あまねのにっきずぶろぐ

1981年生42歳引き篭り独身女物書き
愛と悪 第九十九章からWes(Westley Allan Dodd)の物語へ

no sky

2018-10-07 13:10:12 | 随筆(小説)
一人の男が、嗚咽を漏らし、震える手で受話器を持ちながら真っ赤な目をして何かを電話口で訴えている。
男は涙を落としながら歯を喰いしばるように実の父親に向って言った。
「あいつ、俺の子を、勝手に堕ろしゃがったんや…」
父親とはもう、5年以上口を利いて来なかった男が、たった一人、父親だけにその悲しみを漏らした。
父親からは勘当されても、自分のこの気持ちをわかってくれるのは父親だけだと、男は想ったのだろう。
だが父親は、「おまえがもっとちゃんとしとったら、そんなことはされんかったんや。」と言って電話を切った。




翌日、俺は元嫁の家の近辺で待ち伏せていた。
鞄の中に包丁を隠し持って。
「あいつを殺して、俺も死ぬ」
それが此の世の正しさだと、男は疑わなかった。
暗がりのなか、元嫁が帰ってきた。
俺は後ろから近づいて押し倒し、顔を何度も殴った。
男はこの時も、泣きながら訴えた。
「なんで俺の子を堕ろしたんや。」
元嫁は鼻血を出しながら叫び声を上げた。
男のもとを、女は走り去って行った。




一週間後、俺はパキシル30錠を焼酎で飲み干し、箕面の山中にて自死する為、山の中へ入って行った。
時間は昼の12時半。
朦朧としてたので、これなら楽に死ねるやろと想うて、持って来た縄を樹に掛け、その樹を見上げた。
でもそのとき、小雨が降って来よった。
しとしとと、冷たい、心を鬱にさせるような雨やった。
俺は、自殺するのが嫌になった。
もうなにもかもすべて、嫌になってもうたんや。
死ぬことも、生きることも、なにもかも、もうどうでもよくなった。
生きている価値もないということは、死ぬ価値もないということや。
それがわかって、意識が遠ざかり、俺は箕面の山で次の日の朝まで眠って、翌朝、家に帰った。
そのとき俺は夢を見た。
元嫁が堕ろした俺の子、その水子が俺に乗り移り、俺は水子の立場で、小学校の前にぽつんと一人突っ立って、恨めしそうに、楽しそうに遊んでいる子供たちと、その子供を迎えに来て、親と嬉しそうに話している子供の姿を眺めている夢を。
俺は想ったんや、俺も生まれて来とったら、あんな風に楽しげに遊んだり、お父さんやお母さんに愛されて生きることができたんやろなあって。




生きている価値もない、死ぬ価値もない。
でも生きてゆくこの苦しみは堪え難い。もう生きて行きたくはない。
ほなもう、死刑にされて殺されるしかないと想うた。
エリートの子供たちを殺したら確実に、死刑になると想たんや。
俺が叶わなかった夢が、あの子供たちの未来にある。
あの子供たちの未来を奪うことは、あの子供たちの未来の人生が、俺のもんになるということなんや。
俺はどうしても、あの子供たちのような人生を生きたかった。
親から愛され、ええ学校にも連れてってもらえて、人から褒められるような、親の誇りになるような仕事に就いて、幸せな家庭を築き、俺と嫁の間に産まれた可愛い子供を育てて暮らしたい。
俺は奪われたもんを、取り返さんとあかんねん。
一番大切なもんを、俺は奪われ、喪った。
俺は生まれ来たことが、間違ってたんや。

人生を遣り直したい。

子供たちを殺し、死刑となって。

















Ricky Eat Acid - no sky