よくこの、われわれのほうに、信心ということを申し上げます。信心は徳のあまりでございますけれど、ほんとうに信心なさる人は、やはり少ないですナ。いろんな信心がある。
よくこのゥ以前はてえと、どこの橋のところにも、放し亀てえのがありまして、亀の子を吊るして売っておりますナ。それを逃してやるということは、大変功徳(クドク)になる。だから、この亀の子を逃そうと思ったら、すぐに逃せばいいんけすがね。中にゃ、このゥ、大変、逃す前に、亀の子に恩をかけてンのがある。
男: こいつゥ、逃してやらァ
商人: へえ、どうも、功徳になりますよ
男: うん万年の寿命があるんだからなァ
商人: そうですよ
男: こないだ、おれ、夜ネ、亀の子買ったら、朝、死んじゃったよ。ちょっと、掛け合いに行ってやったら、万年目でしょうっていやがるんだよ、うめえことを言ってやがんねえ。
(亀に) なあ、おめえ、あァ、おれ逃してやっから・・・・・いいか、おれの恩を忘れるな! いいか、なんかおれをもうけさせろ。おれの顔、よく見とけよ、え、こういう顔だから・・・・・。な、おれは義侠に富んでいるんだからな、ありがてえと思えよ、あァ、エヘン、ウッフン!
(亀売りの商人に) そっちのちいせえのはいくらだ? 四十銭? あそうか・・・・・うん、これが六十銭か、じゃ、そっちのほうにしよう
なんてンでね、え、さんざん恩にかけといて、となりの安いほうの亀の子逃してやったりなんかするから、こっちの亀の子はおもしろくなくって、
亀: このしみったれ野郎め、さんざん恩にかけやがって、え、隣ィ逃しやがったな。覚えてやがれ。てめェ、とっついてやるから・・・・・
じゃ、なんにもならねえ、逃したのが・・・・・。
ですからこのゥ・・・・・ご信心もいろいろですが、年をとってくると、本当に殺生をきらいましてナ、倅さんに家督をゆずってしまったこの・・・・・ご隠居さんで、えェ、殺生嫌い。信心家でがざいまして虫も殺さないというのが、この人です。
だから、夏場なんざァ、蚊かくってとまって、一生けんめい、刺してても、かゆいの我慢している。
隠居: おい、かいいよ、おい・・・・・。おォい、もうよしなさいよ、おまえ。さっきからずいぶん飲んでるぜ。
え、まだほかに仲間がいるんだよ。さ、どきな、どきな。もうあっちィ行きな、あっちィ・・・・・。
ホラ、さ、そっちの・・・・・こっちへ来て、吸え
なんてナことをいって・・・・・。
毎日のように浅草の観音さまへお詣りに行っております。
かえりに、天王橋のところまで来ると、向こう側が川で、こっち側がうなぎ屋で、うなぎ屋の親方が、今、客の注文で蒲焼をこしらえようというので、うなぎを割き台の上に乗っけて、きりを通そうとする。
うなぎはきりを通して、割かれて、焼かれた日にゃァ、痛くて合わねえから、逃げようとする。それを逃すまいとするような場合で・・・・・。
隠居: おいおい、おいッ・・・・・
鰻屋: いらっしゃい。二階上がらっしゃい。二階上がらっしゃァい。
隠居: 二階へ上がるんじゃないよ。お前さん、何をするんだ、それ?
鰻屋: えッ?
隠居: 何をするんだ?
鰻屋: え、ええ、今、蒲焼こしらえるんですよ
隠居: そのうなぎ、どうするんだ?
鰻屋: 今、割くんですよ
隠居: 割くゥ? かわいそうなことすンじゃない! えゝ?
お前さん、じゃ何かい、鰻の命を取ろうというのかい?
鰻屋: いやァ命をとろうなんてつもりはねえんですがね、注文だから・・・・・
隠居: いや、いけんません。そういうかわいそうなことしちゃいけませんよ。あたしの目の黒いうちは、そのうなぎは殺させません
鰻屋: おや、ヘンな人が来たよ、おい。しょうがねえなァ、どうも・・・・・。え、客の注文の蒲焼ですよ
隠居: 蒲焼にしてもいいから殺しちゃァいけない
鰻屋: そうはいかないですよ
隠居: そんなことをすることはないよ。もしお前さんがだね、え、大きな台の上のっけられて、えゝ?
