安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

酒場にて

2006年01月30日 | 小噺
   酒場にて

※お酒のお話でございますけども・・・・・
 ある酒場のカウンターで、2人酔っ払いが酒を酌み交わしておりまして、よほど打ち解けたとみえまして、かたっぽが自分の家(うち)を説明し始めまして・・・・・
A: 「(酔っ払った態で)いやァあたしのうちはネ、ここォ出るでしょ、で、左ィ行くとネ、えェ薬局があるんですよ。
薬局の角ンところを右に曲がってェ、えェ酒屋を左に曲がった、二軒目なんですよ。おたくゥ、どちらですゥ?」
B: 「(やはり、酔っ払った態で) えゝ? うちですか? いゃ、なんですよ、ここを出るでしょ? と、左に行くとネ、アノ、薬局があるンですよ、アノォ、マツモトキヨシ、ね。
あすこンところォ右に曲がってェ、でェ、酒屋ンところを左に曲がった二軒目なんですよ」
A: 「えゝ?! あんたおかしいネ、言うことが。あれァあんた、あたしのうちですよ」
B: 「いえ、そうじゃないですよ。あたしのうちですよ?」
A: 「そんなこたァありませんよ。あんたねェ、ひとのうちィ乗っ取っちゃいけませんよ? そこはあたしのうちですよ」
B: 「なに言ってンですよォ」
※ってんでだんだんと声が大きくなりまして、こらァ周りにいるお客も心配ですから
C: 「おい、マスター! だいじょぶかいあの2人」
D: 「いんですよォ、親子なんですから」
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王子の狐

