hanana

二度目の冬眠から覚めました。投稿も復活します。
日本画、水墨画、本、散歩、旅行など自分用の乱文備忘録です。

●板橋区立美術館「江戸の花鳥画-狩野派から民間画壇まで」 1狩野派

2017-09-18 | Art

板橋区立美術館「江戸の花鳥画」館蔵品展 江戸の花鳥画ー狩野派から民間画壇までー

2017年9月2日~10月9日

室内にいながら草木や鳥を愛で楽しむことのできる「花鳥画」は、時代や流派を問わず描き継がれてきました。花鳥画とは、山水画・人物画と並ぶ東洋画題の一つで、広くは、草花のみを描いた花卉図、蜂や蝶のいる草虫図、水中の鯉などを描いた藻魚図、さらには獣に花木を配した図をも含むと言われています。江戸狩野派が様式を確立し、民間画壇が充実した江戸時代には、花鳥画の表現・技法もより多彩になり、魅力溢れる作品が数多く生まれました。
本展では、第1室で江戸狩野派による花鳥画をご紹介します。江戸狩野派は、幕府の御用絵師として安定した制作を行う一方、新たな表現にも挑み続けました。花鳥画においても、その貪欲な姿勢が見て取れます。第2室では、写実的で色鮮やかな宋紫石や諸葛監らによる南蘋派、江戸琳派の酒井抱一や鈴木其一が手掛けた、洗練された作品をはじめ民間画壇の花鳥画を幅広く展示します。
江戸の地で花開き羽ばたいた、花鳥画の世界をどうぞお楽しみ下さい。

楽しみにしていた展覧会。受付でチケットを買おうとしたら、「無料です」と言われてびっくり。所蔵品とはいえ、そんな太っ腹な。しかも今回は撮影可。ありがとうございます!

以下備忘録です。

第一室は江戸狩野。

大型の屏風絵がずらりとならぶ。

狩野派といえば、元信、松栄、永徳、山楽、探幽、尚信などたいへん素晴らしいと思うけれど、時代が進むにつれ、粉本主義の弊害か、御用絵師の地位に胡坐をかいたか、というイメージだった。

でも、その固定観念を覆された作品ばかりだった。ごめんなさい今まで。見もしないで "没個性"とか思ってて。

狩野派の本流の中にも、自分の嗜好を追及していた個性的な絵師たちがいた。これは、板橋美術館の館長さんや学芸員さんたちのすばらしいチョイスのおかげでもあるのでしょう。

無料なのに、親切で簡潔な解説も。「花鳥画とは」というパネルから始まり、「花鳥画成立以前」「南北朝~室町時代の花鳥画」「桃山時代の花鳥画」「江戸時代初期(17世紀)の花鳥画」「江戸時代中期(18世紀)の花鳥画」「江戸時代後期(19世紀)の花鳥画」と、時代に特徴づけられる区分も腑に落ちた。

写真に入りきらない程、大きな狩野派系図のパネルも。鑑賞しながら時々見に戻ったり。

さて、1点目からたいへんお気に入りで、足が次へ進まない。

狩野宗信「花鳥図押絵貼屏風」17世紀 6曲1双

宗信(生没不詳)は狩野松雪の息子、そして安信(探幽の弟)の門人なので、中橋狩野に属する絵師ということになる。安信よりはかなり年長らしいので、1600年代の前半に活躍したということだろうか。室町水墨を慕ったとのこと。

右隻

どこもここも見入ってしまう。室町を思わせるような墨だけの世界だけれど、室町とは違う平穏にして柔らかな筆。元信の花鳥図屏風もたっぷりと鳥がちりばめてありユートピアだったけれど、そこには緊張感があった。なのにこれ、タッチや構図が室町風なのに、ゆる~い世界になっている。宗信って好きだなあと思う。きっといいひとだ

