安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

つる

2011年01月24日 | 落語
つる

八公: こんちわ、こんちわ
隠居: はい、はい、おぉ、八っつぁんじゃないか。まぁまぁお上がり
八公: どうも、ごちそうさまです
隠居: 何だい、その『ごちそうさま』てぇのは
八公: ぃえ、今、まんまお上がりって言いましたでしょ
隠居: まんまお上がりじゃぁない。まあまあお上がりとそう言ったんだ
八公: あっ、まあまあお上がり、そうなんですか。なんだ、つまらねぇ
隠居: つまらないって奴があるか。まぁ、今日はどうした。何か用か
八公: いえいえ、用はねぇんですよ
隠居: 用があるから来たんだろ
八公: いえ、用がねぇんです。用がありゃその用やってるんで・・・何かあるかな~と思って来たン
隠居: しょうがないな、まぁまぁまぁ、いいや。お前さんの顔を日にいっぺんと見ないとな、どうもあたしゃ寂しくてしょうがない
八公: そうですか・・・ご隠居もそうですか・・・ぃや、あっしもね、ご隠居さんの顔を日にいっぺん見ねえとね・・・
隠居: 寂しいかぃ
八公: いえ、通じがつかねえんで
隠居: 人の顔を見て通じをつける奴があるか、馬鹿野郎。まあまあ、いいや、お上がりな。 いいんだよ、ゆっくりしてって
八公: あ、どうも・・・でも・・・ただね、ゆっくりしてけって言われても、そんなにねぇ、三日も四日も居らんねんで
隠居: そんなに居ろってんじゃない。まぁいい、いい、そこへ座れ。お茶でも飲みな
八公: はい?
隠居: ぃや、お茶でも飲みなってン
八公: いえ、けっこうで
隠居: そんな遠慮するこたぁないよ
八公: いえ、遠慮してるわけじゃねんで・・・でもあれでしょ? 茶入れるったって、湯ぅ沸かしてから、あと、こうどっかへ移し替えたりなんだしてねぇ、冷ましたりなんかしてねぇ、こう、やるでしょぉ? 
んあぁ、もう、そんな面倒ですから・・・・・冷でいいですよ、酒なら・・・
隠居: 酒って奴があるか。人がお茶を勧めてんだから、お茶を飲みなよ。あー、遠慮するこたぁないよ、うちのは粗茶だからね
八公: 何?
隠居: 粗茶だからいい
八公: 粗茶。あぁ・・・粗茶ね・・・あっしもね、もう方々で粗茶ぁ頂くんですがね、ご隠居ンとこの粗茶が一番うめぇですね。粗茶大好きなんですよ、あっしぁ・・・安くねぇでしょ、この粗茶
隠居: お前まで、粗茶粗茶ってこたぁない。あたしは卑下して言ったんだ
八公: 髭剃ったんですか?
隠居: 髭剃ったんじゃない。卑下して言ったん、謙遜して言ったんだ。わかんないかい? あぁ?粗末なお茶ですが、これを詰めて粗茶てんだ
八公: あっ、粗末なお茶ぁ・・・それを詰めて、粗茶。あぁそうですか・・・へぇー、うめぇこと考えるもんですね・・・
へぇー・・・・・するとこれは、粗座布団てンですかねぇ・・・・そうですか、へー・・・・・そいじゃ、粗火鉢に粗鉄瓶が乗って・・・ご隠居さんのあたまは、粗禿げ頭
隠居: 粗禿げ頭ってやつがあるか。
八公: えー、粗茶菓子ありませんか
隠居: お茶菓子、催促してやがんな。まぁまぁいい。甘い物だったら羊羹があるが食うかい?