そういうふうに割かれるような場合だったら、どうする?
鰻屋: あたしゃそんな悪い事ァしないよ
隠居: うなぎだって、何ィ、悪い事をした? え、そんなことをしないで、そのうなぎを前の川に逃してやンなさい。うなぎァ喜ぶから・・・・・
鰻屋: うちゃァつぶれちゃう、そんなことしたら・・・・・
隠居: うん、逃せないかい?
鰻屋: 商売ですからね
隠居: 商売といわれりゃしようがねえ、え、じゃァ、あたしが買って逃してやろう。ええ、そんならいいだろう
鰻屋: ええ、そんなら、ようがすとも
隠居: いくらだ?
鰻屋: え、二円ですよ
隠居: ええ、お待ち。なァ、かわいそうなことばかりしてやがる。ホラ、ザルへ入れろ! ほんとうにかわいそうなことをしやがって・・・・・。
(うなぎに) な、お前もあんなヤツにつかまるから、こんな目に遭うんだぞ、え? あたしが逃してやるから、あんなやつにつかまっちゃいけないよ。どうだ、うれしいだろう? うれしいのになぜ、ほっぺたをふくらまして、そういうふうにしている。あんなもんにつかまっちゃいけないぞ!
*前のかわにボチャーンとほうりこんで、
隠居: ああ、いい功徳をした――
*てんで、家ィかえる。
あくる日、そこを通ろうと思うてえと、向こうは商売だから、また、うなぎを割こうとしている。
隠居: これ、これ、これ・・・・・
鰻屋: また来たぜ、あの人が・・・・・。昨日はすみません
隠居: また、うなぎを割くのか、おまえ・・・・・
鰻屋: え、蒲焼をね、お客の注文なんで
隠居: いくらだ?
鰻屋: ええ、これ、二円で・・・・・
隠居: 昨日よか少し小さいね
鰻屋: え、ここンとこ不漁(シケ)ですからね
隠居: 値段のことなんかいっちゃいられないから・・・・・。サ、ザルへ入れろ。しようがねえナ。うなぎばかり殺しやがって・・・・・。
あんなヤツにつかまるんじゃないぞ
ってんで、前の川へボチャーンとほうりこんで、
隠居: ああ、いい功徳をした
ってんでナ。
あくる日、そこを通ろうと思うと、こんだ、スッポンの首を切って血をとろうってんです。
隠居: どうするんだ、それを?
鰻屋: ええ、今、このね、首を切って血をとうるんだい
隠居: 血をとる? そんな血を・・・・・お前の血をとれ、かわいそうなことをしやがって・・・・・ええ? スッポンは何も知らんで首をのばしてらァ。・・・・・いくらだ?
鰻屋: ええ、これ、八円ですよ
隠居: 八円?おアシのことをいっちゃいられませんよ。サ、ザルへ入れな。かわいそうに。え、な、あんなヤツにつかまるんじゃねえぞ
てンで、前の川へボチャーンとほうりこむ。
うなぎは二円で、スッポンは八円で、毎日のように助けてると、うなぎ屋のほうで喜んじゃって、向こうから隠居が来ると、なんかしらそこへ出しておくと、買ってにがしてくれる。
あの隠居で月にいくらもうかるてえなァ、うなぎ屋のほうのそろばんに入っちゃってますナ、うん。
仲間の者はもう、うらやんじゃって、
仲間: おう、おめえ良い隠居をつかまえたなァ、おい。あの隠居つきで、おめえの店買おうじゃねえか
なんてのが出て来るんですから、しようがないですナ。
それがパッタリと来なくかっちゃった。
鰻屋: どうしたんだろうねえ、あのおじいさんは?
女房: どうしたんだろって、もう来ないよ。ええ? 最初(ハナ)はね、おまえさんネ、え、大きなうなぎ二円で売ってたから、向こうだって助けいいよ。だんだんだんだん、小さくなっちゃってサ、こないだァどじょう一匹二円で売ったじゃないかよ。ほかァ歩いてうんだヨ
鰻屋: あのおじいさんが来てっとなあ、小遣いに不自由しねんだ・・・・・。
あッ、来たじゃねえか、おいッ!
