安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

金明竹(導入部まくら)

2006年01月20日 | 落語
金明竹

*バカにも、いろいろ種類がございまして、お金のことばかり言っている欲張りがございますし、も
のを食べることばかり言っている食欲のバカがございますしナ。そうかと思うと、理屈を言うバカが
ございます。こごとを言う方には理屈があるんですが、言われるほうにも理屈があるんです。
主人: 与太や・・・・しょうがないね。なぜ、そのゥ・・・・猫の爪を取っちゃうんだヨ。猫てェのは、爪が一番
武器だヨ。どこへも登れなくなっちゃうじゃないか、しょうがないやつだ・・・・。それから、猫のヒゲ、
抜いちゃったろう? ・・・・オイ、商売もののソロバンまたいじゃいけない。カタしておきなさい・・・・
始末がわるい!
  表を掃除しナ、掃除を・・・・。掃除・・・・ったら、ホウキ持ってくるんだ! ホウキ・・・・ったら、
ついでにごみとりを持ってくるんだヨ! 釘と言ったら金づちだ。
・・・・いま、金づち持って来て、どうするんだヨ! 掃くんだよ。ホウキ目が立ってる・・・・てェだろ?
ああ、ああ、ほこりだ、ほこりだ・・・・。どうも、しょうがないなァ。掃く前にゃ、言われなくても水を
まくもんだヨ。いまばっかりじゃないよ・・・・これからもだよ。気をつけなくちゃいけませんよ。
  水のまきかたにも、上手下手があるんだ。植木屋さんの水のまきかたをごらん、葉裏一まい
一まいがぬれてて、水たまりがない。乾いたところがないように水たまりがない。
  ああッ、どうも相すみません。(と通行人へ言う)おみ足へかかりましたですか?どうぞ、ご勘弁
ねがいます・・・・。(与太郎へ)おまえの水のまきかたが悪い!水の中ばかり見てる・・・・先を見な
いで、こうやってまいてるから、ひとさまのあしへかかるじゃないか。往来の方へ行って、こちィまき
な。・・・・そうそう。あ、ああッ、店へはいるよ! 世話やけるな、もう・・・・。それはそれでいいから、
二階へ上がって、二階の掃除をしなさい。
  お光や・・・・、おまえも少し、こごとを言ってやってくれなきゃいけませんよ。朝から晩まで、あい
つにかかりっきりで、こごと言ってなきゃならない。いや、あたしひとりでやっちゃえば早いけど、
それじゃ、生涯、用が覚えられない。”バカとハサミは使いようで切れる” ってから、あたしゃ、使う
ヨ・・・って引き受けたんだ。・・・・オヤ? 二階から水がたれてきた。また、そそうしたナ。花瓶でも
ひっくり返したんじゃないですかナ?
  おいおい、水がたれてきたけど・・・・何かしやしないか?
与太: いま、掃く前だから水をまいてんだ
主人: あきれたネ、どうも・・・・。ちょいと、ぞうきん持ってきておくれ。往来と二階をいっしょにするやつが
あるか、あきれたねえ・・・・。階下(シタ)へ行って、店番をしてナ、店番を――。だれか来たら、奥へ
そう言うんだヨ
与太: うん。・・・・おや? なあんだ、雨が降ってきた。損しちゃったなあ、水まいて・・・・。もう少し待って
りゃ、天がまいてくれたんだ。(表を見て)あァ、おケツまくって、かけ出すかけ出す・・・・。ウワッ、
驚いた。なんだい?
通行人: すみません、ちょいと雨宿りさしてくださいナ。通り雨だろうと思うんです。長くないだろうと思うん
ですが、軒先をちょいと拝借したいんですが・・・・
与太: 軒先持っていかれちゃ、困るなあ
通行人: 持ってきゃしませんよ。雨やどりをさしてもらいたいんですが・・・・
与太: なんだ、傘はないの? ヘヘエ・・・・じゃァ傘、貸してやろうか――
通行人: 拝借できりゃ、もう・・・・たすかるjjですがナ。急ぎの用がありまして・・・・
与太: これ持ってお帰りヨ
通行人: どうも、ありがとうございます
主人: ・・・・与太や
与太: うーん
主人: どなたか、いらっしたようだナ?
与太: 雨が降ってきたんだ
主人: おや、それはいけない。なにか、ぬれるものはないかナ?
与太: 往来の地べたがぬれるよ
主人: そうじゃない、干し物はないかってェの――。どなたか、来たようだナ?
与太: おケツまくった人がネ、軒先貸してくれって・・・・
主人: 雨やどりだろう。どうぞって言え
与太: 軒先、持ってかれちゃたいへんだからネ・・・・
主人: 持ってきゃしないだろう
与太: 傘貸してやったの
主人: ホウ、どちらのかただ?
与太: あっち行ったから、あちらのかた・・・・
主人: いえ、どんな人だよ?
与太: 顔があってネ、目があってネ、鼻があって・・・着物着て・・・・
主人: いえ、どこの・・・・何てェ人だ? 知ってる人か?
与太: 知らない人