2006年01月28日 | 落語
王子の狐

 以前は、お稲荷さまのお祭りには、いずれのお子どもも ”稲荷まんねん講(連れだって唄いはやしながら勧進して歩く)” などといって、ほうぼう小づかいをもらって歩いたもので、今日(コンニチ)は時勢に従って、そういうイヤらしいことをする子ども衆はございませんが・・・・しかし、稲荷さまを祭る家では、太鼓をたたきお神楽をいたし、稲荷ずしをこしらえたりこわ飯をふかしたりして、子ども衆にごちそうをいたします――。
 狐は、このお稲荷さまのお使い姫・・・・とかいって、いなりの信仰者は、たいそうこれを尊みます。
けれども、狐は陰獣で、よく人を化かすと申しまして、同じ化けても狐の方は利口に化けますが、狸の方は化け方がドジでございます。
 ある田舎で、大ぜいの者が寄ってバクチをしておりました。すると狸が、どこから参りましたか、そのあたりをウロウロ歩いていると、何か人声がするから、節穴からのぞいてみると、車座になって、
村人甲: どうだい、われ、えかく勝ったでねえか?
村人乙: なに、おらァそんなに勝たねえぞ
甲: いや、勝ったでねえか!?
乙: なんの、勝つものか・・・・
 と、争っている。”ハテな、だいぶ集まっているが・・・・あァ、バクチをしてやがる。悪いヤツらだ。
よし、おれが一つ化けてって、こいつらの金をみんなふんだくってやろう。だれか村の者に化けてはいろう。けれども、大ぜいいるから、もし、その中に本人がいるといかねえ。いまにだらか出てくるだろうから、そうしたらそいつに化けてはいろう”と、表に狸先生待っておりますと、中で一人が、
乙: いずれまた、明晩・・・・
甲: じゃァ、おめェ、帰(ケエ)るのかい?
乙: おォ、おらァ帰える
甲: そこを、ピシャッとしめてってくれよ
乙: あァ、わかってるよ
  ピシャリと戸を締めて出かけた者があるから、狸は ”しめたッ”と、いきなりヌッと中へはいり、一人あいたふとんのところへドッカリ坐って、
狸: いま帰えったけンども、また一つやりたくなったから、帰えってきただ、ウン・・・・
  ヒョイと見ると、狸が坐っている。一同驚いて、”この狸めッ” と七,八人がフンづかまえる。力のあるヤツにフンづかまって、ポカポカなぐられて、とうとう死んでしまった。あまりあわてて中へとびこんだので、化けるのを忘れてはいった――そそっかしいヤツがあるもので・・・・。
  そこへ行くと狐は利口だから、化けるのが上手でございます。その利口な狐を人間が化かしたという話があります。狐に化かされた話はいくらもあるが、狐を化かしたという話はあまりございません。
  あるかたが王子の稲荷さまへ参詣をいたし、ブラブラあっちこっちを歩いておりますと、ただいまのように、まだ王子も開けてません時分で、稲むらのところにヒョックリ尻尾が見える。どうも犬の尻尾のようでない。ハな・・・・とソーッと近寄って、よくよく見ると狐に相違ない。
男: フフ、狐目、昼寝をしてやがる・・・・
  と、よせばいいのに、いたずらな人で、石を拾って見当をつけて、ポーンと投げると、狐はいい心持ちに寝ていたところを、石をぶつけられたから驚いて、とび起きてみると人間がいるから、そのまま稲むらのかげへはいてしまった。 ”ハテな、何をするのか?” 
と思って、こっちから見ているとかげへ隠れて、狐がしきりに頭へ草を乗っけています。 ”おやおや、妙なことをする・・・・” 
と思うと、ポーンと狐が一つひっくり返ると、たちまち二十六、七の半元服(眉を残し、お歯黒もしないままで丸髷(マルマゲ)を結ったおんな)のポッチャリした色白の婦人に化けた。
男: アハハハ、これはおもしろいナ。おれも今まで、ずいぶん絵や何かでは見ているが、狐が人間に化けるのを目前に見たのは初めてだ。色の白いイイ女に化けやがった。いや、こんなことを言ってるうちに危険だぞ。これは、おれが女が好きだというんで、女に化けやがったんだな?・・・・
おや、どこかへ見えなくなっちまったぞ。グズグズしているうちにばかされるぞ。よし、一つこっちでばかしてやろう
と、眉毛へつばを付けてスタスタ二、三丁(約、2,3百㍍)やってくると、よしずッ張りの茶屋に婆さんが居眠りをしているから、
男: お婆さん・・・・
婆: はァい
男: あの・・・・ほかじゃァないが、少しお聞きしたいことがある
婆: はい・・・・?
男: いましがた、ここを二十六、七になる色白のポチャリした女が、通りゃァしなかったかェ?
婆: いえ、お見かけ申しませんね
男: ハテな?・・・・なに、実ァネ、わたしといしょにお参りに来てネ、そこここを見ているうちにはぐれち
まったんだがネ、この道を通るほかに、どこへも行く気づかいないとおもうんだが・・・・
狐: モシ、あなた、モシ・・・・
男: おう、けんのん、けんのん・・・・
  眉毛へつばァ付けて、
男: おォ、どうした?
狐: あらまァ、ずいぶん捜しましたよ
男: そうかェ。わたしもさんざん捜して、どうしても知れなきゃァ王子の頭のところへ寄って、若い者でも頼もうと思っていたんだ。
今もこのお婆さんに、こうこうこういう女が通りゃァしなかったかと聞いていたところだ。まァよかった。ちょうどもう、時分どきだから、どこかでおまんまでを食べていこうか?
狐: そうですねえ・・・・
男: どこにしよう?扇屋にしようか、海老屋にしようか?
狐: どこでもよろしゅうございます
男: じゃァ、扇屋でご飯を食べよう。けれども、あすこは油揚は食わせめェな?
狐: いやですねえ、油揚なんぞ、あたしゃァ好きませんよ
男: 油揚は好かねえ?ただの狐じゃァねえな・・・・。まァ、何でもいい、いっしょに行こう・・・・
女中: いらっしゃいまし、どうぞお二階へ・・・・
男: おまえさんは、お酒は飲めるかね?
狐: ハイ、少しはいただきます
男: あァそうかい。・・・・(女中に)姐さん、お酒を持って来ておくれ。あァ、肴は見つくろってナ、どうか早く持って来ておくんなさい・・・・。(独り言で)少しは飲めると言うのが幸いだ、酔ッ払わしてやろう
・・・・。(酒が来たところで)さァ、ひとつ・・・・
*盃(サカズキ)をさされて、狐も飲める口とみえ、ガブガブ飲んだんで、いい心持ちに酔ってしまった
狐: どうも、たいへんに酔ったんですよ
男: そうかい、だいぶいい色になったぜ。まァゆっくりして行こう、まだ日が高いから・・・・
狐: そうですねえ・・・・
男: わたしもいい心持になった
狐: どうも、あたしは、たいへんに酔っちまったんですよ
男: そうかェ、だいぶ心持よさそうだ。もういけないかい?なに、頭が痛い? ああ、少し飲み過ぎたと見える。(ポンポンポーンと手をたたいて)あの、姐さん、お気の毒ですがネ、ちょっと枕を一つ貸してくださいナ。・・・・いや、なに、少し頭が痛いと言うから・・・・(狐に)まァいいから、少し横になっておいで・・・・
狐: 何だか、きまりが悪いようで・・・・
男: いいってことサ、少し寝てりゃァ、じきに酔いがさめるよ
狐: では、少しご免なさいまし・・・・
*と、それへ横になったと思うと、そのまま、いい心持そうにスヤスヤ寝てしまった様子・・・・。
寝息をうかがって、ソッと階下(シタ)へ降りて来て、卵焼きを三人前、お土産にあつらえておいたのを持って、彼(カ)の男は帰ってしまいました。
*こちらは二階に寝ていた狐、ヒヤリとしたので目がさめ、酔いもさめて、”ああ、いい心持になった”
と、ヒョイと見ると、彼の男(ヒト)がおりません。ビックリして手をたたいて、女中を呼んだから、
女中: ハイ、お呼びなさいましたか?
狐: あのう、姐さん、お気の毒さまですがネ、お湯でもお茶でも一杯くださいませんか?
女中: ハイ、かしこまりました。・・・・これへ持って参りました
狐: ありがとう存じます。・・・・あァ、いい心持になりました。あのォ、つかぬことを、お聞きしますが・・・・
連れのひとは、どこかへ参りましたか?
女中: ハイ、先ほど、お帰りになりましてございます
狐: おや、帰りましたか?
女中: ハイ、卵焼きのお土産を持って、お帰りになりました・・・・
狐: そうですか・・・・。まァ、ひどいじゃないかネ、あたしを寝こかし(ねたまんま)にしてサ。・・・・あの、
妙なことをお聞き申しますが、お勘定をして参りましたか?
女中: いえ、お勘定は、あなたから・・・・とおっしゃって・・・・
狐: エーッ!?
*言われたときには、さすがの狐も驚いたとみえまして、今まできれいな顔の年増であったのが、たちまち耳をだすと、後ろへ結んでいた帯が、大きな尻尾となってヒョックリぶらさがったから、ビックリした女中がまッ青になり、ころがるように梯子段を降りてまいりまして、
女中: 吉(キツ)さん、勝さん、た、たいへんだよ、たいへんだおォッ!
吉: 何だ、どうしたんだ?大きな声をだして、ビックリするじゃァねえか
