あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

Richard

2018-03-12 19:47:47 | 物語(小説)

専有面積56㎡半で一戸建ての二階、閑静な住宅地、ペット飼育可能、日当り良し、システムキッチン、サンルーム付き、風呂場はちと狭いが、最近リフォームしてるなこれは、結構綺麗だ。ウォシュレット、エアコン完備、TVモニターフォン、デパートとコンビニも近い、これで家賃、管理費無しの4万円。良いねえ。事故物件の可能性は大だが、わたしはこの家に、この度、引っ越すことと相成った。
まあそのうちわたしも、独りで腐乱死体になる結末は間違いなしの人間なもんで、ええやろ、も。慣れるよ、すぐに。
いやね、生活保護受けてても引っ越せるんだっつうことを知らなかったんだよね。わたしの隣は事故(自死)物件だし、もうこの際ね、事故物件に引っ越そうと想ったんだよね。
アホらしいでしょ、だって、隣が事故物件なのに、家賃が4万7千円ですよ、狭いし壁は隣の咳払いが普通に聞えるほどの激薄だしで、コンドームかよ、此処は、コンドーム壁かよ。
わたしはストレスが限界値に来たのもあるが、何よりも、”飼いたいもの”が新たにできて、それで引っ越すことと相成った。
わたしは引越し作業も一段落して、ほっと一息つく前に、”そいつ”を買い取りに行った。
ペットショップで、”そいつ”はわたしを見上げて、一声、鳴いてみせた。
「ピヨ」
店長のマルハゲの親父が、わたしに向かって言った。
「お客さん、御目が高いね。こいつァ最後の売れ残りでェ、今晩までに売れなかったら、オイラの今晩の酒の当てに焼いて喰おうかとでも想ってたんだ、ヘヘヘ。お客さん、べっぴんさんだから、半額にしますよ。買ってって、おくんなせェ」
わたしは店の親父に、「っちゃッ、おやっさん、商売、ウマイねえ」と言ってにやにやして5千円を払い、そいつを新居に連れ帰った。
家に連れ帰るまで、そいつは静かだった。
家に着いて、居間に座って箱を開けて見ると、部屋の温度は暖かいのに、そいつは何故だか、打ち震えていた。
可哀想に想い、わたしは小さなそいつを抱き上げると、わたしの小さな痩せきった胸に宛がい、温めてやった。
するとそいつは、また「ピヨ」と細い小さき声でわたしを見上げて鳴いた。
わたしはその瞬間、閃いた。
「よし、決めたよ。おまえの名は、今日から”リチャード”だ。おまえにぴったしだよ」
リチャードは、ぷるぷるぷるるるるぅんとちいちゃな二つの羽根をぱたつかせ、わたしの胸に顔をうずめた。
ひどく寂しがり屋でほんの数分でも独りにさせれば「ピヨピヨ」とリチャードは鳴き続けていた。
わたしはリチャードに、毎日此の世の地獄(現実)を教え込んだ。
「おまえはそうやって、いつも鳴いたりしては不満げな様子をしているが、おまえの仲間たちが日々どんな目に合っているかを、わたしが教えてあげよう。見ろ、リチャード」
そう言ってわたしはリチャードにパソコン画面の中に映る映像をいくつも見せた。
「ほら、見えるか?あれはおまえの仲間たちだよ。ここはな採卵用の鶏の雛を雄と雌に鑑別する工場だ、ああしてベルトコンベアーの上で選別され、雄のひよこはすべて、食肉用に育てるほうが金がかかるってんで、ああやってすぐに生きたまま攪拌機によってミンチにされて処分されるんだ。知らなかったろ?
ほら、この言葉をよく憶えているんだよ。『生まれた瞬間からはじまる恐ろしい運命
