テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

わたしは、ダニエル・ブレイク

2019-07-07 | ドラマ
(2016/ケン・ローチ監督/デイヴ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン、ケマ・シカズウェ/100分)


 他の映画のDVDを観た時に付録でついていた予告編で何度かお目にかかった映画ですな。
 社会派と云われるケン・ローチ監督のカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品。
 ローチ作品は今回が初めてだけど、現実的なテーマが予告編で気になってたし、『人生は変えられる。隣の誰かを助けるだけで』なんていう謳い文句にも惹かれて借りてきた。
 謳い文句は少し詐欺的ではあるけれど・・。

*

 主人公は、北イングランドのニューカッスルに住むダニエル・ブレイク。allcinemaの解説では58歳になってるけど、オフィシャルサイトでは59歳という設定だった。
 モリーという妻がいたが十年ほどの介護の末に亡くなっている。子供もいないのでモリーが去った後は一人暮らし。40年以上大工を生業として真面目に暮らしてきたが、少し前に仕事中に心臓発作を起こし危うく屋根から滑り落ちる所だった。医者からは治療中は仕事を止めるように言われ、役所から生活支援を貰っているが、最新の審査で支援の給付資格がないと通知書が届く。
 映画のオープニングで黒いスクリーンに白字のクレジットが流れる間、バックには審査中のダニエルと女性役人の会話が聞こえてくる。
 ダニエルにしてみれば、医者に止められているんだから仕事をするわけにもいかず、原因は心臓病と分かっているのに、役人は独力で電話がかけられるかとか、他人との意思疎通は出来るかとか、まるでとんちんかんな質問をしてくるので半分やけくその様に応対した。それがいけなかったのだろう、後日届いた審査結果でダニエルには生活支援の受給資格が無いと知らされる。
 生活支援が受けられない場合は失業手当をもらうしかなく、その申請をするにはネットしか手立てがないが、ダニエルはパソコンが使えない。役所に行っていざパソコンに向かってもエラーが続き、挙句の果てには時間がかかり過ぎという事でフリーズしてしまい途方に暮れる・・。

 と、要するに行政の怠慢というか、弱者切り捨ての政策に疑問を投げかけているわけですね。

 彼と同様に弱者の一人として登場するのが、ダニエルが生活支援の打ち切りに不服申し立てをしようと役所に行った時に出逢うケイティというシングルマザー。ロンドンから転居してきた二人の子持ち。初めての土地で路線バスを間違えた為に約束の時間に遅れ、申請違反として彼女の生活支援も切られることになる。
 ケイティと役人のやりとりを見ていたダニエルが怒り、結局二人とも役所から追い出されてしまうが、こうして二人の隣人同様の付き合いが始るわけです。

 劇的な展開は無く、ダニエルの倹しい生活と思いやりの無い役人との地道な対応がドキュメンタリーの様に積み重ねられていく。但し、ドキュメンタリーと言っても、どこかユーモアもあって、更にはダニエルの友人達との心温まるふれあいも描かれる。。
 一方、ケイティの方は仕事にも恵まれず、ボランティアからの生活物資を受け取ったり(戦時中の配給物資の様でした)、ダニエルからの手助けも受けるが、終いには万引きに手を染めてしまって段々と惨めになっていく。

*

 『人生は変えられる。隣の誰かを助けるだけで』なんていう謳い文句が少し詐欺的ではあるけれどと書いたのは、彼らが助け合っているのに生活が全然改善されないからですね。
 二人の付き合いも切れそうになる事件も発生するし、あっけないラストも全然ハッピーじゃないし。
 それにしても、描かれたイギリスの行政制度って本当なんですかねぇ。
 『役所はデジタル派、俺は鉛筆派』なんてダニエルおじさんは嘆いていて、確かに日本も段々とそうなってはいるけれど、でもパソコンが出来ない人には親切に鉛筆派の手段も残されてるはずだし、この映画の中の杓子定規な役人の対応は誇張されてる気がするなぁ。


▼(ネタバレ注意)
 ケイティ家の財政は破綻寸前。
 スーパーでの万引きは店長の温情でスルー出来たものの、警備員には困ったら連絡をくれと電話番号のメモを渡される。
 これはアレだな、と察しはすぐにつきましたが、案の定ケイティはそっちの手段へ。
 すぐに見破ったダニエルは、ケイティが落としたメモを頼りに件の如何わしいお店を訪ねていくが・・・。

 ラストは、ダニエルが生活支援打ち切りへの不服申し立てをするのにケイティと共に役所に出かけるシーン。
 生活資金確保の為に家財を売り払ったりして彼の心身も結構くたびれていたんでしょう、交渉前のトイレで発作に見舞われあっけなくダニエルは帰らぬ人となる。
 そして、本当のラストにはエピローグのようにダニエルのお葬式のシーンが描かれ、ケイティの弔辞の中で読まれるダニエルの手紙が監督ケン・ローチの思いを代弁して切々と語られる。
▲(解除)


 カンヌ国際映画祭以外には、英国アカデミー賞で作品賞、助演女優賞(スクワイアーズ)、監督賞、脚本賞(ポール・ラヴァーティ)にノミネート、英国作品賞というのを受賞したそうです。
 また、フランスのセザール賞で外国映画賞の栄冠にも輝いたようです。





・お薦め度【★★★=一見の価値あり】 テアトル十瑠

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