女中: たいへんだよ、二階へ行ってごらん・・・・たいへんだよ!
吉: 何がたいへんなんだ?
女中: さっきの二人のお客ネ、一人、男の方は帰ったろう?
吉: ウン・・・・
女中: 二階に女のほうは寝ていたんだが・・・・、あれは、狐だよ!
吉: 冗談言っちゃァいけねえ、そんなヤツがあるもんか!?
女中: じゃァ、行ってごらんなよ、おかみさんのほうが寝ていたところが目をさまして、”お茶でもお湯でも
いいから、一杯くれろ” と聞くから、”卵焼きのお土産を持ってお帰りになりました” ”お勘定は?”
と言うから、”お勘定はあなたから・・・・” と言うと、ビックリしたとみえて、ブルブルと見ぶるいすると、今までいい年増だったのが、耳を出して、締めていた帯が尻尾になってしまったんだよ!
吉: うそをつくねえ、ふざけちゃいけねえ
女中: だから、早く行ってごらんよ、狐がちゃんと坐ってるから・・・・
*怪しみながら若い衆が上がってきてみると驚きました。なるほど女中の言う通り、尻尾がうしろへ出て、手を胸にあてがい、考えてる様子かから、
吉: やァ、勝さん、万さん、ちょっと来ねえ、ほんとうに狐だ!
勝: なに、ほんとうかッ!? そいつァ驚いたナ。王子に商売していて、狐なんぞに食い逃げをされてたまるものか、その狐をブッ殺してやろう
*若い衆が、七、八人鉢巻をっして、天秤棒、心張り棒などを持って、ソーッと二階へ上がってきた。
狐は自分が本体をあらわしているとは気がつかない。しきりに考えているところへ、いきなり大ぜい上がって来て、”この狐めッ!!” と打ち込まれた。不意をくらったからたまりません。座敷の中を逃げ回ったが、棒を持って追いまわされ、いよいよかなわなくなると、狐のほうねは逃げる法があるとみえて一発鼻を貫くようなヤツをパッと放った。イタチの最後ッ屁ということはよく申しますが、狐の苦しッ屁ときたら、どうもその・・・・目、口へしみこむもので・・・・、
吉: アッ、プッ、・・・・これはたまらねえ。だれだい、このさなかに・・・・なね、狐か?驚いたネ、どうも・・・。
おや、狐は逃げちまった。狐めェ、苦しッ屁をして逃げちまやァがった。とんでもねえことをした。
・・・・(帰ってきた主人に)おォ、親方、お帰ンなさいまし・・・・
主人: 何だ何だ、鉢巻などをして、てんでに棒なンぞォ持って・・・・何のまねだッ!?
吉: 何のまねッたって、食い逃げでございます
主人: 食い逃げだって手荒いことをしちゃァならねえ、お客さまにたいして・・・・
吉: それが・・・・親方、狐なんで・・・・
主人: なに?狐?
吉: ヘェ、狐が二匹来ゃァがって、夫婦(メオト)狐で・・・・牡狐の方が先に帰ってしまって、牝狐の方があとに残って、飲み過ぎて寝ていやがった。女中が行って、勘定と言うと、その狐がビックリして耳と尻尾を出しやがったんで・・・・。大ぜいで打ち殺そうとするうちに、苦しッ屁をして逃げちまいました
主人: それは、たいへんなことをしてくれたなあ
吉: 何で?
主人: 何だって・・・・おめェたちも考えてみねえ。永代(長年)こうして王子で稼業しているのは、何だとおもっている? みんな、王子の稲荷さまのおかげだろう
吉: ヘェ・・・・
主人: ヘェじゃァねえ、王子の稲荷さまのお狐さまが、わざわざ来てくだすったんだ。
せっかく扇屋へご夫婦で来てくだすったのを、ブチ殺すなどとは、あきれるじゃァねえか!
吉: なるほど、王子の稲荷さまがおいでなすったんで・・・・。そりゃァたいへんなことをしました
主人: とんでもねえことをしたじゃァねえか。今夜はたいへんだ、おめェたちはとりつかれるぞッ!
吉: ヘェーッ!?
主人: ヘェーじゃァねえ、病気にでもとッつかれたらどうする?
吉: 困ったなア・・・・どうしたらようございましょう?
主人: 尋常じゃいかねえ、おわびに行かなけりゃァなるねェ・・・・
*と、扇屋の店は大騒ぎでございまして、大ぜい揃ってお稲荷さまへおわびに行くという始末――。
 こちらは、例の男でございます。三人前の卵焼きを持って、いい心持ちにほろ酔いいげんで、
男: こんちはァ・・・・
友人: やッ、どこへおいでなすった? たいそういいごきげんで・・・・
男: いや、きょうは王子のお稲荷さまへご参詣をして、ブラブラあっちこっち歩いていきましたが、どうも浅草や何かとちがって、あの辺はいい心持ちで・・・・
友人: おひとりじゃァありますまい?
男: えー、連れがありました
友人: お連れは、ご婦人で?
男: ええ・・・・いえ、なに、狐でございます
友人: エーッ?
男: 狐でございます・・・・
友人: キツネ?・・・・ああ、吉原の花魁を・・・・(隠語で、娼婦のことをキツネといった)
男: いえ、本物の狐・・・・
友人: ヘーエッ、それは、どういうわけで?
男: 実は、こういうわけなんで・・・・。狐があぜ道で昼寝をしていたから、石をぶつけると、稲むらかのかげへはいって女にばけたんで・・・・。狐の化けたのを絵では見るが、本物を初めて見ました。
それから、こっちで化かされないうちに、あべこべに化かしてやろうと思って、王子の扇屋へひっぱりこんで、酒に酔わして寝かしておいて、卵焼きを三人前土産に持って、勘定を押付けて逃げて来ちまった・・・・
友人: ひどいことをなさるね、どうも・・・・。人間が狐に化かされた話は度々聞きますが、人間が狐を化かすというのは初めて聞きました。どうもおどろきましたねェ・・・・。しかし、それはあんた、とんだことをなすったなァ・・・・
男: エーッ、何で?
友人: 何でじゃァない、狐は稲荷さまのお使い姫というくらい・・・・。
お参りに行って狐をだましたり何かし
たら、お稲荷さまのお怒りにふれますぜ。第一その狐があとで、どんな目に会ったかしれません
男: なァるほど・・・・
友人: なるほどじゃァありませんぜ。狐を酔わして茶屋へ置いてくるというなァひどい話だ。もしもその狐がぶち殺されでもしたら、おまえさんはともかく、子ども衆やおかみさんが、どんなに祟られるか
しれませんぜ――
男: なるほど、そう言えばそうだねェ・・・・
*いくらいたずらな人でも、気がついてみると神経が起こって、悪いことをしたと思ったから、あしたの朝おわびに行こうと、その晩はうちへ帰ってかみさんにも話さず、翌朝早く起きてうちをとび出し、いろいろの土産物をととのえて王子へやって参りましたが、どこの何町何番地のだれというわけではない。どの穴の狐だかわからない。さァ困った、ほうぼうの穴へ行って様子をうかがってみまるが、知れない。だんだん来ると、稲荷さまのそばのところへ小さな鳥居があって、奥深い穴があるから、その穴へ耳をあててみると、うなり声がきこえます。
男: あッここだ。・・・・えー、ご免なさい、ご免ください・・・・。
何だかおかしいネ。・・・・えー、少々うかがいます・・・・あァ、ちいさな狐が出てきた。・・・・フフ・・・・これはおもしろいナ、フフ、きのう見た狐の子どもだ。・・・・ヘヘ、もし、あんた坊ちゃんですか、お嬢ちゃんですか? ・・・・おや、お坊ちゃんで。
どうもお毛並みがようございますナ。エー、ちょっとうかがいますが、あなたのおっ母さんでいらっしゃいましょうか・・・・実は、わたしはきのう、そのォ・・・・おっ母さんそ化かしました人間なのでございますが、どうもまことにすまないことをいたしました。ちょっとフラフラとああいう気が出ましたんで、以後は決していたずらをいたしません。どうぞご勘弁を願います。
 えー、これはつまらんものでございますが、ホンのおわびがてら・・・・。
どうか、あなたから、よろしくおっ母さんにおっしゃってくださいまし、へへ、かわいらしいお顔ですね、お毛並みのいいこと。
  ・・・・あァ、くわえて、奥へひっこんでっちまった・・・・
狐: あァ痛い痛い・・・。白や、表へ出るんじゃァないよ。おっ母さんは、きのう表へ出てネ、人間にヒドイ目にあったから、おまえも表へ出ちゃァいけないよ。おまえなんぞ子どもだから、どんな目にあうかしれない。この節の人間は油断ができないよ。表へ出るんじゃァないよ。・・・・おや、何だェ、それは?
子狐: あのネ、きのう、おっ母さんが化かされた人間が来たよ
狐: エー、来たのかい? まァ、あきれたヤツだ!
子狐: 何だか、たいへんにあやまってるよ。出て行ったら ”坊ちゃんですか嬢ちゃんですか? おかわいらしい、いいお毛並みだ” って、そう言ってたよ
狐: そらぞらしいヤツだねえ、イヤなヤツだ。出るんじゃァありません
子狐: でも、たいへんにあやまってるよ。それでネ、あの・・・おっ母さんによろしく、そう言ってくれろ。
まことにすみませんでした。これは、ホンのおわびがてらだ・・・・と言って、何だかこんなものをくれたよ。あけてみよう。・・・・やァ、牡丹餅がはいってらァ、食べようよ
狐: 食べるんじゃァない、おおかた、馬のフンかもしれない――