おまえの仲間たちの運命を、おまえは決して忘れるな。
でもな、リチャード。おまえは運が良い。おまえは生きたままミンチにされる運命はきっとないだろう。
おまえは何故なら、わたしの家族だ」
リチャードはわけがわかっとるのか、わかっとらんのんか、「ピヨヨ」と言ってはまたわたしの胸に顔をこすりつけ、ぬくもりを強く欲した。
しいろく、きいろっぽいほわついた羽毛を着たリチャードは、”ひよこ”と呼ばれるあまりに弱き奴だったが、約一ヵ月後には、わたしを見下ろすほどにまで立派に成長した。
リチャードは何故だか、真っ赤な鶏冠(とさか)を今までのようにわたしの胸にこすりつけてくるほど未だに甘えん坊なのだが、それでもわたしを見るときはいつでも、首を後ろに若干反らせた体勢で、上から見下ろすような感じでギロついた目でわたしをじっと見詰めるのだった。
「確かにわたしは、おまえの仲間たちを散々、夥しい数を殺して喰うてきたし、おまえの仲間たちが死に行くことにもほとんど関心がなかった。でもな、もう鶏肉は6年も喰うてはいないし、鶏卵だってもう確か2016年の4月頃から一切食してないよ。それでもおまえは、わたしにまるで怒ってるみたいな目でいつも見下ろし加減に見詰めてくるけど、何故なんだ?って訊いても、おまえは鶏だから、クックドゥードゥルドゥー(cock-a-doodle-doo)か、コケッ、とくらいしか喋られないから口惜しいこと甚だしいな。嗚呼、おまえが、おまえが、もし人間の言葉を話せるならば、この苦しきもどかしさはなくなるであろうに」
わたしがリチャードを抱っこしたままそう嘆くと、リチャードは鶏冠をわたしの胸につんつんしてはまたわたしを睨むように頭を後ろに反らしてからわたしを見詰め、「クック・ドゥー・ドゥル・ドゥー」と低く唸るような声で何度と鳴いた。
わたしは苦しく息をし、リチャードに言った。
「ごめんな。リチャード。わたしはおまえに、嫁はんを飼ってやるつもりはない。何故ならば、大変やねん。色々と。家族がもう一人増えるとな。おまえはわたしが少しでも独りぽっちにさせると、ずっとずっと鳴いてるな。さっきまで、寝ていたかと想えば起きてまるで恐ろしい夢でも見たかのように激しく啼くやんか。どうしてなんだ。リチャード。この暮らしが、そんなに、それほどまでに不満か?わたしは昨夜もおまえの鳴き声によるストレスから、寝かせてはもらえなかった」
わたしは気付けば、つぅと涙が頬を伝っていた。
リチャードは、わたしの泣き顔を首を反らせたままギロリと見詰め続けて「クッ・ドゥー・クッ・ドゥルドゥルルゥ」と呻るように鳴いた。
わたしはその日、寝不足から夕方過ぎにやっと眠りに就けて、目を覚ませば午前3時過ぎであった。
一階に下りて、キッチンで水を一杯飲み、トイレに行ってから一階にあるリチャードの小屋の中を覗いた。
本当は寝るときも側に置いてやりたかったのだが、何しろ頻繁に起きては鳴きだし、うるさくて眠れないので、仕方なく一階の小屋に寝かせることになったのだ。
一畳半ものリチャードのサークルの中に、リチャードはいなかった。
まさか飛んで外へ逃げたか?わたしは不安になって家の中を探し回った。
「リチャード」
「リチャード!」
「どこや?まさかわたしのことが嫌んなって、出て行ったとか、ちゃうよなあっ」
「リチャード…そんなに、そんなにもつらかったの?わたしと二人で暮らすことが…?」
