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安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

蜘蛛駕籠(くもかご)前半

2006年02月08日 | 落語
蜘蛛駕籠(前半)

*ェェ旅行もただいまではたいへんに趣きがちがいます。乗り物(モン)の便というものが違ってまいりますが、
もう今は、どこへおいでンなるのも容易でございます。なにしろもう、宇宙時代なんてえ、われわれが夢の
ように思っていたことがいよいよ実現されるような世の中ンなってまいりましたんで・・・・ェェしかし、ま、
どっちかてえと、昔の方がどっかのんびりとしてよろしいようですなァ。わらじ履きでテクテク歩いたものです
から、途中の名所旧跡なんてえものを、見物しながら、まァ、目的地ィはいれました。しかしまた、道中も
これでなかなか、いろいろな間違いもあったようでございますが、ェェなにしろ、この、乗る物がてえと、駕籠
に馬てえやつでございまして、駕籠の方はだれが考えましたか、どうもあまり気の利かない代物(シロモン)で、
ひとりの人間をかつぐのに、大の男がふたァりがかり、三枚と申しまして、三人で担いだのが一番早かった
んですから・・・・ま、馬の方は、どっちかてえと、いくらか気が利いてるようでございますが・・・・。
  また、川を渡るのには、人足の肩を借りまして、ご案内の大井川なんてえものァ、川越しをしたもので。
ですから雨でもちょいと降りつづこうものなら、水かさが増しまして、越すことができません。川留めという
やつで、さァ、そうなると手まえの旅籠でもって長逗留(ナガトウリュウ)。小物は上がってくる、旅籠賃はたまって
くる、小遣いはなくなる、しょうがないから、ひとつ江戸へ飛脚でもとばして、銭でも取寄せよう・・・・ま、飛脚
なんてえものァ駆け出して行きましたから、銭がくるまでにゃァたいへん日数(ヒカズ)もかかります。今はもう、
電報てえものがありますからな、「マルオクレ」かなんか書いてやるてえと、すぐ、電報為替ってんで、すうッ
と届きますけれども・・・・これァお断わりしておきますが、いくら電報打っても、家の方に銭がなきァきません
けれども・・・・まことに便利な世の中になってまいりました。
  ェェ昔はこの道中には雲助てえのがおりまして、名高いのが箱根の雲助。なぜあれを雲助かと申しますと
あの人足どもは、住居が定まらない。きょうは東、あすは西、浮き雲のごとくふわふわしているなんてえところ
から、雲助なんてえ名前がでた。また、虫の蜘蛛という字を書いて蜘蛛助とも言ったそうですな。これは、
ところどころ網を張りまして、客をつかまえるなんてえところから、虫の蜘蛛という字を書いて蜘蛛助。まァ、
昔は、どうしてもこの、人足の手を借りませんと、道中が骨が折れたもので・・・・。
  宿と宿のあいだを担ぐ駕籠がございます。駅路(ウマヤジ)の駕籠、これを宿駕籠なぞと言ったそうですが、
また、多くこの、雲助どもが担いだところから、別に、くも駕籠とも言ったそうで・・・・。ま、道中いたるところ、
鈴ヶ森あたりも、かたわらへ駕籠を置きまして、さかんに客を呼んでおります。

兄分: へェ駕籠、へェ駕籠・・・・駕籠いかがです、へェ駕籠、もし、駕籠いかがでしょう、へェ駕籠・・・・おゥおゥ、おゥ、
新米(シンメエ)、この野郎、下ばかりみてやがら。しっかり客呼べェ、客を
新米: 呼んでるよ
兄分: 呼んでるじゃねえ、下ばかり見てやがンじゃねえか、本当(ントニ)、しっかりしろいッ。・・・・へェ駕籠、へェ駕籠ッ
駕籠いかがです・・・・おゥ、いまおれ、ちょっと雪隠行ってくるからなァ、そのうちに客ゥつかまえとけよ、
いいか?