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他行(たぎょう)

2006年01月24日 | 小噺
他行

*落語のほうでは、愚かなものは、与太郎さんと相場が決まっております。

父: オイオイ、与太郎や、チョイとこっちへ来ておくれ。
イヤー、どうもおとっつァん、朝から気分が悪くてナ、
二階でもって布団を敷いて寝てるから、どなたかお客様がお見えンなったら、”おとっつァんは他行でございます” とこう言ってことわっておくれ
与: アー、そうか。おとっつァん、二階でもって布団を敷いて寝てんのか。
で、お客様が来たらあたいが・・・・・何てェの?
父: ぼんやり聞いてるヤツがあるか。
”おとっつぁんは他行でございます”とこう言ってことわるんだ。
与: アー、そうかそうか。おとっつァん、二階でもって布団を敷いて寝てんだろ。で、だれか来たら・・・・なんだっけ?
父: しょうがないな、どうも。えゝ?
おまえは馬鹿だ馬鹿だといってもナ、字が読めるのだけが取り柄だ。
じゃァ、おとっつァん今ここへ、その文句を書いといてやるから、
そいつを読みながらでもかまわないからナ。  じゃ、うまく、ことわっておくれヨ
客1: こんチワー。アッ、旦那ァ居るかい?
与: エッ?旦那?旦那ァ。旦那って、なんだ? ふーん、おとっつァん?あー、おとっつァんか。
チョイと待っておくれ・・・・エー、
”おとっつァんは他行でございます”
客1: あァ、そうかい。いやチョイと急ぎの用なんだがねェ、じゃァ、また来らァ。よろしく言っといてくんねェな
与 はっは、はァ、帰っちゃった
客2: こんチワー。オォ、与太さんかい?おとっつァん居るかい?
与: あー、おとっつァんか。エー、チョイと待っておくれネ・・・・
”おとっつァんは他行でございます”
客2: アー、そうかい。じゃァ、また来らァ
*なんてンで、与太郎先生、他行でございます。他行でございます。と言ってはことわっておりますが、
そのうちに、チョイと目を離した隙に、風が吹いてきまして、その紙がどっかへ飛んでっちゃった。
客3: こんチワー。オォ、与太さんかい?おとっつァん居るかい?
与: エッ?おとっつァんかい?チョイとまっておくれ・・・・
エー、おとっつァん・・・・あれッ?おとっつァん?
おとっつァん?アッ、たいへんだ!! おとっつァん、なくなったー!
客3: なくなった? いつだい?
与: たった今
客3: たった今って、雲隠れじゃァねェんだから。エゝー? で、なんで亡くなったんだい?
与: ンー・・・・、多分、風
客3: あー、今年の風邪はタチがよくないってェからナー。
そうかい、だけど与太郎さんネー、あんまり気をおとしちゃァいけねェよ
与: 気をおとしちゃァいけないってェけど・・・・アアーッ、おじさん、おとっつァんあった
客3: なんだ、その、あったてェのは?
与: えぇ?・・”おとっつァんは他行でございます”
客3: 何を言ってやがんだかナーオィ、他行だなんて難しい言葉ァ使って。
どんな意味だか知ってんのか?
与: うん、しってるヨー。二階でもって寝てることだい・・・・
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パブロン

2006年01月23日 | 小噺
パブロン

むかしむかし、風邪をひいたお爺さんを看病していたお婆さんが、
川へ洗濯に行きました。
お祖母さんが川で洗濯をしていると、
川上の方から大きなベンザエースと書いてあるカプセルが流れてきました。
お婆さんは持ち帰り、包丁で二つに切り、中から出てきたのをお爺さんに飲ませました。
するとどうでしょう、お爺さんの風邪はすぐに治ってしまいました。
それを見ていた隣のお婆さん。
『うちの爺さんの風邪も治したい。あたしも川へ行って洗濯をしよう。
でも、うちの爺さんはパブロンのほうが効くんだよナ』
と思いながら、川で一生懸命に洗濯をしました。
しかし、いくら洗濯をしていてもパブロンは流れて来てくれません。
そう・・・・パブロンは顆粒(下流)だったのです。
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お世辞

2006年01月22日 | 小噺
お世辞

よく、お世辞・愛嬌なんてことを申しますけども、やはり世の中、世辞愛嬌が必要だと思いますが・・・
A: あら奥様、お久しぶりでございますわネー
B: あらまァ、10年ぶりじゃァないですかァ
A: そォですわよねェ。どちらかへお出かけんなってたんですか?
B: わかりますか?いぇ今ねェ、そこのカリスマ美容院に
A: あらまァ、素敵だわー。でも、10年前とちっともお変わりになりませんわネー
B: アラそォかしら。
A: そォですわよ。若くて、美しくて、みずむずしくって
B: アラまァ、お上手ですはネー。お時間有ります?どう?お昼でもご馳走しますから
*なんてことんなりますけども、これ、誉めるとこ間違えると、しくじったりなんかしまして・・・
A: あら奥様、お久しぶりでございますわネー
B: あらまァ、おひさしぶりねェ、10年ぶりかしら
A: そォですわよねェ、奥様、どちらかへ?
B: わかります?今ねェ、そこのカリスマ美容院へ
A: あら、そこ、お休みだったの?
でも奥様、10年前とちっともお変わりございませんわねー
B: あらまァ嬉しいわ、そォかしら
A: そォですわよ、着物もその帯も
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弥次郎