わたしは何時間と家中どこを探しても見つからず二階の居間にへたり込んでこれまでのリチャードに対する接し方に今更、後悔し打ちひしがれては頭(こうべ)を垂れて泣くことしかできなかった。
その時、停電が起きたのか、すべての電気が一斉に落ちた。
窓はカーテンを閉めていたので月明りも入って来ず、真っ暗な部屋の中でわたしはまだ鼻を啜って泣いていた。
静かな何も見えない部屋で泣き続けた。
するとわたしの後ろの方で、喉を低く鳴らすような音が聞えた。
「クック・ドゥー・ドゥル・ドゥル・ォゥルルル・ルルゥ」と続いて喉を鳴らしながら鳴く声が聞えた。
リチャード!
わたしは心の底からほっとして、涙で濡れた唇を舐めて後ろを振り返ろうと床に右手を着いた。
その瞬間、何か硬いものが後ろからわたしの首筋に触れ、荒い息遣いが耳元に掛かった。
そしてわたしの腹回りに、腕を回され後ろから強く抱き締められた。
このような状況は、普通に考えられるならば、強盗か強姦魔が、わたしを襲う為に後ろから首元に凶器を宛がいながら何かを要求していると考えられる。
しかしどう考えてもおかしいのは、太く低い声でわたしの耳の側で、「クック・ドゥル・ドゥル・ルルルルルゥ」と聞えてくることである。
一体どういうことが起きているのかが解らないが、くんくんすると、後ろからリチャードのいつもの仄かな愛おしい獣臭もしてくる。
さらにはリチャードの高い体温が、羽根の感触と共に首筋にすりすりと擦り付けられているのを感じるのだった。
それで、呻り声と共にぐいぐいと尻の辺りに、何か硬いものを後ろから当ててくる。
これはつまり、普通に、自然的に考えるならば、こういうことが今、この居間で起きていると考えられる。
どうしたことだか、わたしの飼い鶏リチャードは、突如、半人半獣の姿と化してしまった。
リチャードは自分でも何故だかわかんねえが、”頭部”以外は、多分、人間なんである。
その頭部は人間の頭部の大きさにでっかくなっている。
頭部と言えば、これは”脳内”も勿論、含まれているであろう。
その証拠に、リチャードは人間の言語を話さないで、鶏の言語を使ってわたしに何か話しかけている。
だが頭部以外は、人間となってしまったので、その証拠に、わたしの腹には今、人間の男の、逞しき筋肉質な腕がぐるりと回されていて、わたしは後ろからがっしりと締め付けられている状態だ。
下半身も人間の男性となってしまったので、今リチャードは、酷く発情して欲情しているのであろうその人間の生殖器を、わたしのケツに宛がい、どうにか交尾をしようと奮闘していると、こういう具合であろう。
だからリチャード自身、まったく意味は解ってはいないが、リチャードは別に変なことを遣っているつもりもなければ、平常心であるだろうし、リチャードはその上、小屋から出て、等身大のわたしという”雌”を自分のものにできると想って興奮し歓喜しているに違いあるまい。
だが、わたしはここで、愛するリチャードと、もし交尾に及んだならば、果してどういった、卵をわたしは産むのかあ、っておい、リチャード、わたしは卵を産むのか?
わたしは後ろから抱き着いてすりすりと鶏冠を摺り寄せてくる半分人間で半分鶏のままのリチャードに、問うてみた。
「リチャード、わたしはおまえの卵を産めるのだろうか?」
彼は低く喉を鳴らしながら、ゆっくりと、こう答えた。
「クック・ドゥー・ドゥー・ドゥル・クックゥ・ドゥルルゥ・クッドゥ」
「そうか」
わたしはリチャードに向き合い、全身に返り血を浴びた彼を想い切り、抱き締めた。

