音信

小池純代の手帖から

雑談44

2022-06-30 | 雑談

  鼎茶銷午夢
  薄酒喚春愁
  杳渺孤山路
  風花似旧不
       (芥川龍之介「我鬼句抄」より)



 〈翻案歌〉

 ひるすぎのゆめこなごなに消えさうなお茶の器と器と器

 くちびるにうすき硝子の淡き酒はるの愁ひの呼び水すこし

 山ひとつ山みちひとつ人ひとりはてなかりけりはかなかりけり

 けふはけふきのふはきのふさうかしらゆるるは風か花か知らずも

  †

龍之介の漢詩で残っているのは三十数首。
手帳や手紙に書き付けたものがほとんどのようだ。
五絶、七絶が多く、たいがいきちんとしている。
きちんとしていて、しかもかわいらしい。
とてつもない空漠のなか、素早くうつろう物象の
なんと可憐なことか。





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