2006年01月21日 | 落語
弥次郎

*うそも方便と言いますが、うそがあるから、うまくいくなんてェことは、よくあることで、みんな本当のことばっかり、ガンガン言い合っていたら、仕舞いには、ものに角がたって、つかみあいのケンカんなったりする。そこにウソが混じると潤滑油んなって、まァるくおさまる。
とにかく、学校行くと先生が、”ウソをついちゃァ、いけませんよ。正直な人間になんなさい。正直は一生の宝です” なんてことを言う。で、うちィ帰るとおとっつぁんが、”ウソをつくんじゃないぞ。ウソをつくヤツは泥棒だ” なんて小言を言われて・・・・、
大人んなって社会に出てみると、なかなかそうはいかないもんで・・・
それが証拠に、婚礼の仲人さんのご挨拶がありますが、あのくらいウソの塊りもありませんで”新郎はどこそこの大学を優秀な成績でご卒業なさいまして・・・” 平気でしゃべってる。
で、聞いてる方でも、”フーン、たいしたもんだね” ウソとわかって感心したりして・・・ですから、はなっからウソとわかる話なんかは、かえって罪がなくて、いいもんで・・・・

旦那: おまえなんだねェ、しばらく鼻の頭ァ見せなかったね
弥次: えェ、ちょっとあの、旅ィ出てまして・・・
旦那: オー、旅。けっこうだねェ。旅は憂いもの辛いもの、なんてェことを言うが、辛い事もあるが、なかなか
楽しい・・
弥次: え、楽しいですね。旦那のめぇですがね、今度っくらい旅が楽しいと思った事はありません。
旦那: ほー、そりゃァよかったな。アー、どこへ行ったんだい?
弥次: 北海道へ行きまして・・・
旦那: 北海道。フーン、えらい遠くへ出かけたね。北海道なんてとこは、おいそれとやたら行かれる所じゃァないよ。うわさに聞くとあすこは、だいぶ寒いそうだね
弥次: 寒いなんてもんじゃァありません。驚きました、行って、あの寒いのには・・・。なんでも凍っちまうんですからね。
旦那: そーかい?
弥次: えェ、だから向こうじゃね、雨が降ってもなんでも、みんな凍っちゃいますからね、油断もなにもありませんよ。おもしろいのはね、朝、人に会うでしょ、『おはよう』ってェとパッと凍っちまう・・・・。
これ位のかたまりンなっちまう・・・・。”おはよう玉”。丸いのが道端へゴロゴロころがっている。それ、けとばしながら、歩いたりなんかしまして・・また、年寄りがその、まァるいのを、拾ってカゴへ入れて歩いてる
旦那: どうするんだい?
弥次: 目覚ましにつかうんですよ。
旦那: 目覚まし?
弥次: え、夜なべの仕事なんかしていて眠くなるでしょ、たら、そのおはよう玉五つ六つ鍋へ入れて、火の上へ、こう乗せるんです。と、これが溶けてきますからね、『オハヨウ』『オハヨウ』『オハヨウ』『オハヨウ』『オハヨウ』っていっぺんに目がさめる。それに、驚いたのがね、雨が凍るんです。
旦那: 雨が凍ると雪ンなるよ
弥次: ところが、あんまり寒いから雪ンなってる間がない。氷の棒んなって降ってくる・・。アメンボウってましてね・・・。ピューッ、ピューッ
旦那: あぶないねェ
弥次: えェ、だから紙の傘や布(キレ)の傘ァさしちゃァ歩けません。破かれちゃいますから。みんな金張りの傘ァさして歩いてますがねェ。ご大家の奥様なんてェと、贅沢なもんですねー。
キン張りの傘、銀張り真鍮、あかがねの傘、貧乏人はブリキの傘、トタンの傘。だから雨の日はおもては賑やかですよ。
キンヒャララ、ギンヒャララ、ピンヒャララ、チンヒャララ・・・・まるで、チンドン屋の行列があるいてるようで・・・。それが、雨がおとなしく上から、まっつぐ降ってるときはいいんで、風が出ましょう、横降りってのが恐ろしいですよ。ウッカリしてると横から、アメンボウがピューッて飛んでくる。
足なんかブスッと刺さる
旦那: 痛いね
弥次: ええ、だから、来たなって思ったら、傘ァ横向けてガヤーンて避けたりなんかします。だから北海道ってとこはね、剣術の心得がないと行かれません
旦那: ほんとかい
弥次: それにおもしろいのは、ションベンが凍る
旦那: ・・・そりゃァこっちだって凍るよ
弥次: いやッ、こっちは、したあとが凍るってんでしょ。向こうはやってる途中で凍っちまうン。
旦那: 途中で?
弥次: シャ~~、ってェと、パリパリ~~・・・・つながっちまう
旦那: じゃ、あとが出ない
弥次: でません、つかえて。でも、よくしたもんでね、道端のうちの軒下にね、これくらいの小槌がぶらさがってるン。『どうぞ、ご自由にお使いください』・・・だから、これェ借りましてね、カチン、と割ってシャー、カチンと割っちゃシャー、カチンシャー、カチンシャー、カチンシャー。夢中でやって、急所ォぶって目ェまわした
旦那: バカなことをいっちゃァ
弥次: 驚きました。それに、火事が凍るのにはビックリしましたよ
旦那: なんだ、その、火事ってェのは?
弥次: うちが、こう、ダーって燃えるン
旦那: あんな、熱・・
弥次 凍るんですよ。さぶいところへもってきて、ほら、つべたい水ゥ掛けるでしょ。だから、火事が凍って固まっちまうン。
旦那: あんなもんが?
弥次: えェ、あっしはもう、三度のメシより火事がすきですから、宿屋でねてた、夜中時分でしたよ。ジャ、ジャ、ジャジャジャジャ・・・・・・・
旦那: 水かなんか漏ったのかい?
弥次: いえ、半鐘の音なんで
旦那: 半鐘はおまえ、ジャ~~ン
弥次: これ、さぶいからジャーンの”ン~”が凍っちまうだね。ジャ、ジャ、ジャジャジャ。
で、火事だーって駆け出してったら、三階建てのうちがボーーて燃え上がって、火の粉はバラバラ、バラバラ降ってくるねー、『あー、きょうはこの風の具合じゃ大きくなりますよ』 そのうち、『水ゥぶっかけろー』
ワーーーー<水をかける>と火事の炎がカチカチカチ・・・・・・カチッ!
旦那: ・・・・凍ったのかい?
弥次: そうなんで、つっ立っちゃたんですよ。えーェ、あの、火事の凍ったのなんて見たの生まれて初めてですからねェ、サー、宿へ帰ったって、気がたかぶって、モー寝付かれやしない。
で、朝ンなるのを待ってね、かけだして行ってみたんですがね、あの、朝見る火事ってェのは、そりゃァきれいなもんですよ。明け方チョイと前に粉雪かなんか降ったんだね。赤いとこへ、ポーーと白くかかってましてね、えー、大きなサンゴみてェな眺め。で、人声がするんで回ってったら、大勢、男の人が集まってね、ギーコギーコ、ギーコギーコ、火事をね、切ってね、束にしたりなんかしてン。
『あのー、何してんですかァ?』
『えェ、海ィ持ってって、うちゃっちゃうんですよ』 
あれ珍しいもんですからねェ、江戸へ持ってったら、いい土産になると思いましてね、あれを細かに割って、紙の袋かなんかに入れて、”火種の素”なんってったら、喜ばれやしねェかと思って、
『少し頂けませんか?』 『よかったらいくらでも持ってらっしゃい』 ですから、五把ばかりもらいましてね、牛ィ引っぱってきて、背中に乗っけて、けえって来たんですが、だんだん、こっちィ近づくにつれてね、陽気が暑くなってきた。牛の背中で火事が溶けはじめやがった。ボーボー燃え出した。
牛は熱いからあばれだす。水ゥかけてもだめなんですねェ。
”焼けウシに水”ってまして・・・・牛が『モー、やだ』っつった。
旦那: ばかばかしいよ、おまえ。もっと、マシなことはないのかい?
弥次: それから、間をおきましてね、奥州へ旅ィしたんですがね、南部の恐山てェ山ァ登ったんですが、あの山の険しいのには驚きました。
旦那: あー、うわさには聞いてるよ。たいへんに高い山で、雲へ首ィ突っ込んでるって、あの山だろ?
弥次: そうなんで、ったら茶店のおやぢさんがね、
『旅のかた?そろそろ日が暮れてきましたんで、これから山へお入りんなるのは、およしんなった方がいいですよ。この山には、山賊だとか悪いけものがいて、ケガでもなすったら、たいへんだから、きょうは村へ宿をとって、あした早発ちィなすったらいかが』
『冗談いっちゃァいけない。こちとらァ、江戸っ子だい。そんな悪い野郎がいたら、オレが退治してやるから心配するな』
って表ェ出まして、ツァッ、ツァッ、ツァッ、ツァッ。だんだん、だんだん山ァ高くなりましてね、
旦那: 当たり前だよ。低くナりゃなくなっちゃう
弥次: ふと、向こうを見たら、チロチロ、チロチロ灯りが見えてン。
『アッ、ありがてぇ。今夜はあすこのうちに泊めてもらおう』 
ふっと上がったら、一面の平ら地ンなってまして
旦那: んー、高い山てェのはよくそういう所があるそうだ
弥次: 向こう見て驚いた。これがうちじゃねぇんですよ。焚き火だった
旦那: たきび!
弥次: 十五六人アラクレ男が車座んなってね、プカーリ、プカーリやってたがる。『ン、こういつァいけねェ』
逃げようと思ったら、いきなり、あっしの前へ、六尺以上ある色の黒い裏表のわからねえ大男が立ちはだかって、『お若ぇの、お待ちなせえ』 『待てとおとどめなされしは、みどもがことでございや・・』
旦那: そんなとこで、気取ったってしょうがない
弥次: 『人がいると思やァ、テメエか。ここは一丁目があって二丁目のねえところだ。身包み脱いで置いていきやがれ』 てえから、
『さては、なんじらはこの山に住まいをなす、一人二人の履物よな』ってた
旦那: なんだい?一人二人の履物って
弥次: あわせて、サンゾク。
『やることは、ならねえ』って怒りやがってね、
『そんなら、腕ずくでも取ってみせようか』 
『取れるもんなら取ってみろー』って、これから始まったね。チャーンチャン、チャチャーン、チャチャチャチャ、チャカチャカ、チャカチャンチャン、ちゃんばら、チャンバラ。
向こうも大勢、こっちは一人。チャカチャン、チャカチャン。旦那に見せたかったねェ。右ィ左、左に右。鉄扇で相手の利き腕をピシッ、刀をガタッと落とす。ひょいと見たら、六尺を越す大きな岩がありましたから、
♪この岩を小脇に抱えこんで・・・
旦那: 六尺もある岩を、小脇に抱え込めるか
弥次: 真ん中んところがくびれていて、ひょうたんのように・・・♪この岩を千切っては投げ、千切っては投げ
旦那: 岩が千切れるかよ!
弥次: できたてで、やわらかい・・・・ さすがの山賊もチリジリになって・・・
安心して歩いてたら後ろの方で、『ヴォー』うなり声がする。
『この山はぜんそく持ちかな』って振り向いたら驚いた、六尺はあろうという
ライオンが・・・
旦那: おまえのは、みんな六尺だナ
弥次: たてがみを風になびかせて、百獣の王。
旦那: お前が登ったのは、南部の恐山だろ?あんなとこにライオンがいたのかい?
弥次: 歯磨きしてた・・・
旦那: なァにを・・・
弥次: よくよく見たら、いのししが角ォ立てて、とんできやがった
旦那: おまえね、あれは、いのししってェのは、おまえ、牙だろ?牙あるものには角はないてぇじゃないか
弥次: それが、ズーッと伸びて、角みてえに見えた。
『あれで突っつかれたらおしまいだ。どっか逃げよう』
ふっと見たら松の木がはえてましたんで、これへよじ登って・・・・マヅ心・・・
旦那: なんだい
弥次: いのししは利口だ。木のまわりをグルグル、グルグル回り始めた。  どっしーん。ぶつかって来た。
ゆすり落として、食っちまおうてんで。木がグラグラ、グラグラ揺れるから、気が気じゃァありません。
だんだん上へ登って、穂先ィ行って気が付いた。旦那のめえですが、これ、松の木じゃなかったんですよ
旦那: なんだい?
弥次: 竹だったんですよ。
旦那: おまえェ、いくら慌ててからって、松と竹とじゃァえらい違いダ
弥次: ところが、あの辺行くと、何百年、こを経た古い竹がいくらでも生えてる。うろこやなんか付いてるから松の木みてェに見えた。木じゃねェ、竹でしょ。穂先のほう行ったら、フ~~~~ン。しなってきた。
落っこっちゃァてえへんだ。下ァいのししが歩き回ってる。しがみついて、『南無阿弥陀』・・いのししがドシーンッ、ぶつかった。途端ですよ。パーン。パーン。なんて、竹の節が割れてね、大きな音がしたンそうしたら、そそっかしいいのししで、鉄砲で撃たれたと思ったらしくて、コロッ・・・・倒れちゃった
旦那: ばかやろう
弥次: 助かった。そば行ってのぞいてみたら、まだ死んじゃァいないんですからね、当人は鉄砲で撃たれたと思い込んでるんですから、まぶたがオチオチ、オチオチ動いてる。皮ァはいで仕留めてやろうと思いまして、パーンと跳び下りて、シシ乗りんなりまして・・・
旦那: 馬乗りだろ?
弥次: いやー、あれは馬へ乗るから馬乗りなんで、あっしはししにのってるからシシ乗り。ところが、こっちの身体の重みで野郎、生きてるのォ気が付いて、暴れ出した。さァ、どっかつかまろうと思ったけど、あわててまたがったんで、うしろまえに乗っちゃった。尻んところへボンボリ、こんな短いものが、ぴくぴく、ぴくぴく動いてる。こんなものつかんでも、しょうがないから、股から手ェいれら、ぐにゃァ・・・<パン、パン手を叩き>ぐにゃァ、股ぐら・・・ぐにゃ・・・何だこりゃ・・旦那これ・・・何だと思います?
旦那: わからない
弥次: これ、ししのキンですよ。いのししってのは、不精ですよ。ふんどししてない
旦那: 当たり前だよ。
弥次: 人間でも、畜生でも、急所にかわりはねぇと思うから、このキンをウェーーッ。キン絞りってやつなのこんだ、バタンキュー。ほんとに死んじゃった。それから、皮ァはいで帰ろうとおもってね、刀で腹をツーーって裂いた。ビコビコビコビコ子どもが飛び出しまして・・・・
旦那: ししの子がかい?
弥次: えー、十六匹出ました
旦那: あー、・・・・・ししの十六かい?
弥次: アッ、旦那、知ってましたか?
旦那: 知ってるよ。よく、寄席で聞いてるから
弥次: そうですか。でも、さすがはねェ、野生だね、人間の子どもとは違いますよ。いま生まれたと思ったら、もうポロッって起き上がってね、ヒョコヒョコ、ヒョコヒョコ歩き始めた。みるみる、あっしの周りを十六匹のししの子どもが取り巻いて、棒ッきれなんぞを持って、
『父ちゃんの敵、父ちゃんの敵、父ちゃんの敵』
って言われたときは、驚きましたね。
旦那: こっちが、驚いたよ。お前はどこをしめて殺した?
弥次: キンですよ
旦那: じゃ、あまえ、オスだろう?
弥次: ハ、ハーァ。そりゃオスですよォ。メスにキンはありませんからねェ。
旦那: オスの腹から子がでるかい
弥次: オスの腹。・・・そこが畜生のあさましさ・・・・     