新米: うん・・・・(と、下手へ向かって、ごく気のない間抜け声で)ヘェかごゥ・・・・ヘェかごゥ、ヘェかご・・・・もし、
親方(と、上手の方へ目で追いながら) ヘェかご、ヘェかごゥ、ヘェかごゥッ
親方: なに?屁をかぐ? おれのはすこゥしくせえぞォ
新米: えへへへ、そういうわけじゃねえんで、駕籠です、駕籠です、駕籠いかがでしょう
親方: 駕籠よかったよ
新米: そんなこといわねえで、乗っつくださいよゥ・・・・なにしろ朝から銭のつらァ見てねえもんすからねェ、
大(デエ)の男がふたァり助かるンすから、まァ助けると思って乗ってください
親方: いらねえんだよ
新米: そんなこといわねえで、ちょいと、くどくお願げえもうすようですけどもねェ、・・・・もし、ちょいと、あなた
(と、右手で行こうとする相手の袂をつかむ)
親方: (その右手で、自分の右の袂をぽんと払い) なんだって袂なんぞ引っぱりゃがンだ、いらねえんだ
新米: ェェ、まァ乗っつくださいよ、乗っていただくだけでいいんですから、乗っていただきゃァたすかるンすから・・・・
親方: 乗りゃァいいのか?
新米: ェェ助かります
親方: どけッ、乗ってやるから
新米: ェェどうも相すいません
親方: (すわりなおして、駕籠に乗ったところで) さァ、乗ったぞゥ
新米: (やや低めに目を向けて) ヘェい、どうもありがとうございます、ェェどちらにまいります?
親方: ええ? まァ、おめえの好きなところへやってもらおう
新米: いや、やみくもにゃァ担げねんすがねェ、おたくまでお供しましょうかァ?
親方: ああ、それもいいだろう、まァ、家までやれェ
新米: へえ、ありがとうございます。ェェお宅はどちらなんで?
親方: 前のよしずッ張りの茶店だ
新米: (ひょいと上手のほうを見て、また低めへ) あすこなら乗ることァねんすから、歩いたって行かれンすから、
からかわないようにしてくださいよゥ
親方: なにをゥ? からかわねえようにしろォ? やいッ、おれの面ァよく見ろよ。てめえたちァ日のうちになん回と
なくおれの家ィ入(ヘエ)っつくンだろう、たばこの火ィ貸せ、めしィ食うんだから湯ゥくれって入ってきやがって、
そこの主人(アルジ)の面ぐれえおぼえとけッ、そうしちゃァ家ィくる客つかまえやがって、ヘェ駕籠ゥ、ヘェ
駕籠ゥ・・・・おれンとこの客ァなァ、茶碗酒きゅゥッとくらって、にしんのしっぽかじって、たといわずかの釣銭
でもにぎって帰えろうてえ客だい。そういう客にむやみに駕籠なんぞォすすめやがって。いやがってみんな
おれンとこへ休まなくなるじゃねえか、畜生、んとに。てめえたち、こっから追っ払ってよろうか、ええッ?
新米: あは、弱ったなァ、こりゃどうも・・・・あ、兄貴
兄分: あッ、こりゃどうも、へえへえ、ああ、ああこの野郎が? ああそうすか、どうもすいません。いえ、新米の
もんすから、いえ、二、三ン日前にねェ来たばっかりで、いえ、どうも、親方の顔を存じあげねえ・・・・いえ、
どうもすいません、ェェかんべんしてください・・・・この野郎、あやまれ、こン畜生、んとに・・・・へえ、どうも
すいません、へえへえへえ、承知しましたァ、どうも相すいません・・・・バカだなのン畜生、なんだって茶店の
亭主を駕籠へ乗っけるんだい
新米: だって、おれだって一生懸命・・・・
兄分: 一生懸命ったって、身装(ナリ)をみたってわかりそうなもんじゃねえか。あれは駕籠へ乗るかっこうかァ、
ありゃァ、縞の着物に紺の前掛けをしめて、足駄ァ履いて、ほうきィ持ってごみ取り持ってんじゃねえかァ。
いま、あれァむこうへごみ捨てに言ったんだい・・・・なんでも乗せりゃァいいと思ってやがら・・・・駕籠へでも
乗ろうって人は、長げえ道中してくたびれて、なァ、足を引きずってくるとか、大きな荷物を重そうにかついで
くるとか、そういう人を見たら、お荷物はこちらにいただきましょう・・・・無理に取って駕籠ン中へ入れちまって
みろ、いやでも応でも駕籠へ乗るじゃねえか、ええ? 足もとを見ろてえのァそれだい、しっかりしろ、
この野郎
新米: じゃどうだ、あれどうだ?(と、向こうの方を見て)
兄分: なに?
新米: あれを乗せちゃおうか?
兄分: どれを?
