安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

六尺棒

2018年08月19日 | 落語
六尺棒

*噺に出てくる親子というのは、親子仲良くて幸せに暮らしました、というのは出てこない。
大概は、大家の大旦那が、一生懸命働いて、お金を貯めて、倅に働いてもらおうと思うんですが、
倅の方はというと、この金を持って吉原へでも行って遊ぼう、親爺と睨めっこしてるよりも、花魁の顔を
見ている方がいいというそう言う人物が出てくるようでございまして

俥夫: ホイ、え、若旦那、今日はどのあたりまでお送りいたしましょうか
若旦: え?あぁそうか、そうね、えぇと、今日は、ま、このあたりでいいか。あんまり、うちの近くまでいってさ、
また、親爺に見つかって、ガリ喰らっちゃうと嫌だから、あ、この辺りで、はいはい・・・・はい、ありがとう。
よっこらしょぅの、しょっと。じゃ、俥屋さん、はい、これ、ありがとう
俥夫: おっ、ありがとうございます、いつもすいません・・・あぁ、またこれ、若旦那、多いです
若旦: いぃん、そのまま取っといて、いいの。お前のね、その、喜ぶ顔を見んの、あたし好きなんだから。
あんまり多かったらね、その余ったので土地でも買って
俥夫: ぃや、そんなに多くはないんでございます
若旦: あそう・・ぃや、本当だよ、お前のねその喜ぶ顔を見て、『あ、今日も遊んだな』ってそういう気ンなるんだから、
ハイ、ありがとう。またね、明日もた頼むよ
俥夫: ヘイ、かしこまりましてございます。え、明日も、いつものところで、ヘイ、かしこまりました
若旦: ん、はいはい、さようなら、気をつけてね・・・ん・・・はい・・・はい・・・いいなぁ・・ああやってねぇ、俥     屋が振り返り振りっかえり、ぺこぺこ頭ァ下げる、あれをこう後ろから見ていると、あァ、今日も遊んだんだ      なァって気になんだなァ、嬉しいね・・・
ハ~ッ、寒いね、流石に夜は寒いね、帰ろ帰ろ・・・ん~・・・だけど、夜はいいなァ、昼間はどうも埃っぽくて
いけないねぇ、ああいう、埃っぽい中、一生懸命働く人の気が知れないね。あ~、いいな~・・・
あぁ、いい月だなァ、こうきれいな月だと寒いやね、え~、おとっとっと、三河屋のブチだ、
お~ブチブチ、はァ、いいなお前は、ん、何がって、夏冬一緒でな、いつも着るものが・・・
あ、気に入らないか・・・えー、この角を曲がるとあたしの家ね、おぅ・・・
あ~~、いい家だね~、我が家ながら、これ惚れ惚れとするね・・・この家ィ生まれて本当によかったなァ、
この家ィ生まれたからあたしはね、こうして毎日遊んでられるんだよ・・いい家だね、よかった・・・
これでな~、うちの親父が住んでなきゃ一番なんだけどなァ・・・ま、そういうわけにゃぁいかないね。
ま、いいや、今日は帰って、また遊びィ行きましょ・・・よいしょ・・・
(トントントン)番頭、番頭、今帰ったおよ・・・・・あたしだよ、(トントントン)ばぁんとう・・・(トントントントン)
番頭!つェッ、何だよ・・・(トントントントン)佐平さん、(トントントン)番頭さん、佐平さん!(トントントン)
金造!・・(トントントン)輝どん!何だよ・・・(トントントン)定吉!
親父: どなたですかな、夜分遅くに戸をドンドンドンドンお叩きンなるのは
若旦: 親父が起きてるよ、ぃやー、なんだな、どうも・・・あ、どうもすいません、あのー、あたしでございます
親父: えぇ?どなたです?
若旦: えー、あたくしでございます
親父: あたくしさんですか?
若旦: ぃえ、そんな人はいません、あ、あたしですよ
親父: はい、恐れ入りますなぁ、申し訳ございませんが、この商人のうちは10時限りとなっておりますんでな、
また、明朝、お越し下さいませ、ハイ、おやすみなさい