女房: あァ、来たね、少しやせたね
鰻屋: わずらってたんだヨ。ああいうなァ、いつ参っちゃうかわからねえから、こういうときにフンだくっておくということにしなきゃ、しようがねえ、おい、ちょいと、うなぎ出しな
女房: うなぎないよ。買い出しにいかないから・・・・・
鰻屋: しようがねえな。じゃ、どじょうでいいや
女房: どじょう? 朝おつけの実にしちゃったよ
鰻屋: ええ、何か生きてるもんでなきゃ、しようかねえじゃねえかよ・・・・・。あの金魚・・・・・
女房: 金魚、死んじゃったんだよ
鰻屋: しようがねえやな、もう来ちゃうよ、間に合わねえ、ネズミつかめえろ
女房: つかまりゃしないよ、ネズミなんぞ
鰻屋: だってもう、来るゥ・・・・・。しようがねえ、うん、じゃ、もう、赤ンぼ・・・・・
女房: 赤ン坊、どうするんだよ?
鰻屋: いいんだよ、ちょいとのあいだだ
てんで、ひどい奴があるもんで、赤ン坊をハダカにして、割き台の上へのっけて、きりで刺そうとする。
隠居: おいおいおいおい、おい、どうするんだ?
鰻屋: ヘイ、いらっしゃい
隠居: いらっしゃいじゃねえ、その赤ちゃん、どうするんだ?
鰻屋: ええ、今、これを蒲焼にする・・・・・
隠居: ばかやろう! なんてことしやがる! え、いくらだ、それは?
鰻屋: ええ、こりゃ、百円ですよ
隠居: 百円? 金のこといっちゃいられない。さあ、こっちへ渡しな、かわいそうに。鬼か蛇だぞ、てめえな・・・・・。
なあ、火の付いたように泣いてるじゃないか・・・・・。
おお、よしよしよし、あんなヤツにつかまるんじゃないぞ
てンで、前の川に、ボチャーン――。
よくこのゥ以前はてえと、どこの橋のところにも、放し亀てえのがありまして、亀の子を吊るして売っておりますナ。それを逃してやるということは、大変功徳(クドク)になる。だから、この亀の子を逃そうと思ったら、すぐに逃せばいいんけすがね。中にゃ、このゥ、大変、逃す前に、亀の子に恩をかけてンのがある。
男: こいつゥ、逃してやらァ
商人: へえ、どうも、功徳になりますよ
男: うん万年の寿命があるんだからなァ
商人: そうですよ
男: こないだ、おれ、夜ネ、亀の子買ったら、朝、死んじゃったよ。ちょっと、掛け合いに行ってやったら、万年目でしょうっていやがるんだよ、うめえことを言ってやがんねえ。
(亀に) なあ、おめえ、あァ、おれ逃してやっから・・・・・いいか、おれの恩を忘れるな! いいか、なんかおれをもうけさせろ。おれの顔、よく見とけよ、え、こういう顔だから・・・・・。な、おれは義侠に富んでいるんだからな、ありがてえと思えよ、あァ、エヘン、ウッフン!
