テアトル十瑠

1920年代のサイレント映画から21世紀の最新映像まで、僕の映画備忘録。そして日々の雑感も。

ジョンとメリー

2005-11-19 | 青春もの
(1969/ピーター・イエーツ監督/ダスティン・ホフマン、ミア・ファロー/92分)


 役者 → レーサー → 演出家 と風変わりな経歴の持ち主のイギリス人監督ピーター・イェーツ。彼がハリウッドに招かれて大ヒットさせた「ブリット(1968)」の後に作った作品。前作のサンフランシスコから舞台をNYに移して、今度は当時の若者の恋愛模様を描いている。

 主演がD・ホフマンとM・ファロー。ホフマンは「真夜中のカーボーイ」の後、ミアも「ローズマリーの赤ちゃん」の翌年だし、イェーツ監督ということでとても観たかった映画なんだが、当時住んでいた田舎町ではロード・ショーされなかったと思う。結局封切りから数年後、そしてそれは今から数十年前、深夜のTVで観ることになった。NHKの字幕放送だったと思う。今回が、我が人生における2度目の鑑賞です。

 メルヴィン・ジョーンズという人の書いた原作本があり、映画よりコチラを先に読んだ。面白い本だった。チャプター毎に“ジョン”と“メリー”が交替で、一人称で物語る形式になっていて、しかも章の終わりの方と次の章のはじめの方のシーンがラップしている。つまり、同じシーンをジョンの言葉とメリーの言葉で語られる部分が各章にあるということ。そのスタイルがとても印象深かった。
 映画でも、二人の会話の途中にモノローグが流れてきて、本音と立前の違いが面白く表現されている。

 クインシー・ジョーンズの“静謐”とも表現できそうなBGMが流れる中、ベッドに寝ている若い男女の背中や横顔をカメラがなめるように写していく。先に目覚めた女は、男が目覚めてないのを確かめた上でベッドから出る。ミア・ファローの全裸の後ろ姿。ブラインドを少し開けて外を見る。『ここは何処だろう?』
 男は女がベッドを出た頃目を覚ますが、すぐには声をかけない。女が隣の部屋へ移ったのを見計らって起き出し、シャワー室へ向かう。ダスティン・ホフマンも全裸だ。

 オープニングは、こんな調子。実は二人は夕べ知り合ったばかり。ガール・ハントに熱心な男友達とバーにやってきたジョンと、同居している女友達と3人でバーに来ていたメリーが、何気ない会話を交わすうちにそれぞれの友人達と別れて二人っきりになり、その夜のうちにジョンのアパートに泊まったという次第。「恋人たちの予感」のように知り合って10年後に結ばれるのではなく、出会ったその夜にイタしたわけだ。この頃すでにそういう世相であったことを自然に描いている。

 だが、面白いのはここから。男と女の駆け引きが内面の言葉を絡めながらじっくりと描かれている。夕べの経緯も、朝のシャワーやお風呂の合間などに挿入されてくる。
 男は何人かの女性と同棲の経験があり、女も妻子ある男性との不倫関係を続けていたという過去がある。ただ、二人とも行きずりの関係だけで簡単に終わらせてしまえる程のドライさは持ち合わせていない。
 こういう関係になったのにはそれなりの相性があったはずだ。さて、この人とは上手くやっていけるのか? そもそも、この人は独り者なんだろうか? そんなことを考えながら、時々相手の反応を試すような言葉を投げかけながら、お互いを観察している。はたしてその行方は・・・。
 物語は朝に始まり、途中にそれぞれの過去などを挿入しながら、その日の夜にエンドを迎える。

 ジョンは家具デザイナーという設定で、部屋の壁は白が多くてモダンな感じ。アパートの最上階みたいで、斜めの柱や梁が所々見られるのも都会的な趣がある。部屋の中には螺旋状の鉄骨階段があって中2階のロフトに続いており、そこはジョンの仕事部屋のようだった。細かいところは忘れていたが、なにかカッコイイ雰囲気だけは前回観た時も感じたのを覚えている。

 ミア・ファローは、映画の現在では“ローズマリー”と同じショート・カットで、過去のシーンではロング・ヘアーだった。可愛らしいワンピースを着ているのに、ブラジャーは付けてないというアンバランスが、妙にセクシーに見える。