ばかばかしいお笑いで・・・・・
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金明竹(用語解説)

2006年01月20日 | 落語
解説
・金明竹(きんめいちく)
 真竹の一変種で、茎、枝ともに黄色を呈し、節と節との間の片側には、交互に緑色の広い筋が走る。
観賞用で銀明竹と対とされる。石川県加賀市篠野(ササノ)のほか、群馬県や福岡県にあり、<天然記念物>

・祐乗・光乗・宗乗(ゆうじょ・こうじょ・そうじょ)
 室町~江戸時代の彫金師で、後藤祐乗(初代)、光乗(四代)、宗乗(二代)
祐乗・光乗・即乗(八代)を”名工三作” 三作は三人の名人の作品の意。

・三所物(みところもん)
 小柄(コヅカ)(刀の鞘に装着してある小刀)、笄(コウガイ)(おま軸、髪のかきあげなどに使うへら)、
目貫(メヌキ)(刀のつかにつける飾り金具)の揃いをいう。

・備前長船の則光(びぜんおさふね の のりみつ)
 刀鍛冶の名。四代あって、初代がもっとも有名で、室町~桃山時代が活躍期。

・四分一(しぶいち)
 銅3銀1の割合でまぜた合金。灰黒色なので、一名「おぼろ銀」といった。

・横谷宗(よこや そうみん)
 江戸中期の彫金師。前記後藤家の下職から出て、やがて扶持(フチ)を離れ(後藤家は徳川家の臣)
町彫師(マチボリシ)となり、その名声、後藤一派をしのいだ。