動物たちが本当に愛らしい。彼らの間には会話があり、時には樹や花とも会話し、ともに生きている。

二扇「柳に燕」の燕のぷくっとしたところが。室町水墨の質実で渋い筆の柳なのに、燕の遊びに参加しちゃってるし。

三扇「猫にコバン」じゃなくて「牡丹に猫」

素人考えだと、ちょっと端にずらすのが和の様式かなっておもうのだけれど、このボタンはどまんなかにぬっと立って、大きな花で猫を見る。起こして遊びたいのかな?そしてその上に蝶がひらひら~。なんだか天然っていうか。しかもこの完全に平和ボケした猫の寝顔ったら。

このやわらかさは何でしょうと思ったら、宗信は背景に筆であたたかな空気を描いている。

4扇「枇杷」の固そうな葉もお気に入り。枇杷の実も意志をもっている。

5扇「雉」はクロスした尾が、親鳥の強さを。母雉は虫をくわえて3羽のヒナのうちの一羽にあげようとしている。毛並みもたいへんに細密、シダなどの草の様子も実感があるなあ。

6扇「みみずく」は最もお気に入り。ひょいと恥ずかしそうにのぞき込む子供みたいでかわいい。菊とお友達になりたいのねきっと。

毛並みも細やか。竹や葉の墨の濃淡も手慣れたスピードも、すてきだなあ。菊は現実を離れ、かわいらしさをデザインしている。狩野のおじさま絵師とは思えないほど!

これだけの卓抜した技術でもって、このおとぼけた世界を描けるって、ほんとにすごい!!

と思ったら、左隻になると空気が一変。気温が急低下し、寒い。秋から冬へ、厳しい季節。

3扇「蓮に白鷺」は、神々しいほどの鷺。枯れた葉の潔い構図。どきどきしてしまった。

この人の墨や筆つかいを目で追ってるだけで、ここから離れたくない。。

「芦雁」もドラマティック。気迫あふれるのは、元信のようでもある。このふっくらと丸みのあるジグザグでおりなすリズムというか、一体感というか、語彙が貧弱でなににうっとりしてるの自分でわからぬ。

でも目は野生。

「粟に鶉、葵、雀」も、すごい。すばらしい。

鶉の複雑な模様もこんなにも美しく。スマホのシャッター音消音アプリで撮ったので画像が不鮮明だけれど、実物はもっとすごい。幾何学的に超技!

 葵のしべや、葉の虫食いなんかも実感があって、イキイキと胸に入ってくる。

最後は、雪の日。凍るような厳しい寒さを感じながら、12か月が終わりました。

 左隻では、右隻と打って変わって、自然の中で生きる鳥たちの厳しさ、野性味を、尊厳を持たせて描いたような。

ゆるさと厳しさの両面を併せ持ち、緻密な観察眼と画力をもった宗信。他の絵も検索すると、少ないながら風変わりな絵もヒットする。ただ狩野元信の早世したと思われる長男も宗信という名。注意が必要。こちらの宗信さんの絵には次はいつ出会えるかな。

 

宗信が好きすぎて、長くなってしまったが、第一室には11作展示されている。

狩野常信「四季花鳥図屏風」17~18世紀

常信(1637~1713)は尚信の息子、木挽町狩野の二代目。15歳の時に父を亡くし、探幽の画風の影響を受ける。繊細な資質を生かした瀟洒な作品に傑作を残す、と。

激しい水流、高潔な樹の幹や岩、金砂子、本流って感じ。

山鵲(さんじゃく)

白鷴(はっかん)の親子は、ひねりが効いてる

左隻になると、水流はおだやかに流れ着いている。ひねりまくりの鳥があちこちに。

鷽(うそ)という鳥は、このほかの作品でもよく登場。ぽっちゃりしててかわいい。

白うさぎも。

常信は、探幽に倣い、「常信縮図」を残した。 この作品一作を模写すると、狩野の本流が学べそう。

 

