァ名前ね。おれにも名前あるんだよ。どーゆー名前がいいかな
(女) そうだねェ、初めて生まれたのが男の子だから、強そうな名前がいいね
(亭) 強そうな。じゃー、らいおん太郎ってのは
(女) おまいさん、ふざけないで、決めておくれよ
(亭) んなこと言ったて難しいんだよ。じゃどうだいおっかァ、この先どんどん子供産むんだろ。
わかりやすいように、男の子その一ってのは
(女) おまいさん、何考えてんの?自分の子なんだよ
(亭) や、おれだってわからねぇんだよ!んーなんかいい手はねえかね
(女) そォだねー。あたしも前々から考えてはいたんだけど。じゃおまいさん、こう言うのはどうだい。
お寺に行ってね、お坊さんに名前付けてもらうの
(亭) 寺の坊主?っおい、よせよォ、おい。坊主ってのは人がくたばると喜ぶんだぞ、おい。
名前つけてもらって、続くすぐその場でサ、あの世へ行ったって面白くねェじゃァねェか
(女) そうじゃァないよ。昔からね、凶は吉に帰るってたとえがあるんだよ。
それにお経の中には、おめでたい、長生きするような言葉がどっさりあるって、
あたしゃ、聞いたことがあるから。ね、お坊さんによく訳を話して、名前つけてもらったらどうだい
(亭) おァ、なるほどォ。あァ、そらいいかもしれねえな。よしわかった。
じゃおれ、これから檀那寺行ってくるから

(亭) おたの申します。おたの申します!
(坊) はい、はい。あーぁ、これはこれは杉田さん、おいでなさい。
(亭) えー実ァね、和尚さんに、チョイとお願いがあって伺いましたが
(坊) んー?なんじゃな
(亭) がきが生まれましてね
(坊) お子さんが、あーそれはめでたいな。
(亭) それで和尚さんにね、名前を付けてもれーてーんですよ
(坊) ほー、わしが名付け親。あーそれはありがたいナ。どの様な名前がよろしかろう
(亭) へェ、かかぁが言うにはね、めでたくって、長生きな名前がいいって、こう言うんですよ
何かこう・・・・死なねえ保険付きというような、すてきな名前をお頼みもうします
(坊) ほー、長生きな。じゃどうじゃ、鶴は千年という。鶴之助、鶴太郎は
(亭) あー、鶴之助、鶴太郎ねぇ。でも、千年で死んじゃうんでしょ?そらーかわいそうだよ。
もっと長生きすんの、ありませんか
(坊) 亀は万年と言う。亀之助、亀太郎はどうじゃ
(亭) 寄席で漫才するみてーだね。ォィ。でも、そりゃおかしいや。だってね、こないだ隣のがきが亀
買ってきたんですけど、次の日に死んじゃいましたよ
(坊) んー、なんじゃ、それは、その日が丁度、万年目だったんじゃな
(亭) へー、そーなんすかねー。でも、万年で死んじゃうんでしょ?
もっとずーーっと長生きすんのァありませんか。どんなことがあっても、死なねェっての
(坊) そりゃァちと無理じゃ。昔から、おぎゃァと生まれたものは死する始めとある
(亭) ですからね、そこを何とかおねげーしますヨ
(坊) なんとかと言われてもなー。おっ、そうだ。いいことを思い出しました。
無量寿経という、ありがたい経文の中に寿限無というのがあるがどうじゃ
(亭) はー寿限無。なんです?そりゃ
(坊) 「ことぶき、かぎりなし」と書いて寿限無。おめでたいなー
(亭) ほー、ってェとなにかい?目出てェのが、ずーっと続くんだァ。へっ、そりゃよさそうだね。
まだほかにありますか
(坊) 五劫の擦り切れというのがある。
(亭) ちょいと待ってくださいなー。そのごぼうの擦り切れってェのはよくねェと思いますが
(坊) あーこれがおめでたいな。
(亭) ほー、どうめでてェんです?
(坊) わからんか? 五劫だ。三千年に一度、天人が雲の上から天下りをして、地上の岩を羽衣でこする。
その岩が擦り切れて無くなるのを一劫と云う。それが、五劫、果てしがないも同然じゃ
(亭) と、なにかい? 杉田、五劫の擦り切れってんですかィ。おもしろいねーこりゃ。
ん、ほかになにかありますか?
(坊) 海砂利水魚というのがある
(亭) ほー、なんですか? そりゃ
(坊) 海の砂利、水に住む魚、これは、数えても数えても、数え尽くせるものではない。めでたいな。
(亭) はァーそら―数えきれねーやな
(坊) 水行末、雲行末、風来末というのはどうじゃ
(亭) ほー、胃の薬かい?
(坊) そーではない。水の行く末、雲の行く末、風の行く末。果てしがないな
(亭) はーなるほど。そらー果てしがありませんな。まだ、ありますか?
(坊) 人間にとって大切なもの。食う寝る所に住む所というのがある
(亭) ふっ。それがなくちゃァ、困りまさーね。えー、ほかにありますか
(坊) 藪柑子という樹木がある。夏に白い花が咲き冬に赤い実をつけると云う、大変めでたい木じゃな
(亭) ほー、するってェと杉田藪柑子かぃ、ほっ、おもしれェな、こりゃな。えー、ほかにどうです?
(坊) ん,昔、もろこしにパイポという国があってな、ここにシューリンガンという王様と、グーリンダイという
お妃がおってな、その間にオギャァと生まれたのが、ポンポコピーとポンポコナーというお姫様
ふたァり。ま、この方がたいそう長生きをしたそうだ
(亭) あっはーなるほど。ぽんぽこポンポコいってェやがって、おもしろくなってきやがったァね。
えェ、ほかになんかァありやすか?
(坊) 長く久しい命、と書いて長久命。長く助ける、長助などもいいな
(亭) はーなるほどね。まだありますか?
(坊) もうこの辺でよかろう。この中からひとつ選びなさい
(亭) あーそーすか。じゃァ、すいませんけどね、あの、かかあに見せなくやァいけねえんでね、ちょいと、
紙に書いてくれますか。 あの、四角い字はいけませんよ。あっし、カナしか読めませんから
書けました? あーそーですか。へィへィ。 じゃ、これ、頂いてきますんで。 へィ。
どうもありあとやんした