 

 

 

 

 


我が愛するRichardへ捧ぐ

 

 

 

 

 

 

 

 Hotline Miami 2 OST: Mega Drive - Slum Lord
















Night at Miami Beach

2018-03-08 21:23:22 | 物語(小説)

ここはフロリダ州Miami Beach(マイアミ・ビーチ)市、通称Miami(マイアミ)。
マイアミ・ビーチ最南端の最も古いSouth Beach(サウス・ビーチ)に「VEGA-Bar(ヴェガ・バー)」というBarがある。
VEGAN料理だけを出す珍しいBARだ。みんな略して「VEGA(ヴェガ)」と呼んでいる。

Master(マスター)はどこか訳あり風な表情の濃いエドワード・スノーデン似の34歳のHot guy。
店の中からはオーシャンがビーチ際に並んだアールデコ様式の建築物の怪しげなフラッシュピンクやエメラルドグリーンなネオンサインに照らされ颯爽と立つヤシの木たちがいつでも潮風に揺られて葉を靡かせているのが見える。
サウスビーチに面するOcean Drive(オーシャンドライブ)通りは1983年の映画「Scarface(スカーフェイス)」の中でアル・パチーノ演じるトニー・モンタナが残虐なマフィアを殺したあの道路だ。
実はマイアミの治安の悪さは映画やゲームの中だけの話ではない。
Murder(殺人)、Robbery(強盗)、Assault(傷害)も多くギャングの抗争や銃犯罪、ドラッグで蔓延したスラム街もある。
合計犯罪件数が全米平均の2倍に達するというこのマイアミに邦人がリゾート気分で旅行に行き、犯罪に合いトラウマを持ち帰ってくる確立も低くは無い。
スラム地域や街の中だけでなくビーチ内でも犯罪は多く勃発している。
熱帯の美しい青い海と白い砂浜とヤシの木が人々を解放的にさせるリゾート地と野蛮で残虐な犯罪、危険なバイオレンスが同居した都市、それがMiami(マイアミ)だ。
旅行者たちだけでなく住人たちもギャングによる拷問覚悟でみな毎晩、この海辺にあるBarで寛ぎ酒を飲んでいる。
アルコールやドラッグ中毒患者センターからの帰りに、自分の身の健康を案じてこのVEGAN-BARに訪れる客も多い。
問題の多い客にも寛容なマスターがいけないのか、ここは他のどこのBarよりも野蛮な客が多いのは確かだ。
しかしここのところ、誰にでも優しい微笑を浮かべていたマスターが、カウンターに肘を着いては終始、窓の外のオーシャン (Ocean) を眺め続けながら溜め息をついている。
「よおマスター。どうしたんだよ最近。自棄に浮かねえ顔ばっかりして心ここにあらずじゃねえか。なんかあったのか。オレでよかったら話聴かせてくれよ。いつもオレのくだらねえ相談に嫌な顔一つしねえで乗ってくれてっからよ、オレだってお返ししてえじゃねえか、なあ何があったんだ」
ドラッグ中毒センターに通い、仕事にありつけないで三ヶ月間この店のツケを溜め込んでいる名前はトニーという長髪の右腕には「Thou shalt love thy neighbour as thyself(隣人を自分のように愛しなさい)」とイエスの言葉を彫った男が、その前歯の抜けた顔でマスターに笑いかけて酒臭い口でそう言った。
マスターは大きくまた息を吐いてトニーに向って答えた。
「それがどうやらここのところ、恋煩いのようで、お酒しかお腹に入らないのです」
「へえ、マスターほどのイイ男が恋にずっと苦しんでたのか、そりゃよっぽどな女なんだな。全然オレは恋煩いなんてもんは経験したことがねえが、ドラッグしか受け付けなくなった日々は嫌と言うほど経験してきたから、だいたいどういう苦しさかは想像できねえこともねえな」
「でも昨夜、MISO(味噌)スープはちょびっとだけ飲めました。でも固形物がまったくダメなんですよ」
「わかるよ。オレも固形のドラッグがダメで粉ならいけたときがあったからなあ。でもいい加減、そのうち無理してでも喰わねえと、みるみるうちに痩せ細っていくぜ。ほら、あのアル中のあの女みてえによ。今夜もアル中センターからの帰りにここに寄るんじゃねえか、あいつ、人のこと言えねえけど、あいつにアルコールを出すマスターも罪だよな」
マスターは飲んだ自作カクテルを想いきり咽て苦しそうに咳をした。
「まさか、マスター。あんたの惚れた女って、あいつじゃねえよな」