若旦: え?ちょっちょっちょっと、すいやせん、あのねぇ、おとっつぁん、あたしですよ、あたし!開けてくだはい
親父: あたしあたしじゃわかりませんなぁ・・・お名前をハッキリ言って頂きましょうか・・・どなたです?
若旦: ツッ、あァたの倅の孝太郎ですよ
親父: あ~、孝太郎のお友達の方・・・・ぃやー、よく、訪ねてくださいました・・・・うちにも、孝太郎というヤクザな
倅がおりましたが、まぁー、この倅が何を言っても、言うことを聞きませんでね、まるで、働かない。
店の金は使い放題、はー、このままうっちゃっておきますと・・店の金、みんな残らず使っちまう、
潰しちまいますから、ま、今のうちにどうにかした方がいいだろうと、この間、親類中が集まして、これを
勘当ぉということにいたしましたので、当の本人にお会いンなりましたら、そう、お言付けを願いますよ、
ハイ、おやすみなさい
若旦: オッ、ちょっちょっちょっ、(戸を叩きながら)お父つぁん、お父つぁん、ねぇ、・・・・
おぉおぉおい、出し抜けに勘当かい、ダシカン?ぃやだね、ダシカン、
えぇえ、お父つぁん、すいやせん、申し訳ない、はい、お父つぁん、聞いてます?あのね、もう、明日っから、
必ず、明日っから早く帰ります。で、お父つぁんの仕事も手伝いますから、ねぇお父つぁん、明日っから
必ず・・
親父: 明日から明日からなんてな、聞き飽きた!・・・・・と、お言付けを願いますよォ
若旦: そんなこと言わないでねェー、お願いしますよ、お父つぁん、頼みます、寒いんですよ今日、このままじゃ、
凍え死んじまいますよ
親父: どうにでもなれ!・・・と、お言付けを願いますよ
若旦: そんなねェ、お父つぁん・・お、お父つぁん!・・こんな表じゃ眠れやしねぇや・・・本当に死んじゃうよ、
いいの?可愛い倅がさ・・・・・ああ、そう、ふーん、じゃ、いいよ、只ぁ死なないよ、その代わりね、この軒、
これ、首くくって、それで死んじゃうよ、それでもいいのかい、お父つぁん、いいの?
親父: 勝手にしろ!この野郎・・・死ぬ死ぬと言ったやつに死んだためしがねぇ!!
・・・・・と、・・お言付けを願います
若旦: ん~、あぁ、そう、じゃぁ、言わしてもらいますがね、お父つぁん、あたしはね、何もこのうちに生まれたくて
生まれたわけじゃァないの、そうでしょ? お父つぁんとおっかさんがどういう相談があったかしれないよ、
で、あたしができたんでしょ?それで、出来がよけりゃうちへ入れましょ、出来が悪けりゃ表へおっぽり
出しましょう、そりゃねぇと思うな
親父: やかましい!!こんちきしょう、この野郎は他人事に言って聞かせりゃ、あぁでもねぇ、こうでもねぇ・・・
本当にわからねぇ野郎だな、お前はなぁ・・・どうしてお前は一生懸命働くってことをしねんだ、お父つぁんの
言うことが聞けねんだ、ん? 隣の静六さんを見習えってん、爪の垢でも煎じて飲め。お前と同い年だろ。
それが、一生懸命、昼間っから、真っ黒んなって働いてんじゃねえか、そうだろう?
お父つぁんの世話だって色々する、ん?この間もそうだ、静六さんの親父さんが具合が悪いってぇと、 
甲斐甲斐しい看病の仕方だ。頭が痛いってぇと、薬をお持ちしましょう、腰が痛いってぇと、摩りましょう。
熱があるってぇと、手拭いを絞って持ってくる。あぁあ、あたしゃ、見ていて涙が出てきた、そうだろ。
それをお前はどうしてそういうことが出来ねんだ
若旦: ちぇっ、なにかってぇと、静六さん、静六さん・・静六さんの親父んなりゃいいだろ・・・・
親父: なりたいよ、なれねぇから言ってんだ、バカ野郎・・・兎に角、出てきな
若旦: んー、じゃぁね、言わしてもらいますよ、勘当結構、だけどね、あたし、ここ追い出して、この家どうするの、
あたしここの一人息子だ、この家はどうなります?
親父: 心配すんな、そんなことは、養子でも何でも入れて、立派にこの家はやってくから。お前に継がせるより
この店は大きくなるでしょう・・・はい、おやすみなさい