主人: 知らない人に傘貸しちゃったのか――。番傘か?(番傘は実用的な傘をいう)
与太: 伯父さん(主人をさす)の蛇の目! (蛇の目傘は、同心円の模様のついた上等の傘)
主人: 至れり尽くせりだね、雨が降ってる時には、傘はなくてはならないが、お天気になると、持ち運びが
おっくうになって、持ってこなくなるというんだ。知らない人なら、”傘貸してください” と言っても、
お断りするもんだ――
与太: ないよォ・・・・ってって?
主人: ないヨ・・・・て断われるか! ”うちに貸し傘は何本もありましたが、この間からの長びけ(長びいた
雨の意)使い尽くしまして、骨は骨、紙は紙・・・・とバラバラになってしまいまして、使い物になりま
せんから、たきつけにしようと思って、物置にほうりこんであります” と言って断わるんだ
与太: ヘーエ
主人: わかったか?
与太: こんど来たら、そう言って断わる。・・・・・なんだい?
甲: 向こうの近江屋から来たんですがナ、押入れへネズミをおいこんじゃったんです。中はネズミ穴は
ないんです。人間わざでは、どうにもならないんです。お宅に、猫、遊んでたら、ちょっと貸して
くださいナ
与太: 猫を? ウチにゃ貸し猫が、何びきもありましたがネ・・・・
甲: 貸し猫?
与太: この間からの長びけでネ、骨は骨、紙・・・・紙はねえや、皮は皮で、バラバラになっちゃった――
甲: 猫が?
与太: たきつけにしようと思って、物置にほうりこんでありますが・・・・
主人: ・・・・与太や、どなたかいらしたナ?
与太: 向こうの近江屋・・・・
主人: 近江屋ってのあるか! 近江屋さんて言いな
与太: ネズミかねッ、押し入れへはいっちゃってネ、人間じゃとれないから、猫貸してくださいって・・・・
人間より猫のほうが、えれェんでやんの・・・・
主人: おまえが爪とった猫がいるじゃないか。貸してやんな
与太: 断わっちゃった
主人: 何だって?
与太: ウチに貸し猫が、何びきもいましたが・・・・
主人: 貸し猫?
与太: この間ッからの長びけで使い尽くして、骨は骨、紙って言おうと思ったけど、猫には紙はねえから、
皮は皮・・・・って言ってやった。バラバラになったから、たきつけにしようと思って、物置へほうり
こんであります・・・・
主人: それは、傘の断わりようだよ。猫なら猫のように断わりようがある。”ウチに猫が一ぴきおりました
が、この間から夜遊びを覚えまして、トンとウチへ帰りません。久しぶりで帰ってきたら、おなかを
くだしています。お宅へお連れになって、お座敷でそそうでもするといけませんから、お断りします
・・・・”てェんだ
与太: こんど来たら、そう言って断わる。
主人: わかったか?
与太: うん
乙: ごめんくださいまし・・・・
与太: ヘエ
乙: あのう、横丁の讃岐屋から参りましたんですが、うちのだんなに、ちょいと目の届かないとこがござ
いますんですが、だんなさまがいらっしたら、ちょいと、ご同道お願いいたいんですが・・・・
与太: だんな? エー、ウチにだんなが一ぴきおりましたが・・・・
乙: ヘッ?
与太: この間から、夜遊びを覚えまして・・・・
乙: あの・・・・、だんなが?
与太: ウチへ帰ってこないんです。久しぶりに帰ったら、おなかをくだしていてネ、お宅へ連れてって、
お座敷でそそうするといけません。お断りいたします――
乙: ちっとも存じませんで・・・・のちほど、お見舞いにあがります。ごめんくださいまし・・・・
主人: ・・・・与太や
与太: ヘエ
主人: どなたか、いらっしたようだナ。お客さまが来たら、奥へそう言わなきゃいけませんよ。何だ?
与太: 横丁の讃岐屋
主人: なんです!?
与太: さん・・・・
主人: 何だって?
与太: うちのだんなに、目の届かないとこがあるって・・・・何か、高ェとこに上がってんだナ。お宅の
だんながいたら、ちょいと貸してくださいって・・・・
主人: 貸してくれってエのがあるか。何か目利き(鑑定)だろう。行ってこよう・・・・
与太: 断わっちゃった
主人: なんだって!?
与太: ウチに、だんなが一ぴきいましたが・・・・
主人: 一ぴき?
与太: この間から、夜遊びを覚えまして・・・・
主人: おい、よしとくれよ。面目ないナ、表へ出られなくなっちゃうじゃないか
与太: 久しぶりに帰ってきたら、おなかをくだしてネ、だからお宅へ連れてって、そそうをするといけません
主人: 何を言うんだ! ・・・・お光、羽織、出しとくれ、エッ、何を言われるか、わからないヨ。夜遊びを覚え
たって言われたヨ。面目なくって、表へ出られないよ。間違えられるといけないから、まあ、ちょいと
行ってくるから――。
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