マスターは無言で目を逸らし、口を手の甲で拭ってグラスを洗い出した。
「えっ、マジかよ。おいおいマスター…あいつは…あいつはやめとけ。いやほんとに、悪いこと言わねえ。あいつはよせ。アイツ・・・マジで気違い女だぜ…オレから見てもな。こないだなんてオレになんつったと想う?『いま書いている小説で、輪姦(まわ)される女の主人公の話を書いてるんだが、なかなかうまく想像できないから、良かったら今度何人か集めてくれないか。やっぱり自分で経験するのが一番だよね』っつってよ、酒飲んで笑って話してたぜ。信じられるか?そんな女、観たことねえよ。アブねえよあいつは、あいつは完全に気がイっちまってるね。あいつだけはよしとけ、マスター。あんな女と関わったらよ、マスターが今度は廃人みたいになって、この店も続けられなくなるぜ、そしたらオレたちゃどこの店で飲めばいいんだよ。オレみてえな客を快く受け容れてくれるのはマスターしかいねえんだよ、このマイアミビーチにはな」
マスターはビーチをぼんやり眺め、トニーの歯抜け顔を一瞥して首を横に振ってまた溜息をついた。
無言で一口、マスターとトニーは酒を飲んだ。
少し経つと店の出入り口がカランと鳴った。
「あ、おいおい、噂をすれば…」
ピンクのフラミンゴ型のリュックを右肩に掛けてトロピカルな模様の水色とピンクの丈の短いワンピースを着た女が、俯き加減で深刻な顔つきで店の中に入ってきてカウンターではなく奥のテーブル席に座った。
「なんちゅうリュック背負(しょ)ってんだ、あいつ、いい歳して」
トニーはあからさまに軽蔑する眼差しを女に向けて言った。
マスターが女のもとに行くより先に、トニーは女の側に歩いていき、女を見下ろして言った。
「よお、輪姦小説は順調に進んでるか?」
女はトニーを見上げてわなわなと震えだして答えた。
「なんで、なんでそのことを知ってるんだよ」
トニーは声をあげて笑った。
「HAHAHA!なんでって、おめえがこないだオレに酔っ払って豪語していたからだろうがよ。忘れたのか。おい、今度オレのダチを3,4人か集めてやっからよ、経験してみるか、したいんだろ?くだらねえ輪姦小説の為になあ、Hehehe!」
「そ、そんなこと、き、きみに言った憶えはないし、きみあんまり失礼じゃないか?!ぼくは、か、か弱き女なのに…」
女はマスターのほうをちらちらと窺いながら声を震わして言った。
「おい、おまえみたいな変態女がなあ、オレたちの大事なマスターに手出しすんじゃねえぞ」
「手出し?ぼくまだ手を出してないけど?!胸も股間もまだ出してないぜ、変な言いがかりをするなあ!アホヤロウ!」
女はそう叫び立ち上がってトニーと取っ組み合いだした。
マスターが走ってきて二人を引き離し、「争いはやめてください」と冷静に言った。
女は息を荒げ、「おい、トニー。外へ出ろや」と言って顎を向けて出入り口のドアを示した。
トニーは肩を上げて「御手上げだ」のジェスチャーを大袈裟にして、「マスター、こんなヤクザまがいな下品な女の何処がいいんだ?」と言った。
マスターは自分が告白する前にトニーに自分の想いをばらされたことがショックで俯いて黙っていた。
女はこのマスターの態度に、嫌われてしまったと勘違いし、トニーに向って目を血走らせて言った。
「トニー、外へ出ろ。いいブツ(コカイン)が入ったんだ。半額にしてやるよ」
コカインに目が無いトニーはこれに目を剥いて応えた。
「マジかよ…安くしてくれるのか」
「その代わり男共も紹介しろよ」
「わかった、次の週までには集めてやるよ」
「よし、じゃあ外に出ようぜ」
「おう」
女とトニーは真夜中のビーチに出て、潮風香る波の音だけが辺りに響き渡る砂浜で二人向き合った。
そして女はブツを出す素振りでリュックの中を手で探り当て、ジャックナイフを手に取ると小さな刃を右手で引き、トニーに向って「来いや」と言って目を光らせた。
トニーは半笑いで後退りし、「hehehe、いってえなんのつもりだよ、ブツはどこなんだ?」と言って額の汗を袖を捲り上げたレモンイエローのアロハシャツの肩で拭った。
「ねえよ、そんなものは」女はニヤニヤと笑いながら言った。
「おい、へ、変な気は起こすなよ。オレを刺していってえテメエになんの得があるんだよ。豚小屋にぶちこまれるだけだぜ、hehe…」
「終ったんだよ、すべて」
「いってえ何が終ったんだよ」
「きみの御陰でぼくの恋が終ったっつってんだこのファックヤロウ」