・古たがや
 タガヤサン(鉄刀木)で、東インド、マレーなどに産し、黒に赭(シャ)の紋様のある香り高い木。
堅牢で美しいので、昔から高級家具や細工物につかわれた。

・埋もれ木
 古代の樹木が土中に埋れ、半ば化石化し始めたもの。
色も堅さも黒檀やタガヤサンに似ているのを言った。

・のんこの茶碗
 京都楽焼の三代目で名匠といわれた楽吉左衛門導入の作の茶碗。

・黄檗山金明竹(おうばくさん きんめいちく)
 京都、宇治の黄檗山万福寺境内にある金明竹の意。
同じ山号寺号の名刹が中国の福建にあり、臨済宗の大道場であった。明代末、その座主である隠元が、
高弟木庵らを連れて来日し、四代将軍家綱から宇治に領地をもらい、中国と同名の寺院を開き、黄檗山の
大本山とした。その庭に中国伝来の竹が茂って話題を呼んだ。

・ずんどの花活
 花道で基本となる花活で、太い竹を軸と直角に輪切りにした花活。

・風羅坊(ふうらぼう)
 芭蕉の坊号で、「正筆」は真筆の意。

・沢庵
 江戸初期の禅僧で将軍家光に帰依をうけ、品川東海寺を開いた。「タクアン」の発案者ともされる。

・木庵
前出、隠元の高弟。万福寺二代目の住職、隠元も前出の通り。いんげん豆は、彼がもたらした物といわれている。

・道具七品
 三所物、刀、小柄、茶碗、花活、掛物、屏風で七品。
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金明竹(本編)

2006年01月20日 | 落語
主人:  (与太郎に)おまえひとりで留守番したってわからないから、お客さまが来たら、奥へ、そう言うん
だヨ!
与太: うん
主人: うん・・・・てェんじゃない。ハイっていうんだ!
与太: アッハァ、行っちゃったヨ。アッハァ、もう、こいで、こごと言われやしねえ。朝から晩まで、のべつ、
こごと言われる。何言われたかわかりゃしねえ・・・・だだ、口がパクパク動くだけだ。爪とれ爪とれ
って言うから、猫の爪とったら、あれはとっちゃいけねえって言いやがる。ソロバンけとばしたら、
けとばしちゃいけねえって・・・・、またいだら、商売もんだからまたいじゃいけねえんだって言いや
がる。なんでもきれいにしろって言うから、お庭の石灯籠、タワシで磨いたら、あれは磨いちゃいけ
ねえんだって・・・・。何していいんだかわからねえ。水まけ水まけって言うから、二階まで水まいて
やったんだヨ。それを、なんだい・・・・
使い: ちょいとごめんやす。だんなはん・・・・おうちだすか?
与太: エッ?
使い: お家(イエ)はんは?
与太: エッ、なに?
使い: あんた、でっちはんだすか?あのなッ、もう、あの・・・・どなたもおいでやおまへんのか?チョットと
おことづて願います――
        カガヤ サキチ   サン                               センドナカガイ ヤイチ
わてナ、加賀屋佐吉から参じました。(始めはゆっくり、だんだん早口で)先度仲買の弥市が取次ぎまし
      ナナシナ   ユウジョ コウジョ ソウジョサンサク ミトコロモン  ビゼンオサフネ ノリミツ  シブイチ
た道具七品のうち、裕乗光乗宗乗三作の三所物ならびに備前長船の則光、四部一ごしらえ
ヨコヤソウミン          ワキザシ     ツカマエ            フル                      
横谷宗小づか付きの脇差ナ、あの柄前はだんなはんが古たがやと言やはったが、あれ、
ウモレギ                                         
埋れ木やそうで、木ィが違うておりますさかいにナ、念のため、ちょとお断わり申します。次は
            オウバクサンキンメイチク     ハナイケ      カワズ                           
のんこの茶碗、黄檗山金明竹ずんどの花活、古池や蛙とびこむ水の音と申します・・・・ありゃ、
フウラボウショウヒツ      タクアンモクアンインゲンゼンジ                                      
風羅坊正筆の掛け物、沢庵木庵隠元禅師張りまぜの小屏風、あの屏風なァもし、わての
だんなの檀那寺が兵庫におましてナ、ヘイ、(ひどく早口で)その兵庫の坊主の好みます屏風
じゃによって、表具にやり、兵庫の坊主の屏風になりますとナ、ハッハハハハ、かよう、
おことづて願います――
与太: こりゃァおもしろいや。何を言ってんだか、ちっともわからねえや。おアシやるから、もういっぺん
やってごらん
使い: わて、物もらいと違いまんがナ。どなたもおいでやおまへんのか?
  そんなら・・・わて、中橋のなァ、加賀屋佐吉かたから参じました。先度仲買の弥市が取次ぎまし
た道具七品のうち、裕乗光乗宗乗三作の三所物ならびに備前長船の則光、四部一ごしらえ横谷
宗小づか付きの脇差ナ、あの柄前はだんなはんが古たがやと言やはったが、あれ、埋れ木や
そうで、木ィが違うておりますさかいにナ、念のため、ちょとお断わり申します。次はのんこの茶碗、
黄檗山金明竹ずんどの花活、古池や蛙とびこむ水の音と申します・・・・ありゃ、風羅坊正筆の
掛け物、沢庵木庵隠元禅師張りまぜの小屏風、あの屏風なァもし、わてのだんなの檀那寺が
兵庫におましてナ、ヘイ、その兵庫の坊主の好みます屏風じゃによって、表具にやり、兵庫の坊主
の坊主の屏風になりますとナ、ひとつ、かようにおことづて願います――
与太: こりゃァおもしろいや。何度聞いてもわからねえ。ひょーごのひょーごの、ひょーごのひょーごの・・・・
だからナ。・・・・伯母さん、来てごらんヨ。よくしゃべる乞食がきたよ――
妻: 失礼なこと言うもんじゃないヨ。・・・・いらっしゃいまし。少し前から、親戚から預かりましたオロかし
い者でございます。ちょいと店番をさしとく間(マ)に、とんだそそうをいたしまして、どうも相すみませ
ん。・・・・お茶を持ってらっしゃい
  あのう、どちらからいらっしゃいましたか?
使い: はあ、あんた、お家(イエ)はんだっか?
妻: 何でございますか?
使い: いえ、お家はんだんナ?
妻: お湯屋さんですか? お湯屋さんは、もう少し先でございます
使い: だんなはん、お留守でやすか?そやったらナ、ちょっとおことづて願います――。
  わて、中橋のナ、加賀屋佐吉かたから参じました。先度仲買の弥市が取次ぎました道具七品の
うち、裕乗光乗宗乗三作の三所物ならびに備前長船の則光、四部一ごしらえ横谷宗小づか付き
の脇差ナ、あの柄前はだんなはんが古たがやと言やはったが、あれ、埋れ木やそうで、木ィが違う
とりますさかいにナ、念のため、ちょとお断わり申します。次はのんこの茶碗、黄檗山金明竹、
ずんどの花活、古池や蛙とびこむ水の音と申します・・・・ありゃ、風羅坊正筆の掛け物、沢庵木庵
隠元禅師張りまぜの小屏風、あの屏風なァもし、わてのだんなの檀那寺が兵庫におましてナ、ヘイ、
その兵庫の坊主の好みます屏風じゃによって、表具にやり、兵庫の坊主の坊主の屏風になります
とナ、かようにおことづて願います――
妻: お茶を持ってらっしゃい、早くお茶を・・・・
使い: いえ、もうもう、かもうてくれまンな、ぶうぶう(湯茶)けっこうだす。わかりましたか?
妻: あのゥ・・・・、これに小言を言っておりまして、ちょいと聞きとれなかったんですけど、もういっぺん
おっしゃっていただきたいんですが・・・・
使い: あー、さよか・・・・。わて、でっちはんに二ン度、あんさんに一度、口すっぱくなんねン。よう聞いと
くんなはれや。・・・・わて、中橋のナ、加賀屋佐吉・・・・知ってまっしゃろ?茶道具やっとりまんねン。
ヘェ、加賀屋佐吉かたから参じました。先度仲買の弥市が取次ぎました道具七品のうち、
裕乗光乗宗乗三作の三所物ならびに備前長船の則光、四部一ごしらえ横谷宗小づか付きの
脇差ナ、あの柄前はだんなはんが古たがやと言やはったが、あれ、埋れ木やそうで、木ィが違う
とりますさかいになァ・・・・よう聞いとくんなはれや、木ィが違うとりますさかい、念のため、ちょと
お断わり申します。次はのんこの茶碗、黄檗山金明竹、ずんど切りの花活、古池や蛙とびこむ水の
音・・・・ようおますか?古池や蛙とびこむ水の音と申します・・・・ありゃ、風羅坊正筆の掛け物。
沢庵木庵隠元禅師張りまぜの小屏風、この屏風はなァもし、わてのだんなの檀那寺が兵庫におま
してナ、ヘイ、この兵庫の坊主の好みまする屏風じゃによって表具へやり、兵庫の坊主の屏風に
いたしますとナ、ハッハッハ、かよう、おことづて願います。ホナ、ごめんやす・・・・
妻: もし、あなた、ちょいと! ・・・・ホーラ、ごらんなさい。まるっきりわからないうちに帰ってしまった。
だから、お茶を持っといでと言うのに――。持って来てさしあげれば、もういっぺんうかがえたのに
・・・・。だんなが帰ってきたら、なんて言うの? おまえは、わたしより多く聞いていたんだから、
覚えてるだろう? 最初のほうはどう?
与太: ンー、ぼんやりしてる
妻: なかのほうは?
与太: モヤモヤっと・・・・
妻: じゃァ、終いのほうは?
与太: まるっきり・・・・
妻: だめじゃァないかい
与太: 知らねえや。伯母さん聞いてたんだもん――。ひょーごのひょーごの・・・・だ、おれのせいじゃ
ねえやァ・・・・ッと
妻: しょうがないねえ、いくらバカだって・・・・。 (帰って来た主人に) お帰んなさい
主人: ハイ、なんあい、また小言かい?
妻: いま、おひとが見えまして、お茶を持っといでと言ったのに、棒立ちに立っておりまして、ゲラゲラ、
大声出して笑ってまして・・・・
主人: バカだからしょうがないヨ、お茶は、おまえさんが出さなけりゃいけませんよ。あのぅ・・・・どちらの
かたがいらしたんだい?
妻: お帰りになったばっかりなんですの。そこらで、お会いになりません?
主人: 会わなかったよ。どちらのかた?
妻: あちらから・・・・
主人: いえ、あのゥ、どんな人なの?
妻: こう、頭がありまして、目があって・・・・
主人: おまえ・・・・与太郎がウツったんじゃないか? どちらの人――あちらの人・・・・ってのはない。
どんな人――こんな人・・・・って、かっこうこしらえたっていけない。どこの何でェ人が、どんなご用
でいらしたってェの?
妻: いま、お帰りになりました――
主人: あんなことばっかり言ってるね。お帰りになったから会えなかったんじゃないか!
妻: それが・・・・あのゥ、上方のほうの人のおことばのようですし・・・・、それに、早ことばだもんですか
ら、聞きとれないところが、ところどころあるんです。ゆっくり聞いていただければ、思い出しながら
お話いたします
主人: ゆっくり聞きましょう――。どちらのかた?
妻: いま、お帰りになりました
主人: あんなことばっかり言ってる。何だってェの?
妻: あのゥ・・・・、あッ、中橋の加賀屋佐吉さんてかた、ご存じ?
主人: ああ、同業ですよ、同じお仲間だ・・・・茶道具やってる人。その人がきたの?
妻: いえ、そこのうちのお使いで・・・・。仲買の弥市さんてかた、知ってますか?
主人: ああ、うちへ来たことあるや、おまえも会ったことあるだろう
妻: そ、そのかたのお使いのかたで・・・・あのゥ・・・仲買の弥市さんが気がちがいました――
主人: エッ! 弥市が気がちがった?
妻: ええ、気がちがいましたから、お断りにうかがいました
主人: それがおかしいなあ・・・・。まァ、いいから言ってごらん。そいでどうしたの?
妻: 遊女を買ったんです・・・・遊女を買ったら、それが孝女なんで・・・・
主人: うん・・・・
妻: 掃除がすきなんで・・・・
主人: ああ?
妻: で、千艘(センゾ)や万艘(マンゾ)ッてあそんで、しまいにこれを、ずんどう切りにしちゃった・・・・
主人: わからないなあ・・・・。それからどうした?
妻: 隠元豆にタクアンばっかり食べてるの・・・・
主人: 妙なもん食べるんだなあ――。まァいいから、それから話してごらん。どうしたの?
妻: 何を言っても、ノンコのシャー
主人: きたないねー。それで?
妻: 備前の国へ親船で行こうと思ったの
主人: ヘンだね、備前の国へ親船で?
妻: 親船で備前の国へ行こうと思ったら、兵庫へ行っちゃったんです
主人: 兵庫・・・・。それで?
妻: 兵庫にお寺がある・・・・そのお寺に坊さんがいるんですって――
主人: あたりまえだ、お寺にゃ坊さんがいますよ。それで?
妻: 坊さんのうしろに、屏風が立ってんですの
主人: ああ・・・・
妻: その屏風のうしろにまた坊さんがいるんです。で、そのうしろに屏風があって、坊さん、屏風・・・・
これ・・・・・・何でしょう?
主人: 何を言ってる、まるで子どものナゾかけだよ、それじゃ・・・・。
  まるっきりわからないねえ・・・。仲買の弥市が気がちがいましたから、お断りにまいりましたてェ
んね? 遊女を買ったら孝女で掃除が好きで・・・・ずんどう切りにしちゃった。隠元豆にタクアン
ばかり食べて、何を言ってもノンコのシャー・・・・。わからないなあ。
  備前の国へ親船で行こうと思ったら、兵庫へ行っちゃて、兵庫に、お寺があって坊さんがあって
屏風が立ってて坊さんがいて・・・・これなあに?・・・・いやだよ、ほんとうに――。
  話は,十(トウ)のとこ五つわかれば、あとの半分は察するというが、おまえの話は察しようが
ないじゃないか。はっきりしたとこ、ひとつぐらい覚えてないか?
妻: あッ、思い出しました。古池にとびこみました!
主人: エッ、古池へとびこんだの!? あの人にゃ道具七品ってェもんが、あずけてあンだが・・・・
あれ、買ってかな?
妻: いいえ、買わず(蛙)でした――
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金明竹(導入部まくら)