(亀売りの商人に) そっちのちいせえのはいくらだ? 四十銭? あそうか・・・・・うん、これが六十銭か、じゃ、そっちのほうにしよう
なんてンでね、え、さんざん恩にかけといて、となりの安いほうの亀の子逃してやったりなんかするから、こっちの亀の子はおもしろくなくって、
亀: このしみったれ野郎め、さんざん恩にかけやがって、え、隣ィ逃しやがったな。覚えてやがれ。てめェ、とっついてやるから・・・・・
じゃ、なんにもならねえ、逃したのが・・・・・。
ですからこのゥ・・・・・ご信心もいろいろですが、年をとってくると、本当に殺生をきらいましてナ、倅さんに家督をゆずってしまったこの・・・・・ご隠居さんで、えェ、殺生嫌い。信心家でがざいまして虫も殺さないというのが、この人です。
だから、夏場なんざァ、蚊かくってとまって、一生けんめい、刺してても、かゆいの我慢している。
隠居: おい、かいいよ、おい・・・・・。おォい、もうよしなさいよ、おまえ。さっきからずいぶん飲んでるぜ。
え、まだほかに仲間がいるんだよ。さ、どきな、どきな。もうあっちィ行きな、あっちィ・・・・・。
ホラ、さ、そっちの・・・・・こっちへ来て、吸え
なんてナことをいって・・・・・。
毎日のように浅草の観音さまへお詣りに行っております。
かえりに、天王橋のところまで来ると、向こう側が川で、こっち側がうなぎ屋で、うなぎ屋の親方が、今、客の注文で蒲焼をこしらえようというので、うなぎを割き台の上に乗っけて、きりを通そうとする。
うなぎはきりを通して、割かれて、焼かれた日にゃァ、痛くて合わねえから、逃げようとする。それを逃すまいとするような場合で・・・・・。
隠居: おいおい、おいッ・・・・・
鰻屋: いらっしゃい。二階上がらっしゃい。二階上がらっしゃァい。
隠居: 二階へ上がるんじゃないよ。お前さん、何をするんだ、それ?
鰻屋: えッ?
隠居: 何をするんだ?
鰻屋: え、ええ、今、蒲焼こしらえるんですよ
隠居: そのうなぎ、どうするんだ?
鰻屋: 今、割くんですよ
隠居: 割くゥ? かわいそうなことすンじゃない! えゝ?
お前さん、じゃ何かい、鰻の命を取ろうというのかい?
鰻屋: いやァ命をとろうなんてつもりはねえんですがね、注文だから・・・・・
隠居: いや、いけんません。そういうかわいそうなことしちゃいけませんよ。あたしの目の黒いうちは、そのうなぎは殺させません
鰻屋: おや、ヘンな人が来たよ、おい。しょうがねえなァ、どうも・・・・・。え、客の注文の蒲焼ですよ
隠居: 蒲焼にしてもいいから殺しちゃァいけない
鰻屋: そうはいかないですよ
隠居: そんなことをすることはないよ。もしお前さんがだね、え、大きな台の上のっけられて、えゝ?
そういうふうに割かれるような場合だったら、どうする?
鰻屋: あたしゃそんな悪い事ァしないよ
隠居: うなぎだって、何ィ、悪い事をした? え、そんなことをしないで、そのうなぎを前の川に逃してやンなさい。うなぎァ喜ぶから・・・・・
鰻屋: うちゃァつぶれちゃう、そんなことしたら・・・・・
隠居: うん、逃せないかい?
鰻屋: 商売ですからね
隠居: 商売といわれりゃしようがねえ、え、じゃァ、あたしが買って逃してやろう。ええ、そんならいいだろう
鰻屋: ええ、そんなら、ようがすとも
隠居: いくらだ?
鰻屋: え、二円ですよ
隠居: ええ、お待ち。なァ、かわいそうなことばかりしてやがる。ホラ、ザルへ入れろ! ほんとうにかわいそうなことをしやがって・・・・・。
(うなぎに) な、お前もあんなヤツにつかまるから、こんな目に遭うんだぞ、え? あたしが逃してやるから、あんなやつにつかまっちゃいけないよ。どうだ、うれしいだろう? うれしいのになぜ、ほっぺたをふくらまして、そういうふうにしている。あんなもんにつかまっちゃいけないぞ!
*前のかわにボチャーンとほうりこんで、
隠居: ああ、いい功徳をした――
*てんで、家ィかえる。
あくる日、そこを通ろうと思うてえと、向こうは商売だから、また、うなぎを割こうとしている。
隠居: これ、これ、これ・・・・・
鰻屋: また来たぜ、あの人が・・・・・。昨日はすみません
隠居: また、うなぎを割くのか、おまえ・・・・・
鰻屋: え、蒲焼をね、お客の注文なんで
隠居: いくらだ?