(亭) おっかー!行ってきた
(女) あ、どうもご苦労様。つけてもらったかい? 名前。
(亭) おー、とりあえずナ、紙にけーてもらったんだ。ほら、見ねェな。
(女) まー、随分といろいろ書いてあるねェ。
なんだい、おまいさん。はなの、寿限無ってェのは。毛虫かい
(亭) や、毛虫じゃァねえや。こら、おめェ、寿、限りなしって、めでてェんだよ。
(女) ふーん。ごぼうのすりきれ?
(亭) このやろ、おれとおんなじ間違えしてやがる。そーじゃねーんだ。「ごこうのすりきれ」ってェんだ
これが一番めでてェんだぃ
(女) どーめでたいの?
(亭) どーめでてぇったって、おめェ、わかりそうなもんじゃねェか
(女) わからないから、あたしゃ聞いてるんだよ
(亭) いゃ、だからおまえなんだよ、なァ↑ 「ごこう」ってんだから、えェ↑三千年に一度天人が雲の上で
花札をするんだよ。なァ↑三光とか四光ってのはよくできるけどもよ、五光となるってェとなかなか
できねェゃ、で、五光のでできるまでやりましょーなんてやってるうちに、花札がすり切れて
めでてェってんだょ。五光のすり切れってんだ。どうでェ
(女) よくわかんないねェ、おまいさんの言う事は、えゝ?次の海砂利水魚ってのはクリームシチューのことかい?
(亭) 海砂利ってェのは海の砂利だよ。砂利は燃えるかィ?燃えねえだろ。燃えねえごみは水曜日。
(女) まー、ごみの出し方までおせーてくれるのかィ? まだ、ほかにもいっぱい書いてあるけど・・・
(亭) や、そりゃ残らずめでてェんだょ。な、だからおめーが、そん中からひとつ
(女) や、あたしゃ、わからないよ。おまいさん、決めておくれょ
(亭) おれだって困るよ。えゝ? 
じゃ、ひとつ名前決めたところでょ、やっぱりこっちの方が良かったナーなんてのがあるんだよ。
よし、じゃおっかぁ、こうしようじゃねェか。な、そっくり名前にしちまおうじゃねェか
(女) そっくりったって、おまいさん、これじゃ長すぎるよ
(亭) いいんだよ、めでてんだから。おらー、そーするよー