2006年01月20日 | 落語
金明竹

*バカにも、いろいろ種類がございまして、お金のことばかり言っている欲張りがございますし、も
のを食べることばかり言っている食欲のバカがございますしナ。そうかと思うと、理屈を言うバカが
ございます。こごとを言う方には理屈があるんですが、言われるほうにも理屈があるんです。
主人: 与太や・・・・しょうがないね。なぜ、そのゥ・・・・猫の爪を取っちゃうんだヨ。猫てェのは、爪が一番
武器だヨ。どこへも登れなくなっちゃうじゃないか、しょうがないやつだ・・・・。それから、猫のヒゲ、
抜いちゃったろう? ・・・・オイ、商売もののソロバンまたいじゃいけない。カタしておきなさい・・・・
始末がわるい!
  表を掃除しナ、掃除を・・・・。掃除・・・・ったら、ホウキ持ってくるんだ! ホウキ・・・・ったら、
ついでにごみとりを持ってくるんだヨ! 釘と言ったら金づちだ。
・・・・いま、金づち持って来て、どうするんだヨ! 掃くんだよ。ホウキ目が立ってる・・・・てェだろ?
ああ、ああ、ほこりだ、ほこりだ・・・・。どうも、しょうがないなァ。掃く前にゃ、言われなくても水を
まくもんだヨ。いまばっかりじゃないよ・・・・これからもだよ。気をつけなくちゃいけませんよ。
  水のまきかたにも、上手下手があるんだ。植木屋さんの水のまきかたをごらん、葉裏一まい
一まいがぬれてて、水たまりがない。乾いたところがないように水たまりがない。
  ああッ、どうも相すみません。(と通行人へ言う)おみ足へかかりましたですか?どうぞ、ご勘弁
ねがいます・・・・。(与太郎へ)おまえの水のまきかたが悪い!水の中ばかり見てる・・・・先を見な
いで、こうやってまいてるから、ひとさまのあしへかかるじゃないか。往来の方へ行って、こちィまき
な。・・・・そうそう。あ、ああッ、店へはいるよ! 世話やけるな、もう・・・・。それはそれでいいから、
二階へ上がって、二階の掃除をしなさい。
  お光や・・・・、おまえも少し、こごとを言ってやってくれなきゃいけませんよ。朝から晩まで、あい
つにかかりっきりで、こごと言ってなきゃならない。いや、あたしひとりでやっちゃえば早いけど、
それじゃ、生涯、用が覚えられない。”バカとハサミは使いようで切れる” ってから、あたしゃ、使う
ヨ・・・って引き受けたんだ。・・・・オヤ? 二階から水がたれてきた。また、そそうしたナ。花瓶でも
ひっくり返したんじゃないですかナ?
  おいおい、水がたれてきたけど・・・・何かしやしないか?
与太: いま、掃く前だから水をまいてんだ
主人: あきれたネ、どうも・・・・。ちょいと、ぞうきん持ってきておくれ。往来と二階をいっしょにするやつが
あるか、あきれたねえ・・・・。階下(シタ)へ行って、店番をしてナ、店番を――。だれか来たら、奥へ
そう言うんだヨ
与太: うん。・・・・おや? なあんだ、雨が降ってきた。損しちゃったなあ、水まいて・・・・。もう少し待って
りゃ、天がまいてくれたんだ。(表を見て)あァ、おケツまくって、かけ出すかけ出す・・・・。ウワッ、
驚いた。なんだい?
通行人: すみません、ちょいと雨宿りさしてくださいナ。通り雨だろうと思うんです。長くないだろうと思うん
ですが、軒先をちょいと拝借したいんですが・・・・
与太: 軒先持っていかれちゃ、困るなあ
通行人: 持ってきゃしませんよ。雨やどりをさしてもらいたいんですが・・・・
与太: なんだ、傘はないの? ヘヘエ・・・・じゃァ傘、貸してやろうか――
通行人: 拝借できりゃ、もう・・・・たすかるjjですがナ。急ぎの用がありまして・・・・
与太: これ持ってお帰りヨ
通行人: どうも、ありがとうございます
主人: ・・・・与太や
与太: うーん
主人: どなたか、いらっしたようだナ?
与太: 雨が降ってきたんだ
主人: おや、それはいけない。なにか、ぬれるものはないかナ?
与太: 往来の地べたがぬれるよ
主人: そうじゃない、干し物はないかってェの――。どなたか、来たようだナ?
与太: おケツまくった人がネ、軒先貸してくれって・・・・
主人: 雨やどりだろう。どうぞって言え
与太: 軒先、持ってかれちゃたいへんだからネ・・・・
主人: 持ってきゃしないだろう
与太: 傘貸してやったの
主人: ホウ、どちらのかただ?
与太: あっち行ったから、あちらのかた・・・・
主人: いえ、どんな人だよ?
与太: 顔があってネ、目があってネ、鼻があって・・・着物着て・・・・
主人: いえ、どこの・・・・何てェ人だ? 知ってる人か?
与太: 知らない人
主人: 知らない人に傘貸しちゃったのか――。番傘か?(番傘は実用的な傘をいう)
与太: 伯父さん(主人をさす)の蛇の目! (蛇の目傘は、同心円の模様のついた上等の傘)
主人: 至れり尽くせりだね、雨が降ってる時には、傘はなくてはならないが、お天気になると、持ち運びが
おっくうになって、持ってこなくなるというんだ。知らない人なら、”傘貸してください” と言っても、
お断りするもんだ――
与太: ないよォ・・・・ってって?
主人: ないヨ・・・・て断われるか! ”うちに貸し傘は何本もありましたが、この間からの長びけ(長びいた
雨の意)使い尽くしまして、骨は骨、紙は紙・・・・とバラバラになってしまいまして、使い物になりま
せんから、たきつけにしようと思って、物置にほうりこんであります” と言って断わるんだ
与太: ヘーエ
主人: わかったか?
与太: こんど来たら、そう言って断わる。・・・・・なんだい?
甲: 向こうの近江屋から来たんですがナ、押入れへネズミをおいこんじゃったんです。中はネズミ穴は
ないんです。人間わざでは、どうにもならないんです。お宅に、猫、遊んでたら、ちょっと貸して
くださいナ
与太: 猫を? ウチにゃ貸し猫が、何びきもありましたがネ・・・・
甲: 貸し猫?
与太: この間からの長びけでネ、骨は骨、紙・・・・紙はねえや、皮は皮で、バラバラになっちゃった――
甲: 猫が?
与太: たきつけにしようと思って、物置にほうりこんでありますが・・・・
主人: ・・・・与太や、どなたかいらしたナ?
与太: 向こうの近江屋・・・・
主人: 近江屋ってのあるか! 近江屋さんて言いな
与太: ネズミかねッ、押し入れへはいっちゃってネ、人間じゃとれないから、猫貸してくださいって・・・・
人間より猫のほうが、えれェんでやんの・・・・
主人: おまえが爪とった猫がいるじゃないか。貸してやんな
与太: 断わっちゃった
主人: 何だって?
与太: ウチに貸し猫が、何びきもいましたが・・・・
主人: 貸し猫?
与太: この間ッからの長びけで使い尽くして、骨は骨、紙って言おうと思ったけど、猫には紙はねえから、
皮は皮・・・・って言ってやった。バラバラになったから、たきつけにしようと思って、物置へほうり
こんであります・・・・
主人: それは、傘の断わりようだよ。猫なら猫のように断わりようがある。”ウチに猫が一ぴきおりました
が、この間から夜遊びを覚えまして、トンとウチへ帰りません。久しぶりで帰ってきたら、おなかを
くだしています。お宅へお連れになって、お座敷でそそうでもするといけませんから、お断りします
・・・・”てェんだ
与太: こんど来たら、そう言って断わる。
主人: わかったか?
与太: うん
乙: ごめんくださいまし・・・・
与太: ヘエ
乙: あのう、横丁の讃岐屋から参りましたんですが、うちのだんなに、ちょいと目の届かないとこがござ
いますんですが、だんなさまがいらっしたら、ちょいと、ご同道お願いいたいんですが・・・・
与太: だんな? エー、ウチにだんなが一ぴきおりましたが・・・・
乙: ヘッ?
与太: この間から、夜遊びを覚えまして・・・・
乙: あの・・・・、だんなが?
与太: ウチへ帰ってこないんです。久しぶりに帰ったら、おなかをくだしていてネ、お宅へ連れてって、
お座敷でそそうするといけません。お断りいたします――
乙: ちっとも存じませんで・・・・のちほど、お見舞いにあがります。ごめんくださいまし・・・・
主人: ・・・・与太や
与太: ヘエ
主人: どなたか、いらっしたようだナ。お客さまが来たら、奥へそう言わなきゃいけませんよ。何だ?
与太: 横丁の讃岐屋
主人: なんです!?
与太: さん・・・・
主人: 何だって?
与太: うちのだんなに、目の届かないとこがあるって・・・・何か、高ェとこに上がってんだナ。お宅の
だんながいたら、ちょいと貸してくださいって・・・・
主人: 貸してくれってエのがあるか。何か目利き(鑑定)だろう。行ってこよう・・・・
与太: 断わっちゃった
主人: なんだって!?
与太: ウチに、だんなが一ぴきいましたが・・・・
主人: 一ぴき?
与太: この間から、夜遊びを覚えまして・・・・
主人: おい、よしとくれよ。面目ないナ、表へ出られなくなっちゃうじゃないか
与太: 久しぶりに帰ってきたら、おなかをくだしてネ、だからお宅へ連れてって、そそうをするといけません
主人: 何を言うんだ! ・・・・お光、羽織、出しとくれ、エッ、何を言われるか、わからないヨ。夜遊びを覚え
たって言われたヨ。面目なくって、表へ出られないよ。間違えられるといけないから、まあ、ちょいと
行ってくるから――。
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観音泥棒

2006年01月17日 | 小噺
観音泥棒

落語の方には、後世に名を残すなんという泥棒は出てまいりませんで
石川五右衛門の子分でもって、石川二衛門半、そのまた弟分の一衛門なんという
ごく、間抜けな泥棒が出てくるようで・・・
浅草の観音様に泥棒が入りまして、この泥棒、昼間のうちに境内をすっかりと調べますと
夜ンなって裏門から忍び込みました。
賽銭箱を叩き壊す、中のお金を集めて、これを風呂敷に入れて、しょって、
そのまんま、また、裏門から出りゃァ良かったんですが、ここが間抜けな泥棒で
表門から堂々と出て行きました。
ご案内の通り観音様には、仁王様というのが門番をしておりまして
泥棒を見逃すはずがございません。
「俺が門番をしているのに、何を考えてやんだ。ふてェ野郎だ。」
ってんで、泥棒の襟首をむんずと掴むってェと目よりも高く差上げまして、
下にドスーンてンで叩き付けた。
で、泥棒が四つん這いになったところを、あの仁王様の何文あるかわからないという
大きな足でもって背中を、グイッ、と踏みつけたからたまりません。
泥棒、下っぱらに力がはいる。おもわず大きいのを一発、「ぶーッ!」
「くせェ者ォー」
「へへェ。匂うか(仁王か)」
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