新米: むこうから重そうにかついでするじゃねえか
兄分: どこを?・・・・馬鹿、ありゃ汚穢屋(オワイヤ)だい、肥たご桶じゃァねえかよゥ、あんなものォ駕籠へ乗っけら
れてたまるかい。この野郎、なんつったらわかンだろうな
侍: ああ、これ、駕籠屋
兄分: あッ、おさむらいだァ、引っ込んでろい・・・・へい
侍: お駕籠は二挺(ニチョウ)であるぞ
兄分: へい、ありがとござんす・・・・二挺だァ、友達(ダチ)ンとこィ行ってみろ
侍: 先なる駕籠は姫さま
兄分: へい
侍: あとなる駕籠は乳母さま
兄分: へい
侍: それに荷持ちがふたァり
兄分: へい、へい・・・・おィ、荷持ちがふたァりだ、なんとかなンだろう、早いところ、早いとこ、へい、すぐでござんす
侍: それにお供ぞろいが十人ほど
兄分: へえ?
侍: いま、このところを通らなかったか?
兄分: (右手で、下手奥へむかって、大きくおいでをしながら)おォ・・・い、違う違う違う、この方はものを聞いて
なさるン・・・・いえ、あのゥ通りませんでした
侍: ああ、さようであるか。身ども寄り道をいたしておくれたかと存じ、あわててまいったが、やはり先であった。
あれなる茶店で休息しておる、これへ通ったら教えてくれ
兄分: へえい。(と、憮然と腕組み)なにょゥいってやがンでえ、べらぼうめェ、そんなものォここを通ンのを見張るんで、
ヘェ駕籠ヘェ駕籠って、つっ立ってンじゃねえや・・・・ばか、なんだってかけだしゃがンでえ
新米: 兄貴が早く行け・・・・
兄分: なにを言ってやがンでえ、そんなものすこし間をおいてかけだせェ、まぬけめェ。てめえみてえにそそっか
しいやつァねえぞ・・・・見ろ見ろ見ろ、むこうから酔っ払いがくるぞ、ああいうのァうるせえんだからな、相手ン
なんなよ、酔っ払ってンだからなァ
酔客: (両手を袖の中へ入れてやぞうを組み、酔った態でふらふらと)♪たかァ・・・いィ・・・やまァ・・・かァらァ・・・
ひくいやァまァ・・・みれェ・・・ばァ・・・、なんてなァ、ひくいやまのほうがァ、どうしてェもォひくゥ・・・いィ・・・
兄分: みろみろ、変な唄ァうたってやってくらあ、なァ、相手になンな
新米: もしィ、ェェ駕籠いかがです、大将ッ
兄分: よせってんだよ。酔って・・・・よせてえのに、わからねえ・・・・
新米: デエ丈夫だよ、ああいうのは乗るんだから、おれが乗せてみるから、まかしてまかして
・・・・駕籠いかがですぅ?
酔客: (定まらぬ目つきで) なんだァ? あァッはァはァ、いやァ、駕籠屋だなァ?
新米: へえ、そうです、駕籠屋です
酔客: こら、おれが駕籠屋だなといってるのに、なぜ駕籠屋ですとことわる、おれがそば屋だな、といったら、
駕籠屋ですとことわれェ。駕籠屋を駕籠屋というのに、駕籠屋の前だが、不思議があるか、駕籠屋ァ
新米: えッヘッヘッヘッ、どうも、ェェたいへんごきげんですなァ
酔客: なにィ? ごきげんですゥ? こら、ごきげんで飲んだ酒か、ヤケで飲んだ酒か、おめえ知ってるのか
新米: 知りません
酔客: 知りもしねえでごきげんとは、なんだァ
新米: いえ、どうも、あいすいませんです
酔客: いゃァ、あいすいませんて、あやまやァ仕様ァねえけどもなァ・・・・なァおい駕籠屋、おれァ今日おめえ、
川崎の大師さまへお詣りにいったんだ。けえりに船ェ乗ろうと思って、六郷の渡しまでくるとなァ、うしろの方
から女の声でもって、あァらくゥまさん、あァら熊さんってよぶんだァ・・・・ふり返えってみるとおめえ、辰公ン
とこのかみさんさァ、知ってるかァおめえ、辰公ンとこのかかあ?
新米: 知りません
酔客: 知らねえ? いやァそんなはずはねえと思うがなァ・・・・ほら、あの、神田竪大工町の左官の長兵衛の娘で
お鉄ちゃん、どうだ、そういったらわかったろう?