なんてんで、のんきな夫婦があったもので、子供に長ーい名前を付けてしまった。
さぁ、近所では、えらい評判で・・・・。
(婆) はい、こんにちは・・・
(亭) おや、お婆さん、おいでなせい――
(婆) ほかじゃぁないがね、この間から・・・何だよ、おまえのとこの坊やの名前を、覚えようと思っても、
歳をとるとなかなか覚えきれないで、このごろ、ようやく少し覚えたから、きょうはサラってもらおうと
思って来たんで・・・・。一遍やってみるから、もし違ってたら直しておくんなさいよ、いいかい・・・・
寿限無寿限無、五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲来松、風来末、食う寝る所に住む所
やーぶらこーじの藪柑子、ぱいぽぱいぽ、ぱいぽのしゅーりんがん、しゅーりんがんのぐーりんだい
ぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなーの長久命の長助・・・・・南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏
(亭) おい、ふざけちゃァいけねえ、南無阿弥陀仏はよけいじゃぁねえか、縁起けもねえ・・・・

※ま、この、長い名前が功を奏しましたか、この子が病気もせず、怪我もせず、すくすくと育ちまして
いよいよ学校へあがることになりまして、今日がその入学式。
(金) 寿限無寿限無、五劫のすり切れ、海砂利水魚の水行末、雲来松、風来末、食う寝る所に住む所
やーぶらこーじの藪柑子、ぱいぽぱいぽ、ぱいぽのしゅーりんがん、しゅーりんがんのぐーりんだい
ぐーりんだいのぽんぽこぴーのぽんぽこなーの長久命の長助ちゃーん、がっこ行こうー
(女) あら、まー、金ちゃん達、朝はやいのねー。うちの寿限無・・・・・・・・・長助は、まだ寝てんのよ。
今起こして来るからチョット待っててねー
こーれー。寿限無・・・・・・・・・・長助!金ちゃん達迎えに来てるんだからさー起きなさいよー。ったく、
しょうがないはねー。ちょいと、おまえさん、うちの寿限無・・・・・・・・長助は、まだ起きないんですよー
(亭) なにおー。とんでもねェ。寿限無・・・・・・・・・長助!おい!起きねーかー!
(金) おじちゃーん。遅くなるから、ボク、先に行くよッ!
※さあ、この子どもが成長するにしたがって、いたずらなことたいへんです。
(虎) おばちゃん・・・おばちゃんちの”寿限無、寿限無・・・・・・・・・長助ちゃんが、あたいの頭をぶって、
こんな大きいコブをこしらえたよォ
(女) あら、まー、虎ちゃん、何かえ、うちの寿限無・・・・・・・・・長助が、おまえの頭へコブこしらえたって?
とんでもない子じゃァないか・・・・。ちょいと、おまえさんも聞いたかえ?うちの寿限無寿限無、・・・・・
・・・長助が、虎ちゃんの頭へコブをこしらえたとさ・・・
(亭) じゃァ何か・・・・、うちの寿限無・・・・・・・・・長助が、虎坊のあたまへコブをこしらえたって?どれ、
見せてみねェ、頭を・・・・。何だい、コブなんぞねえじゃぁねえか!?
(虎) あんまり長いから、コブが引っ込んじゃったァ――
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2 コメント

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Unknown (ポン太)
2006-01-09 22:15:01
まずこれから覚えるか

半分ぐらいは覚えているから(笑)
Unknown (安呑)
2006-01-10 08:13:53
なんでも、どんどんやりましょうよ。

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