テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ナチュラル

2011-06-03 | アクション・スポーツ
(1984/バリー・レヴィンソン監督/ロバート・レッドフォード、グレン・クローズ、ロバート・デュヴァル、キム・ベイシンガー、ウィルフォード・ブリムリー、リチャード・ファーンズワース、バーバラ・ハーシー、ロバート・プロスキー、ダーレン・マクギャヴィン、ジョー・ドン・ベイカー、マイケル・マドセン/138分)


 およそ25年ぶりの再会。ツイッターにも書いたように、レッドフォードを撃った女がバーバラ・ハーシーだった事もキム・ベイシンガーが出ていたのも忘れておりやした。野球の天才的な選手が世に出る直前に不幸な事件で挫折するも、三十代半ばにして再デビューを果たし、大活躍をするというストーリーは覚えていたのに。
 再見しながら思い出したのは、グレン・クローズを観たのがこの時が初めてで、レッドフォード扮するロイ・ホッブスの幼なじみで初恋の女性の役なのに、ちっとも美人じゃないと思ったこと。どうやらその辺でこの映画に与えられた記憶の容量が狭められたようです。

 バーナード・マラマッドの長編小説【The Natural(=邦題「汚れた白球」)】が原作。ツイッターには確か読んだはずと書いたけれど、あまり自信はない。十代の頃に読んだ「魔法の樽」という短編集が面白くて、何年も本棚に置いていたのでマラマッドの名前は知っていたし、映画が公開された頃に、レッドフォードがキャッチボールをしている映画のシーンを表紙にした翻訳本が本屋さんに並んでいたのを覚えているので、そんな気になっているのかも知れない。家の近くの書店やブック・オフにも行ってみたけれど、今は「魔法の樽」さえもなかった。「汚れた白球」はマラマッドの処女作との事でした。

*

 1920年代のアメリカ中部。ネブラスカの農場で暮らす少年ロイ・ホッブスは、野球好きの父親に愛され、その才能を認められていたが、父親は若くして急死する。死後しばらくして、父親が亡くなった庭に立つ大木が落雷によって真っ二つに裂け、ロイはその幹を削って一本のバットを作った。ヘッドには「Wonderboy(=神童)」と焼き文字を入れ、いつの日かメジャー・リーグで活躍することを誓った。
 『才能に溺れず、努力を惜しむな』。
 父の言葉を守ったロイには、やがてシカゴの名門チーム、カブスから投手としてお呼びがかかる。
 幼なじみのアイリスに将来の結婚を約束し、老スカウトマンのサムと共に初めての列車に乗り込む。途中でメジャー屈指のスラッガー、ワーマー(ベイカー)と遭遇し、水補給のための休憩駅で彼と対決することになる。三球全てストライクを投げ、それで三振させたらロイの勝ち、一球でも外れれば、また打たれればロイの負けだ。大勢の見物人が見守る中、ロイは勝負に勝つ。
 そんな彼らの勝負を傍らで見守る女がいた。ハリエット・バードと名乗るその美女は、有名なスポーツ選手ばかりを狙って殺害を続けている異常者で、その時はワーマーが目当てだったのに、たまたま居合わせたロイに注目が集まった為に、標的をロイに替えた。
 まさに不意打ちのような事件だった。幸いにも一命はとりとめたが、ベースボールのあらゆる記録をうち破るというロイの夢は崩れ去り、彼が表舞台に辿り着くには、それから更に16年もの歳月が必要だったのだ・・・。


 映画の冒頭、くたびれ果てた様子のロイがプラットホームで列車を待っているシーンをバックに、オープニングクレジットが流れ、続いて少年時代と、狂人に拳銃で撃たれるまでが語られる。そして、その16年後、冒頭に出てきたロイがニューヨークのチームでメジャーに登場してからがメイン・ストーリーである。

 アメリカのスポーツ映画には、スポーツを愛する者と、それを金儲けの種としか考えない者との闘いを描いたもの(例えば「スラップ・ショット」とか)が多いが、「ナチュラル」もそんな一つだ。

 ロイが再スカウトされた球団はナショナル・リーグ東地区のCクラスのチーム、ニューヨーク・ナイツ。コーチのレッド(ファーンズワース)に言わせると監督のポップ(ブリムリー)は野球に身を捧げている男だが、今シーズンの成績如何では引退するしかない状況らしい。オーナーの“判事”(プロスキー)との約束で、今季リーグ優勝が出来なければポップの持つ球団株を“判事”に売り渡すことになっているからだ。
 力のある選手が欲しいというポップの要請に応じて、スカウトが探してきたのがセミプロでしかプレイしたことのない無名のロイ。“判事”の息がかかったスカウトが適当に探してきたのだろうと思ったポップは、ロイを出場させないばかりか、打撃練習さえ許さなかった。
 Cクラスが骨の髄まで染み込んでいるのか、選手のプレーには覇気が無く、凡ミス凡エラーが続く。試合が終われば心理カウンセラーによる集団セラピー。そんな状況に業を煮やしたロイは監督の制止も聞かずにセラピー中のロッカールームを後にする。
 次の日の試合終了後、監督はロイに二軍行きを命じる。しかし、ロイはそれを拒んだ。
 『野球をしに来たんだ、“催眠術”を聞きに来たんじゃない。メジャーに上がるのに16年かかった。今更何もせずに帰れるか!』
 他の選手には無いガッツを感じた監督は、ロイの二軍行きを撤回した。
 『明日、打撃練習に来い』
 『毎日来てるよ』
 いよいよこの後、ロイはその破格の豪打を見せつけることになる。





 スポーツ選手の挫折と復活。金に纏わる駆け引き。ゴシップを狙う記者。愛と別れ。個々はベタな設定だが、ナイツのプレーオフ進出の行方を軸にして、それぞれが収束していく構成がお見事。
 アカデミー賞にノミネートされたキャレブ・デシャネルのカメラは美しくノスタルジックで、要所要所でスローモーションを使い、印象深くなるようにしたのも成功。
 脚本はロジャー・タウンとフィル・ダッセンベリー。レヴィンソンの省略を効かせた語り口も巧い。

 ロバート・デュヴァルはスポーツ紙の記者、マックス役。16年前のロイ対ワーナーの対決を見届けた男で、ロイからみれば野球をくい物にしている連中の一人だ。当初はナイツのロイを、“あの時の青年”とは気付かないのだが・・・。

 キム・ベイシンガー扮するメモはポップの姪。しかし、マックスの親分格の実業家ガスをパトロンにしていて、スポーツ選手にとってはいわゆる“さげまん”。ロイにも近づき、彼女との蜜月の間は、天才も並の選手に成り下がる。

 ガスに扮するのはダーレン・マクギャヴィン。“判事”とも共同戦線を張っていて、ナイツに優勝がみえてきた時にはキーマンのロイに八百長を持ちかける。グラスを片手にささやく彼を、『近すぎて俺の足を踏んでないか?』とロイが一蹴するのが痛快だった。

 グレン・クローズは、82年の「ガープの世界」、83年の「再会の時」に続いて、この映画でもアカデミー助演女優賞にノミネートされた。芯が強く、愛情豊かなアイリスが、初見時の数倍美しく見えたのはコチラの歳のせいでしょうか。

 レッドフォードはこの時すでに40代後半。コロラド大学に野球の奨学金で進んだ程の腕前だが、流石にピッチングフォームは、剛速球投手には見えませなんだ。





追加記事 ~「人には二つの人生がある」

・お薦め度【★★★★★=大いに見るべし!】 テアトル十瑠

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