八公: 羊羹ですか・・・羊羹かぁ・・・あっしぁ、ほら、呑むほうだからねぇ・・・どうもこのぉ、甘い物ってのはからっきし意気地がねえんですよねぇ・・・5本も食うと、ゲンナリしちゃって
隠居: そんなに食わせやしないよ。まぁ、いい、いい、今出してやるから。 
八公: あそうですか
隠居: ところでお前、今日どっか行ってきたのか
八公: えー、床屋へ行ってきましてね。えー、若ぇもんで、こうみんなで集まってワイワイ、とぐろぉ巻いてね。
あっ、そうだ。なんですねぇ、みんなでご隠居の噂ぁしてたんですご隠居の
隠居: なに、あたしの噂? 噂なんてのぁ口遍に尊ぶなんてことを書くが、あまり尊んだ話は出てこないようだな。どうせ悪口だろ
八公: よくわかりますね
隠居: わかりますねって、本当に悪口言ってたのか
八公: えぇー、悪口てぇほどじゃぁねえと思いますがね・・・ぃや、あっしが言ったんじゃねぇんですよ。あっしが言ったんじゃねんですけども・・・まぁ、みんなが言うにはねぇ、ご隠居ってぇのは、毎日なにもしねえでぶらぶらぶらぶらしている割には、いい着物着て旨いもの食べてるとこみると、あれなのかね。そうだね。ってこんな・・・・・
隠居: わかんないよ、それじゃ。なんだってんだ
八公: ぃえ、ですからね、ぃや、あっしが言ったんじゃねんですよ、あっしが言ったんじゃねんですが、まあ、ご隠居というのは、何もしねえでね、仕事もしてねえでね、ぶらぶらぶらぶらしている割には、いい着物着て、旨いものを食べているところをみるってぇと・・・あれだね、そうだな・・・・・って・・・・・
隠居: わかんないなぁ、そこんところぉハッキリお言いよ。何だって言うんだ
八公: 泥棒じゃねえかって
隠居: 泥棒て言う奴があるか、お前、あー? いや、みんなはかまやしないけど、お前は何だろ、いつもこうして遊びに来てんだ、あたしのことがよくわかってんだ。それ、黙って聞いてたのか
八公: いえいえ、ちゃんと言ってやりました
隠居: それでこそ友達がいがあるってもんだ。なんて言ってやった
八公: え、ご隠居は泥棒なんかじゃねえ。三年前に足ぃ洗ったって
隠居: やってたみたいだな、お前。しょうがないな
八公: いえ、あれですってねぇ、ご隠居はあのー、もの物知りだって言ってますよ
隠居: そうかい?
八公: ええ、あの―・・・ご隠居はいき、いき・・いき・・地獄だなんてね・・・・・ご隠居は生き地獄なんですってね
隠居: 生き地獄じゃない。それを言うなら生き字引
八公: あ、そうそう、生き字引、生き字引。えー、いろんな事を沢山に知ってるなんてことを聞きやしてねぇ
隠居: いやぁ、別段ねぇ、それほど物を知ってるてえわけじゃぁないけどもね、まあ、皆さんよりも少ぉし長くお飾りの下ぁくぐってるから、そういうことを言われるようにはなるけどもねぇ
八公: あ、そうですか・・・あっ、そこんところでねぇ、ひとつ聞きてぇことがあるン。
隠居: なに
八公: 実はね、その床屋でみんなでワーワー、ワーワーやってたましたらね、あすこの床屋のおやじってぇのがね、掛け軸が好きなん、えー。で、いろいろ、こー掛てンですけどねぇ、今日見たら、鶴の絵が掛かってたんです。えー、鶴の絵が。ったら、半公の野郎がそれぇ見て、『わー、いい鶴だなー』 て、こう言ったンすよ。
『こりゃぁ、いい鶴だなぁ。やっぱり日本を代表するいい鳥だなー』 なんてことを言うン。
隠居: あー、そー
八公: ええ、『あーそー、日本を代表するいい鳥なんだ。なんでこれ日本を代表するいい鳥なんだい?』
ってそう言ったら、半公の野郎が、
『あぁ、そらぁお前わかんないかい、だって・・・えー? わかんないかいお前たち、そうかい?・・・じゃあね』
って、帰っちゃったン。なぁんにも言わねんですよ。えー、ンで、みんなで、どうしてだろうねー、なんて話ンなったもんで・・ご隠居はねぇ、いろいろ物を知ってるから・・・あれー、何で、あれー鶴ってのはやっぱり日本を代表する鳥ですか?