鰻屋: ええ、これ、二円で・・・・・
隠居: 昨日よか少し小さいね
鰻屋: え、ここンとこ不漁(シケ)ですからね
隠居: 値段のことなんかいっちゃいられないから・・・・・。サ、ザルへ入れろ。しようがねえナ。うなぎばかり殺しやがって・・・・・。
あんなヤツにつかまるんじゃないぞ
ってんで、前の川へボチャーンとほうりこんで、
隠居: ああ、いい功徳をした
ってんでナ。
あくる日、そこを通ろうと思うと、こんだ、スッポンの首を切って血をとろうってんです。
隠居: どうするんだ、それを?
鰻屋: ええ、今、このね、首を切って血をとうるんだい
隠居: 血をとる? そんな血を・・・・・お前の血をとれ、かわいそうなことをしやがって・・・・・ええ? スッポンは何も知らんで首をのばしてらァ。・・・・・いくらだ?
鰻屋: ええ、これ、八円ですよ
隠居: 八円?おアシのことをいっちゃいられませんよ。サ、ザルへ入れな。かわいそうに。え、な、あんなヤツにつかまるんじゃねえぞ
てンで、前の川へボチャーンとほうりこむ。
うなぎは二円で、スッポンは八円で、毎日のように助けてると、うなぎ屋のほうで喜んじゃって、向こうから隠居が来ると、なんかしらそこへ出しておくと、買ってにがしてくれる。
あの隠居で月にいくらもうかるてえなァ、うなぎ屋のほうのそろばんに入っちゃってますナ、うん。
仲間の者はもう、うらやんじゃって、
仲間: おう、おめえ良い隠居をつかまえたなァ、おい。あの隠居つきで、おめえの店買おうじゃねえか
なんてのが出て来るんですから、しようがないですナ。
それがパッタリと来なくかっちゃった。
鰻屋: どうしたんだろうねえ、あのおじいさんは?
女房: どうしたんだろって、もう来ないよ。ええ? 最初(ハナ)はね、おまえさんネ、え、大きなうなぎ二円で売ってたから、向こうだって助けいいよ。だんだんだんだん、小さくなっちゃってサ、こないだァどじょう一匹二円で売ったじゃないかよ。ほかァ歩いてうんだヨ
鰻屋: あのおじいさんが来てっとなあ、小遣いに不自由しねんだ・・・・・。
あッ、来たじゃねえか、おいッ!
女房: あァ、来たね、少しやせたね
鰻屋: わずらってたんだヨ。ああいうなァ、いつ参っちゃうかわからねえから、こういうときにフンだくっておくということにしなきゃ、しようがねえ、おい、ちょいと、うなぎ出しな
女房: うなぎないよ。買い出しにいかないから・・・・・
鰻屋: しようがねえな。じゃ、どじょうでいいや
女房: どじょう? 朝おつけの実にしちゃったよ
鰻屋: ええ、何か生きてるもんでなきゃ、しようかねえじゃねえかよ・・・・・。あの金魚・・・・・
女房: 金魚、死んじゃったんだよ
鰻屋: しようがねえやな、もう来ちゃうよ、間に合わねえ、ネズミつかめえろ
女房: つかまりゃしないよ、ネズミなんぞ
鰻屋: だってもう、来るゥ・・・・・。しようがねえ、うん、じゃ、もう、赤ンぼ・・・・・
女房: 赤ン坊、どうするんだよ?
鰻屋: いいんだよ、ちょいとのあいだだ
てんで、ひどい奴があるもんで、赤ン坊をハダカにして、割き台の上へのっけて、きりで刺そうとする。
隠居: おいおいおいおい、おい、どうするんだ?
鰻屋: ヘイ、いらっしゃい
隠居: いらっしゃいじゃねえ、その赤ちゃん、どうするんだ?
鰻屋: ええ、今、これを蒲焼にする・・・・・
隠居: ばかやろう! なんてことしやがる! え、いくらだ、それは?
鰻屋: ええ、こりゃ、百円ですよ
隠居: 百円? 金のこといっちゃいられない。さあ、こっちへ渡しな、かわいそうに。鬼か蛇だぞ、てめえな・・・・・。
なあ、火の付いたように泣いてるじゃないか・・・・・。
おお、よしよしよし、あんなヤツにつかまるんじゃないぞ
てンで、前の川に、ボチャーン――。