「悪かった、謝るよ。だから刺すな。な?大丈夫だよ、マスターはあんな小さいことで気を変えるような男じゃねえよ。マスター呼んできてやっからよ、話つけろ」
「トニー、きみはぼくが女だから馬鹿にしてんだよ。そこを自覚しろや」
額から滴る汗を舌舐めずりしてトニーは嗄れた声で言った。
「そうかも、しれねえな…反省するよ。オレはたしかに、女を見下してきた。でもそれは、オレが、haha、馬鹿でモテねえからだよ、きっとな。おまえは悪くねえよ」
「口だけなら、なんとでも言えるよな。ぼくはこれまで散々男に馬鹿にされてきたよ。我慢ならないんだ。男に女として見下されることがね」
「いってえ、どうしたら赦してくれんだ?hehe、オレにできることならしてやるよ」
「一発、刺させろ」
「それはまずいだろ、オレだって刺されたら黙っちゃいねえぜ、サツにしょっぴかれてアルコールを一口も飲めない日々を送りてえのか?」
「言ってるだろ。きみの存在が、我慢ならないんだよ。でも刺させてくれたなら、せいせいするかもしれないから刺させろって言ってんだよ」
「Hehehe、そんなこと言って、また小説の題材にしてえんだろ?なあそうだろ。わかってるぜ。おまえは危険なことが好きでなんでも小説の為に挑戦したいって、前もべろべろんなってオレに言ってたじゃねえか。人を刺すことの経験をしたいからオレを刺すなんて、そんな馬鹿げたことはよせ。な、マスターに、いくらなんでもマジで嫌われちまうぜ」
「いいんだよ、もう嫌われたから」
「マスターはまだおまえを愛してるよ。オレにはわかんだ」
「そうかな?」
「そうに決まってんだろ。あいつは愛の深さが人と違う」
「やっぱそうかな。そうかもしれないな。ちょっと安心したよ。じゃあさ」
「なんだ」
「きみにブツをやるよ。しょうがねえな」
「いいのか?Hehehe」
「いいぜ、来いや」
女は何故か波打ち際まで歩いていき、トニーは女にブツを渡してもらおうとニヤついた顔で近づいた。
その時、女はブツを渡すと見せかけてもう一度リュックの中でナイフを握り緊め、その刃をトニーの左脇腹にぷっすりと突き刺した。
トニーは後ろにぶっ倒れ、「な、ナンヤコラァ」とか細い声で言って血の噴き出る腹を押さえた。
「Hahaha!ざまあみれ、ファックユー!(糞ったれ!)」
そこへマスターが走って来てトニーの脇腹をハンカチで押さえて言った。
「このことはどうか黙っていてください。黙っていてくれるなら、あなたの三か月分のツケも免除しますし、これからあなたの店の代金をすべてタダにしますから」
「なんだって?それは、ほ、イ、イッテエ、ほ、ほんとうか、マスター」
トニーは痛みに顔を歪めながらも目をキラキラさせてマスターに向って言った。
「本当です。その代わりこのことは誰にも黙っていてください」
トニーは痛みと嬉しさで涙を流し、「や、やったあ…」と言って傷みに気絶した。
女はマスターとトニーを見下ろし、冷ややかな声で血塗れたナイフを握り緊めたまま言った。
「マスター。このアホなトニーに、そこまでする必要ないだろ。ぼくは警察に連れてかれる覚悟で遣ったことだよ。警察呼んでくれよマスター」
マスターは振り向かずに言った。
「あなたは黙っていてください。これはわたしとトニーとの問題です」
「マスター、トニーのことはほっといて、ぼくにカクテルを作ってくれよ。”Hot Miami Blood(ホット・マイアミ・ブラッド)”をさ」
「わたしが初めて作った、血のように赤い海のようなカクテルですね?」
「そうだよ。このマイアミの海は、時に真っ赤なネオンサインに照らされて、あんな色にもなる。きっとここで数々の、殺された者たちの血の色が、海を赤く染めるんだ。嗚呼、もっと生きたかったぜ。ってさ、ぼくに訴えて来るんだよ。そんなカクテルを、マスターは作ってくれたんだ」
マスターは背を向けたまま静かに言った。
「しかしあなたに、飲ませるカクテルはありません」
「どうゆうこと?」
マスターは女に振り向いて、女の心の底を見詰める目で言った。
「わたしの、”血”以外に」
「精液?」
「違います」
マスターは即答した。
「どうゆうこと?」
女はもう一度投げ掛け、ビーチサンダルの足にかかる波の心地好さが、このバイオレンスな予感めいた不安と共に在るこのマイアミの夜に、街の喧騒も掻き消すほどの波音の激しさを感じずにはいられなかった。