新米: わかりません
酔客: わからねえ? ほらァ、叶屋の旦那がよゥ、仲人でもって、大黒屋で祝言あげたじゃねえか・・・・ほゥら、
ほらほら、こんどァわかったろう
新米: (ややもてあまして)わかりませんッ
酔客: こ、こりゃおどろいたなぁ・・・・なァに、ちょいと色は黒いが、面長でねェ、女っぷりァわるくねえんだァあれで
・・・・あッ、そうそう、このね(と、右手で右の目のあたりをさしながら) 右の目の下ンところにあずきッ粒
ほどのほくろのある、ほゥら(と、うれしくてしょうがないように)ほらほら、ほらほらッ、そ言ったらわかったろう
新米: わかりませんッ(と、むしろつっけんどんに)
酔客: こォりゃおどろいたなァ。(と、憮然) こいつァどうしてそうわかンねえ・・・・(思い直して) まァいいや、まァ
そのお鉄ちゃんなんだァ。なんだおい、『この近所かァ』ッたら、『すぐそこだからお寄ンなさいよ』 なんてな、
そいから行ったんだ、おれァ。 そしたら辰公のやつがいやがって、よろこんだよ。『兄弟、よく来てくれた、
さァ上がっつくンねえ』、なんて・・・・おっかあ、支度ゥしろ、久方ぶりじゃァねえか・・・・そこでおれァ十分に
ゴチンなっちゃたよ。おそくなるといけねえから、じゃァまた来ようじゃねえか、あァばよってんでなァ、船ェ
乗ろうと思って、おれァ六郷の渡しまできたんだよ、するとうしろの方から、女の声でもってな、あァらくゥま
さん、あァら熊さんって呼ぶのよ、振り返って見るとおめえ、辰公ンとこのかみさんさァ、おめえ知ってるか、
辰公ンとこのかかあ?
新米: えェッ、ヘッヘッヘ、左様(サイ)ですなァ、神田竪大工町の左官の長兵衛さんの娘さんでお鉄ちゃんで
酔客: あッ、知ってンだなァ? おめえは・・・・こりゃありがてえ、よく知っててくれたなァ、そうなると話ァ合って
おもしれえんだ。そうなんだよおめえ、叶屋の旦那がねェ、仲人をしてよォ
新米: 大黒屋で祝言をあげました
酔客: はァ・・・・おめえ、あの席にいたのかァおめえはァ・・・・それァ気がつかなかったなァ、こりゃとんだ、どうも、
お見それいたしました。いやそうなると、ますます話ァ合ってくら・・・・そおうなんだァおめえ、あのねェ面長で
色はちょいっと浅黒えが、女っぷりァいいんだよ
新米: ええ、目の下にほくろがある
酔客: あァ、よォ・・・・、知ってやがンなァこの野郎、そうなんだよおい、そのお鉄ちゃんだよ。すぐそこだからお寄ン
なさいなんてな、そいから行ったんだ、おれ、辰のやつがいやがって、よろこんでよゥ、さァ兄弟上がっつくン
ねえ、なんてなァ
新米: 久方ぶりで上がってゴチンなったんでしょう?
酔客: あっ? この野郎、見てやがったなァ、こン畜生ッ・・・・そうなんだァ、十分にゴチンなっちまってなl、おそくなる
といけねえから、じゃァまた来ようじゃねえか、あァばよってんでなァ、船ェ乗ろうと思って六郷の渡しまで
来たン。するとおめえ、うしろの方から女の声でもってなァ、あァらくゥまさん、あァらくゥまさん(と、大声で)
て呼ぶのよ、ふり返ってみるとおめえ、(いちだんと声をはって)辰公ンとこのかみさん・・・・
新米: わかりました、わかりました。(と、両手で前を押えるかたち)・・・・どうもあァたァ悪い癖だ、そこへ来ると
すぐあとへもどっちゃうからねェ、いつンなったってそりゃ話ァおしまいになりませんよ。ェェどうでしょうか、
あの、駕籠は?
酔客: なにィ?
新米: 駕籠いかがです? 駕籠さしあげましょう
酔客: よゥ、こりゃおもしれえなァ、差し上げてみつくれェ、威勢よく、ずうッとこう
新米: いえ、持ち上げるんじゃねえんすよ、ェェ駕籠へ乗っていただきてえんすけど
酔客: あァ、そうかァ、おめえはなにかァ、じゃァあの、おめえはおれに駕籠に乗っつくれッて頼むのかァ?