若旦: あー、そう、えーわかりました、お父つぁん、じゃい、いいですよ、あたしもね、この家が、どこの馬の骨だか
牛の骨だかわからねぇのに明け渡すんだったら、ねえ方がいいんだ、この家ね・・・
あ、そうだ、この家、燃やそう、ね、そうしよう、なくなってりゃこっちだってスッキリするんだ。
どうしようかな・・・火をつけようかな・・・あ、ここに箒があんな、これに火を点けたら、メラメラメラっと
いくだろうなー。あー、いい風が吹いてるなー、メラっといくよ、お父つぁん。お父つぁんノケツをね、
チャッチャッチャッチャっと燃やすよ・・・アチッ!それから、あっ、倅にもう少し優しくしときゃよかった、
なんてことを思ったって遅いんだよお父つぁん
親父: ったく、あの野郎、やりかねねぇからな・・・・・この六尺棒でもって、向こうずねかっぱらってやる、
(六尺棒をとり、戸を開け)よっと
若旦: ほっと・・・・・・あぶね、あぶねぇ、わー、たったった、わー、たったったった、わー、まだ追ってくるね、んー、
こっち曲がるか、とっとっと・・わー、・・ここに隠れるか・・・また来たまた来た・・・ヒュ~~ン・・・
早いねぇー、えぇ、あの足腰だもの、あらぁ丈夫だね、暫くは死なねぇな、あたしも安心して遊べるね・・・
ということは、こっちへ逃げればいいのね・・・ととと、ふーんとととと・・お、何だい家へ戻って来ちゃった。
開いてんだねこれ、ありがてぇね・・え、どうも、ただいまっと
親父: はっ、はっ、まーったく、あのバカ、どこ行きやがった、ちきしょう、んー、足の速ぇのだけ俺に似てやがる・・・
・・・・・閉まってる・・・あー、番頭が気を利かして・・・(トントントン)おーい、番頭さん、開けとくれ・・・
(トントントン)おーい、佐平さん(トントントントン)金造、(トントントントン)輝ドン(トントントントン)定吉!
若旦: どちら様ですかな!夜分遅くにドンドンドンドン戸をお叩きンなるのは
親父: あのバカ、入ってやがる・・・おい、この野郎開けろ、早く
若旦: えー、申し訳ございません、商人のうちは夜10時限りとなっております、お買い物でしたら、また明朝
お越し下さい、どうも、おやすみなさい
親父: バカ野郎、わ、わしだ、開けろ、おい!(トントントン)わしだ!
若旦: わしださん?・・・・・
親父: 悪い野郎だ・・・わしだ!
若旦: わしだわしだではわかりませんなぁ、お名前をはっきり言って頂きましょうか
親父: チキ、お前の親父の幸右衛門だ
若旦: あ〜、幸右衛門のお友達の方・・・・・よく訪ねてくださいました、ぃやー、うちにも幸右衛門というヤクザな
親父がおりましたが、これが、まー毎日毎日、働きっぱなし。もうー世の中の金を貯め放題、・・・このままで
いきますと、日本中の金を溜め込んじまいますから、こんなことじゃいけないと、この間、親類中が集まりまして、
これを、勘当という・・・
親父: 親父勘当にしやがた、この野郎、いい加減にしろ
若旦: うるせい!他人事に言ってきかせりゃいい気ンなりやがって、ちきしょう、ね?お前は隣の静六さんの親父を
見習え!・・いい親父さんだ、あ?静六さんが一生懸命働いていると、ぃやーそんなに働くことァないよ、
少しは休みなさいよ、遊びに行きな、一人で行くのが寂しかったら俺もついていこう、何?お足がない、
お金が無かったら小遣いはいくらでも俺が出そうと・・はぁー、傍で聞いていて涙が出た
親父: うるせぇー!こんちきしょう・・・・おー、そんなに真似したかったら、六尺棒持って追っかけて来い
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« だくだく | トップ | 船徳 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

落語」カテゴリの最新記事