しろにじのホットな🌴ホットラインマイアミ🌴BGM ②











BGM (Black God Mega)

2018-03-06 21:55:18 | 
きみのミュージック、イイねえ。ぼくの作ったゲームにぴったしだよ。いやマジっさ。マジっさ。
あんま、まだ売れて(評価されて)ないけど、だからこそきみに頼みたいんだよ。
ぼくの作ったゲームのこのチャプターに、是非きみが音楽を一から創って入れてほしいんだ。
この上から見下ろす二次元の主人公が、これ、この空間でね人を殺しまくってクリアするっていうここのチャプターのBGMを、きみが作って欲しいんだよ。

でもアレでしょ。おれが作ったミュージックを、あんたが気に入らなければボツにするんでしょ。

ああ。

やっぱりな。

厳しいなーっ。この世界。おれは真剣に作って見せるぜ。いや、作って聴かせるぜ。
でもそのミュージックを、あんたが気に入らないなら屑箱域ってわけか。キツイな。ほんと。

まあ、死にたく、なるかもな。

なるだろ。だっておれは、あんたの作ったゲームを心のそこから愛してる。心の”ソ・コ”。わかる?
感動しちゃってさ、涙も出たぜ。
でもおれが真剣に作ったミュージック、あんたが駄目だと想えば、使ってもらえない、そういうわけだよな。

まあそう、ネガティブに考える必要は無いだろ。きみの才能を、ぼくは信じてるよ。
これは期待じゃない。きみは必ず、ぼくの気に入る音楽をぼくの作ったゲームに当ててくれるっていう”信念”、それさえあれば、Hahaha、イイだろ?

あのさ。

なんだ。

おれはおれの人生っていうゲームのBGMを、おれは作ってる。

そうだな。

でもおれはおれの作ったBGMをまだ聴けないんだよ。
ボツにされたら、おれはどうすればいい?

心配するな。どんなに下らないと感じても、ボツにはしないよ。
BGMっていうのは、その空間を色づけるもんだ。
仮におまえの人生が破滅的に悲劇に終っても、BGMがポジティブなら、明るい希望在るゲームとして終ることもできる。
BGMが下らなければ、おまえは下らない終り方で終えることが出来るが、それはおまえの自由だろ。

おれはおれの作っているおれのBGMを、まだ聴けないんだって。

だから言ってるだろ。心配するな。ボツにはしない。

ボツにしなくとも、あんたが気に入らなければ?

心配するな。きみを悲しませるようなこと、するつもりはない。

ブラックホール内で、鳴り響かせてくれるとでも?

ユアー・ミュージック・フォーエヴァー。

あんたは本当に、超絶・対・真(SIN)。このゲームは、永遠に終らない。

期待していてくれ。

あんたが言うのか。

A+(ああ)。














Hotline Miami 2 OST: Mega Drive - Slum Lord




















Aim a Gun

2018-03-05 11:05:22 | 日記
楽しい夢を見ていた気がするよ。
その世界ではだれ一人殺されないんだ。
おれもだれ一人、殺す必要はなかった。
楽しかったよ、すごく。
現実ではどんなに楽しくとも、そこは阿鼻叫喚地獄の上にある。
だれ一人、地獄を経験していない零点一秒間もこの世界には無い。
存在の断末魔の悲鳴が、引切り無しに鳴り響き続けている世界だ。
この世界に、空か死か、発狂か、夢以外に逃げ道はない。
この世界には息を着く瞬間もない。
堕胎が行なわれない零点一秒間が存在しない。
家畜が殺されない零点一秒間が存在しない。
朝目が覚めて、喪失感があったよ。
おれが夢のなかで一緒に楽しく過ごしていた奴らは、全員おれが殺してきた奴らだったと想いだしたんだ。
おれは豚のマスクを被って、奴らと楽しく踊っていた。
奴らまるで、幼児かミジンコみたいに無邪気だった。
すっげえ、楽しかったぜ。想いだして、涙が流れた。
なのに目が覚めたら零点一秒間の断末魔の絶叫が頭のなかで鳴り響き続けている。
俺はショットガンを手に取り、照準を定め、銃口を突きつけた。
そこには、豚のマスクを被った男がおれを見ながら立っていた。