新米: そなんす
酔客: あのなァ駕籠屋、ひとにものをたのむのになァ、鉢巻してるてえのァ、そりゃァおめえ、失礼じゃァねえかなァ
新米: こりゃまァ、気がつきませんで。(と、鉢巻を取るかたち)鉢巻取りました、乗っつください
酔客: なにもおれがそういったからって、すぐ取るにゃァ及ばねえやなァ
新米: あいすいません。(と、また鉢巻をっしめて、前で結ぶ) じゃァ締めさせていただきました
酔客: 取ったものを締めなおすことァねえ
新米: どうも、まごまごしますよゥ・・・・いえ、乗ってください
酔客: いやだ
新米: へ?
酔客: 乗らない、おれァ駕籠は嫌(キレ)えだからな
新米: いや、あの、駕籠ォ・・・・
酔客: だめだめ、歩いたほうがいい
兄分: ・・・・乗らねえじゃねえかよゥ、だからおれよせッつったじゃねえか
酔客: なんすゥ? なんです? そちらのお兄さん、なんか文句あるんすか? ははァ、あっしがここを通ったのが
いけねえってんすか? そりゃすいませんでした。酔っ払ってたもんすからねェ、すいませんすねェ、
どうもすいませんです
新米: (もてあまして)もういいすよ、もう・・・・どうぞどうぞ、どうぞおいでンなって、どうぞ、(と、両手のひらを上むけに
前へだして、それを上へあおりながら)
酔客: なんだい、こいつァ。変な手つきィすンなァ? どうぞどうぞなんて、にわとり追うようなかっこうしやがって・・・・
ははァ、そうかァ、あやまりようが気に入らねってんすかァ? じゃァ丁寧にあやまりましょう、地べたに手を
ついて(と言いながら、そのとおり床にちゃんと手をつき、下を向いて、極めてなさけなさそうな声で)
どうもすいません、かんべんしてください、ちッ・・・とも知らなかったもんですから(と、半分泣き声になり)
すいませんです(と、泣く)
兄分: 早くかんべんしてやるって言えよ、酔ってんだからよゥ、かんべんしてやるってやあ行っちまうんだからよゥ、
早く言えェ早くゥ
新米: ええ? うん・・・・いいす、いいす、もう。あの、かんべんします(声をあげて)かんべんしてあげます
酔客: へえ、ありがとうござんす、よくかんべんしてくださいました・・・・(間・・。ゆっくり顔をあげ、ふらふらと定まら
ない上体をややそり身に、下くちびるを突き出し、右の片目だけをかろうじてあけて、駕籠屋の方をみて)
なァおい駕籠屋ァ、おれァおめえに、かんべんしてもらわなきゃァならねえほど・・・・
(突然大声)いつ悪いことを・・・・
兄分: いやどうも、かんべんしてください(と、手を合わせて拝む)
酔客: あァはッはッはッはッは、いやァおれの方があやまってるン・・・・おい駕籠屋、おもしろい話ィおまえにきか
せるからな。あの、おい、そっち向くなよ、おい、おォいッ、あッははァ、野郎怒ってやがら、こいつァおもしれ
えやこれァ・・・・あッははのはァだ(と、両手でやぞう(ふところ手をして着物の中で握りこぶしをつくり、肩のあたりを突き
上げるようにしたさまを人名のように表した語。江戸後期、遊び人やばくち打ちなどがしたもの)を組み、歩き出す態)
兄分: みろ、ばか、だからおれァよせったじゃァねえか。あんなものォつかまえやがっから、ほかの友達(ダチ)ァ
みんなおめえ、客ゥつかまえてどんどん行っちまってらあ。おれたちだけだァ、こんなとこにまごまごしてい
るねァ、あたりはうすッ暗くなっちゃ・・・・おゥおゥ、みろみろ、ああいう客がのるんだよ、なァ。みやがれ
おめえ、結城の対に献上の帯なんかでもって、おめえ、なァ、ちょいと尻をはしょって、絹のステテコをのぞ
かして、白足袋に雪駄ばき、手ぬぐいを吉原かぶりにして、扇子を持って、踊りながらくらあ。ああいうのが
乗るんでえ。いまおれが乗せてみるから見ろ・・・・ェェ駕籠ォ、ェェ駕籠ォ、ェェ旦那、駕籠いかがです、ェェ
駕籠ォ・・・・・
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