その木挽町狩野の7代目、狩野惟信(1753~1808)、「四季花鳥図屏風」。

ここにきて、やまと絵に回帰するのは、個人的な嗜好なのか、顧客の拡大戦略なんだろうか?。わからないけれども、岡田美術館で見た、彼の小さな掛け軸のやまと絵はとてもキュートで、好感。これも細部までかわいらしく、見どころがあちこちに散りばめられている。奥方様や姫様たちにはたいそう喜ばれたのでは。自分の好きな場所を見つけられる。

右隻 満開の桜と踊るような幹、リズミカルな流れが、明るい気持にしてくれる。

左隻 展示室では左隻右隻並んで見られたので、もみじと桜の呼応が楽しめるという贅沢。

ありえない枝ぶりの樹、実感のない鳥と、虚構の自然。仮想空間に漂うのもまた、楽しいものである。

私のお気に入りは、山並みと、左隻の端っこのカワセミのところ

 

木挽町狩野が続きます。尚信の奔放な画風に打たれたけれども、その末裔も、権威の中枢にありながらも、それぞれ独自の路線を楽しんでいるなあ。

狩野栄信「花鳥図」1812 木挽町狩野8代目。惟信の息子。

真っ青な背景は、中国の徐煕、超昌に似た作があるので、舶来画をもとに製作されたらしいとのこと。解説に、「文人画家の柳沢淇園も洋風画よりの類似の作を描いた」とさらっと付け加えられているのも、気になる。柳沢淇園は岡田美術館で見て以来、もっと知りたい人。

この赤白ピンクの三色牡丹は、其一の「牡丹図」1851を思い出す。んんん、赤い牡丹や赤いつぼみなど、そっくり。いや全部似ている。元ネタはこれか、たどって中国絵画の学習なのね。

 

狩野養信(1796~1846)「群鹿群鶴図屏風」19世紀

木挽町狩野の9代目。橋本雅邦や狩野芳崖の師。

この濃さ、若冲レベル。

水戸徳川家の用命で、沈南蘋を模写したもの。このひと模写魔とのことで、舶来写実の原画に彼の執念が上乗せされて、この迫力なのでは。

沈南蘋が日本にやってきたのは、1731年。若冲が南蘋派に影響を受けたことが、この鶴を見るとよくわかる。

木や葉、花の描き方は、その後の南画の絵師たちに影響を与える。源流が見られてうれしい。

 

沖一峨(1796~1855?)「花鳥図」 鳥取藩の御用絵師。

ここにも青い背景が。細部まで上手いなあ。あ、熟したゴーヤが。江戸初期に舶来し、新しもの好きな一峨はよく描いたそう。このころも食べたかな?

 

狩野探淵「鷹図」 沖一峨の師の狩野探信の、息子。鍜治橋狩野8代目。

上等の絵具、大幅と、大名家からの出産祝いか端午の節句の注文品らしい。御用絵師らしく、固まったような定型の絵だなあというのが第一印象。

でもよく見ると、はまってしまった。

ぱっちりした目に端正な顔。おなかの毛並みも良く美鷹だわ。御用絵師の描く鷹は、さすが育ちがよさそう。微妙な陰影のある花びらも美しいなあ。

こちらは背中の透明感のある羽。松の葉は写真はぼやけてしまったけれど、実物はこまかな線が入っていて、西洋の抽象か幻想絵画のように感じたり。

 

最後は女性画家 融女寛好(1793~?)「渓流小禽図」 浜町狩野の門人 

7歳から師について画を学び、これは11~22歳頃の作とか。結婚後も画業を続けたそう。かわいらしく楚々とした絵。清原雪信といい、狩野派を学んだ女性絵師の絵は、無理して男っぽく描いているわけではないのね。しっかりとした技術でもって、かわいらしく上品な作を。お得意様も奥方様や姫様なのでしょう。奥へ呼ばれることも思えば、立ち居振る舞いもきちんとしているのでしょうね。。

第一室だけで長くなってしまった。あれ、そういえば、ロビーの奥にも屏風があって、後で見ようと思ってたような。それがリストの狩野了承だろうか?見忘れたっ(涙)。

第二室の民間画壇は次回に。