隠居: おぉおぉ、ありゃぁ日本を代表する鳥だなぁ
八公: あーそうですか、どうしてです?
隠居: どうしてですと言って、まず、あの姿かたちが美しい
八公: あーー、そうですかねぇ、姿かたちが美しいですかねぇ・・・でも、首が長すぎますぁねぇ・・・・と、冬場襟巻きするのにね、ちょっと・・・
隠居: しないよ、鶴は
八公: あーそうですか
隠居: それにまぁね、あの鶴という鳥はつがいになるというと、夫婦になるというと、決して離れることがないという
八公: あーそうなんですか
隠居: そういう固い鳥だ
八公: え?食ったことあんですか
隠居: 食やしないよお前、しょうがないな・・・まぁまぁ、そういうことだ
八公: あーそうですか、どうしてです?へー。だけど、あっしはねぇ、どうも首が長すぎるような気がするンでござんすがねぇ
隠居: そうかい? あぁあぁ、そういやぁね、お前あれぇ、昔は鶴はツルと言わなかった
八公: つると言わなかったンすか・・・えーえ? なんて言ったんです?
隠居: ありゃぁ首長鳥とそう言ったン
八公: 首長鳥。はー、見たさまでござんすねぇ・・・へぇー、で、そうれがどうしてツルになったんです?
隠居: そりゃぁお前ね、どうして首長鳥がつツルになったかというとな・・・こりゃぁ、昔むかし、白髪の老人が浜辺に立ってはるか沖合いを眺めていると、遠くもろこしの方から、あ、お前、唐土知ってるかい?
八公: うーぅ、大好物です、あっしぁ。もう、ね、焼いたのが・・・
隠居: とうもろこしの話じゃぁない、な、今の中国、これを昔は、唐土とこう言った
八公: あーぁ、そうなんですか
隠居: ん、唐土の方から、つがいの首長鳥がとんできた。見ていると、オスの首長鳥が 『ツーーーーー』 っと飛んできて、松の枝へポイと止まった。
あとからメスが 『ルーーーーー』 と飛んできて、あっ、これはツルだな、とこうなった
八公: ・・・・・えっ? 今なんか言いましたね、え、え、え? もぅ一遍・・・どうしてツルんなったんです?
隠居: わからないかな・・白髪の老人が、浜辺へ立って遥か沖合いを眺めていると、遠く唐土のほうから、つがいの首長鳥が飛んできた。見ているとオスが、『ツーーーーー』っと飛んできて松の枝へポイと止まった。
あとからメスが『ルーーーーー』と飛んできて、あぁ、これはツルだな、と、こうなった・・・
八公: ・・・そうですか・・・あ、ちっとも知らなかった。あ、そうですかぁ・・・へー、ツーーー、ルーー・・・あ、そうですかちょっと、教えてこよ
隠居: おいおいおいおい、こんなこと世間でしゃべっちゃだめだよ
八公: へい・・・・・  へぇー、なるほどね。こういうことを聞けるんだからなぁ、だから年寄りと付き合わなくちゃいけねってんだ。いやだって奴がいるんだ。どうして?って聞いたら『だって先に香典出すようになるもん』てこういうんだ。だめだよそういうこと言っちゃなぁ・・やっぱり、いろいろ教わるんだ・・えーっとねぇ、えーとねぇ、だれにしゃべろう、だれにしゃべろう・・・うンーと・・・あ、桶屋の辰んべ、あの野郎いつも人を馬鹿にしやがる
・・・あ、いたいたいた。 辰っちゃん、辰っちゃん、たーっちゃん!