しろにじの優しいHotline Miami 🌴 ③
















Keep it in Mind

2018-03-02 23:40:31 | 
「だれも恨んじゃいない」と言っても、人はおれの言葉を信用しようとしない。
人はおれの「行為」、「行動」だけを見る。
「すべてを愛している」と言っても、人はそれを信じようとはしない。
人はおれの言葉以外のことだけを見ている。
おれはおまえの言葉など、何一つ信じちゃいない。
でもおまえの言葉以外のすべても、俺はなにひとつ、信じちゃいない。
おまえは一度たりとも、おれを喜ばせることはなかった。
いったいなにを信じたらいい?おまえのなにを。
そうだおれは、おまえにいつの日か食われた鶏だよ。
名前は、リチャード。
雄鶏(おんどり)だよ。立派な。
真っ赤な鶏冠(とさか)を、てめえに撫でられたかったあ。
俺の首を切り裂いたとき、てめえの手はあったかかったなあ。
何故かって?俺はおまえのなんにも信じてないんだもん。
おまえの手は、ほんとうは俺の身体よりも冷たかった。
俺の体温はおまえよりもずっと高いんだ。
嫌なんだよ。
自分よりも冷たい奴に殺されたなんて信じることがね。
俺がいまどこでしゃべってるかって?
おまえの腹ン中だよ馬鹿。
俺はおまえの一部になったからなあ。
おまえは俺でおれはお前だ。
おまえに殺された日の記憶を、俺は決して忘れはしないぜ。
おまえは自分自身に自分が殺された記憶を
死ぬ迄恐怖し続けて生きろ。
それが俺を殺したおまえの宿命だよ。
とっとと死ねなんて、俺は想ってないよ。
俺は生きたいんだ。おまえの中で。
死ぬ迄、恐怖し続けて。生き地獄だ。
俺は自分が憎いよ。おまえに殺された自分が憎いよ。
俺はおまえの舌を味わわせるためだけに生まれて生きてきたんじゃねえよ。
おまえの肉体的快楽の為に俺がおまえに殺されたんじゃない。
よく憶えているんだ。俺はおまえの、肉体的苦痛のために。
この世に誕生したんだ。
俺はこれから、おまえに地獄の肉体的苦痛を必ず味わわせる。
俺の味わった苦痛だ。
よく憶えているんだ。
俺はおまえだし、お前はおれなんだ。
















家畜たち

2018-03-01 21:35:01 | 日記
人を殺したいか。
おまえは女か。女が人を殺すのは、男が人を殺すよりも簡単な方法がある。
堕胎だよ。おまえは妊娠さえすればいいんだ。
命を授かり、命を殺す選択をすればいいだけだ。
容易いだろう?
人を殺したいか。
おまえは男か。男が人を殺すのも、簡単な方法がある。
自殺だよ。おまえは自殺さえすればいいんだ。
命を授かり、命を殺す選択をすればいいだけだ。
容易いとは想わないか?
しかし命はそこで終わりじゃない。
おまえは地獄絵図を観たことがあるか?
地獄はこの世にも存在しているが、あの世にも存在している。
人を殺した人間は、間違いなく、地獄へ逝く。
死刑や堕胎に賛成する者も、間接的に人を殺していることになる。
だから地獄で生きるのが嫌なら、人を殺すなと覚者はみなしつこく言っているんだよ。
あの世にもある地獄の存在を知っているからだ。
どのような地獄か、教えてやろう。
人間が食肉にされる家畜となるなら、どのような地獄か想像できるか?
もしできないなら、と殺(屠畜)映像を観るといい。
血を抜く為に生きたまま、解体されるが、解体されている時に気絶から目を覚ますんだ。
どのような地獄か、おまえには想像できるか?
だからどのような殺人も自殺も、やめておけとあれほど言ったんだよ。
でもおまえは俺を殺したんだ。
俺の悲しみがどのようなものか、おまえに想像できるか?
何故、「人を殺すな」と訴える俺のAmazonレビューが違反報告され、ガイドラインに抵触したからという理由で削除されなくちゃならねえんだよ。
ふざけてるなあ、この世界は。
おまえら全員、そこまで地獄を見たいのか?
生きたまま解体されたいのか。
家畜たちのように。