▼(ネタバレ注意)
 メリーの不倫相手は政治家。不倫の小旅行の帰りに家族が迎えに来ているシーンを見て、別れる決心をしたようだ。

 メリーが通っている大学に彼氏が演説に来た所では、最後に学生達に向かって“Vサイン”をして見せた。学生達もサインを返す。今でも女子高生達がプリクラに向かってそのポーズをとったりするが、そもそもはこのVサインが始まりだったんですよねぇ。そして、その時に発する言葉は『ピース!』。懐かしかったなぁ。

 ハッピーエンドは覚えていたが、ラストに、ジョンがメリーを探して回るというのは忘れていた。

 『メリーの綴りは?』とジョンが聞くと『Murry』と答えるんだが、クレジットでは「Mary」だ。どういう意味なんだろう?
 それと、ジョンが出かけた後の部屋にメリーが戻って来れたのは何故? ドアは空いていたのか? これは疑問として残りました。

 その他、気付いた小ネタ。
 朝、ジョンの部屋を観察しているメリーが本棚から取りだそうとした本は、ノ-マン・メイラーだった。
 最初のバーのシーンで、ある映画についての会話がある。一人の男がその映画をけなしたのでメリーが反論し、聞きつけたジョンが補足するというのが二人の知り合うきっかけだが、この映画、交わされた会話によると『車の渋滞』とか『恋人を食う』とかのシーンがあるらしい。これはゴダールの「ウイークエンド(1967)」でしょうな。
▲(解除)

 D・ホフマンは「クレイマー、クレイマー」とは違って、料理上手な独身男性を演じています。
 メリーのアパートに日本人のビジネスマンが3人住んでいますが、この時代でも真に奇怪な日本人の描き方でした。

 アメリカン・ニューシネマの一作だけど、イギリス人監督らしい心理描写が冴えている佳品です。但し、陰鬱な映画ではなくて、ホフマンならではのユーモラスなシーンもあるし、最後は主人公達と同じようにニコニコしてしまいそうな結末です。当時の若者の風俗描写も面白かったです。

 尚、オスカーには縁がなかったものの、英国アカデミー賞ではホフマンが主演男優賞を受賞、M・ファローも主演女優賞にノミネートされたらしい。

・2007年の再見記事はコチラ

・お薦め度【★★★★★=気になる人のいる人、大いに見るべし!】 テアトル十瑠

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6 コメント

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わたしも・・ (anupam)
2005-11-20 23:16:42
これはNHKの字幕映画劇場で見ました。たぶん十瑠さんと同じタイミングかと思います。



ミアのファッション、ミニのワンピースとタイツみたいなかっこうがすごくキュートだったのを覚えています。それとラスト・シーンの名前を聞き合う会話・・

恋人関係をこんな形でスタートするっていうのも、あり・・なんでしょうね。



静かな展開が印象に残っている映画です
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DVDがない (十瑠)
2005-11-21 16:07:01
らしいです。

今回もVHSのレンタルなんですよ。

かろうじて1本だけありました。
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面白かったです (mayumi)
2007-06-14 17:46:11
こんにちは。私はこの作品、どうしても観たくてヤフオクでGETしました。期待に違わず、面白い作品でした。
二人それぞれのモノローグがいいんですよね。観ている側は、二人の心の内がわかるから、思わず笑ってします。昼食の話をしていたのに、ついメリーが夕飯の話をしてしまって、画面がストップモーションになるシーンなんてメリーの気まずさがこちらにも伝わってきます。
それにしても、この作品、「ブリット」のピーター・イエーツなんですね。あの作品とはまた全然趣が違いますが、面白くできてますよね。才能豊かな人ですね。
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DVDが無い! (十瑠)
2007-06-14 21:49:03
NHKさんで放送していただけると、DVD出来るんですがねぇ

原作も面白いから、ヤフオクして下さい。
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ゴダールの「ウィークエンド」でしたか (樹衣子)
2010-11-04 22:01:50
こんばんは。
TBありがとうございました。
名作は、古典となって生き続けることを実感した作品でした。
ところで、私はDVDを借りてきて観ました。どうも、最近DVD化したようです。昔の映画をもっと観たいのですが、本と同じように絶版?DVD化していないものが多いのが残念です。
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樹衣子さん、いらっしゃいませ (十瑠)
2010-11-04 22:41:15
TB返し&コメントありがとうございます。

DVDがあるんですか。それはそれは^^
私はVHSを再生しながらDVDレコーダーにも録画したんですが、スクリーンの両サイドがカットされているので、いつかフルスクリーン版を観たいもんです。
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