辰公: ・・・・・・うるせぇ野郎が来やがったなぁ、もう・・・・・おぅ、仕事の邪魔だ、向こう行きな
八公: うふっ・・そんなこと言わないでさ、ちょちょちょっ
辰公: お前が来るてぇと仕事が進まねぇんだ、な、・・・ま、いいや、言いてぇことがあるんなら言ってきな
八公: あそう・・・ふっ、辰っちゃん、ふっふ・・・
辰公: なんなんだよ
八公: 辰ちゃん、あれ?あのぉ、つる知ってる?
辰公: はっ、よせよぅ、でかい声でもってぇ・・ぇえ?八百屋のおつるちゃんだろ? あぁーん、俺に惚れてンだ、あれぇ
八公: 八百屋のおつるちゃんじゃないの・・・飛ぶ方のツル
辰公: 飛ぶ方のツル? あー、あの首が長ぇの? 知ってるよ
八公: あれはねぇ、いい?あれはねぇ、元はツルと言わなかったの、首長鳥ってそう言ったんだよ。ねぇー。この首長鳥がどうしてツルになったか、その訳聞きたいでしょ
辰公: ・・・聞きたくない!
八公: ・・・・・えぇ、でも・・・
辰公: 聞きたくないよぉ、忙しいんだから
八公: そんなこと言わないで、ねぇ、お願いだ、聞いてくれ、頼むよ、なっ、この通りだ・・あ、じゃいい、勝手に教えちゃう。
あのねぇ、昔々ねえ・・白髪の老人がねぇ、浜辺に立って、遥か沖合いを眺めていると、遠く物干しの方からね、
辰公: ・・・・・なに
八公: 物干しの方からねぇ
辰公: 物干し。洗濯物干すとこ?
八公: んンん、違う、わかんない? 今の中国を昔は物干しってそう言ったン
辰公: もろこしだよ
八公: あそう、そうそう、もろこし、そう、唐土の方からつがいの首長鳥が飛んできて・・・・ね、見ているとオスが
『ツーールーーーー』と飛んできて松の枝にポイと止まったの。あとからメスが、『・・・ ・・・ ・・・ ・・・』
辰公: どうしたぃ
八公: ん、・・・落ち着いて
辰公: 落ち着いてるよ。何があったン
八公: いい、だから、昔むかし、白髪の老人が浜辺に立って遥か沖合いを眺めていると、遠くもろこしの方からつがいの首長鳥が飛んできて、見ているとオスが、『つーーるーーー』と飛んできて松の枝にポイと止まったの。
あとからメスが『・・・ ・・・ ・・・ ・・・』・・・さいならー
辰公: なんだ、行くのか
八公: おかしいな、なんでうまくいかなかったんだろうなぁ・・・
こんちわ! ご隠居ぉ
隠居: どしたぃ?
八公: ぁはっ、さっきの首長鳥がどうしてツルんなったかって・・・
隠居: どっかでしゃべったのか、お前はしょうがないな
八公: いえ、ちょいと教えてもらいたい、どうでしたっけね
隠居: だから、な、遥か沖合いをながめていると、遠く唐土の方からつがいの首長鳥が飛んできて、見ていると
オスが、『ツーーーーー』 と飛んできて松の枝にポイと止まった。
あとからメスが『ルーーー・・・
八公: そこそこ、そこんところぉ間違えちゃったン・・・ありがとうご・・・・・辰っちゃん!
辰公: また来たのかお前は、何なんだよ
八公: ふっ、首長鳥なんだけどね
辰公: 好きだねお前も首長鳥が
八公: そうそう、白髪の老人が、浜辺に立って遥か沖合いを眺めていると、ね、遠く唐土の方からつがいの首長鳥が飛んできて見ているとオスが『ツーーーー』ここ間違えちゃったん。『ツーーー  ーー』と飛んできて松の枝に『ル』って止まったの・・・『・・・ ・・・ ・・・ ・・・ ・・・』 
オスがぁ『ツーーーーー』と飛んできて『ル』っと止まったの・・あとからメスが『・・・ ・・・ ・・・
辰公: 泣いてやがんな、大丈夫かお前
八公: くっ、くっ、くっ
辰公: メスがなんだって飛んできたんだ
八公: くっ、くっ、黙って飛んできた
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